第76話_宝石魔法の戦い方
リリスールさんとライマインさん、プレシャスと一緒に森へ魔物討伐しているときに、プレシャスが緊張感のある声で話しかけてきた。
「アイ様、中位魔物の気配です。気をつけてください」
プレシャスの言葉にリリスールさんとライマインさんの顔色が変わって、すぐに辺りを見渡していた。
「あたいには気配を感じらとれないけれど、どの方角かを教えてくれるかい」
プレシャスが向きを変えて方向を示した。
「少し戻りながら俺が先頭で進む。ビッグポイズンフロッグの魔石は後回しだ」
ライマインさんが両手剣を構えながら、周囲を気にしながら歩き出す。風で揺れる木々の音と足音があたりに響いた。
「魔物が分かったよ。メイジフェイクで厄介な相手だよ」
リリスールさんが小声でライマインさんと私へ伝える。ライマインさんは動きを止めたけれど、私にはまだ魔物の姿が見えなかった。リリスールさんが手を使って魔物の位置を教えてくれた。
「たしかに面倒な魔物で、何色でも俺では倒せない」
「知らない名前の魔物だけれど、どのような魔物なの?」
リリスールさんとラインマインさんのふたりが、懸念するくらいの魔物だから詳しく知りたかった。
「メイジフェイクは陽炎のような存在だ。物理攻撃が効かなくて魔法にも耐性があるから、相当数の魔法を当てないと倒せない。唯一の弱点は光魔法だから光魔法なら倒しやすいが、パーティーに光属性が使える魔法使いがいるとは限らない」
物理攻撃主体のライマインさんでは無理な魔物とわかった。私は光魔法を覚えていないし、リリスールさんは白魔道士だから攻撃魔法はないと思う。それでもひとつだけ解決策が思い浮かんだ。
「中位魔物でもプレシャスなら倒せるよね。今回もお願いできる?」
「アイちゃんの使い魔は強いのかい」
リリスールさんは半信半疑のようだった。
「メイジフェイク相手に俺は勝てないし、ギルドマスターでも面倒な魔物だ」
「プレシャスはすごく強いから大丈夫よ」
今までの経験から答えた。
「アイちゃんの言葉が本当ならメイジフェイクは倒せるかもしれないね」
リリスールさんがプレシャスに視線を向けた。
「物理攻撃が効かないと倒すのはむずかしい?」
プレシャスが強いのは知っているけれど、実際倒せるか不安になって確認する。
「中位魔物程度ならどのような耐性があっても、わたしには関係ありません。メイジフェイクなら簡単に倒せますが、魔物と魔法になれてきたアイ様でも、宝石魔法があればメイジフェイクを倒せると思います。如何しますか」
プレシャスが確認するように私をみる。プレシャスの考えでは、私の宝石魔法ならメイジフェイクを倒せるみたい。
「魔物への恐怖心は減ったけれど私で倒せる相手なの? リリスールさんやライマインさんでもむずかしい魔物よ」
ギルドマスターのコーテリアさんでも面倒だと聞いたので、ほんとうに私で倒せるか疑問だった。
「アイ様の魔法に光属性はありませんが、アイ様は連続で魔法が使えます。メイジフェイクに魔法耐性があってもダメージは入りますから、圧倒的な数で攻撃すれば倒せます。でも知り合い以外の前では、この方法は控えてください」
プレシャスの考えがわかった。宝石魔法に魔力の枯渇は関係ないから、1回の魔法で複数の渦を作り出して魔法を連続で唱える。水球アクアなら7色オパールのような危険もないはず。
「リリスールさん、私の攻撃魔法で試してみたい。倒すのが無理と分かったら、プレシャスが代わりに倒してくれる」
プレシャスは頷いてくれたので、リリスールさんに顔を向けた。
「メイジフェイクは動きが遅いから倒せる可能性もあるさ。でも相手も魔法を使ってくる手強い魔物だけれど、アイちゃんは平気かい」
確認するように聞いてくる。
「大丈夫よ」
「それならアイちゃんに任せるよ。ライマインはほかの魔物に注意しておくれ」
「ここから少し近づいてから、魔法を使って試してみるね」
戦う準備ができたのでゆっくりと歩き出した。メイジフェイクの姿がみえると、大人ほどの人型で緑色の影が揺らいでいた。こちらに気づいていないから、今なら先に魔法で攻撃できる。
剣と盾を構えてから、頭の中で水の渦を10個想像した。魔法耐性がある魔物なので、最大威力も想像してメイジフェイクに当てたい。
「涼球アクア、涼球アクア、涼球アクア」
10個単位でかたまりとなっている大きな水の渦が3つ出現して、連なりながらメイジフェイクに向かう。そのまま真っ直ぐにメイジフェイクへ衝突すると、激しい雨のように水が飛び散って轟音も同時に鳴り響いた。
全ての水が地面に広がって見通しがよくなると、メイジフェイクがこちらを見ているのがわかった。あれだけの魔法でもあまり効いていないみたいで、魔法耐性の高さを思い知った。
「アイ様、相手に魔法詠唱の隙を与えてはいけません」
私がメイジフェイクのすごさに飲み込まれていたのか、プレシャスの強い口調が耳元へ届いた。すぐに何をしたらよいのか思い出した。
「涼球アクア、涼球アクア、涼球アクア、――」
出現している基本ルースから、あふれるほどの大きな水の渦が湧き出た。声の続く限り連続で魔法を唱えて、少し遅れて大きな水の渦がメイジフェイクへ向かって飛んでいく。
先頭部分にあたる水の渦がメイジフェイクにぶつかると、水の渦が四方八方に飛び散っていく。どの程度でメイジフェイクを倒せるか分からないので、水の渦を切らさないようにしながら、最大威力となるように念じながら魔法を唱え続ける。
周囲に霧が発生して状況がよく分からないけれど魔法は止めなかった。メイジフェイクが見えなくても最初に姿を認識している。宝石魔法は認識している相手なら対象にできるので、メイジフェイクを外すことはなかった。
最初の姿を思い出しながら魔法を唱えていると、急に水の渦が軌道を変えた。
「魔物の気配がなくなりましたので、アイ様の魔法で魔物が消滅しました」
プレシャスの声で魔法を止めた。
水しぶきの音が小さくなって霧が晴れると、メイジフェイクは消えていた。
「魔法を唱えることだけに集中していたけれど、私が倒したのよね?」
自信がなかったので聞き返す。
「そのとおりです。アイ様の魔法は見事でした」
すぐにプレシャスが答えてくれて、無事に魔物を倒せてほっとした。
「アイちゃんには驚かされるよ。褒め言葉としてアイちゃんは常識知らずで、これほど連続で魔法が使える黒魔道士はいないさ。アイちゃんの魔力は無尽蔵かい」
リリスールさんはいつもと異なって興奮したように話した。
「宝石魔法は魔力と関係ないみたいだから、ミリーシャさんも驚いていたよ」
「連続詠唱だけなら中級ハンターを超えているさ。これだけの魔法を唱えてアイちゃんは疲れていないかい」
「体力的にはまだ平気よ」
私には魔力は関係ないので、最初に疲れるのは体のほうだけれど、休憩するほどには疲れていなかった。
「まだ日は高いから、倒した魔物の魔石を集めて次の魔物を探すよ」
メイジフェイクとビッグポイズンフロッグの魔石を回収した。魔石は3等分する約束だったけれど、メイジフェイクの魔石は私が受け取った。ひとりで倒したご褒美みたいで、魔石の種類は中粒の無色だった。
日が暮れるまで魔物を退治して、途中で別パーティーに遭遇したときには魔物の情報を交換した。魔物の数が多くなっていて、普段見かけない魔物もいたみたい。
とくに怪我などはなくて、5刻の鐘が鳴る前に街へ戻った。




