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66号艦

●大分県大神軍港 狩野重工造船ドック入り口。

「ったくさぁ」

 同僚相手にぼやく技師とすれ違った美夜は、重機の作動音の中から、その会話を聞き分けた。

「あんなの冗談だって位、わかんないのかねぇ」

「ったくだ。あんなモノ、使えるワケねぇじゃん」


 やれやれ。


 美夜は小さく肩をすくめた。

 相手は民間企業の技師だ。

 冗談をやらかしたのは、どうやら艦政本部だけではないらしい。

 造船技官達がよってたかってエイプリルフールとやらにでも感染したのだろうか。

 それとも、日頃のフラストレーションが、何か大宇宙の大いなる意思とやらによって発動したんだろうか。

 とりあえず、迷惑を被るのが自分だと思うと、誰か殴りたくなってくる。

 一体、どんな代物が出てくるというのだろう。

 児玉は“行けばわかる”としか言わないし、肝心の亭主は亭主で、酔っ払って帰ってきた途端、荷造りしていた妻を見て家を出て行かれると勘違いの挙げ句、土下座し始めて……。

 はぁっ。

「大丈夫ですか?」

 前を歩く造船技官が脚を止めた。

 どうやら、口から出たため息を聞かれたらしい。

 いい耳をしているなと思いながらも、美夜は少しだけバツの悪い思いをした。

「いえ」

「日本が分断された状況で、東京くんだりからここまでは大変でしたでしょう?」

 夫と同じ位の年かさの技官は、わざわざ空港まで美夜を迎えに来てくれたし、何くれとなく世話を焼いてくれる。

 男の優しさに、ふと涙が出そうになる。

「TACでわずか2時間ですから」

「太平洋上空もきな臭くなってきましたがね」

 どうぞ。

 技官は手で促しながらドックへの入り口へと美夜を招いた。

 一礼の後、美夜は上を見上げた。

 軍艦色に塗られた鉄の壁が、美夜の前に立ちふさがっている。

 ドックから突き出る艦橋のサイズは、あの大型艦“信濃”級と張り合えるほど大きい。

 一目で艦隊級の司令部機能を持つと分かるその大型艦橋は、まるで自分を歓迎しているように美夜は感じた。

「66号艦です」

「これ……ですか」

「技師達や艦政本部がいろいろ言ってるのは知っていますが」

 技官は美夜と共に66号艦を見上げた。

「こいつはすべてに挑戦するために生まれたような艦です」

「挑戦?随分と持ち上げるんですね」

「当然です。私達が汗水たらして造った艦です。自信を持たなくてどうするんです」

「失礼」

「確かに面白い作りをしています。丁度、私達は“スフィンクス”と読んでいますがね?わかります?あのエジプトの」

「ええ」

 美夜は図面を見て、成る程。と思った。

 確かに猫科の獣が座っているかの如き状態を軍艦で表したら、きっとこんな感じだろう。66号艦は、そんな外見をしている。

「前に出された両足―――我々は左右メサイアデッキと呼んでいますが、それぞれがメサイアの整備デッキとカタパルトデッキを一つにしたもので、艦内に設置された整備デッキからエレベーターで露天となっているカタパルトデッキへ運び上げ、そこから射出します。

 カタパルト上には最大で片側2騎が発艦待機可能です。

 左右の発艦タイミングの違いを上手く活かせば、緊急出撃でも柔軟な対応が期待できるはずです」

「不足に感じる所は工夫で凌げ、と?」

「その通りです。左右デッキと本体全部使えば、大凡1個大隊が収容可能です」

「どうしてデッキを左右に」

 言いかけて、美夜はそれが愚問だと気付いた。

 左右メサイアデッキの真ん中には、左右のメサイア用より長いカタパルトデッキがあって、さらにその下には巨大な砲が突き出ているのだ。

「これは?」

「こいつがある意味、この艦の目玉です」

 技官は胸を張った。

「信濃の搭載する4600ミリ相当砲よりさらに巨大な8000ミリ相当砲―――開発コードは“攻城砲”です」

「攻城砲……?」

「ええ。城を破壊する破城槌とでもいいましょうか……全部をぶっ倒すための砲です」

「しかし……」

「そう。艦長が驚くのも無理はない。規格外の試作品を組み込んでいるんですよ」

「でしょうね……」

 美夜も頷くしかない。

 8000ミリの砲なんて聞いたことすらない。

 しかも、何だこの巨大さは!

「運用方法に想像がつきますか?」

「……いえ」

「まともにぶっ放したら、機関全エネルギーを一瞬で消費して、エネルギー不足が発生します。航行にモロに影響が出ますから注意して下さいね?」

「航行に?」

「当然です。本来求められる機関を搭載していないんですから。普段から予定された出力の8割しかないことを頭にいれておいてくださいね?」

「……ですか」

「しかも、一発撃った後の冷却に凄まじい時間がかかります。安全の意味で、一日一回が限度でしょうな」

「一日一回……」

 美夜は天を仰いだ。

「健康的ですね」

「嫌味なことを言いますねぇ」

「使い道、ないんじゃないですか?これ」

「ええ。信濃ですら搭載を見送ったのは、こんな一日一発しか撃てない砲に何の意味もないからです」

「はっきり言わないで下さい」

「まぁまぁ……それでも、エネルギー出力を10%以下に絞れば、一日10発までなら冷却が追いつくはすです。それでも800ミリですよ?何かに使えますって」

「どういう時にですか」

「それは考えて下さい。私は造艦技官であって運用を考える方面の専門家じゃない」

 都合が悪くなると上手く逃げる。

 これだから男は。

 美夜は内心で舌打ちした。

「対空砲、その他の武装も十分です……まぁ」

 こほん。

 技師はわざとらしい咳払いの後、

「“鈴谷すずや”ほどではないですけどね」

「あれはやり過ぎました」

「ははっ……まぁ、完璧というにはほど遠いのも事実です」

「……」

「はっきり申し上げておきます。

 予定されていた副砲をはじめ、かなりの施設が出力不足と資材不足、時間不足、人手不足……後、何が不足していたっけ?

 とにかく、多くの設備が未着工です。我々としても航行と戦闘に支障が出ないと判断されたギリギリの所で運用していただくのは、さすがに心苦しいですが」

「我々は船乗りです」

 美夜は答えた。

寝床ハンモックがあれば眠れますし、必要なら床で食事も出来ます」

「―――お心遣い、感謝します」

 技官は頭を下げた。

「とりあえず、艦橋へご案内しましょう。

 “人類に操艦は無理”なんて噂されていますがとんでもない。

 あれは単なる仕様書の問題で、こちらとしては、きちんと設計をやり直しましたよ?

 その気というか、SCシップ・コントローラーさえいれば、一人で余裕の、しかも最高の操艦を保証しますよ?」

「ほう?」

「艦の操作説明書、お読みになっておいて下さいね?」

「勘弁して下さい」

 美夜は肩をすくめた。

「あんな分厚いもの。GUIで感覚的に操作できないのですか?」

「出来ますよ?ただ、立場的には読まれた方が」

「そこを上手く処理してくれるのが技術屋ではないのですか?」

「そうですかねぇ」

「それで普通です。

 例え人工臓器を取り付けたからって、分厚い取説を読む患者がいると思います?

 心臓が停止した後で取説読んでみたら、リセットボタンを押して再起動して下さいなんて書いてあったらどうしろと?」 

「心臓が止まった後、どうやって取説を読むつもりですか。あなたは」

「楽をしたいだけです」

「艦長たる者、艦には精通していた方がいいと思いますがねぇ」

「因果な立場だと思いますよ」

「ご愁傷様です。ま、慰めになるかはしりませんがね?基本的に艦橋で全てがこなせる設計です。艦長席のパネルで艦のステイタスはほとんど把握出来ますし、まぁ、論より証拠ですよ?中を見て判断して下さい」

「楽しみです」





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