フォーメーション
右翼 美柚姫騎(主要武装:戦棍)
中央右 亜夜騎(同:小太刀)
中央左 はるか騎(同:なぎなた)
左翼 亜紀騎(同:大型戦斧)
いつの間にか、これがいらん子中隊の定番のフォーメーションになっていた。
理由なんて何もないけど、気がついたらこうなっていた。
訊ねられたら全員が全員、そう答えるだろう。
敵を真っ正面に捕らえたら、はるかと亜夜が対応し、右翼と左翼は美柚姫と亜紀が担当する。ただそれだけなのに、千鶴は連携がとれない理由は、この配置にあるとはっきり言い切った。
「シミュレーター空いてますか?」
「“白雷”用?」
「―――川上少尉」
千鶴は、自分達のやや後ろで様子を見守っていた麗央に振り返った。
「えっ?」
「シミュレーション、参加出来ますか?」
「えっ?この状況に?」
「そう」
千鶴は頷いた。
「いずれ、あなたの仲間となる4人です。何か問題が?」
「―――ない、けどさ」
麗央は困った顔で紅葉の後ろ姿を見た。
1騎加えるなら、“白雷改”に乗る自分が適格であり、“死乃天使”の千鶴では意味がないことに、麗央はその時になってようやく思い至った。
だから、唐突な問いかけに戸惑いながらも答えた。
「い、いいよ?すぐ参加出来る」
「“死乃天使”用のシミュレーションは?」
「―――設定してないから、そう簡単には出来ない。第一、あんたとあいつらじゃ勝負にならないわよ。弱い者イジメの手助けは出来ない」
「ですが」
「……麗央の分はアイドル状態で待機させているから、搭乗が終了するまで休ませてあげるか」
「ご自由に」
「中隊全騎へ。コクピット内で少し休んで。もう一騎、お仲間増やすから」
「もう一騎?」
「そう」
モニターの向こうで首をかしげた亜紀に、紅葉は答えた。
「川上麗央少尉。“白雷改”に関してはあんた達の先輩格よ」
「使えるの?その子」
「失礼ね。あんた達よりずっとよ」
シュミレーションシステムへ搭乗すべく部屋を出る麗央の後ろ姿を見送りながら、紅葉は千鶴に振り返った。
「で?次のお望みは何?」
「次から配置をこう変えて下さい」
千鶴はいつの間にか用意していた、バインダーに挟まれたA4サイズのメモ帳を紅葉に手渡した。
「何何?……って」
「何か?」
「あんた……」
紅葉はあきれ顔で言った。
「字、汚いわね」
「―――っ!」
瞬時に顔を真っ赤にした千鶴が睨むような視線になるが、厚顔無恥が白衣を着ているような紅葉が動じるはずもない。
「何よ、小学校低学年でもここまでのたくったような字は書かないわ。あんた、ペン習字習った方が良い」
「……読めませんか?」
「何とかね。でも、これじゃあんた、ラブレターも書けないわよ?恥ずかしくて」
「……っ」
唇を噛み締めた千鶴の口元がへの字にまがった。
よっぽど気にしていたのか、それとも単に悔しいのか、体が小刻みに震えている。
「―――でもまぁ」
ぽりぽりと、赤いボールペンで字の間違いを正しながらも紅葉は言った。
「言いたいことはわかった」
右翼 美柚姫騎(主要武装:戦棍)
中央右 亜夜騎(同:小太刀)
中央左 はるか騎(同:なぎなた)
左翼 亜紀騎(同:大型戦斧)
従来のこのフォーメーションが、麗央の参加によって
右翼 麗央騎(主要武装:ハルバード)
中央右 亜紀騎(同:大型戦斧)
中央左 亜夜騎(同:小太刀)
左翼 はるか騎(同:なぎなた)
指揮兼後衛 美柚姫騎(同:戦棍)
こう変化した。
「……あの」
意外にも、一番に口火を切ったのは美柚姫だった。
「な、なんで私が後方に下げられるんですか?」
その顔は、驚きと不満を露骨に表していた。
「隊長だから」
千鶴より先に、紅葉が言った。
「前線部隊の指揮を誰もとっていない。みんながみんな、悪く言えば勝手な、良く言っても個人の判断で状況に対処している。これじゃ烏合の衆と同じでしょ?」
ちがう?
ちらと千鶴の方を向いた紅葉の視線がそう訊ねていた。
千鶴はそれを認めるかのように首を横に振った。
「後方であんたは指揮をとりなさい。指揮官は前線でカタナ振り回すだけが仕事じゃない」
「―――了解」
「はぁい!次は私っ!」
不承不承という顔で黙った美柚姫に続いたのは亜紀だ。
「何で?私、今まで通りの端っこがいいっ!」
「―――却下」
言ったのは千鶴だ。
「あなた達姉妹は中央」
「だから、何でっていうか、あんた誰?」
「―――穂村千鶴少尉」
「……もしかして、あの“死神”さん?」
死神。
かつて千鶴が忌み嫌われた時に使われた渾名。
それを使う亜紀に若干の驚きはあっても敬意はどこにもない。
「……」
千鶴は無言で頷いた。
「―――で」
亜紀は眉間に皺を寄せた。
「私達が、なんでその死神様のご意見に従わなきゃいけないわけ?」
「命じてはいない。死にたくなかったらそうしたほうがいい。そう、津島中佐に言っただけ」
「……へぇ?」
割り込むように亜夜が意地の悪い笑みを浮かべた。
「私がこのポジションなのも?」
「―――そう。あなた達は後ろに対する注意力が弱いけど、前については強い」
「褒めてる?」
「そう聞いて。それと」
じっ。と二人をみつめたまま、千鶴が黙ってしまった。
「―――私が佐野亜紀」
「亜夜だよ」
「……亜夜少尉が左なのは、利き目が左で、亜紀少尉が右だから」
「へっ?」
「亜夜少尉、元は左利きじゃない?」
「……何で知っているの?」
びっくりした顔の亜夜が訊ねた。
「左じゃだめだからって、施設で右利きに慣れろっていわれたの!」
「―――二人とも、こうやって?」
千鶴は右手を水平に伸ばすと銃を構えるように手を握り、片目をつむって見せた。
「こう?」
「こうかな?」
STRシステムから右手を外した佐野姉妹が同じように手を握り、片目を閉じる。
すると―――
「……ほら」
千鶴が言わんとしていることは紅葉にもはっきりわかった。
共に右腕を伸ばして片目を閉じているのに、亜夜だけが左目ではなく、右目を閉じている。
利き腕と利き目が違うのだ。
「それ、利き目が左の証拠。注意力が右より左のほうが強いはず」
「……そ、そういうもの?」
「多分ね。問題あれば左右で入れ替えるだけ」
「両翼を長竿武器使用者で固めることで、両脇への攻撃にはリーチを活かした防御が可能になる。必要に応じて中央か後衛が対処する時間がわずかでも確保出来る」
「……な、成る程?」
「す、すごいじゃない」
「論より証拠―――シュミレーション、やってみて」
「敵部隊接近中、騎数8。騎種はグレイファントムM64」
シミュレーションシステムによって作成された合成音がMCの代わりに状況を教えてくれる。
シミュレーションシステムに搭乗した騎士が戦闘に負けた場合、よく口にする言い訳が、相棒であるMCの不在が原因だという主張。
あくまでシミュレーションシステムは騎士のための訓練装置に過ぎない。
騎士は騎士だけで戦闘に勝つことを求められる。
そんな彼等は、それが単なる甘えであることを後にいやでも思い知らされるのだ―――実戦で。
「距離、300。戦闘展開中」
モニターに映し出されるのは、本当に合成映像なのか訊ねたくなるほど精緻に描写されたグレイファントム達。
手には大型の戦斧が握られている。
さっきから何度も交戦しては敗北を続けた相手だ。
数十種類もある攻撃パターンは、システムによりランダムに決定されるため、一度負けたからといって、二度目も同じ手ではこないのが頭の痛いところだ。
300メートルというメサイア戦では至近距離で横2列に並んだグレイファントム達と対峙する中、美柚姫はこのポジションに自分が置かれたことに感謝すると共に、あの穂村少尉の発案だろうが、指示の適切さを痛感していた。
前方に並ぶ敵部隊。そして目の前に並ぶ味方。
彼我の部隊同士の配置がはっきりわかる。
だからこそ、薙刀とハルバードで武装した騎体を両翼に配置することのただしさもわかるし、武器の構え方から佐野姉妹が左右正しく配置されていることも何となくでも理解出来る。
―――スゴいな。
美柚姫は唾を飲み込んだ。
―――これが、指揮官のスタンスかぁ。
その美柚姫の前で、グレイファントムの武器がしっかりと構え直された。
突撃の準備だ。
実戦ではこんなことはない。
一々、敵の面前で武器を構え直すなんてことするのは、“よーい、ドン”で襲ってくるのは同じだ。
でも、この後に何が起きるかそれでわかる。
シミュレーションが示す、空想故の数少ない“甘さ”だと美柚姫は思う。
「全騎、来るよっ!」
考えるより、口が先に動いた。
「対質量攻撃、防御態勢っ!」
前衛を担当する佐野姉妹騎がシールドのエッジを地面に深々と突き刺し、脚部の踵に設置された重量物用アイゼンが下がる。
シールドにアイゼンは、質量に物を言わせた敵の突撃に備える構えの基本だ。
メサイア攻撃。
その何が怖いかと言えば、突撃する時のスピードと、それによって生まれるエネルギーという名の衝撃だ。
数百トンの物体の超音速突撃により生まれるエネルギーは、まともに受けたら肝心のメサイアでも吹き飛ばされかねない。
シールドを地面に突き刺して吹き飛ばされないようにするのは当然のことだ。
これまで、この突撃は数回受けた。
その度に佐野姉妹は回避機動をとって敵を後方から攻めようと足掻いてばかりいた。
そこに第二波の突撃を受け、挟撃の挙げ句に全滅したこともある。
二人もそれから何かを学んだというのか?
違う。
そう。
それだけじゃない。
「……そっか」
わかった。
美柚姫はやっと思い出した。
問題のフォーメーションをとった理由。
フォーメーションを組み替えることは試したが、どうにもうまくいかず、数回試した所で、“面倒くさいからこれでいっちゃおう!”と誰かが言い出して、自然とフォーメーションが固定されていたんだ。
だから、佐野姉妹は双子という生来の連携の良さを遮断されて行活かすことが出来ないまま、敗北を重ねていたのだ。
―――参ったな。
美柚姫がそう思うのも無理はない。
私も、肝心の佐野姉妹でさえ、そんなことにも気づけないほど焦っていたんだ。
少なくとも、私はここに配置されて初めてそこまでわかるようになったし、佐野姉妹は佐野姉妹で、並ぶことで初めて連携を思い出したんだろう。
2騎の動きは統一されているかのように連携に無駄がない。
ダンスでもさせたらさぞ見物だろうなと、そんなことを思うに十分だ。
この配置は正しい。
個々の才能は高い。
つまり―――。
勝てる。
美柚姫はその確信を、シミュレーションに乗って初めて得た。
「―――来るっ!」
その言葉が終わる前に、グレイファントム達の姿が消えた。
普通の人間なら、消えたという認識を頭で理解する方が遅い位の、本当の刹那の瞬間、
ドンッ!
ガッシァァァァン!
大砲が爆発したような音と、自動車事故のような音がほぼ同時に鼓膜を襲った。
グレイファントムの突撃音とメサイア同士の衝突の音が、発生源との距離があまりに近いため、人間の脳には同時に発生した音に聞こるたせいだ。
もうもうと立ち上る土煙。視界がとれず、耳は悲鳴をあげる。体が強ばり、指でさえ上手く動かせない。
そんな中、前衛の2騎がグレイファントム2騎の突撃を抑えていたこと。
そして、両翼に配置されていた“白雷”達が、左右から佐野姉妹にショルダーアタックを敢行したグレイファントムを刺し貫いていることを理解した。
麗央とはるかが、深々と敵騎に突き刺さった獲物を即座に引き抜くのと、撃破されたグレイファントムを踏み台にして後続の2騎が美柚姫の眼前に躍り出たのは同時だった。
「―――くっ!」
シールドを深く地面に突き刺したままの佐野姉妹騎は十分な回避起動がとれない。
美柚姫は即座に左手に持つビームライフルを発砲。
そのエネルギーは、落下姿勢に入っていた1騎の胴体を貫通した。
命中のショックだろうか、手足をまっすぐ伸ばしたまま、尻から落下する奇妙な動きを見せたことに、美柚姫は構っていられなかった。
戦斧を振りかざしたもう1騎のグレイファントムが目の前に襲いかかってくる。
回避が不可能であることは体が判断した。
無意識に掲げた左腕に鈍い疑似感触が走る。
シールドに戦斧が命中したショックだ。
下手をすれば骨が折れる痛みに顔をしかめた美柚姫は、シールドをひねって、戦斧をシールドから引きはがし、戦棍による横薙ぎの一撃をコクピット側面に叩き付けた。
グシャッ。
そんな鈍い音と共に、グレイファントムの胸部装甲が大きく凹んだ。
衝撃がコクピットまで達しているのは感覚でわかる。
皮膚を破らなくても人間が内出血や内臓破裂で死ぬのと同じ現象がグレイファントムで起きている。
それが刃を持たない上に、金属による装甲を持つ対メサイア戦で戦棍が多用される理由だ。
前のめりに倒れるグレイファントムの頭部にもう一撃を食らわし、大地に倒れたグレイファントムを踏みつけ、美柚姫は怒鳴る。
「状況は!?」
答えるMCはいないことに気付いたが、
「亜紀っ!前方クリア!」
「亜夜、OK!」
「左翼霧島、状況グリーン」
「右翼川上、クリア」
ウソみたい。
本当にびっくりした。
それが今の美柚姫の本当に正直な感想だ。
全騎が全騎で、あれほど苦労した敵をあっさりと撃破してのけた。
勝った。
勝てた!
その興奮が脳から全身へと駆け回る。
「……やったぁ」
そして、興奮は脱力感に変わった。
体から力が抜ける。
それが、心地よい。
「それでも、32戦1勝31敗」
はるかが言った。
「でも、最後に勝てたんだから」
イヤミかと思ったけど、それでも許せてしまうほど、心が緩んでいる。
「それも……そっか」
亜紀のそんな言葉に頷くと、ちょっと大変かもしれないと思った美柚姫は、頬を両手で軽く叩くと、気合いを入れた声を上げた。
「そうよ―――津島中佐、次、お願いしますっ!」
「まだやるのぉっ!?」
●“鈴谷”艦長室
「―――現時点における八八任務部隊の仕上がりはこんなところね」
45戦12勝33敗
これが美柚姫達の残した結果だ。
今、力尽きたほぼ全員がシミュレーターの中で潰れている。
「褒めるべき結果とも思えんな……」
「一応、10連勝はしたんだから」
「ん?めずらしいな。津島中佐があいつらの弁護に回るとは」
美夜の表情は艦長としての職責故に冷たいが、その声にはどこか嬉しさがこめられていた。
「少し、情が移ったのかもね。」
通信モニターの向こうで紅葉が肩をすくめた。
「佐野姉妹もやったわよ」
「―――そうか」
「……」
「どうした?」
「艦長、嬉しそうな顔をした」
「そ、そうか?」
「情が移ったのは艦長の方じゃなくて?。それで、“白雷改”の整備状況は?」
「坂城さんからの報告では、進捗は予定通りだ」
「さすが……ね。たしかあと5日……だったかしら」
「3日だ」
美夜は言った。
「3日で出してもらう」
「3日?ちょっと、それは」
紅葉は顔をしかめた。
「危険過ぎる。C整備はそんな簡単じゃない」
「敵が待ってくれないわ」
「“幻龍改”はどうしたのよ。2騎あるはずでしょう?騎体だけなら使えるはずよ?」
「明日の朝一番で、その使い手二人をそちらに送る」
「あ、あんなのいきなり送られても困るわよ!何しろと!?」
「人体実験なり人体改造なり何なり好きにしていい―――そう言いたいところだが」
「あーっ。びっくりした。一瞬だけ本気になりかけた」
「やりたいのか?」
「和泉大尉がいなくなってから、いろいろ研究データ取りたい作業が中断しているのよ。ほむほむ―――じゃなくて、穂村少尉と川上少尉にやらせたら、穂村少尉は屁理屈ならべてばっかだし、川上少尉は瞬時に入院した挙げ句にドクターストップかかっちゃって、やっと復帰よ?あの子、トラウマっちゃって、脳みそっていうか、記憶いじるとこまでやったんだから!」
「和泉大尉が頑丈だったのか、少尉達が繊細すぎるのか……」
考えどころだな。
美夜は口元に手をやって小さく失笑した。
「―――それで話を戻していいか?」
「あの狗共ならお断り。ウチには狗用の装備はないわ」
「ドッグフードは持参させるわ。そんなに嫌い?」
「近衛と関係していて、あいつらと仲良くなりたいヤツはいないわよ」
「……それもそうか」
「どうせ、この通信だってお仲間がお聞きになってるんでしょうし」
「下手なことは言うものじゃないわよ?」
「はん。ヤバいことは見ざる聞かざる言わざる……大人の流儀ってヤツ?」
「……どちらにしても、あの2騎だけでは不安な状況が生まれた」
「何?」
美夜は、大月から報告のあった、芹沢瀬菜からの犯行予告を手短に話した。
「……3日後に犯行ねぇ」
呆れた。と、紅葉は視線を彷徨わせた。
「わざわざ逮捕に出向いてこいって、何考えてるの?そんなに自信があるのかしら」
「確実にワナだ」
「あの二人を排除する口実には十分じゃないの?」
「私も本音ならそう言うだろう。だが、世の中は色々重なっているんだ」
「北陸戦線で何か動きが?」
「陸軍にアイバシュラの巣を潰したことを察知された。連中は脅威が去ったとして遅れている北陸奪還作戦を急がせようとしている」
「やらせればいいじゃない。あいつらが勝手に死ねばそれは陸軍の責任でしょ?艦長が何で責任感じなきゃいけないのよ」
「―――言ったろう?」
美夜は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
「色々重なっていると」
「まだあるの?」
「中華帝国軍がまた動いた」
「はぁっ!?」
「諜報機関からの情報だ。元山に集結中の輸送船団が出航体勢に入っている。目的地は福井湾だと」
「……あちゃぁ」
紅葉が額に手を当てたのも無理はない。
「やっと魔族軍が手薄になったと思ったら、その穴埋めを人類がやってくれるとはね」
「正直、私もびっくりだ。これ以上に質の悪い冗談があったら教えて欲しいくらいだ」
「連中のことだから、飛鼠を前面に出してくるわよ?現状の近衛に一々、あいつら相手に戦力を回す余裕があるとは」
そこまで言ってから、紅葉は美夜から視線を外した。
「―――近衛だけじゃなくて、“鈴谷”にもね」
「この際、神でも仏でもいいから助けて欲しいよ」
「現実的な話として、戦力にメドは?」
「現有戦力をもって善処せよ。司令部からの命令はそんなものだ」
「……」
美夜の顔を見ることが出来ず、紅葉は頭を掻いた。
すでに紅葉でさえ、回せる騎体は無いに等しい。何より、騎士もMCも紅葉の手元にはない。
「―――どうしたものかしら」
「艦長、私を試している?」
「試す?何を」
「ツテで何とかならないか。そう言われている気がしてならないの。下手に海外派遣部隊から兵力を引っ張ってもらっても焼け石に水だろうし」
「中華帝国の底力を見る思いだな。恐ろしい」
「数に勝る連中ってのは、恐ろしいわよ。しかも今や連中は技術的にも勝り始めている」
「……」
「インドから東南アジア一帯で欧州軍が押しているとはいえ、それを差し置いて新たな戦線を構築出来るんだからね……財政がよく維持出来るわ。感心するより呆れるしかない」
「あの大国が戦時総動員体制をとれること自体がな……」
美夜も紅葉の意見に同意するかのようにただ小さく頷いた。
「ただ、私達が問題とすべきはそんな世界規模じゃない。この日本の一地方の土地を巡ってだ」
「陸軍は北陸を奪還しようとしている。“鈴谷”はそのお手伝い……一騎でも、それが気休めでも欲しいというのが本音?」
「飛べば鍋の蓋でも採用したい。それが本音だ」
「追い詰められているわね」
「追い詰められている」
「……そんな時に芹沢瀬菜とかいう、こそ泥の相手なんてしていていいの?」
「本来の派遣目的は芹沢瀬菜の捕縛。その目的が向こうから来たんだ。相手をするのが筋道だろう?」
「……ものは言い様ね」
「ついでに聞きたいんだが」
「何?」
「内親王護衛隊はどうしている?」
「二宮大佐の所在?知ってどうするの?」
「この忙しい時にどこで何をしているか聞いてから考える」
「結婚相談所にでも行ってるんじゃない?」
「……おい」
「赤城博士のところよ」
「赤城博士?」
美夜はしばらく考えて、該当する人物をやっと思いついたらしい。
「あの赤城博士か?」
「そう。斬艦刀と“D-SEED”の産みの親。他にいないわよ」
紅葉の顔は決して嬉しそうではない。
「誰の命令か知らないけど、いろいろと探りを入れているみたいね」
「白百合の守護者が探偵まがいとは……」
「そんなことしてるヒマがあるなら、部下と一緒にこっちへ来いっ!って?」
「……正解だ。無駄口を叩いているヒマもない。戦力として夏川達を使う必要が出てきた。鍋蓋の代わりでいいから、せめて朝倉達と連携がとれるまでには成って欲しい」
「あの険悪な連中をたった1日でガチ百合にしろって?洗脳していいならすぐよ?」
「最悪、その手があったな……いや、大月大尉は男だから」
「何言ってるの。“あの”阿部大尉が狙ってるのよ?当然、アレは薔薇でしょ?受け専門の」
「……どうして私の周りはそういうのが多いんだ?」
「病原菌撒き散らした根本原因の親友なんてやってるからよ」
「……真理……あんた、恨むわよ?」
「仕方ないわ。こっちもその程度ならバックアップするわ。結果は保証しないけどね」
「……ありがとう」




