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女神様に溺愛されたアイは宝石魔法を覚えて、モフモフな使い魔と一緒に異世界スローライフを送る  作者: 色石ひかる
第13石_アンバー

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第81話_決意するアイ

「アイなの?」


 メイティリスの唇だけがわずかに動いたので、急いでメイティリスの横に座って手を握った。


「私よ、アイよ。メイティリスを助けに来たからもう大丈夫よ」


 安心させるように語りかける。


「最後に会えてうれしいの」


「私が回復させるから弱音は吐かないでよ。ほかの人は休んでいて」


 メイティリスからミリーシャさんに視線を送るとミリーシャさんが頷いて、白魔道士は天幕の外へ出ていった。私とプレシャス以外には、タイタリッカさんとミリーシャさんのみが天幕に残っている。


 宝石魔図鑑を取り出して、最大の威力を想像してから力強く呪文を唱えた。


「真緑エメラルド」


 宝石魔図鑑から基本ルースが出現して、緑色の光が粒子となってメイティリスに降り注ぐ。何度も何度も魔法を唱えて、途中からは心の中で唱え始めた。連続で唱えた魔法に応えるかのように、緑色の粒子は途切れることはなかった。


 長い時間に思えたけれど、魔法を唱えるごとにメイティリスの表情が和らいだ。


「気分がよくなったの。アイはすごいの」


 私の手を強く握り、うれしそうにメイティリスは答えてくれた。少しだけ血色がよくなったけれど、それでも私の宝石魔法ではメイティリスを完治できない。


 街から来る白魔道士の支援を待つしかないけれど、魔法を心の中で唱えながらほかの手段を考えた。プレシャスに乗せて街まで行く方法もあるけれど、危険な状態のメイティリスを動かすのはむずかしい。


「そうよ、転送魔法があった。メイティリスを私の家まで転送すれば、白魔道士や神官をすぐに呼べる」


 この前作った転送魔法を思い出した。私とプレシャス以外は転送した経験はないけれど、条件は同じだからメイティリスたちを転送させるには問題ない。


「本当か。転送魔法が可能なら大聖女様を助けられる」


 半信半疑の表情で、タイタリッカさんが聞き返してきた。


「この場所で嘘をつく理由はないよ」


「すごいですわ。今すぐお願いしたいけれど可能かしら」


 ミリーシャさんの顔に明るさが戻ってきた。


「魔法を唱えれば――」


「戻らないの」


 メイティリスの声が私の発言を遮った。予想外の言葉で、メイティリスの意思を理解するまで時間が掛かった。回復魔法まで止まってしまって、急いで心の中で唱え始めると再び緑色の光が流れていく。


 メイティリスの意思を把握できると、やさしい声で話しかける。


「この場所にいても危険なだけよ。安全な場所で回復すればきっと治る」


「最前線に留まるの」


 メイティリスが目を見開いて私を見つめた。


「みんなを守りたい」


 苦しいはずなのにまた唇が動いて、メイティリスの意思の強さが伝わってくる。それでも私には肯定することができなかった。


「無理に喋らなくても平気よ。怪我が治るまでは安静にしたほうがよいから、やっぱり街へ戻ったほうがよいよ」


「大聖女様はすぐ戻るべきですわ。最前線はわたくしたちが対応します」


「まだ弱体化が進んでいないの」


 私とミリーシャさんの言葉を聞いてもメイティリスの考えは変わらなかった。メイティリスの瞳から涙が溢れ出して、私の手を強く握り返す。


 大聖女として上位魔物を弱体化させたくて、みんなを守りたい。それ以上にメイティリスのやさしさが伝わってきた。仮にメイティリスが大聖女でなくても、最前線を離れたくないと思っていると感じ取れた。


 メイティリスの意思を私に変えることはできないけれど、メイティリスを助けて安心させる方法を思いついた。


「私とプレシャスで上位魔物を押さえるから、メイティリスは怪我の治療に専念してほしい。メイティリスの怪我が治るまでは私に任せてね」


 私が上位魔物を何とかすれば、メイティリスも安心するはず。


「アイは上位魔物を足止めできるのか」


 タイタリッカさんが聞いてくる。


「宝石魔法は連続で唱えられるから、それも常識を外れるくらい連続よ。倒せなくても自然消滅するまで街へ向かわせない」


「危険です。わたしの役目はアイ様の安全です」


 否定してきたのはプレシャスだった。


「プレシャスが私を守ってくれれば上位魔物でも安全でしょ。私はプレシャスを信頼しているから、私を背中に乗せて動き回るだけでもかまわない」


「わたしといれば安全ですが、わざわざ危険に向かう必要はありません」


 プレシャスは私の安全を守って、私が楽しむために協力してくれる。私が上位魔物との対峙はプレシャスの目的に相反するけれど、メイティリスの力になりたい。


 回復魔法を心の中で唱えながら、プレシャスを説得させる方法を考えた。言葉の遊びかも知れないけれど、ひとつだけ解決策を見つけた。


「プレシャスよく聞いて、私の楽しみは上位魔物を倒すことよ。私の宝石魔法で上位魔物を倒す手段があるのか知らない?」


「下位魔物にも恐怖を覚えていたアイ様が、楽しめる内容とは思えません」


「楽しめるよ。楽しいかは私自身で決めるから、だから倒し方を教えてほしい」


 私が力強く答えると、プレシャスは黙ったまま私を見つめる。数秒後に少しだけ表情を変えたプレシャスが口を開いた。


「決心は固いようですが、宝石魔法でも確実な方法はありません」


 私の考えが変わらないと思ったみたいで、上位魔物を倒す方向でプレシャスが折れてくれた。


「確実でなければ、上位魔物の倒し方があるということ?」


「それはなんとも言えません」


 頭の回転が早いプレシャスにしては歯切れの悪い話し方だった。曖昧にも感じたので、プレシャスは何か知っているみたい。


「宝石魔法の内容なら全部を把握したい。私が楽しむために協力してくれるよね」


 意図的に強めの言葉にしてプレシャスの顔を覗いた。明らかにプレシャスが困っているのがわかったけれど私も引けない。


「ふたりの女神様が私を守ってくれるから大丈夫よ。それよりも何の作戦も立てない状態で、私が上位魔物と楽しんでも平気なの?」


 プレシャスは黙ったままなので、メイティリスを回復しながらプレシャスの反応を待った。やっとプレシャスが口を開いてくれた。


「きれいな魔法には棘があります。わたしが言えるのはそれだけです」


 直接の表現ではなかったけれど私にはすぐに分かった。


「7色オパールね。プレシャス、教えてくれてうれしい。これで準備が整った」


 プレシャスの言葉は、イロハ様が伝えていたのを鮮明に覚えていた。


「アイは本当に上位魔物と戦うのか」


 私とプレシャスの話が終わったと判断したみたいで、タイタリッカさんが会話に入ってきた。


「そのつもりよ。私が出て行ったらメイティリスの回復をお願いするね」


「ワタシは大丈夫なの。アイが心配なの」


 メイティリスが不安そうな目で私を見つめる。


「私なら平気よ。もう行くけれど、精神と肉体が改善する魔法をかける。光の壁に囲まれるけれど安心してね」


 やさしく話しかけて手を握り返すと、メイティリスも決心がついたのか頷いてくれた。メイティリスの胸に両手を当てて呪文を唱えた。


「結晶エメラルド」


 基本ルースから緑色の6条光が飛び散ってメイティリスの体に降り注ぐと、メイティリスが光の壁に包まれた。


「ミリーシャさん、少し経過すれば元に戻るから、メイティリスをお願いね」


「大聖女様は任せて下さい。アイさんも気をつけて下さい」


 もう一度だけメイティリスがいる光の壁を見つめた。

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