第42話_ペンダントの宝石
街から戻って家に着いたのは夕方で、夜の時間帯になるとメイティリスと護衛のふたりが家に来た。さきほどまで庭で音楽と踊りを披露して、今はテーブルのあるリビングにいる。
「アイの歌と踊りは見事だったの。何処までが宝石魔法で作ったの?」
メイティリスが聞いてくる。
「楽器と衣装はふたつの魔法で作ったけれど、踊りは独学だから下手でごめんね」
「心が伝わってくる踊りだったの」
「きれいな踊りでしたわ。それよりも魔法を詳しく教えてくれるかしら」
ミリーシャさんは魔法に興味があるみたい。ミリーシャさんとは同じ女性だからか早めに打ち解けていて、タイタリッカさんとはまだ少し距離がある。でもメイティリスと呼んでも異論を唱えなくなった。
「異国の宝石を使った魔法よ。触れないけれど今回使った宝石の絵を見てみる?」
「宝石の知識は多少ありますので、見せてほしいですわ」
宝石魔図鑑を呼び出すと、トルマリンの頁を開いてミリーシャさんへみせる。
「今回衣装に使ったパライバトルマリンで、あざやかな色でしょ。面白い特徴は静電気があることで、静電気とは乾燥状態で金属に触ると手が痛くなる現象よ」
この世界で静電気という表現があるか分からなかったので、具体的な現象をあわせて説明した。
「乾燥した寒い時季に似た経験がありますが、異国では静電気と呼ぶのですか。それよりも図鑑にある、宝石とカットにもおどろいています。見たことのない複雑なカットで異国特有かしら。手持ちのペンダントで似ている宝石がありますわ」
宝石魔図鑑のカットは、ブリリアンカットよりも面数が多くて、さすがに呼び名までは把握していなかった。でも近年に考案されたカットと聞いた記憶がある。
「カット技術は日々進化しているのよ。私はこの国の宝石に興味があるから、もし持っていたら見せてほしい」
「今は持ち合わせがありませんが、王都ザイリュムに来る機会があれば、いつでもお見せしますわ」
「楽しみにしているね。宝石は眺めるのもうれしいけれど、やっぱり触って楽しみたい。手持ちの宝石は数が少ないのよ」
宝石図鑑の立体映像は見応えがあるけれど、宝石の感触や光の当て方を変えて見るには実物が必要だった。
「アイさんが持っている宝石は何があるのかしら。見たいですわ」
「ちょっと待ってね。都合で渡せないから近くに行くよ」
席を立ってミリーシャさんの横に移動して、胸からペンダントを取り出した。私が持っている宝石は、ペンダントに使われている宝石のみだった。
「魔法か何かで取り外せないのですか」
直接みせる行動を不思議に思ったのか、ミリーシャさんが聞いてくる。
「私はこのペンダントをお守りにしていたから、身を守るために魔法をかけてあるのよ。手に取るくらいは平気だから、安心してさわってね」
実際はイロハ様の加護だったけれど、お守りには変わりない。近くに椅子を持って行き、大粒のブラックオパールを見せた。ミリーシャさんは食い入るようにペンダントを眺めてから感想を述べる。
「異国の宝石を初めて見ましたが、不思議な宝石ですわ。オパールと思いますが、知っているオパール以上に見る角度によって異なる色が浮かび上がって、かがやきも素晴らしいです」
「ミリーシャがすごいという宝石なら、ワタシも見てみたいの」
今度はメイティリスが宝石を手に取ると、うっとりしたような顔になっていく。
「メイティリスも気に入ってくれた?」
感想を知りたくて聞いたけれど、メイティリスは黙ったままだった。ペンダントを包むように握り直してから、メイティリスの顔が私に向いた。
「異国の人間や品物は、イロハ様と関係があるの? このペンダントからもイロハ様の気配を感じて、神殿の祝福部屋よりも鮮明なの」
メイティリスはイロハ様に会っているから、気配を感じ取れてもおかしくない。イロハ様の影響は大きすぎるから、肯定することはできない。
「どうしてなのかは私にも分からないけれど偶然よ。それよりもミリーシャさんにこの国の宝石について教えてほしい。どのような宝石が今は人気なの?」
メイティリスが何か聞こうとしたのは分かったけれど今は答えられない。意図的にミリーシャさんへ話題を振って、笑顔を見せながら元の位置へ戻った。
「ルビーとエメラルドが人気かしら。最近ではサファイアが流行っていますわ」
「人気の宝石は何処の国でも同じなのね」
有名な宝石の話題から珍しい宝石まで、積極的にミリーシャさんへ聞く。途中からメイティリスもイロハ様の質問は諦めたのか、一緒に宝石の話題へと混ざった。夜遅くなる前にメイティリスたちは帰って、今は近くにプレシャスのみがいる。
「アイ様の態度が途中からおかしかったですが、何か気になったのでしょうか」
プレシャスが聞いてくる。
「メイティリスがイロハ様との関係を気にしていたのは知っているよね。ペンダントも家もイロハ様の加護で成立しているから、本当の話をすれば大変になる。知っていて黙っているのが辛かったのが理由ね」
「気持ちはわかりますが適切な判断です。イロハ様に会っていると言えば大変になるでしょう。直接加護を与えられたと知れば、国を揺るがす大事態です」
私の考えはプレシャスと一緒だった。イロハ様の世界における常識はまだ把握しきれていないけれど、イロハ様がすごいのは理解できていた。
「今後も発言には注意するね。宝石魔図鑑は本物のアイ様から頂いた品物だから、その点は救いかもしれないけれどメイティリスに隠し事をしたくないのが本音よ。私はメイティリスと一緒にいると元気をもらえるのよ」
タイミングがむずかしいと思うけれど、いつかはイロハ様との関係をメイティリスに話せればと思っている。
「アイ様は大聖女を気にしているように見えます」
「年齢も近いからかもしれないと思う。そろそろ眠くなってきたから、今日はこの辺までにするね」
プレシャスと寝室に向かって、しばらくしてから眠りについた。




