第69話_魔法の確認作業
宝石魔図鑑に新しい魔法を記入したので、想定通りに発動できるかを確認するために、プレシャスと一緒に庭へ出て転送魔法の準備を始めた。
畑の横にコーラルを使った魔法の肥料を用意すると準備が整った。今回は意図的に宝石魔図鑑を出さずに魔法を試してみるつもり。
「ペンダントトップの裏と庭に魔方陣を作ってから、そのふたつで転送魔法を試してみるね。最初はペンダントトップの裏からよ。印スギライト」
ふつうなら最初に出現するはずの宝石魔図鑑も基本ルースも現れなくて、宝石魔図鑑に書かれている内容通りになっている。魔法が適切に発動できたかを確認するためにペンダントトップを手にとってめくると、リボンの裏側に小さな地球があった。
「魔方陣があったから、ぶじに魔法が成功したみたい」
「宝石魔図鑑も基本ルースも見えていませんから、誰にも分からない魔法です」
感心したようにプレシャスが答えてくれる。
「通常の魔法は宝石魔図鑑や基本ルースを出現させたほうが、魔法らしくてほかの人も納得してくれそうよね。ここまでは順調だから、もうひとつの魔方陣を作るね。完成したら転送魔法を試してみる。印スギライト」
庭の中央に魔方陣を完成させて、ためしにデリートを念じたけれど魔方陣は消えなかった。いつまでも魔方陣を残せておけるのはうれしい。今度はクリアで魔方陣を直接消えるのを確認してから、庭の中央に魔方陣を作り直した。
「転送の準備が出来たから、最初は小枝で転送できるか試してみる」
「わたしは何をすればよいですか」
プレシャスが聞いてくる。
「誰にも見られたくないから、人の気配がしたら教えてね」
家の周辺に人が来ることはまずないけれど、転送魔法はめずらしいと聞いているので無闇に見られたくなかった。
「いまは近くに誰もいませんので平気です。誰かが近づきましたら教えます」
プレシャスから人がいないと教えてもらったので、木の近くに移動して数本の小枝を見つけてきた。庭の中央に作った魔方陣から離れた位置へ立って、この場所から魔法を唱えて小枝が移動すれば転送魔法の成功となる。
「転送魔法を開始するね。瞬スギライト」
手で持っている小枝のうち、一番長い小枝を想像してから呪文を唱えた。唱えた瞬間に手で持っていた小枝が軽くなったと感じたので、地面に描かれた魔方陣に視線を移した。心の中で思った小枝がみごとに魔方陣の中央へ落ちていた。
「アイ様、魔方陣の中へ小枝が出現しています。転送魔法は成功ですか」
「想定通りの小枝が移動したから成功よ。次は小枝の数を増やして、魔方陣の外に転送できるか試してみるね」
複数の小枝や魔方陣の外でも問題なく転送ができた。出現させる空間に小枝があると、元々あった小枝を押し出してくれる。手元へも同じように転送ができたので、想定通りの魔法が完成した。心の中でも唱えられたので緊急時にも対応できる。
「むずかしい転送魔法を簡単に作ってしまうとは宝石魔法はすごいです。順調に魔法が唱えられたようですが、ほかに何を試しますか」
プレシャスが魔法の感想と質問しながら近寄ってきた。
「最後に生き物が転送できるか試して、無事に転送できれば本当の意味で魔法が完成したといえる。兎などの小動物を捕まえて試してみたい」
「動物がいる場所までわたしが案内します」
プレシャスがすぐに探してくれたので、時間をかけずに兎を生け捕りにできた。
家の庭に戻ってきて転送の準備を始める。動くものが転送時にどのようになるか不明だったので、念のために兎を籠の中に入れた。私の近くに籠を置いて、プレシャスには離れた位置で待機してもらっている。
小枝と違って生き物の転送となるので、手に汗を握って緊張しているのが自分でも分かる。イロハ様の世界には転送魔法は存在していて人間も移動している。理屈的に宝石魔法でも可能と思うので、本物のアイ様からもらった力を信じることにした。
「魔法を唱えるね。瞬スギライト」
籠の中身にいた兎が消えたので魔方陣のほうへ視線を向けると、兎が跳びはねていた。ほっと胸を撫で下ろして、生き物でも転送魔法を成功させることができた。
「宝石魔法のすごさを垣間見た見事な転送魔法でした。ただ本来は貴重な魔法ですので、取り扱いには注意してください」
プレシャスが近寄ってくる。
「小物は袋に入れてから転送させるようにして、大物は人目に気をつけるね」
プレシャスと私自身も転送魔法を試した。魔法が発動すると景色が揺らいで、揺らぎは収まりながら転送先の景色に変わる。実際に転送してみると不思議な感じだったけれど、無事に転送することができた。
収集部屋に魔方陣を描くために家の中へ移動した。プレシャスと一緒に収集部屋まで来て、忘れずに魔法の肥料も持ってきている。
「天井も高くて充分な広さがあって、丸ごと家が1軒入れそうよね。これだけ広いと置く場所で迷うから、目印をつけて転送先を分けておきたい」
「分かりやすい方法だと思います。品物によって転送先を分けるのですか」
「転送対象ごとなら分かりやすいから、5つの魔方陣を描いて区別させるのがよさそう。転送先を間違っても、元にあった品物が押し出されるだけだから安心よね」
位置で想定もできるけれど広すぎるから、もう少し細かく範囲を絞るために複数の魔方陣を作ることにした。
「効率よいと思います。魔方陣ごとに利用を分ければ間違いも少なそうです」
プレシャスも私が考えた方法に感心してくれたみたい。
「中央と4隅に魔方陣を描いて、中央は人の移動や緊急避難にして普段は何も置かないようにしたい。残りの4つは貴重品、宝石類、旅で使う日用品、大きな荷物置き場にするね。印スギライト」
魔方陣へ置く品物を説明しながら、中央の魔方陣から描き始める。残りの4つも順番に作成してから棚や箱などを置いて、品物を入れやすいように工夫した。
「まだ何もありませんが、すてきな品物で埋まればイロハ様も喜びます」
「たくさん集めたらイロハ様に見てもらいたい。これで完了だから、さっそく転送魔法を試したいから、街へ買い物に行って帰りに転送魔法を使ってみるね」
後片付けをしてから、プレシャスと一緒に街へ向かった。




