第47話_自然豊かなコーラル魔法
リガーネッタの街でのお祭りが終わって少し経過した頃、午前中の今はプレシャスと一緒に庭へ出ていた。私とプレシャスが住んでいる家は森の中にある開けた場所にあって、空気は澄んでいておいしかった。
「今日は実施することがいっぱいあるから、順番を間違えないようにしないとね」
「ライマインから剣や盾の修行を受けるのですね」
ハンターギルドで討伐依頼を受けるけれど、私自身は魔物退治に慣れていない。とくに接近戦での動きになれるために、ライマインさんから剣や盾の使い方を教わる予定だった。修行のあとは畑作りを手伝ってもらう約束もしている。
「下位魔物を自分で倒せる実力は身につけたいから、基本の動きを教えてもらうつもりよ。それに今日は畑も作る予定で、さすがに私では無理だからライマインさんにお願いしたら、快く引き受けてくれたからうれしい」
「ライマインが来るまでにまだ時間はありますが、庭に用事でもあるのですか」
足元にいるプレシャスが聞いてくる。
「畑で作る野菜がうまく育つようにして、効率よく収穫できるように考えたのよ。その中で土に与える栄養を考えていたら、ぴったりの宝石が見つかった」
魔石を売ったお金で野菜の種などを買って、お店の人から野菜の育て方を親切に教えてもらった。魔法で肥料が作れないかと考えていたら、望みの宝石が見つかったのでこれから試すつもりだった。
「魔法で肥料を作るとはアイ様らしい発想です。似たような生活魔法はないと思いますので、完成する魔法が楽しみです」
「想定通りに作れるか分からないけれど、いろいろと試せるのが宝石魔法の利点でもあるよね。宝石魔図鑑を見えていたらコーラルの欄に面白い説明を見つけたのよ。コーラルの別名は珊瑚で、私には珊瑚が慣れている呼び名ね」
宝石魔図鑑を開くとプレシャスが中身を覗き込んできた。
「海中の微生物から作られた宝石とは今までと異なっていて、不透明ながら色鮮やかな赤色も目を惹きます」
「プレシャスが見ている写真は、血赤珊瑚と呼ばれている高級品ね。私が生まれた国の周辺にある海でも採れているのだけれど、宝石で使う珊瑚と、海辺に生息する珊瑚は種類が異なるのよ」
宝石で使う珊瑚は海中深くに生息していて、よく海岸に打ちあがっている珊瑚は宝石としては使えない。
「特徴のある宝石と分かりましたが、畑作りと珊瑚の関係は何ですか」
もっともな疑問で、プレシャスが聞いてくる。
「珊瑚の主成分は炭酸カルシウムで、土や野菜に必要と聞いた覚えがあるのよ。炭酸カルシウムが不要な野菜もあるかも知れないけれど、今回は使ってみるつもりよ」
元の世界では畑仕事に縁がなかったので、何処まで畑を作れるか分からない。でも何事も試してみて、イロハ様の世界を楽しみたい。
「野菜を育てるのに役立つ成分があるとは面白い宝石です。今回の魔法はどのような効果を持たせるのですか」
「土に栄養を与えて野菜の成長を促進させる感じで、それ以上の効果は野菜を育てる楽しみがなくなると思っている。せっかくのイロハお姉様の世界だから、何事も楽しまないと損よね」
「アイ様の世界を楽しむ考え方は、イロハ様も喜んでいると思います」
「イロハお姉様には感謝しているし、イロハお姉様の世界にも興味がある。ライマインさんが来る前に肥料を作っておきたいけれど、魔法の効果は決まったから、あとは呪文を決めれば魔法を作れるかな。宝石の種類は血赤珊瑚にするつもりよ」
宝石としての珊瑚は取り扱いにも注意が必要だった。汗や果汁にお酢などにも弱いから、ジュエリーを着けた後の手入れや食事のときにも気をつける必要がある。
「血赤珊瑚とはどのような珊瑚を呼ぶのでしょうか。名称から赤色の珊瑚だと思いますが、普通の赤色と何が異なるのでしょうか」
興味深そうにプレシャスが聞いてきた。
「珊瑚の色は白色からピンク色に赤色まであるのだけれど、この中で赤色が濃い珊瑚を血赤珊瑚と呼んでいるのよ。とくに私が住んでいた国周辺の海で採れる珊瑚が、多くの血赤珊瑚を産出していて有名だった」
プレシャスに答えてから、宝石魔図鑑に魔法の内容を書き込んでいく。肥料は魔法が終了しても栄養のために残しておきたいから自然由来と書いて、最後に呪文を決めれば完成だった。
「全て書き終わったみたいで、魔法の効果が楽しみです」
「さっそく魔法を唱えるね。鮮赤コーラル」
宝石魔図鑑から真っ赤な基本ルースが出現して、基本ルースの下側から砂のような赤い粉が地面に落ちる。
「変わった魔法ですが、この赤い粉を畑にまくのですか」
「そのつもりよ。効果や威力は実際に野菜が育たないと分からないけれど、何もしないよりはよく育つと思う。ずっと残っているかを確認するね。デリート、クリア」
基本ルースが消えて本来ならクリアで魔法の対象も消えるけれど、クリアを唱えても赤い粉は残っていた。この状態なら問題なく肥料として使えるから、魔法を唱えて大きい麻袋に肥料を入れると畑仕事の準備が整った。
「一般魔法は精霊の力を借りていますが、何度みてもアイ様の魔法は変わっていて驚かされます」
「本物のアイ様が宝石魔図鑑に力を与えてくれたから、宝石魔法は精霊ではなくて女神様の力だからかもしれない。雰囲気的には神聖魔法に近いと思う」
「それなら独特の魔法になるのも頷けます」
感心している表情をみせるプレシャスだった。プレシャスが驚くくらいだから、宝石魔法は私が思っている以上に自由度が高い魔法みたいね。
「そういえば精霊にも種類があると前に聞いたけれど、詳しく教えてほしい」
「一般精霊のほかには古代精霊がいます。魔法や使い魔に関与しない、古くから存在する稀少な精霊です。古代精霊も精霊魔になれますが、人間が語る伝説の精霊魔はたいていが古代精霊です。精霊魔は魔物と違って、必ずしも人間と敵対しません」
伝説という言葉には興味があって、謎めいていてすてきに思えた。この世界を旅すれば、一般精霊や古代精霊に会えるかもしれない。
「いつかは伝説の精霊魔に会ってみたいから、イロハお姉様の世界を楽しむ理由が増えた。伝説というくらいだから、古代精霊は一般精霊よりも強いのよね」
「強弱関係で言えば、大人と子供くらいの違いがあります。ですが上位精霊なら、古代精霊に一撃くらいは与えられるでしょう」
分類が異なると強さが桁違いみたいで、精霊の分類は奥が深そう。
「プレシャスは古代精霊なの?」
気になって聞いてみた。
「わたしは世界の始まりから存在している原初精霊です。原初精霊はイロハ様に仕えていますが、一部の地域では神様として崇められている原初精霊もいます。一般の人間は原初精霊を知りませんから、発言すると常識知らずに映るでしょう」
「言葉には気をつけるね。プレシャスの強さも何となく分かった」
ライマインさんが来るまで、プレシャスとお喋りした。




