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66号艦、出航

●大分県大神軍港 加納重工造船ドック

 初の出航だというのに、くす玉割りもなければ、命名式もない。

 軍楽隊もなければ歓声もない。

 万歳もなければ見送りもない。

 ただ、ドック両側に立つ造船所の職員達が迷惑そうに浮かんでいく66号艦を眺めているだけ。


「高度36、37、38」


 操舵手席に座る芥川中尉が目の前に用意されたモニターに表示された高度計を読み上げる。

 操舵席に座った途端、鵜来級より圧倒的に進んだ計器類と操縦システムに歓声を上げた中尉の声は明るい。


「出力上昇開始。全システム、オールグリーン。現在出力4800」


 機関部のコントロールも一人で出来る操縦システムのおかげで、この艦は芥川の判断一つで動かすことが出来る。


「高度100で高度固定。機関前進、第三巡航速度へ」


 副長の高木が、艦長席の横に仁王立ちになって命じた。


「高度100にて固定了解。現在89」


「―――どういう皮肉でしょうかね」


 視線をまっすぐに広がる海へ向けたまま、高木は言った。


「私はもう、前線勤務から外れるものだと思っていましたが」


「私もよ」

 艦長席に座った美夜が答えた。

「辞表提出したんだけど」


「私もです」


「どうなった?」


「破られました。鴨川への引っ越し準備までしていたのですが」


「残念ね」


「全くです。しかも輸送艦に缶詰にされて、こんな得体の知れない艦で出会った顔は見知った顔ばかり」


「艦長席に座りたかった?」


「まさか―――私は根っから副長あたりが適任だと思っています。ただ、何か、とんでもないやり直しを命じられたような気がしましてね」


「そうね」

 美夜も笑いもせずに頷いた。

「厄介モノってことでしょうね」

 美夜はモニターを眺めながら言った。


「見なさい。ドックの関係者」


「はっ?」


「何をやっているんだろうと思ったら、塩を撒いているわ」


「どこまで厄介モノなんですか、我々は」


「さぁ?」

 上昇を続けていた艦が止まった。

 停止時のあまりの静けさは、ビルのエレベーターの停止のほうが余程乱暴にさえ思えてしまうほどだ。


SCシップコントローラーは?」


「前回同様、榊少尉です」


「さすがの腕前―――か」


「ちょっとは自分のことも褒めて下さいよ」

 芥川中尉が口を挟んだ。

「ピッタリの高度に止めたのは自分です」


「手動でやったのか?」


「当然です」

 高木副長の言葉に、芥川中尉は胸を張った。


「1ミリだって狂ってませんよ?レカロの高級シートに牛革張りのステアリング。下手な高級車顔負けの装備をもらったとあっては、この位の腕前は見せないと」


「さすがだ」

 美夜は満足そうに頷き、インターフォンをとった。

「艦長より全乗り組みへ達する。本艦は現時点をもって無事に出航した。これより太平洋上空に出て公試に入る。各員、光輝ある近衛飛行艦隊の新参たる本艦の性能を完璧に引き出すよう、鋭意努力しろ。以上だ」


「―――ところで、艦長?」


「何?」


「本艦はいつまで66号艦のままなのですか?」


「名前?エンタープライズ号とでもする?それともヤマト?」


「この艦は宇宙船ではありません。ついでに私はスポックでもない」


「ホワイトベースがいいかしら。それともナデシコ?」


「……もしかして」高木は怪訝そうに訊ねた。


「本艦の名前、まだ未定のままとか?」


「笑っちゃうでしょう?」

 美夜は肩をすくめてみせた。

「書類の上でも66号艦のままなのよ。何かいい案あったら教えて頂戴」


「いいんじゃないですか?あなたが指揮するんです。“鈴谷すずや”のままで」


「沈んだ船の名前を引き継ぐなんて、縁起が悪くないかしら」


「そんなこと言っていたら、あと何代か後にはネタを全て使い果たしているでしょうな」


「前向きに……か」


「そういうことです。いかがです?」


「そうね。私達が戦う艦は一つ。私達の戦場もまた一つ。その名を汚した罪を償う十字架もまた一つ……司令部にはそう報告するわ」


 美夜は笑った。


「公試終了と同時に、66号艦を“鈴谷”と呼称する―――とね」





●東京都 葉月市 近衛兵団葉月実験センター


「編成については」

 後藤は言った。

「大月。前線指揮官のお前のご都合通りでいいさ」


「しかし」


「俺は後方にいるだけ。

 前線でドンパチやってたま張るのはお前達だから?

 お前達がやりやすいようにやってくれていい。

 それが俺のスタンスさ。

 俺の都合で死んだなんていわれちゃ、俺の命がいくつあっても足りないからね」


「フリーハンド……でありますか?」


「喜びなさいよ。やりたいようにやらせてあげるんだから」


「何か……こう、責任というものがどこにあるのか」


「指揮官の責任は、指揮官の肩にあるのさ。現場指揮官の責任を、上層部がとってくれるなんて、そんな都合のいいこと、あるはずないでしょ?」


「ないんですか?」


「お前、指揮官になったの初めてか?」


「はい」


「なら、慣れるこった。前任者は結構早く成長したぞ?泣いて叫んで、無様に足掻いて……」


「……」

 火の付いていないタバコをくわえ、ニヤリと笑った後藤だったが、大月にはその笑みに隠された中身は、単なるイヤミではなく、何か後藤の中にある、恐ろしく虚ろな感情ではないか思った。

 それほど、後藤の笑いは湿っていた。

「夏川もいるこった。わかんないこたぁ、俺よか夏川に聞いた方がいいぜ?」


「……了解」


「当面、欠員の補充はない。っーか、遅れる」


「問題は」

 夏川が二人の会話に割り込むように言った。

「―――新入りの方です」


「第一中隊の生き残りだ。まぁ、こいつよか」

 履歴書類をデスクに放り出し、後藤はポケットからライターを取りだした。

「こいつとコンビ組んでいるMCメサイア・コントローラーがほしいんだよね」


MCメサイア・コントローラー?」


「ああ。騎士の妹でね。俗に言うブラコンだ」


「ブラ?」


「お兄ちゃん大好きってヤツ?お兄ちゃん追っかけて軍へ入ったって位のヤツで、かなりアブなそうだけど、射撃補正能力は、そこらのMCメサイア・コントローラーと比べても段違いに高い」


「騎士本人の実力は、高くないと?」

 夏川は書類をデスクからとりあげた。


「いや?腐っても第一中隊所属だ。腕前ははっきりいい―――お前達よりもね」


「……っ」


「と、とにかく」

 大月が割って入った。

 夏川は大月より年上で、しかも、大月にとっては長年恐れていた程のエリート。

 それが自分の副官と言われても、お目付役の間違いだろうと思ってしまう。

 そして、上司は、彼にとって恐怖の対象でしかなかった、あの辻中佐が気をつけろと警告した程の厄介モノだ。

 下手に機嫌を損ねたくない。

 組織の中で生きる大月の本能はそう告げていた。


「戦場で助け合えれば、その……我々が生き残る可能性も……」


「甘いわね。大月」

 ジロッ。と夏川は大月を睨み付けた。

 思わず大月の背筋が伸びる。

「個人の素質がすべてよ。素質に欠けた奴が部隊に入れば、それだけで部隊は死ぬ。わかる?腐ったミカンを箱にいれておけば、他のミカンはすべて腐るのよ」


「そ、そんな。まだ」


「まだ会っていない?会う前から素質を知るための経歴書類でしょう?あなたも指揮官なんだから、こういうのに精通しなさい。名前、経歴、交友関係、特にいい男なら女関係は欠かせない!」


「あ、あの……?」


「そういうところから、人間ボロが出るのよ!」

 途端に、夏川は力説した。

「いい男に限って、フリーだっていうから信じたのに、軍の外に女囲ってる奴ばっかりで……!」


「た、大尉?」


「……明日には演習でしたね」


「お前さんも話題の変更が強引だねぇ」


「大切なのは、大月の隊長としての能力の開眼と、そして部隊の運営にあります」


「ま、言ってるこたぁ、正論だわな―――大月」


「はっ」


「明日、予定通り、静岡県へ部隊を移動。現地の敵性メースを相手に戦闘を命じる」


「あ、あの」

 焦った顔の大月が訊ねた。

「ぐ、具体的な作戦は」


「あるか、んなもの」


「そんな無茶な!」


「敵が出てきたら殺すだけ。引くのも進むのも、お前さんの胸先三分だ。泣く子も黙らせてきた“白雷改”を装備する部隊は他部隊も見ているぞ?恥ずかしくないだけの戦いをしてこい―――ただ、戦果は期待しない。俺はそれしか言わん」


「……」

 大月は真っ青な顔になって、バカの様に頷いた。




「―――大月」

 隊長室を辞した大月を呼び止めたのは夏川だ。

 ところが、大月は全くそれに気付いていない様子でフラフラと歩きながら何事かブツブツと言い続けている。

「大月っ!」


 パンッ!


 肩を掴んだ夏川の平手が大月の頬を張った。


「何をしているかっ!」


 突然の頬の痛みと叱責に、大月はやっと我に返った様子だった。

 ポカンとしたまま、夏川の顔を見ている。

「しっかりしろ!隊長がそれでは、勝てる戦でさえ、どうしようもないぞ!」


「あ……あっ」


「……作戦は私が考える」

 夏川は舌打ちした後、吐き捨てる様に言った。

「作戦書類は後で見せる。お前は便所掃除でもしていろ。そっちの方がお似合いだ」

 反論を許さない。

 夏川は態度でそう語ると、靴音高く廊下を去って行った。




●翌日

「―――“白雷改”が?」

 朝、部屋に飛び込んできたのは、息を切らせて走ってきた碧だった。

「うんっ!」

 荒い息の下、碧は興奮した様子で頷いた。


「“死乃天使”は来てないけど、間違いないよ!“白雷改”!」


「まさか」

 千鶴は手にしていた布を床に落とした。

「中隊は解散したはずよ?」


「で、でもっ!駐騎場に並び始めているよ!?」


「今、行く」


「うんっ!」

 碧は頷き、“先に行っているから!”と言いかけて言葉を止めた。


「―――あの、千鶴ちゃん?」


「何?」


「何してたの?」


「いろいろ」


「ここね?私の部屋なんだけど」


「気にしなくていい」


「鍵、かかっていたはずだけど」


「碧が心の鍵を開けてくれたから、ここの鍵なんてすぐに開いた」


「い、意味が分かんないけど……」


「練習した。この程度、ヘアピン一つで開けられる」


「明日からサムターン用意するね?それと、なんで私の下着入れを漁っていたの?」


「……趣味」

 千鶴はそっと、床に落ちていた碧のショーツを畳むと下着入れにもどした。

「……部屋に対人用地雷用意しておくね?センサー反応の」


「大丈夫」

 千鶴は答えた。

「努力してクリアする」


「お願い、やめて」


 宿舎の館内放送が呼び出し音を鳴らしたのはその時だ。

 呼び出されたのは、千鶴だった。



「穂村少尉、参りました」

 かつてのホテルで、今は軍に接収されている建物のロビーで、千鶴は一礼した。


「東京から電話だ」


 総務部門の事務所となったロビーで、千鶴は父親より年上の兵士から電話の受話器を渡された。


「東京から?……もしもし?……隊長?」


 電話の相手は、天皇護衛隊中隊長の坂城大佐だった。


「生きてるか!?千鶴!」


 野太い声がスピーカーから耳に襲いかかってくる。

 相手のひげ面を思い出し、まるで耳元で彼が囁いたような錯覚を感じた千鶴は、自然と受話器を耳から離し気味にした。


「おかげさまで」


「がははっ!相変わらず辛気くさい態度だな、そんなに暗いと、嫁のもらい手なくなるぞ!?」


「―――どうも」


「そっちにいいオトコはいないだろう?もし、“これは”ってヤツがいたら、構わず俺に紹介しろ!俺が直々に丸焼きにでもしてやろう。人間の丸焼きの作り方は知ってるか?まず、工事用のコーンをケツ穴に根元まで突っ込んでだなぁ」


「……あの」

 思わずお尻を抑え気味になった千鶴は、上官の言葉を止めた。

「何のご用件でしょうか?」


「俺の声が聞けなくて寂しくなった頃だろう?そう思ってな」


「……あの」


「冗談だ―――付近に誰もいないな?」


「気をつけて下さい」

 さっきの兵士が席を離れたこと。そして、周りに人気が少ないことを確かめると、千鶴はその場にしゃがみ込んだ。

「これ、一般回線です」


「知ってる。どうせ秘匿回線を使った方がバレやすい」


「えっ?」


「“白雷改”がそっちへ動いたな?」


「は、はい」

 千鶴は頷いた。

「ただ、まだ、自分はこの目で確認していませんが」


「おかしいな。確かめるには十分な時間があったはずだが」


「今、七瀬少尉に言われて向かっている途中でした」

 嘘は言っていない。

「何だ?相変わらず、碧の下着でハァハァしていたのか?」


「なっ!」


「図星か?それとも未遂で止められたか?」


「―――どうとでも」


「声が険悪だぞ?反抗期の娘を持った気の毒な俺はどうしたらいい?」


「何もしないでください」


「なんだ。せっかく電話して、俺の声が聞けて嬉しいクセに素直じゃない」


「大佐」


「―――“D-SEED”は?」


「いない。と七瀬少尉は言っていました」


「……間に合ったな」


 坂城大佐の声が本気になった。

 ぎゅっ。と受話器を掴んで、千鶴は言葉を待った。


「……」


「穂村」


「……はい」


「―――死ねるか?」


「……死にます」


「よし。天皇護衛隊のメンツにかけて、やってもらいたい仕事がある」


「……何なりと」


「番人を頼む」


「えっ?」


 意味がわからない。

 番人って―――何の秘匿名称だっけ?

 心当たりがない。

 そんな千鶴の動揺を全く関知しない様子で、坂城大佐は続けた。


「俺達にとって大切な“眠り姫”が動く」


「……それ、詳しく教えて頂けますか?」


「この回線では無理だ。だが、この“眠り姫”はお前にとっては元同僚だ」


「……姫?」

 視線を彷徨わせ、はっ。となった千鶴は、その名にふさわしい女性に心当たりをつけた。

「……それ、天」


「名を出すな」

 ピシャリとした口調に、千鶴は言葉を飲み込んだ。

「名を出す必要はない。流れに身を任せていれば、対象が誰で、どうすればいいかは自ずから見えてくる」


「で、ですけど、私」


「こちらで手を回す。俺の手駒で番人を任せられるのは、お前だけだ」


「……」

「お前と七瀬を、現時点を以て天皇護衛隊の全ての任務から外す。騎体はその場に置いていっていい。午後の便で葉月ラボへ行って、お前の愛騎を受け取ってこい」


「よろしいのですか?」


「構わん。今のお前の任務なら、正直、俺達でどうとでもなる。だが、その“番人”の役目はお前じゃなきゃ、“死乃天使”を使いこなせるお前でなければ勤まらん」


「……」


「最初からはっきり言っておこう。この回線を聞いているヤツがいてもかまわん。聞きたければ聞け。お前の任務は、“眠り姫”を目覚めさせようとする不心得者、或いは傷つけ、亡き者にせんとする愚か者から、“姫”を守る番人だ。そう心得ろ」


「部隊は、どこへ」


「今、そっちで“白雷改”を扱っている奴らと同じだ。“姫”はいずれ、そこへ入る」


「一体?」


「眠り姫をジャンヌ・ダルクにしたがるバカがいるのさ」

 坂城大佐はフンッと皮肉めいた口調で言った。


「あれは、目覚めさせちゃいけないパンドラの箱だ。

 姫の中にゃ、希望なんて都合の良いモノぁない。

 それを開けたら、姫は終末のラッパを吹き始めちまう。

 そしたら、俺達と世界に待っているのは―――破滅だけだ」


「……大役、ですね」


「なぁに。お前なら出来る。お前を玉袋にいた頃から知っている俺にはわかる!」


「ウソっていうか、気色の悪いこと言わないで下さい」




「整列っ!」

 居並ぶ“白雷改”と“幻龍改”の足下で、夏川の鋭い声が飛んだ。

「これから、当面の間、ここが我々のホームベースとなる!」


「ええっ?」

 佐野姉妹の姉、亜紀が驚いた声を上げた。

「なんで?」


「何でって」


「飛行艦じゃないの?」


「我々の本来の母艦となる66号艦は、まだ試験段階だ」


「ゴーカンだって」

 亜紀は興奮気味に、横にいた妹、亜夜に笑いかけた。

「ねぇねぇ、どうする?ゴーカンだって、ゴーカン!」


「やだ。お姉ちゃんったら」


「興奮しない?」


「レイプモノは嫌いだもん」


「どうせなら、スナッフだよねぇ」


「そうそう♪このグルカで斬り刻んであげるのにねぇ」

 幼い顔立ちから想像も出来ないほど、危険な、むしろ淫靡な笑みを浮かべながら、亜紀は腰から下げていたグルカナイフを引き抜き、愛おしそうにその刃を舌でなめ回した。


「内蔵、引き出していい?」


「うん♪末期症状でビクビクするの見るとコーフンするよねぇ」


「本当♪下手なポルノ見るより気持ちいいよねぇ」


「な―――きっ」

 あまりの会話に真っ青になった夏川を横目に、大月が諭すように言った。

「二人とも?それはあくまで、敵相手にしてくれ」

 優しい口調に、ニコリと笑った二人がナイフをしまった。


「「はぁいっ!」」


「……よし。頼みにしているぞ?二人とも」


 微笑むと、大月は二人の頭を撫でた。


「……」


 一瞬、呆然としてその様子を眺めていた夏川は、我に返って声を張り上げた。


「最強の騎体と装備を与えられた栄誉ある部隊に属する我ら、よもや命を惜しいと思うな!帝国と陛下の御為に、笑って死ね!」


 その力説に反応する者はいなかった。

 はいっ!

 その一言を期待していた、或いは、そう反応があると信じ切っていた夏川は、顔を引きつらせた。


「どんなクスリをキメてるのよ。このくそばばぁ」

 小さく、亜紀が亜夜に耳打ちしたのがはっきり聞こえた。


「くわばらくわばら」

 このヘンでバリア。と手刀を切った亜夜が答えた。


「憑かれてるんだねぇ……きっと」

 美柚姫が可哀想な人を見る眼差しで顔を引きつらせたままの夏川を見る。


「お姉ちゃん、字が違うって……」

 瑞穂が突っ込む。

 さらのその横では、


「……歩く不発弾」

 はるかがぽつりと、そう言った。

 顔を真っ赤にした夏川がついに爆発した。


「何よっ!私がみんなの士気向上のために一生懸命考えて、準備したセリフなのに!」


「……だって」

 しばらくの沈黙の後、亜紀は言った。


「私ね?殺すために生きてるけど、殺されるためにここにいるわけじゃない」


「そうそう」亜夜が頷いた。


「死にたくないもん」


「そう、だね」

 美柚姫も頷いた。

「死んだらご飯、食べられないし、やりたいことたくさんあるし」


「……同感」


「……っ!」


「まぁまぁ」

 拳を握りしめ、今にも亜紀達に殴りかかりそうな夏川と、志気が揚がらない亜紀達の間に割って入ったのは大月だった。


「確かに、死にたくないよな」


「大月っ!」


「―――だから」


 夏川の罵声を無視して、大月は続けた。


「死なないためにも、誰も死なせないためにも、俺達が頑張らなきゃいけない。

 頑張るってのは、死んじゃいけないってことだ。

 死んだら、何にもならない。何も出来ない。

 俺達は、いらん子と呼ばれても、ただ使い捨ての弾丸になるつもりはない。

 なっちゃいけないんだ。

 俺達は人間だ。

 この世にたった一人しかいない、人間だ。

 陛下の狗と呼ばれても、醜の御楯と言われても、俺達は人間であることに変わりはない。

 俺達の価値は、俺達にしかわからない。

 俺達をいらんと言った連中に、俺達の存在価値を教えてやるためにも、俺達は死んじゃいけない。

 どんなことにも希望をもっていこう。

 絶望だけはしちゃいけない。

 俺達は、戦い抜くために、ここにいるんだ。わかるか?

 俺、喋るの苦手だから、上手く伝わらないと思うけど……」


「―――ううん?」

 そう答えたのは亜夜だ。

「わかるよ?言葉はすっごく下手だけど、でも、言葉が伝えたい心はすっごくわかった」


「うん」

 亜紀も頷いた。

「私、お兄ちゃんのいう通り、死にたくないもん。バカにされているなら、見返してやりたいもん」


「……そうだね」美柚姫も頷いた。


「自分の価値を世の中に教えてやるって、面白いよ。私、やる気出てきたな」


「……絶望は嫌い」


「だねっ♪」

 悪戯っぽい顔で頷いたのは、亜紀だ。


「前に誰かが言ってたよ?絶望はファッションじゃないって」


「お姉ちゃん、何なの?」


「自己満足っていうから、きっと自慰行為マスターベーションのことだよ」


「こっ、こらっ!」


 美柚姫が真っ赤になって止めに入った。


「お、女の子がそんな事、大声で言っちゃダメだよっ!」


「だめぇ?」


「ダメッ!」


「なら、せんずり。どっちで表現されたい?」


「どっちもイヤ!」


「ならマスカキ?自家発電?」


「……ソロ活動」


「霧島中尉まで、なんでそう眼をらんらんとさせて言うんですか!」


「……大丈夫」

 はるかは言った。

「……するのが一人なら、妊娠しない」


「ま、まぁ」

 これ以上はいろいろとマズいと思った大月が慌てて止めた。

「とにかく、俺達はこれから一蓮托生だ!よろしく頼む!」


「「はいっ!」」





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