第60話_鮮やかなスピネル魔法
今日の昼食時にメイティリスがこの家へ来る。メイティリスは近々何処かに出かけるらしくて、しばらく会えなくなる。その前に遊びに来てくれるので、手料理を振る舞うつもりでさきほど下準備が終わった。
リビングへ移動するとプレシャスが待っていた。
「準備は終わったのでしょうか」
「あとはメイティリスが来たときに肉を焼けば料理は完成よ。手料理以外にもメイティリスを喜ばせたいけれど、どのようなものを気に入ると思う?」
「アイ様が考えたものであれば、何でも平気と思います」
高価なものかどうかではなくて、気持ちが大事ということね。品物としては渡せないけれど、私にしかできない贈り物を思い浮かべた。
「宝石魔法でメイティリスを喜ばせたい。以前作った7色オパールのように、見た目で楽しませる魔法なら、きっとメイティリスも気に入ると思うのよ」
私自身しかできない宝石魔法なら特別感もあると思う。
「その内容なら大聖女もきっと喜ぶと思います。どのような魔法効果で何の宝石を使うのですか?」
プレシャスが近寄ってきた。
「まだ決まっていないけれど、どのような魔法効果にするかで宝石の種類を決めるつもりよ。7色オパールの花火は迫力があって夜空に咲いたから、今回の魔法は手元で楽しみたい」
魔法効果の範囲が何となく決まってきたけれど、この段階ではまだ宝石の種類を決めるほどの情報はそろっていない。
「アイ様の周囲で花が咲く姿もすてきそうです。色々な種類の花を咲かせて、踊り子と一緒に魔法を使えば大聖女も喜ぶでしょう」
新しい魔法を踊りとあわせるのは考えていなかったから、面白そうな組み合わせですてきな感じにもなりそうだった。
「楽しそうな雰囲気になりそうだから、プレシャスの考えを元にしたい。花の種類や色、形や大きさまでランダムにすれば見ていて飽きないよね」
「すてきな考えで、この魔法に適した宝石はありそうでしょうか」
魔法の方向性が決まったので、今回は多数の色を使いたい。今までに使っていない宝石で色の種類が多い宝石を考えると、該当する宝石が思い浮かんできた。
「宝石はスピネルにするつもりで、多くの色が揃っているすてきな宝石だから、きっと魔法の効果を多彩に表現してくれると思う」
宝石魔図鑑を開いて、レッドスピネルのルースを表示させた。
「この宝石がスピネルですか。きれいな赤色です」
「レッドスピネルという種類よ。昔はルビーと同じ鉱山からも取れていたから、ルビーと間違われた時期もあったみたい」
説明にあわせて、ルビーの頁も開いてプレシャスへ交互に見せた。
「たしかにルビーと似ています」
「ルビーとスピネルを間違えた有名な出来事では、王族が持っていたルビーのジュエリーが、実はスピネルだったという話もあるくらいよ」
記憶の片すみにあった情報を思い出してプレシャスへ説明する。
「魔石のように判別はむずかしいのですか」
ハンターギルドで使っていた鑑定装置では、どの魔物から入手した魔石かが分かる仕組みだった。プレシャスは同様な仕組みがあるのか知りたいみたい。
「今では鑑定装置に似た鑑別技術が進んでいて、ルビーとスピネルは見分けられるようになっているよ。それとスピネルの硬度はルビーよりも低いから、それでも判断できそう。結晶は8面体でダイヤモンドと同じみたい」
鉱物的にはルビーはコランダムで、スピネルはスピネルだった。
「時代の進歩で判別できるようになったのですね。ところで今回の魔法は花が咲く感じでしょうか」
花が舞う感じにしたいけれど、あわせて異なる変化を見られるようにもしたい。
「単純に花が咲くだけではなくて、花や花びらが自分の周囲で舞う感じにしたい。そのほうが踊りにもあっていると思う」
「華やかな感じですてきになると思います。早く実際の魔法を見たいです」
プレシャスが私を急かすように聞いてくる。
「宝石魔図鑑に書くね。私自身の周囲でランダムに変化させたいから、ひとつの花ごとに魔法を唱えていたら面倒よね。オンとオフでの切り替えも書きたいけれど、基本はオフがよさそう」
オン状態なら、ずっと花や花びらが舞えば、踊りに集中できるからよさそう。呪文も考え終わると、魔法の準備が完了した。




