いらん子中隊
●翌日 日本 東京 葉月市 近衛兵団葉月実験センター
「鬼龍院中尉を戻したいのは確かよ」
「何とかなんない?」
「新型の狙撃システムのテストには不可欠なのよ。あれ、開発急げって催促がスゴくて」
「そこを何とか」
「無理よ無理!鬼龍院中尉のデータをベースにしているから、どうしようもない!」
「なんでそんなことしたの」
「仕方ないじゃない。スナイパーとしては、シモ・ヘイヘやデ●ーク東郷とガチで張り合える逸材よ?銃のオリンピックでも開催したら、メダルでオセロが出来るわよ。あの女」
「考えるに……俺ぁ、随分と人材的に贅沢してたんだなぁ」
「当然でしょ?あんたが色々動けたのは、あいつらあってこそなんだから」
「カァッ……参ったね。どうも」
「鬼龍院中尉ほどじゃないけど、補充を手配してある。“白雷改”の最後は、そいつに預けるわ。ただし、入院中だから、復帰まで時間がかかる」
「使えるかい?」
「使えなければ銃殺。中隊の補充は狙撃砲開発完了まで待ってもらうことに」
「勘弁してよ。こっちは上の事情で動いているわけじゃない」
「お上の政治が戦争でしょうが。科学なんて所詮、政治の道具でしかないの。わかるでしょう?」
「スポンサー様が誰かはわかってるさ……グチ位、言わせてよ」
「グチりたいのは私の方よ。あいつら手放した責任はあんたにあるんだからね?後藤中佐?」
「反省するのに忙しくて後悔が出来ないよ」
「……まぁ、後悔してもしかたなないわ。あっちこっちの部隊で爪弾きにされた連中で編成された“いらん子”中隊が、今の所、人類の命運を決める“鍵”ってワケよ」
「使いたくねぇっていうか、頼りたくもねぇなぁ」
「……あのぉ」
大月中尉が言った。
「自分達、随分言われた気がしたんですけど」
「真実じゃない」
「真実、ですか」
「まぁ、問題じゃないけどね」
「問題ですよ。僕達の立場はどうなるんです?」
「知るか。あんたに立場がないって真実が問題じゃなくて、あんたが使えないって現実が問題なの」
「うっ……」
「で?このいらん子中隊の中隊長が、この後藤中佐―――挨拶」
「敬礼」
大月の号令で、居並ぶ面々が敬礼した。
「はい、ご苦労さん。面通しするか―――端っこから名前と階級、後は元の所属を申告して頂戴」
「大月智久大尉。元第九中隊所属」
「野郎は省略だ―――次」
「朝倉美柚姫大尉、元第一中隊所属です」
大月の横にいたポニーテールの女性士官が敬礼した。
背は大月より少し高い。優しそうな顔を精一杯真面目にしていると、何だか小学校の先生あたりが似合いそうな、そんな印象を受ける。
「スコアはかなりだな」
後藤が手元の資料を見ながら言った。
「―――ぶちかましの美柚姫?何、これ」
「あ、あの……」
美柚姫は真っ赤になって答えた。
「自分は、戦棍を使いまして……」
「ああ。ぶん殴るってところから“ぶちかまし”か」
「……はい」
美柚姫は頷くと小さくなった。
「ぶっこわしの美柚姫の方が有名なんだけどね」
紅葉が意地悪そうにニヤリと口元で笑った。
「は、反省はしているんですっ!出撃の度に関節壊したことは、確かに!」
「“白雷改”じゃ、“幻龍改”みたいな問題は起きないわ。開発者として保証してあげる」
「あ、ありがとうございますっ!」
「―――次」
「はぁいっ!」
笑顔で手を挙げたのは、双子の姉妹だった。
二人揃って動作は一緒、外見も一緒で背は低い。
「佐野亜紀少尉でぇすっ!」
「佐野亜夜少尉ですうっ!」
「第二中隊所属……か」
「ああ―――あんた達なんだ」
「知ってるのかい?」
「“殺戮の人形コンビ”って」
「うんっ!」
「そうだよ?」
「おいおい……なんだよ。その物騒な名前」
「いろいろあるのよ……殺しは楽しい?」
「うん」
「ぐちゃぐちゃにしてやるの。血や肉を見るの、大好きよ?」
「……警察官としては、絶対に出会いたくねぇタイプってことね」
「快楽殺人者か、精神異常者、外なら、どっちにしても精神病院送りね」
「ここがどこか、こういう時にわかる」
「ま、ここじゃ、これが普通、でしょ?」
「違いない。殺して殺して、殺しまくってくれていいけど、おじさんの言うことは絶対に従ってね?」
「それがルール?」
「それ、やったら殺していいの?」
「殺した分だけ褒めてあげよう」
「わぁいっ!」
「やるぅっ!」
「……薄ら寒いものがあるわね」
「だな……次」
「霧島はるか……少尉。元、第二中隊所属」
物静かというか、無機質に近い声でそう申告したのは、等身大の人形のような美少女だった。
姫君とか、そういった生身の人間とは到底思えないほど、愛らしいというより人間離れした美貌の持ち主だ。
ただ、この美貌という言葉が、いかに個人の感覚的によって異なるかを、この女ほど理解させる存在も珍しい。
この女を前にした時、多くの人は、彼女を美しいと褒めるか、それとも気味が悪いと嫌悪するか、判断は分かれてしまうことだろうから。
「……」
無言でまっすぐな姿勢を崩すこともしない態度は、褒めるべきなのかどうなのか、後藤も何とも言えない。
精神がどうにかなった人にも見えるから厄介だ。
「朝倉大尉と並ぶ戦果って所か」
後藤は資料から彼女のデータを確かめた。
「千人切りのはるか……怖い異名だね」
「……」
「そう思わない?」
「……別に」
はるかは視線を動かすこともせず、短く答えた。
「騎士は……祈りながら刃を振るえば……それ以外は必要ない」
佐野姉妹とは違った意味で厄介そうだな。
後藤は内心でそう思ったが、口には出さなかった。
「はい。ご苦労さん。大月大尉以外は全員、“白雷改”に搭乗してもらう。あと何人か、合流が遅れているけど、必ず何とかするから心配しないでね?」




