私的制裁
その後、美柚姫達は無事に“鈴谷”へと収容されたわけだが……。
「騎体のダメージは?」
ハンガーデッキで追いかけっこを始めたのは涼宮中尉と美柚姫だ。
肉体的には一般人として扱われる涼宮中尉を搭乗させる関係から、戦闘には参加しないはずなのに(それが生還のためにやむを得ないとはいえ)、アイバシュラと交戦を開始した美柚姫のおかげで、問答無用で戦闘機動のGによる気絶と吐き気の地獄に叩き込まれた涼宮中尉がMCRから引き出されるなり、美柚姫の胸ぐらを掴むと、あんたが全裸で乗組員全員に輪姦されるのを見届けるまで許さないとわめきだし、あまりの要求に逃げる美柚姫を拳銃片手に追いかけだしたのだ。
それをあきれ顔で見守る美夜は、配下の整備兵による破損判定作業を苦い表情で待つ坂城整備班長に訊ねた。
「一々聞くまでもねぇだろ」
坂城の表情はレイバンの闇に隠れてわからないが、言いたいことは美夜にもわかる。
“白雷改”達は装甲はボロボロ。
潰れた装甲や、装甲そのものが失われて、その接続部が露わになっている騎も多い。
出撃時に搭載していた広域火焔掃射装置をまともに背負っている騎は一騎もいない。
「しばらくはC整備だな……なぁ、艦長。俺ぁ、あいつらを要塞攻略戦に出した覚えはないんだがなぁ」
「私も同じです」
美夜は答えた。
「偵察に行ってどうしてこうなったのか……」
「結果としてはいいほうかい?」
「結果オーライというには」
殺してやる、もしくは犯してやるぅっ!
いやぁぁぁっ!
「……ほど遠い連中です」
「訓練校よりか、精神病院にでも行ってこいって感じかい?」
「……上には上がいるといいますが、下には下がいるものです。あの問題児共より上というか下というか」
美夜の苦笑には不思議な虚無があった。
「……現実の話をしようじゃないか」
坂城はその虚無を拒むように訊ねた。
「これからどうするんだい?“白雷”隊はご覧の通り」
「……」
「しばらくは使い物にはならん。だが、あんたにゃ任務の中止命令は出ちゃいないはずだ。あんた自身、攻城砲とかいうデッカイ花火まで上げちまったんだ。タダで下がるわけにもいかんだろう?」
「……」
美夜は大きく息を吸い込むと頷いた。
「その通りです……まぁ、我々は北陸方面への陽動部隊をかねて近衛のお尋ね者を追いかけにいくわけです」
「芹沢瀬菜とかいったか?」
「ご存じですか?」
「さすがに銀行強盗に知り合いはいねぇよ」
涼宮中尉に足を掴まれた美柚姫がもがきながらも奮戦虚しく床に引きずり倒された。
瑞穂達が慌てて止めに入るが、涼宮中尉の手は止まらない。
戦闘服から装備が次から次へと脱がされていく。
まるでイモガイに捕食されようとしている魚のような美柚姫を前に坂城は続けた。
「まさかと思うが」
「はい?」
「あの大月達に後を継がせるんじゃないだろうなぁ?」
「何か問題が?」
「―――おいおい。問題だらけだろうが。大月達はかなり腕の面では落ちる。そのうえ、奴らは2騎だけだ」
「連携を組むことを拒んだ挙げ句、内乱寸前までの失態を犯したのは連中です」
美夜は言い切った。
「落とし前はつけてもらいます。無駄飯を食わせる余裕は、この艦には存在しません」
「そう……か」
戦闘服のジャケットがひん剥かれてインナーが露わになった所で、遂に美夜が床を蹴った。
「何をしているか!」
「……やれやれ」
罵声一つで動きを止め、美柚姫と涼宮中尉の元へと無重力空間を流れていく美夜の後ろ姿を眺めながら坂城はため息をついた。
「捨て駒を間違えているようにも見えるが……ま、整備屋の俺には関係ねぇ……か」
●“鈴谷”ブリーフィングルーム
「偵察にいけと」
いまだにエグエグとしゃくり続ける美柚姫と部隊の面々が並ぶ中、美夜は冷たくミーティングの司会を始めた。
その足下にはでっかいタンコブを作った涼宮中尉がぶすっとした顔で正座している。
「そう命じた覚えはあったが、よくも余計なマネをした挙げ句、余計な損害を出してくれたものだな。朝倉大尉」
「で、ですけど」
「部隊指揮権を楯にするつもりはないが、独断で敵陣地に突っ込んだ挙げ句、部隊を危険にさらし、実際に広域火焔掃射装置4基喪失、騎体を中破したことは確かだ」
「うっ……」
「本来なら、命令違反で独房入りと言いたいが、今回は状況が状況だ。私も生還した以上は文句は言わん」
「あ、ありがとうございます」
「……ただな?大尉」
「はい?」
「これだけは聞いておきたい」
「は、はい」
「アイバシュラの巣に、何故侵入した?」
「え?」
美柚姫は一瞬だけ戸惑った顔を見せたが、
「生き残るには、そこしかないと思いました」
そう、答えるしかなかった。
「空域からの撤退は判断としてしなかったのか?」
「現場指揮官としては、無理と判断しました。アイバシュラはすでに巣から出始めていました。あの状況で空から逃げられるという自信がありませんでした」
「それで、どうして巣に?」
「逃げられなくても、奴らに対抗できる状況を生み出すにはそれしかないと思いました」
「……よかろう」
美夜は頷いた。
「満点にはほど遠いが、現場の判断として最善であったというなら信じよう」
「あ、ありがとうございます」
「貴様は7名の生命と陛下のメサイアをお預かりした身だ。常に判断を誤るな」
「はいっ!」
キィィィッ
ズンッ!
金属音と共に艦が軽く揺れた。
皆が、その震動の意味を知っている。
それだけに、知らずに互いの顔を見合ってしまった。
「艦長?あの、教えて下さい」
そっと右手を挙げた亜紀が、本当に恐る恐るという表情で訊ねた。
「こんな時間に、誰が着艦したんですか?」
「も、もしかして」
亜夜は心配そうに眼が涙ぐんでいる。
「私達―――クビ、ですか?」
「どうしてそうなる」
その二人の表情に優しく微笑んだ美夜が首を小さく横に振った。
「お前達のお仲間だ」
●“鈴谷”メサイアデッキ
頭部に巨大なレドームを頂くという、その特異な形状のためにハンガーベッドに格納出来ず、両膝をついた“正座”状態になったその騎は、主要部と床を太い固定用ワイヤーで接続する作業が終わったばかりだった。
“征龍改”EWACS仕様二号騎。
さつきが駆った時の運用データを元に改装を受けた騎で、頭部のレドームの形状が若干大型化している。
ハンガーベッドへの固定を諦めてまで実現化した大型化の結果は、戦域全てを把握する“神眼”を具現化したと技師達は誇らしげに語っているが、現場でそれをマトモに信じる物好きはいない。
全てを見通せるなら、弾に当たって死ぬ物好きがいるものか。
それが現場のまっとうな見解というものだ。
頭部に設けられたMCRと一体化したコクピットから出てきたのは、あの鵜来有珠少尉だった。
「新型艦……かぁ」
EWACSの肩に立つ有珠は、少しだけ伸びた髪をお下げにしたのを軽く指で弄びながらデッキの中を満足げに見回した。
「うん……ペンキや素材の匂いが抜けてない……いいねぇ」
「鵜来少尉!」
床を蹴った整備兵が近づいてくる。
「久しぶりだなぁ!」
「ええ」
有珠はその整備兵の腕を掴むと肩部装甲へと誘導した。器用に装甲を掴んだ整備兵は有珠の肩を軽く叩いた。
「腕前はどうだ?病院生活でなまったんじゃないだろうなぁ?」
「そっちに関してはすこぶる付きのままよ……もっとも、前の部隊の連中がいたら黙っているところだけど」
「違ぇねぇ」
「おかげでね……艦橋へ行くわ。着任のご挨拶しなくちゃね。私、お利口だから」
●“鈴谷”艦橋
「北陸方面での偵察任務……か」
辞令を受け取った美夜は艦長席で有珠を出迎えた。
「はい」
相変わらず本心をはっきりさせない、あっけらかんとした表情の後ろで何を考えているかがわからない。
ある意味、後藤のお仲間だと美夜はそう思っている。
「直接的には戦闘には参加しませんけど、お世話になります」
「まぁ、そういうものだ」
美夜は辞令を高木に渡した。
「早期警戒機が来てくれたことは、こっちとしても心強いが……」
「はい?」
「護衛騎が着任していないのは?」
「それが……」
有珠は、苦笑いしながらポリポリと頭を掻いた。
「護衛に回してもらえるはずだったアサルト・アーマーがこっちに回せなくなったと聞きました」
「この忙しいのに?」
「わ、私に怒らないで下さい。風翔というアサルト・アーマーが3騎配属されるはずだったのですが、この風翔の飛行システムでウィルス感染が判明して運用が停止されたんです」
「ウィルス……」
「ええ。戦闘機動に入るとシステムがダウンするって……侵入経路は不明とされていますけど、何しろこの部隊、部隊長が敵前逃亡だかで捕まったという曰く付きですからね。その辺じゃないかと邪推は出来るんですけど」
「……夏川大尉が喜びそうな話だな」
「はっ?」
「元第9中隊出が艦内にいる」
「げっ!」
有珠がイ●ミと同じポーズをとった。
「ほ、本当ですか!?」
「何をそんなに恐れる必要がある」
「い、いえ……ですけど、地震雷火事憲兵っていう位で」
「随分、やましい橋を渡っているようだな?」
「勘弁して下さいっ!」
「……まぁ、いい。明日の午前中に“鈴谷”とのデータリンク試験を行う。それまでは自室で休んでいろ。部隊との面通しは明日の朝、行う」
「はいっ!」
艦橋から退出する有珠を見送った高木がそっと美夜に言った。
「やれやれ……肝心の前線部隊が届かない」
「……だな。津島中佐もここに来て、何を出し渋っている?」
「催促は?」
「したが返答もない。ここでは何もわからない」
「艦隊司令部は」
「私を恐れて梨の礫だ」
「……はぁっ」
「不運だと思ったろう?」
「鴨川の家のローンは始まったばかりなので」
「このご時世に、よく軍人やっててローンが組めたな」
「万一の際は、遺族年金が根こそぎですよ。契約内容をよく確かめておくべきだったと後悔すべきところです」
「……奥様は確か学校の先生だったか?」
「ええ。看護学校の。今の時代、むこうは花形仕事です。ローンだろうが何だろうが左うちわだそうで」
高木は自嘲気味に笑った。
「看護婦なんて嫁にするもんじゃありませんよ。ウチにいたって健康管理だなんだので気が休まる時がない」
「ふん……心配されているんだろう。いい夫婦じゃないか。少なくとも」
「いや……」
「夫婦の会話があるだけ」
「……まぁ、それはともかく」
高木はファイルを開いた。
「鵜来少尉の騎は狩野粒子下では貴重な偵察任務に適した騎です。高度1万5千メートル上空から広範囲にわたる動きを察知、母艦に通報することが可能です。山間地などによって“鈴谷”から放たされる探知波の欠落を補ってくれます」
「最低でも、奇襲を喰らって泡を食うことは二度と無いか」
「奇襲で二度も沈んでは困りますからな」
約10分後。
「―――失礼」
そんな艦橋に入って来たのは夏川だった。
「夜分、失礼いたします」
「―――何だ」
「新型が到着したと聞きましたので」
「ああ。それがどうした?」
「自分達の所に着任の挨拶もないのですが」
「明日の朝、私から面通しするから自室にて待機するように命じた。不満か?」
「……着任と同時に、最低でも各部隊長に挨拶させるのが通例では?」
「時間を見ろ。今は交代時間だ。私もあと30分程で休息に入る。昨晩来の戦闘で皆、疲れているんだ。一人の着任で騒がせる必要も無いだろう」
ピーッ
不意に、艦長席のアームレストに装備されたインターフォンが呼び出し音を立てた。
「艦長だ」
「医務室です」
場違いとも思える女の子の声が耳に届いた。
あの水瀬という女の子からだった。
「何だ?」
「軍刑法に従い、医務担当者から最高責任者である艦長へ報告します」
その口調からして、何かに書いたんだろう原稿を棒読みしているのは確かだ。
「ん?」
「現刻より約5分前、艦内における不当暴力行為により負傷したと思しき者が医務室へ来訪しました。症状はごく軽度の打ち身ですが、患者の証言などからして殴られたものと」
「患者は誰だ」
「鵜来有珠少尉です」
「……」
インターフォンを掴んだまま、美夜が夏川大尉の方に振り向いた。
能面のように感情を押し殺した夏川は、直立不動の姿勢を崩そうとしない。
「大尉の階級章をつけた女性士官に誰何されて、答えたら殴られたそうです。
軍刑法では、教育を理由とした暴力行為は禁止されていますし、僕達、医務担当者は、診断上、それと判断した場合、法令上、艦長に通報する義務が―――」
「わかった」
美夜は答えた。
「鵜来少尉の容態は?」
「外傷はありませんし、内臓、骨共に正常。痛みも引いたようです。ただ」
「ただ?」
「腹部を数発、殴られたと証言が気になって」
「……腹部?」
「顔などは問題が露見する可能性が高いですから、私的制裁の場合、よくある手なんですけど」
「―――犯人は誰かわかっている。貴様の初仕事だな。よくやった」
「ありがとうございます。記録は残しますか?」
「いや。ご苦労だった。このまま休んでくれ」
カチャ。
美夜はインターフォンを切った。
「夏川大尉」
「はっ」
「鵜来少尉を殴ったな?」
「証拠がおありですか?」
「少尉は大尉の階級章をつけた女性士官に殴られたという」
「……指揮官の同伴も無く、艦内ですれ違いましたので誰何しました」
「鵜来少尉にどんな落ち度があったのか」
「面通しもなく、着任したての艦内を作戦空域上空で我が物顔で移動していれば不審者と思われて誰が文句が言えますか?」
「申請はしたんだろう?」
「信憑性がありません。憲兵隊に引き渡すことも考えましたが」
夏川は自信ありげに肩をすくめた。
「私も寛大な所はあります。指導しただけに留めました。少尉はそれが不服で殴られたなどという“言いがかり”をつけたのでしょう」
「貴様の言う“指導”は、軍法上は、私的制裁として禁止されていることは知っているな?」
「私的な欲望を満たすための行為ではありません。
あくまで上官としての指導であり、艦内の歩き方も知らないバカ者に対する必要かつ最小限度の教育です」
「艦にいる限りは、私が最高権力者だ。それに不満はあるか?」
「いえ?それが?」
「明日、ミーティングの席に出席しろ。今後のこともある。お望みの面通しもしてやろう」
「―――はい」
●翌日 “鈴谷”ブリーフィングルーム
「“鈴谷”に乗る騎士はこれで全てだ」
敬礼を解いた有珠の肩に美夜が軽く手を乗せた。
「もう一度、言う。偵察隊の鵜来有珠少尉だ」
美夜の横に立つ有珠の顔はどこか浮かない。
そのはずだと、美夜も思う。
何しろ、昨晩、有珠を殴った張本人が腕組みどころか足まで組んで不遜な態度で有珠を眺めているのだ。
眺めているというより、値踏みしているという方が正しい気がする。
王侯の前に立たされた戦争奴隷の方がまだ尊大というべき程、有珠は身を縮ませている。
「元の独立駆逐中隊の生き残りだ。腕は悪くないが、偵察部隊として活躍してもらうことになる。貴様等も戦場における情報がどれほど貴重なものかは言わずともわかるな?」
「「はぁい!」」
手を上げたのは亜紀と亜夜の姉妹だ。
まるで授業参観の小学生さながらに美夜に盛んに手を上げる。
きらきらと目を輝かせるその顔は軍隊には似合わないが、やられる方としては、
―――悪くないな。
軍人としてより、むしろ女として嬉しさを感じてしまうが、。むしろ、せめてこの程度の役得は認められるべきだと、依怙贔屓と言われても、美夜はそう思ってしまう。
「よし♪」
知らずに声が優しくなるのを止められない。
自分でこんな声が出せたのかと、内心で驚いたが止められるものではない。
頬を赤くしながらも、美夜は軽く咳払いするに留めた。
「コホン―――鵜来少尉は、護衛部隊の配置があるまでは単独で行動してもうことになる」
「危険ですよ」
美柚姫が驚いた声を上げた。
「た、たった一人でなんて!」
「彼女の戦場は高度1万5千から2万の超高高度だ―――その任務の狩野粒子影響下ではあくまで索敵と早期警戒任務だけ。ミサイルが誘導可能なら“鈴谷”や貴様等と連携して敵を殲滅することも出来るが……贅沢こそ最大の敵だ」
「だ、大丈夫なんですよね?」
「単独の敵を狙う余裕を与えない戦法を考えることだ。いざという時には―――」
ちらりと有珠を一瞥した後、
「少尉も軍人としての覚悟はあるだろう」
「……」
その美夜の言葉に、ビクッとなりながらも、有珠は小さく頷いた。
昨晩のことが未だに引きずっているのは確かだと美夜ははっきり直感した。
着任早々、先任下士官にシゴかれて、任務より恐怖心が先に来てしまった新兵と反応が一緒だ。
「……夏川大尉」
「はい」
答えると共に夏川がその足を組み直した。
上官に対する態度がなっていないのは誰だと怒鳴りつけてやりたかった。
「現在の“鈴谷”の作戦目的は何か」
「芹沢瀬菜の逮捕です」
夏川ははっきり答えた。
「それ以外にはありません」
「―――そうか、そうだな」
「その通り―――私と大月はそのために第9中隊より派遣されてきました。私達を中心として、任務遂行のために全ては動くべきです」
「……」
「いままで、全てにおいて大目に見てきましたが、今後は、芹沢瀬菜逮捕という任務達成のためには、あくまで我々こそが中核として動いていただきたい」
「ち、ちょっと待ってよ」
異議を唱えたのは亜紀だ。
「つまり、あんたが進めといったら私達、進んで、あんたが死ねと言ったら、死ぬの?」
「―――当然だろう」
ふん。
夏川は亜紀を鼻で笑った。
「そのためのお前達だ」
「わ、私達は消耗品じゃないよ!」
亜夜が席を立って抗議した。
「私達は人間だもん!」
「その前に騎士であり、陛下の狗だ」
「それでも!」
亜紀が食い下がった。
「あんたが陛下じゃない!」
「作戦全般において指導的立場にあるのは、経緯からしても私だ」
「何様のつもりよ!どこにあんたの命令に従えって書いてあるの!?」
「そんなことを一々言われなければわからんのか?この愚物が」
「愚物でいいもんっ!」
「―――待て」
掴みかからんばかりに顔を真っ赤にした亜紀達の動きが止まったのは、美夜のその一声があったからだ。
「今から“鈴谷”の編成を伝えておく。
本日1200をもって“鈴谷”の部隊編成が固定される。
メサイア隊は鵜来少尉の着任をもって、3つの部隊に編成される」
美夜は脇に置かれた演壇代わりの段ボールの山に置かれたパネルを指で叩いた。
脇に広げられていたスクリーンに映像が投射された。
「本来ならベルゲ隊と狙撃隊、それから斬込隊が加わるべきだが、これらは現状でも騎体補充のメドが立たない以上、閉店状態だから考えるな。
芹沢瀬菜逮捕を専門任務とする“独立執行隊”と鵜来少尉の“偵察隊”、そして朝倉大尉達の“八八独立任務部隊”の三部隊で当面はメサイアを運用する」
「独立……執行隊?」
「大月、夏川大尉両名で編成してもらう。両名は脇目もふらずに芹沢瀬菜逮捕に邁進してもらいたい」
「ほう?」
夏川はそれを聞いて、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。
「独立部隊……ですか」
「そうだ。この“鈴谷”は貴様等の母艦であり、その任務を果たすためには努力を惜しむ者はいない。そう心得てくれていい」
美夜の発言を「“鈴谷”は独立執行隊の母艦として協力を惜しまない」そう理解した夏川は、目を細め、敬礼した。
「自発的かつ献身的なご協力に感謝いたします」
夏川はあくまで世辞として言った。
ただ、美夜が黙って頷く以外の反応を望んでもいなかった。
しかし―――
「何のことだ?」
美夜の態度は冷たかった。
「―――はっ?」
きょとん。とする夏川に美夜は言い放った。
「“鈴谷”は“鈴谷”で行動させてもらう。そう言ったのだ。貴様等の都合なんて知るか」
「し、質問っ!」
手を上げたのは亜夜だ。
「艦長、その独立執行隊と、私達はどっちが偉いの?」
「平等だ」
「びょーどー?」
「立場は対等だ」
「なっ!?」
愕然とする夏川に美夜は表情を変えない。
「艦長っ!」
夏川が怒鳴った。
「任務は芹沢瀬菜ですっ!それを!」
「わかっているさ。わかっているから、この編成だ。夏川大尉、「独立」の意味を考えろ」
「はっ?」
「貴様達二人が一々、周囲を気にせずとも作戦行動がとれるように権限を付与したのだ。文句を言われるのは心外だ。
貴様達に独立した作戦立案権限を与えるのと同様に、私の部下にも対等の権限を与えて何が悪い。以降、どちらかの協力を必要とするなら、相手に頭を下げる。それは当たり前のことだろう」
「おかしいです!任務遂行においては上位指揮権は私に!」
「ない」
「……は?」
「隊長は貴様ではなく、大月だ」
「あっ!」
目を見張った亜紀がはっとなって言った。
「つまり、このババアはヒラじゃん!」
「あっ!どうして今まで気付かなかったんだろう!」
「……」
愕然となった顔が蒼白からみるみる真っ赤に変化する夏川の体は痙攣したように震えていた。
「階級しかないじゃん、このババア!」
「―――っ!」
夏川は美夜を睨み付けると怒鳴った。
「結構!」
「任務に対する不誠実な対応を受けても我々2騎で十分っ!」
夏川はそれだ言うと、敬礼もせずに部屋を出て行ってしまった。
「大月」
「はっ」
「―――隊長として不満はあるか?」




