第54話_錯覚するスフェーン魔法
明日は魔物退治に行って、ビッグポイズンフロッグを5匹倒す。魔物が出現する場所や注意点も事前に確認して、準備が終わったので寝室にいた。横にはプレシャスがくつろいでいる。
私自身は初めての討伐依頼で少し気分が高まっていた。
「ハンターギルドでの初めての討伐依頼だから、新たな魔法を作りたいと思う」
「どのような魔法でしょうか。魔物を倒すための攻撃魔法ですか」
「ビッグポイズンフロッグ対策と言うよりも、まだ戦いに慣れていないから逃げるか隠れられる魔法を作りたい」
ビッグポイズンフロッグ相手なら、手持ちの攻撃魔法と防御魔法で充分みたいなので、より強い魔物が現れた場合を想定したかった。
「身を隠せると戦闘も回避できますので、格上の相手からでも逃げやすいです」
たしかに姿が隠せれば、戦いになれていない私には有効な方法と思えた。
「プレシャスの意見を参考にして、姿と音を消す魔法がよさそうね。目の錯覚を利用して相手から見えなくなる魔法と考えると、光の反射が関係しそうだから宝石はスフェーンに決まりね」
「どのような宝石でしょうか」
プレシャスが聞いてきたので、宝石魔図鑑を出現させてからスフェーンの頁を開いた。立体に浮かび上がらせた映像は、黄色や緑色の色鮮やかなルースであった。
「スフェーンは輝きが強いルースで、光の分散が強いから、身を隠すための錯覚を連想できたのよ。スフェーンの難点は硬度が低くて研磨が難しいから、きれいなルースに仕上がるのは少なくなっている」
通常のスフェーンはインクルージョンと呼ばれる内包物が多いけれど、宝石魔図鑑ならきれいなままで見られるからうれしかった。
「眩しいくらいの輝きで、アイ様はいろいろな宝石を知っていてすごいです」
「宝石が好きだから、語りきれないくらいの宝石を知っているよ。でもそれ以上に知らない宝石も多いから、新たな宝石に出会うのも楽しみにしている」
鉱物の中でもうつくしい鉱物が宝石だけれど、あくまでも人間が決めた基準だから曖昧でもあった。昔は宝石と言われなかった鉱物でも、宝石品質が産出されれば宝石となるから、年を追うごとに宝石と呼ばれる鉱物は増えていく。
「スフェーンのかがやきは独特に見えます」
プレシャスは宝石魔図鑑に表示されたルースを、いろいろな方向から見ていた。
「複屈折の影響によって、光がルースに入射したあとでふたつに分かれるのよ。ただ数カラット以上のルースでは、内包物が存在しやすいのが難点ね」
「ほかの宝石も詳しく知りたいですが、魔法の内容にも興味があります」
プレシャスの期待に応えるために魔法の中身を考えてみた。身を隠すには最低限は姿を隠したいけれど、音にも敏感な魔物はいるはずよね。魔法を作れる数は10枠残っているから、姿と音を消す魔法は別々に作っても問題なさそう。
「魔法の効果が決まったよ。ひとつは姿を消す魔法で、対象を中心に周囲から見えない膜が作られるから、外から見ると膜を通り越してうしろがみえる。もうひとつは音を消す魔法で、同様な状態を作るけれど膜の中で発生する音は外に聞こえない」
「両方を同時に使えば姿と音がなくなりますので、隠れて移動するにも有効です」
プレシャスが私の顔を覗き込んだので、実際の魔法を早く見たいのね。言葉を話さなくても雰囲気で、プレシャスの考えが分かるようになってきた。
「魔法の中身を考えたから、今から効果と呪文を書くね。魔法が完成したら、外は暗いからこの部屋で魔法を試してみる」
宝石魔図鑑に効果や見た目を書き込んで呪文も考えた。魔法の準備が終わると立ち上がって、プレシャスから離れた位置へ移動した。
「わたしが魔法の効果を確認すればよろしいですか」
私が移動した意図を把握したのか、プレシャスが聞いてくる。
「姿や音の確認をお願いね。最初は姿を消す魔法よ。緑光スフェーン」
宝石魔図鑑から黄緑色の基本ルースが出現して、緑色の淡い光が飛び出した。私の体全体を覆うように光が広がると、緑色の薄い膜ができあがる。
「アイ様の姿が消えました。うしろ側の壁は普通に見えていますが、アイ様の気配はそのまま感じます」
プレシャスの顔は私のほうを向いているけれど、私と視線は合っていない。気配まではなくならないけれど実用性は充分だった。
「私には緑色の膜が見えて、その先にプレシャスがいる。魔法は成功ね。クリア」
緑色の膜を消した。
「アイ様の姿が見えました」
おどろいたようにプレシャスが話す。
「次は音を消す魔法を使うけれど、私が右手を挙げたら何か話すから、聞こえるか教えてね。黄光スフェーン」
基本ルースからさきほどと同じように黄色の淡い光が飛び出して、私の体全体を黄色の薄い膜が包んでくれた。魔法が完成したので右手を挙げて言葉を発する。
「プレシャス、聞こえる?」
大声で語りかけたけれどプレシャスの反応はなかったので、何度か話しかけた。
「何も聞こえません。アイ様は声を出していますか」
プレシャスが聞いてきて、私には外の音が聞こえるみたい。音の魔法も成功のようね。せっかくだから姿も消して同時にできるか確かめたい。『緑光スフェーン』と心の中で唱えた。
「両方の魔法を唱えたよ」
「アイ様の姿まで見えなくなって声も聞こえません」
ふたつ同時に使うのも成功したみたい。移動すると薄い膜も一緒についてきて、動きながらも使えて便利だった。両方の魔法をクリアで消すと薄い膜が消えた。
「これで見えるようになった?」
確認のためにプレシャスへ聞く。
「声が聞こえて姿も見えます。アイ様の魔法は自由度が高くておどろいています」
「何でも作れそうで私もおどろいているけれど、最強の魔法を求めるのではなくて楽しめる魔法も作りたい」
存在しているか分からないけれど、魔王討伐をするわけではないから、強力な魔法にはあまり興味はなかった。
「世界を楽しんでもらえれば、イロハ様も喜ばれると思います」
「今度は遊び心のある魔法で楽しみたいけれど、早めに寝ないと明日の魔物退治に響きそう。寝不足だとライマインさんに怒られそうだから、そろそろ寝るね」
新しい魔法を楽しみにしながら、ベッドへ入って明日に備えた。




