第41話_女神と踊り子
街中の賑やかな雰囲気を感じながら神殿前に到着して、プレシャスと一緒に神殿の中へ入った。あたりを見渡すとタラーキンさんの姿があったので近くへ向かう。
近づくとタラーキンさんも私に気づいてくれた。
「タラーキンさん、相談があって神殿に来たのよ。少しだけ時間は平気?」
「大丈夫ですが、ワタシに何かご用でしょうか」
紹介状を見せる前に、タラーキンさんへ確認したい内容があった。
「先日神殿へ来たあとに家へ帰ろうとしたら、途中で誰かにつけられたみたい」
笑顔で質問すると、タラーキンさんは目を丸くしておどろいている。プレシャスが気づかなければ、私も尾行は分からなかった。途中で振り向いていないから、タラーキンさんは尾行に成功したと思っていたみたい。
「申し訳ありません。決して怪しい行動ではないです」
「タラーキンさんは悪い人に見えないし、きっとメイティリスが頼んだのよね。メイティリスとは友達になったから平気よ」
大聖女様を名前呼びにしたためか、タラーキンさんの顔つきが厳しくなった。でもいまさら呼び方を変えるつもりはない。
「アイさんは異国出身だと聞きましたが、大聖女様を名前で呼ぶのは問題です。ワタシ以外に聞かれると大騒ぎになります」
辺りを気にしながら小声で説明してくれる。
メイティリスと出会って日は浅いけれど、私に温かい場所を求めてきた。私がほかの人と同じ態度を取ると悲しむはずだから、ここは堂々とした態度を取りたい。
「メイティリスの許可は取っていて、私とメイティリスは特別な関係よ。証拠に紹介状を預かってきた」
メイティリスが書いた紹介状を渡す。タラーキンさんが中身を読み始めると、怪訝な表情へと変わっていく。
「間違いなく大聖女様からの紹介状で、呼び名についても説明がありました。でもにわかに信じられません」
「私の言葉には疑問を持つかもしれないけれど、紹介状の内容がすべてよ」
「大聖女様の言葉に嘘はありませんし、紹介状の中身もわかりました。見習い神官たちを音楽と踊りで楽しませてくれるのなら、うれしく思います」
メイティリスの招待状は威力が壮大だった。タラーキンさんはまだ納得していないと思うけれど、心の中で折り合いをつけたのか、笑顔を見せてくれた。
タラーキンさんに案内されて着いた場所は神殿入口の横にある庭で、その場でタラーキンさんから相談を受ける。
一度に全部の見習い神官は呼べないらしくて、3回に分けてほしいみたい。先ほど踊ってみて体力はあまり減らなかったから、快く引き受けた。タラーキンさんはうれしそうな表情をみせて、近くを通りかかった神官へ声をかけた。
「見習い神官たちを呼びに行かせましたが、どのあたりで踊りますか」
タラーキンさんに聞かれて庭を眺めた。手入れのされたきれいな庭で、庭の中央にある石像で目が止まった。
「イロハ様の石像前でも平気? 神殿ならではの場所で踊りたい」
せっかくだからイロハ様にも私の歌と踊りを見せたかった。
「構いません。イロハ様も喜んでくれるでしょう」
ほどなくして人が集まってきて、子供たちは10名くらいだった。それ以外にも付き添いで大人たちもいた。みんな同じ服装なので神殿関係者みたい。
「こちらの準備が整いましたので、アイさんも準備をお願いします」
「宝石魔法を使うから準備は一瞬だから、場所さえ決まればいつでも始められる」
「異国の魔法ですか。アイさんの判断で実施してください」
タラーキンさんに頷いてから石像の前へ移動する。プレシャスはタラーキンさんの近くで待機してくれた。石像の前でイロハ様にお祈りして、楽しんでいることを感謝した。向きを変えて、集まった人たちにお辞儀する。顔を上げて笑顔を見せた。
息を整えてから言葉を発する。
「集まってくれてありがとう。今はお祭りの期間中だから、異国の音楽と踊りを楽しんでくれるとうれしい。音色トルマリン、煌めきトルマリン」
宝石魔図鑑と基本ルースが出現したあとに、私の体が青色の光で包まれて、踊り子の衣装に変わる。同時に浮いているハープから、かがやく音符を出現させた。子供たちだけではなくて、大人たちからもおどろいた声が聞こえる。
「私の故郷にある歌よ。~花びら踊る街で~、オン」
自然と体が動く。2回目の踊りなので周りが見えてきて、子供たちの楽しむ表情が私の踊りを後押ししてくれた。私自身も音楽を楽しみながら踊って、周囲と一体となるような感覚も味わう。
最後まで歌って踊り終わると、お辞儀して締めくくった。周囲から拍手がわき起こって、子供たちが近寄ってくる。年齢は私と同じ程度か幼く感じるから、同年代で大聖女をしているメイティリスは特別みたい。
「お姉ちゃんの踊りはとてもきれいだった。もう一度みたい」
「心が温かくなって楽しかった」
「何処の国の音楽なの? 初めて聞いた曲なの」
「まるで女神様みたいだったよ」
見習い神官である子供たちが、次から次へと感想を述べてくれた。みんなの笑顔を見られて、それだけでも歌って踊った価値はあったと思う。青空の下で踊れたのも開放感があって楽しかった。
「私も神殿で歌って踊れて楽しかったよ。あと2回踊るから、ほかの子供たちも呼んできてね」
人の入れ替えがされている間に休憩していると、タラーキンさんが近くに来た。
「見習い神官たちが喜んでいました。アイさんの踊りも見事でした」
「みんなが楽しんでくれたみたいだから、私も踊った甲斐があった。あと2回も楽しく歌って踊るね」
「せっかくですので、一般の人も見学させて平気でしょうか。アイさんの歌と踊りを見て、途中から見学したいと申し出がありました」
思った以上に好評だったみたい。
「本職の踊り子ではないけれど、それで構わないのなら平気よ。当然、お金もいらないから好きなだけ呼んでね」
「助かります。さっそく知らせてきます」
2回目も同様に歌って踊って、3回目では囲まれるほどに人が増えていた。緊張はしたけれど無事に踊りきれて、最後には大きな拍手をもらえたのがうれしかった。
タラーキンさんと別れて、プレシャスと一緒に神殿をあとにした。賑わっている街中へ向かって、今度はお祭りで私自身が楽しんだ。




