第83話_女神様の妹
目を開けると、また星空が見える宇宙にいた。イロハ様の空間に来たみたいだけれど何か違和感を覚えた。目を凝らして夜空をみるとある一点に釘付けとなった。
「あの星はどう見ても地球よね。イロハ様の空間とは異なる場所?」
おもわず声がもれて、心の中に熱いものがこみ上げてきた。新たな生活も楽しかったけれど、それとは別に忘れるはずのない地球の姿だった。
目の前に少女が現れると、まるで鏡を見ているみたいに思えた。
「私が呼んだのよ。あのままだと彩香の精神が危なかった」
考えるまでもなく本物のアイ様が私の前に現れて、笑顔を見せてくれた。
「なつかしい名前ね。本物のアイ様に会えてうれしい」
本来は女神様相手に普段通りの言葉使いはまずいと思うけれど、なぜかこの話し方で接する方がよいと肌で感じた。
「私も直接話ができてよかった。私の手違いで彩香を消滅させてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだったのよ。イロハお姉様の世界には慣れた?」
「最初は戸惑ったけれど楽しんでいる。未練がないと言えば嘘だけれど今の生活に満足しているし、宝石魔図鑑もうれしかった。だからアイ様は気にしなくて平気よ」
普通の人間では無理な体験をしているし、イロハ様の世界では魔法も使える。宝石魔図鑑で宝石が眺められるのもうれしかった。イロハ様やプレシャスに出会えてメイティリスたちもいるから、今の生活に後悔していない。
「喜んでくれてうれしい。宝石魔図鑑も気に入ってくれたようだけれど、宝石魔図鑑の一部に問題があったのよ。それが原因で彩香が危険になって申し訳なく思う。でも修正したから、どの魔法を唱えてももう大丈夫よ」
頭を下げて謝れたけれど、何だか申し訳なかった。
「もう気にしていないし、宝石魔図鑑は私の宝物だから問題部分を直してもらえたのならそれで充分よ。それよりも7色オパールの魔法を使っても平気なの?」
私の身体に影響を受けた魔法だったので、確認のために聞く。
「今作ってある魔法では7色オパールのみに問題があったみたいね。ペンダントの宝石と共鳴したみたいだけれど、問題部分を直したから、どの宝石で魔法を作っても平気よ。念のために、精神が守れる加護をペンダントに与えたから安心してね」
「これからいろいろな魔法を作って楽しんで、ペンダントも大事にするね。ところで7色オパールの効果や威力も変わったの?」
思う存分に魔法が作れるのはうれしかった。あとは今までの魔法で何か変化があるのかを把握したかった。
「元々あった効果の詳細までは分からないけれど、現状は心を清らかにして邪気を払う効果になっている。イロハお姉様の世界なら呪い解除や異物除去よ」
アイ様が修正後の効果を教えてくれた。
「呪い解除は何となく分かるけれど、異物除去の効果がよく分からない」
異物が何を表しているのか分からなかったので素直に聞いた。
「本来存在しない物質の除去で、いまのところ用途はないと思うけれど、修正した結果だったからそのまま残してあるのよ。人間や動物には効果がないから、間違って唱えても大丈夫ね」
異物についてアイ様が教えてくれたけれど、具体的なものは分からなかった。きっとイロハ様の世界には存在しないものだと思うので、そのときになってみないと分からないかもしれない。魔物が異物か不明だったので念のために聞く。
「魔物が異物か微妙だと思うけれど、今までのように上位魔物を消滅させた効果はまだ残っているの?」
「1日中連続で唱えていれば、下位魔物を消滅させられるくらいの威力よ。純粋に魔法が当たった影響だから、上位魔物へ影響した効果はないと考えてね」
魔物は自然界の突然変異だけれど、宝石魔法として異物の認識は薄いみたい。イロハ様の管轄外で、宇宙から飛来した隕石などが異物になるのかもしれない。
「魔物消滅は無理みたいだけれど、呪い除去は貴重だからうれしい。そういえば効果の詳細が明確ではない魔法がもうひとつあったのよ。結晶エメラルドは精神と肉体の完治にして、清々しい気持ちになったけれど、今ひとつ効果が分からなかった」
気力や体力が沸いてきたけれど、気のせいと言われると否定できなかった。
「イロハお姉様の世界では、精神は魔力回復にあたるみたいで肉体は損傷回復ね。回復の程度は彩香の目で確かめてみてね」
損傷回復は想定していなかったけれど、公にしなければ有効に活用できそう。使用方法についてはプレシャスと相談したほうがよいみたい。
「確認してみるね。イロハお姉様の世界では魔力管理が重要みたいだから、魔力回復は重宝しそう。私が使う宝石魔法は連続で魔法が唱えられるけれど、魔力を消費しないからなの? それだと魔法を唱えるのには何が使われているの?」
せっかくの機会なので、今まで疑問に思っていた内容をアイ様へ聞いた。
「宝石魔法とはすてきな名前ね。宝石魔法は彩香の体力と気力がわずかに消耗されるけれど、日常生活で無意識に消耗する量と同じくらいよ。消費よりも自然回復する量が上回るから、ほとんど無限に魔法が使えるはずね」
魔力ではなくて気力なのね。何か特別なものが消費されるわけではないから、心置きなく宝石魔法が使える。ただあまりにも連続で唱えたりしたら常識外れに思われるから、緊急時以外は複数魔法の同時利用や連続魔法は控えたほうがよさそう。
「アイ様にもらった宝石魔図鑑は、私に合っているみたい」
「喜んでくれてうれしい。彩香の精神をイロハお姉様の世界へ戻す準備が整ったみたいだけれど、彩香には迷惑をかけたから、最後に願いがあれば聞くよ」
女神様にお願い事ができるのはうれしい。イロハ様の世界にない品物だと混乱を招きそうだから、私のみに影響する内容がよいかもしれない。何をお願いするかを目の前にいるアイ様を見ながら考えた。
イロハ様とアイ様の世界があってイロハ様はアイ様を溺愛している。思いついた内容は品物ではないけれど叶えてみたかった。許可が下りるかはわからないけれど、お願いしたい内容が決まった。
「宝石魔図鑑で転送魔法を作ったのよ。転送先に設置する魔方陣をアイ様がいるこの空間に作りたいけれど、そのようなお願いでも平気?」
「構わないけれど、地上からは来られないよ」
駄目かと思ったけれどあっさりと認められた。行き来は無理みたいだけれど、それでも魔方陣を作りたかった。アイ様の世界は私のふるさとなので、何かを残しておきたい気持ちも強かった。
「実際に魔法が使えなくて記念的な魔方陣になっても大丈夫よ。それよりも、このような空間に許可してくれてうれしい。さっそく作成するね。鮮赤コーラル」
宝石魔図鑑が出現したあとに基本ルースが飛び出してから、赤い粉が足元に積もっていく。この空間でも問題なく宝石魔法が使えた。
「血赤珊瑚の粉みたいね。この粉で魔方陣を作るつもり?」
アイ様が興味深げに聞いてくる。
「魔方陣を作る材料で、次は魔方陣を作成するね。印スギライト」
基本ルースが出現したあとに、赤い粉が地球の姿にみえる模様へと変わった。こちらの魔法も問題なく使えて、ぶじに魔方陣が完成した。
「まるで地球みたいですてきな魔方陣ね。彩香の魔法をもっと見たいけれど、彩香が向こうの世界へ戻る時間よ」
もうすぐイロハ様の世界へ戻れてうれしいけれど、アイ様には二度と会えないかもしれない。別れる前に聞いておきたいことがあった。
「イロハお姉様をどのように思っているか知りたい。イロハお姉様はアイ様が反抗期と思って悲しんでいたよ」
「イロハお姉様は愛しい人よ。でも最近はほかの女神様から慕われて、私と話す機会が減ったのがさびしいだけで、イロハお姉様を嫌いになるわけないよ」
反抗期ではなくて、構ってもらえなくてアイ様はすねているみたいね。原因がわかって、すねているだけならイロハ様が何とかしてくれそう。
「アイ様からイロハお姉様に声をかければ、イロハお姉様は喜ぶはずよ。私もアイ様の気持ちをイロハお姉様に伝えておくね」
「彩香は私とイロハお姉様を繋ぐ絆かもしれない。もう時間だけれど、イロハお姉様の世界を満喫してね」
「楽しんでくるね。アイ様も元気でね」
アイ様が近くに寄ってきて私を抱きしめた。イロハ様と異なる温かさがあって、懐かしい感じでもあった。




