第71話_魔物との再戦
近くに魔物がいるはずだけれど、私では魔物の位置を確認できなかった。
「魔物はどの辺にいるの?」
小声でプレシャスに聞いた。
「右前方の少し奥にいます」
「街に近いからこのまま放置は危険よね。下位魔物なら私でも対応できると思うから倒してみる。星剣ルビー、矢車サファイア。プレシャス、魔物まで案内をお願い」
基本ルースが出現したあとに剣と盾を手に取った。
下位魔物といってもどのような魔物か分からなくて、いつ襲われても平気なように準備は怠らなかった。
慎重に足を進めていく。討伐依頼を経験したからか前ほどの緊張感はなかった。前方に何かが動く気配を感じたので目を凝らすと、私にも何の魔物か分かった。
「魔物はトリプルボアーだったのね」
「気配は1匹だけですが、如何しますか」
プレシャスに魔物退治をお願いすればすぐに倒して終わるけれど、それでは私の経験はたまらない。トリプルボアー程度はひとりで倒せないと、イロハ様の世界を楽しめないと思ったので決意を固めた。
「私がひとりで倒したい。それも遠くからの魔法ではなくて、剣で倒して少しでも魔物退治になれたい。前回よりも上達している姿をみていてね」
「アイ様の活躍を楽しみにしますが、無理はしないでください。危険と判断した場合は手助けします」
プレシャスに向かって頷いてから、視線をトリプルボアーへと向ける。剣で倒したいので、魔法の威力を弱く想像して狙いを定めた。
「紅球ルビー」
真っ赤な塊がトリプルボアーへ命中した。ここまでは予定通りで、トリプルボアーが来たら盾で止めてから剣で倒す。
トリプルボアーが突進してきて、少し緊張したけれど体は動く。盾から体がはみ出さないように構えて足も踏ん張った。
トリプルボアーが危険な角を向けて近寄ってくる。
「私は平気だから、プレシャスはそのまま見ていてね」
ライマインさんとの訓練を思い出して、もう一度足を踏ん張った。
トリプルボアーが盾にぶつかったけれど衝撃を盾が吸収してくれた。あわてずに横へ移動してから、剣でトリプルボアーの胴体を切りつけた。トリプルボアーがよろめいたので、もう一度剣で切りつける。
その場でトリプルボアーが倒れると、目の前で発散するように消滅した。地面には黄色の魔石と角が残っていた。
トリプルボアーを倒したのが目で確認できると、大きく深呼吸する。ライマインさんとの訓練で成果が出たのか、思った以上に体が動いた。
「見事な討伐です。もう少し経験を積めば、この周辺の魔物は平気でしょう」
プレシャスも私の動きをほめてくれた。この調子で魔物退治になれていけば、イロハ様の世界を旅するくらいには力をつけられそう。
「緊張したけれどぶじに倒せてよかった。戦闘の腕が上達したと思うけれど、プレシャスも見守ってくれてありがとう。旅ができるくらいには魔物の退治に慣れたいけれど、まだプレシャスの助けが必要よね。どの程度まで魔物を倒してくれるの?」
プレシャスなら中級魔物も一撃で倒せるはずだけれど、積極的には退治していないように感じた。きっと理由があるはずよね。
「アイ様が危険な場合以外は積極的に魔物を倒しません。本来わたしは地上に姿を見せませんから、わたしの関与が大きくなれば世界の調和が崩れます」
プレシャスの力は私の想定以上にすごかったみたいで、好んで魔物退治をしない理由も分かった気がした。きっとプレシャスが本気を出せば、国と対等に戦えるくらいの力があるように感じた。
「危険なときは頼りにしているね。魔石と角が出たから、街に戻ってハンターギルドで売りたい。昼食が遅れるかも知れないけれど、プレシャスは平気?」
「わたしは大丈夫です」
本来は転送魔法で家に帰る予定だったけれど、魔石と角を拾って街へ戻った。
ハンターギルドの扉を開けると、いつもにくらべて人が多かった。食事の人もいるけれど明らかにハンターの数が増えていた。
マイリンさんの姿を見つけたので近くに行く。
「トリプルボアーを倒したから魔石と角を売りたい」
「買い取りはできます。魔物討伐で素材がでるとは、アイさんは運がよいです。鑑定をしますのでお待ちください」
マイリンさんが奥に行って鑑定装置を取ってきて、素材の鑑定を始めた。素材は金貨2枚で売れたので、思った以上に高価だったみたい。
「トリプルボアーはひとりで倒したのですか」
マイリンさんが聞いてくる。
「ライマインさんとの訓練が役に立って、初めてひとりで倒せたよ」
「アイさんに実力がついて、わたしもうれしいです。最近は街周辺に強い魔物が出現しているので、アイさんも気をつけてください」
「この前はスパイクベアーが現れたよね。同じような感じなの?」
心配になって聞いてみた。
「普段見かけない魔物もいますので、スパイクベアーも同様だと思います。上位魔物の影響との噂もあります。魔物退治に慣れたときは怪我をしやすいですから、アイさんも注意してください」
「初心を忘れないように頑張る。今日の用事は済んだから帰るね」
プレシャスと一緒にハンターギルドをあとにした。
トリプルボアーを倒した付近まで移動して転送魔法を使った。転送時の揺らぎが消えると収集部屋の中にいた。
「問題なく収集部屋へ移動が完了できた。中央の魔方陣に出現できているから、これで旅に出てもいつでも家へ戻ってこられる」
プレシャスは別の魔方陣へ歩いて行く。
「この魔方陣に置いてある箱に卵がありますが、さきほどの買い物でアイ様が指定した魔方陣でしょうか」
「運搬時に使用する魔方陣だから想定した位置の魔方陣よ。革袋を利用した方法は転送魔法を隠せるから便利よね。旅で使う魔方陣には日用品を揃えるつもりだから、快適な旅もできそう」
慣れるまでは指定する魔方陣に戸惑うかも知れないけれど、異なる魔方陣に出現しても何かが消滅するわけではない。気軽に使えるのも宝石魔法の利点にも思えた。
「どのような旅になるのか、わたしも楽しみです。旅先にも危険がありますから、無理しないようにしてください」
「期限はないから準備を整えてから旅へ行きたい。自分の身は自分で守れるようにしてから、魔物にも気をつけたい。そういえばさきほどマイリンさんから上位魔物の話があったけれど、この街も危険なの?」
プレシャスなら何か情報を知っていると思って聞いた。
「まだ詳細は把握していませんが、上位魔物はこの街へ近づいていると思います。普段見かけない魔物が現れたのも上位魔物の影響でしょう」
上位魔物の危険はすぐになさそうだけれど、その影響でふだん見かけない魔物の出現には注意が必要ね。
「想定外の魔物が出現して危なくなったら助けてね」
「危険がないようにアイ様を守ります」
力強い言葉であった。
「プレシャスの言葉を聞けて安心できた。魔物を倒したからお腹も空いたので、急いで昼食を作るね」
卵を手にとって収集部屋をあとにした。




