第50話_戦いの訓練
「ギルドマスターによる魔法の訓練が終わって次は俺の番だ。たしか戦いの基礎が知りたいらしいが、それで合っているか」
ライマインさんが聞いてくる。コーテリアさんが帰って、家の庭には私とプレシャスにライマインさんだけとなった。
「剣や盾の使い方を知らなくて、魔物退治のときにもうまく動けなかった。少なくとも魔物から身を守れるくらいの剣と盾の使い方が知りたい」
イロハ様の世界を楽しむために、旅をできるくらいの能力を身につけたかった。
「討伐依頼はビッグポイズンフロッグに決まったと思う。ビッグポイズンフロッグに駆け引きは不要だが、アイは討伐自体になれていないから、今日は棒きれを使って戦いの真似事をしながら確認する」
「剣や盾は使わないの?」
予想外の訓練方向だったので聞き返した。
「魔法の剣を使うアイには、剣を使う動きに慣れていないとアイ自身が危ない。まずは体で動きを覚えてもらうために、剣による打ち込みや相手から守る練習は、棒きれでも充分だ」
「最初は慣れが重要だから棒きれでも充分なのね。棒きれを探してくる」
木が生えている庭の端に向かうと、何本かの棒きれが落ちていた。素振りで重さを確認してから、適度な長さがあって軽い棒きれを選んだ。
「私はこの棒きれにするけれど問題ないよね?」
棒きれを選ぶ基準が分からなかったので、素振りで問題ないと思った棒きれをライマインさんへみせた。
「その長さがあれば練習には充分だ。俺はこちらの棒きれで戦おう」
ライマインさんと一緒に庭の中央へ移動すると、プレシャスは少し離れた位置で待機する。ライマインさんが片手で棒きれを構えたので、私も棒きれを構えた。
「アイ様、無理はならさないでください」
「気をつけるね。ライマインさん、攻撃するよ」
プレシャスに答えながら、棒きれを持っていると剣道を思い出した。剣道の経験はないけれどテレビで見た映像を思い出して、ライマインさんに向かって突進した。
棒きれを振り下ろす。ライマインさんは片手だけで私を横に押したので、手に持っていた棒きれが飛ばされる。何とか転ばなかった自分をほめたいくらいだった。
「俺はまだ何もしていないぞ。魔物は待ってくれない」
ライマインさんの口調は少しきびしめだった。
「これからが本番よ」
棒きれを拾って、今後は力に負けないよう棒きれをしっかり握った。足を踏ん張って棒きれを振りかざす。ライマインさんに受け止められて、うしろに押されながら足が宙に浮いた。体勢を立て直したけれど簡単に棒きれが飛んだ。
「ハンター以外なら頑張っているほうだが、ハンターなら足腰が弱すぎる」
「ライマインさんの言う通りと思うから、練習をお願いしている」
「手足は止めるな。まだ始めたばかりだ」
棒きれを拾ってライマインさんに向かって、今度は大ぶりはせずに相手の手元を攻めた。何度か打ち込んだけれど簡単に流されて、5分と立たずに足が思うように動かなくなってきた。
でも足を止めるわけにはいかない。ここで諦めたらライマインさんに申し訳ないから、足を意識して踏ん張って体ごと棒きれを押し込んだ。
「アイも少しはやるようになったが、この程度では街道を歩けないぞ」
言葉自体はきびしいけれど、それだけライマインさんは真剣に取り組んでくれていた。その期待に応えるためにも、棒きれを振る動作は止めるわけにはいかない。
ライマインさんの力に押し返されて転んでも、棒きれを離さなくなった。30分ほど攻撃したけれど私だけが疲れていて、もう立っていられない。最後には地面に座りこんで話す気力もなくなっていた。
「アイ様、大丈夫ですか」
心配そうにプレシャスが駆け寄ってくる。
「今日はここまでだ。初めてにしてはよくやったが、ハンターと考えるとアイは体力がなさすぎる。このままでは遠出の討伐依頼も無理だろう。討伐における魔物の恐怖は慣れるしかないが恐怖心は忘れるな。ハンターの油断は命取りになる」
さきほどまでのきびしい口調はなくなって、ライマインさんが現状と今後何が必要かを示してくれた。
息が整ってきたのでライマインさんへ顔を向ける。
「体力は徐々につけていって、討伐にも慣れていく。少し休んだら食事を用意するから、楽しみにまっていてね」
「異国料理は楽しみだが、疲れた体で作れるのか。無理をしなくても平気だ」
「下準備はすでにできているから、あとは温めれば料理が完成よ」
立ち上がれるだけの体力が戻ってきたので、プレシャスとライマインさんと一緒に家の中へ入った。テーブルのあるリビングまでライマインさんを案内して、料理ができるまでの間待っていてもらう。
食事の準備を始める。カレーを温めながらサラダを盛り付けて、カレーの鍋をかき混ぜるとスパイスの香りが漂ってきた。匂いの再現性は高いと思っている。頃合いを見計らって火を止めて、ほかの料理も時間をかけずに完成した。
3人分を用意してからリビングに運んでテーブルへ並べる。
「カレーライスという料理よ。材料の関係で改善の余地はあるけれど、おいしいから温かいうちに食べてね」
できた料理をライマインさんへ勧めた。
「スープに近い料理でライスと一緒に食べるのか。匂いは独特だが食欲をそそる」
「スープとライスを別々に食しても一緒に混ぜても平気よ。辛いから食べる量は徐々に多くして、辛いと思ったらライスを多めに使ってね」
この世界に辛い料理がどの程度あるのか分からないので、辛さで驚かないように注意した。
「温かい料理だ。先に頂く」
ライマインさんがスプーンを取って、カレーライスを食べ出した。最初は少しだけだったけれど、ふたくち目は量を多くしていた。
「味はどう? この国の料理に詳しくないから、好みの加減が分からないのよ」
気になって聞いた。私の好みで料理は作っているから万人向けかは不明だった。
「辛さには驚いたがおいしいし、口の中に辛さは残るがまた食べたくなる辛さだ。味は濃いめで気になったが、ライスで濃さを調整できるから俺には問題ない。体も温まるし何杯でもいけそうだ」
うれしい感想だった。辛いのが苦手な人にはむずかしいと思うけれど、普通に辛いのが食べられればカレーライスは好評になるかもしれない。
「喜んでくれてよかった。今回の具は野草と肉のみだけれど、本当はこの中に野菜を入れたかったのよ。味も濃厚になってさらにおいしくなると思う」
「畑作りはカレーライスの具にするためなのか。今も充分おいしいが、もっとおいしくなるのなら畑作りも頑張れる」
「野菜は栄養があってほかの料理にも使いたいから、畑作りを考えたのよ」
「アイは魔法だけではなくて料理もできてすごい。異国出身なのに、この大陸の言葉も普通に使えているし、文字の読み書きもできるのか」
感心したようにラインマインさんが聞いてくる。イロハ様の力で会話と読み書きは自動変換されるから、イロハ様の世界を楽しく過ごすためにとても助かっている。
「簡単な読み書きならできるけれど、この大陸やザムリューン王国での教育はどの程度なの?」
興味本位で聞いてみた。
「仕事柄ハンターは文字が読めて最低限の文字は書けるが、子供で教育を受けているのは貴族がほとんどだ。大人になっても商人以外は、読み書きが苦手だろう。アイは異国で貴族だったのか」
何でも読んでしまうと驚くかもしれない。高価な本や貴重な資料は、読めても口に出さないほうがよさそうね。
「普通の庶民で、ただ物覚えがよかったのかもしれない。カレーライスはいっぱい作ったから遠慮せずにお代わりしてね」
ライマインさんはたくさん食べてくれて、料理を気に入ってくれてよかった。




