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いらん子達

 部下を手放したくない。

 一人残らず、部下は俺の宝だ。


 本当に?


 本当に、そう言い切れますか?


 こう訊ねられたら、胸を張って諾と言い切れる上司はそう多くない。

 どんな世界、業界でも。

 絶対、一人くらいは不要のレッテルを貼った部下を抱えているものだ。


 世界中の褒め言葉を総動員してやっと“奇人変人病人の掃きだめ”が最高の賛辞となる近衛騎士団左翼大隊ほどイカれてはいないが、メサイア大隊も相当にくせ者揃いだ。

 ここで普通に指揮官をやっていたら、空気を吸うだけで胃に穴が開く。

 だから、指揮官をやっている大抵のヤツはこう思う。

 こいつら全員を放り出して、俺は楽になりたい!

 つまり、どれ程人手不足でも“こいつをどうにかしたい!”と思う者は絶対にいるわけで―――。


 結局、後藤が狙いをつけたのは、腕はある反面、問題行動が多い厄介者だ。


 うわさ話に精通した涼宮中尉はわずか1時間でメサイア大隊の問題児を詳細なデータ付きでリストアップしてのけた。

 その中から後藤が人選して紅葉が納得した人物に白羽の矢を立てることにしたのだが―――。


「佐野姉妹、戻りましたぁ」

「ただいまですぅ」


 アイスを片手に中隊指揮官の部屋に入ったのは、双子の姉妹とおぼしき外見がそっくりな二人組だった。

 栗色の髪を背中まで伸ばし、額の所で真横に切りそろえた外見は、まるで等身大の日本人形が歩いているようでさえある。

 それが二人だ。

 不思議と、“愛らしさ”より“恐怖”―――まるで“シャイニング”の双子の亡霊を彷彿とさせるのは何故だろう。


「出撃から戻ってきた報告に」

 その二人を出迎えたのは、デスクに座ったごま塩頭の中隊指揮官。

 彼は二人の態度にぶん殴ってやりたいのを拳を握りしめて堪えた。

 どういう親に育てられたら、こんな双子が生まれるのか、産みの親だか育ての親だかを問い詰めてみたいものだと常々彼は思っていた。

 何しろ、帰還から1時間以上たってから、やっと報告に来た上に、さらに、その口には―――。

「アイスをくわえたままで来るとは、何事だ」


「食べたいの?」


「食堂で売ってるよ?」


「それとも」


「なぁに?亜夜ちゃん」


「このおっさん、女の子の食べかけが好きなのかなぁ」


「やだぁ。そんなギドギドの変態さんなの?このフニャチン」


「終わってるよね。人として」


「うん。終わりきってる」


「だぁぁぁぁっ!」

 中隊指揮官はデスクをひっくり返した。

「黙れっ!ハァッ……ハァッ……敵を鱠のように切り刻むわ、コクピットから逃げた敵兵をマジックレーザーの精密射撃で手足バラバラにするわ、逃げ惑う歩兵達を踏み殺すわ」


「プチプチ足裏に感じる感触は気持ちいいよ?」


「でも、魔族も妖魔もつまんない」


「うん。死体がすぐ消えちゃうから、耳とか鼻とか、戦利品がとれないんだもん」


「せめて直に切り刻みたいよねぇ。助けて助けてっていうの聞きながら滅茶苦茶に顔を潰してあげたい♪」


「せっかく、生きたまま腸を引きずり出すのにピッタリと思って、グルカナイフの新しいの仕入れたのにねぇ」


「無駄になっちゃったぁ」


「そこらの野良犬じゃつまんないしねぇ」


「そうねぇ。やっぱり人間がいいわ」


「……」

 中隊指揮官は、互いにナイフを取りだして、同時にため息をついた双子を前に、クスリの瓶のキャップを開けると、クスリを喉に流し込んだ。

“精神安定剤”と書かれた瓶が乱暴にポケットに戻された。


「―――おい」


「なぁに?」


「アイス、欲しいの?」


「お前等に異動を命じる」


「異動?」


「何それ、おいしいの?」


「……部隊を移ってもらう」


「なんで?」


「もうお前等みたいなキチガイは、俺の部隊にはいらんっ!とっとと出て行けっ!」





「朝倉大尉、戻りました」

 指揮官室に入って来たのは、出撃から戻ってきたばかりのロングヘアの女性騎士だった。

 年の頃なら二十代半ば。

 長く艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた容姿は人目を引く魅力がある。

 だが、それを出迎えた指揮官は、少なくともその外観に対して何も感じるところがないのか、或いは慣れているのか、男性としての下心じみた反応はみせなかった。


「……ご苦労」


「どうしました?」


「また派手にやってくれたなぁ」

 指揮官の手には整備部隊からの報告書があった。


「ははっ……」


「騎体の腕、何本ぶっ壊してくれたら気が済むんだ?」


「す、すみません」


「“ぶちかましの美柚姫”の他に、自分が整備の間で何て言われているかは知ってるな?」


「……は、はい」


「言ってみろ。聞いてやる」


「ぶ……」


「ぶ?」


「ぶっ壊しの美柚姫……です」


「そうだ……出撃する度に敵は撃破するものの、必ず腕関節のパーツを要交換までぶっ壊してくれる。お前、あのパーツが一個いくらすると思ってるんだ?うん?」


「……ううっ」


「お前の給料ゼロにしたってローンの頭金にもならないんだぞ?そもそもだな……」



 2時間後。



「ううっ……まだ耳の中に言葉が残ってるよぉ」

 説教が終わって食堂でへたばったのは、先程の黒髪の女性。

 名を朝倉美柚姫あさくら・みゆきという。


「お疲れ様。お姉ちゃん」


 突っ伏した女性の前にコーヒーの入ったカップを置いたのは、十代後半の女性。

 黒髪をツインテールにしているせいか、あどけなさが強調されている。

 美柚姫の妹で、彼女のMCメサイア・コントローラーを担当する朝倉瑞穂少尉だ。


「……うん。ありがとう、瑞穂」


「また怒られたの?仕方ないじゃない。“幻龍”の関節は欠陥品なんだから、戦棍せんこんでぶん殴ったらものの数発で壊れちゃうのは分かっているはずなのに」


「そこを何とかするのが、騎士の務めなんだよ」


「ついでにMCわたし達のね?」


「……クビ、だって」


「えっ!?」


「他の部隊に移ってくれって……もう、私達に回せる腕関節はないからって」


「そんなっ!ヒドイよお姉ちゃんっ!そんなの文句言うべきだよ!」


「関節のパーツ交換しすぎて、C整備で肩から下、全部分解するから、しばらく私達、地上勤務」


騎体あのこまで取り上げるの!?」


「中隊長に言わせると、騎体をこれ以上壊されたら俺の責任問題になるって……毎回毎回、関節パーツ壊すから、補給部門から問い合わせが来てるんだって……いろいろ大変なんだよ。上って」


「……」


「次は、根性のある騎体に乗せて欲しいなぁ……」





●東京都 葉月市 近衛兵団葉月実験センター

「人選は進んでいるの?」


「助かったよ」

 後藤は紅葉を軽く拝んだ。

「頭数は揃いそうだ。紅葉ちゃんの狙ったとおりだ」


「でしょう?」

 紅葉は勝ち誇った顔で、テーブルに置かれたチョコレートケーキにフォークを突き立てた。

「どこだって、持て余し者はいるものよ。その中から実力者を選べば良いわけで」


「俺の苦労は考慮の外かい」


「使いこなすために給料もらってるんでしょ?」


「薄情だなぁ」


「何言ってるのよ。私だって、後藤さんと一緒にいらん子連中相手にするのよ?」


「いらん子……ねぇ」


「そう」

 紅葉は修復が進むメサイア達を見上げた。

「“白龍”の存在は完全に抹消された。これに伴って“鈴谷すずや”戦没の責任も不問にされて……誰が浮かばれて、誰が沈んだのか」


「平野さんは浮かんだよな」


「66号艦の艦長だもんなぁ……下手したら石抱いて沈められたもんねぇ」


「そんなに欠陥品かい?その66号艦って」


「基本設計者が薬でもキメてたか、さもなきゃよっぽどの素人か。っていうか、あんな妄想じみたものを具体化するのに支払った大金を思うと、空想のすばらしさをしみじみ感じるわ」


「……やれやれ」


「ま、私の知ったことじゃないけどね。私の子達にとっては、“鈴谷すずや”の代わりとして与えられた母艦だもん。文句言う筋じゃない」


「メサイアの修復の方は?」


「順調―――1騎を除いてフレームは無事だったからね。白雷改のパーツ組み付けている」


「……問題は、その1騎か」


「ほむとお姫様連れてきたら、“2号騎”と“D-SEED”で復活させるけど」


 紅葉はチョコレートケーキを口に放り込むと言った。


「―――他のが来たら引き渡さないわよ?」


「へっ?」


「最高機密騎を消耗品に使わせるワケにいかないでしょ?私と陛下、両方のメンツに関わるわ」


「和泉や穂村達ならよかったと?」


「あったりまえでしょ?和泉大尉なんて、あの麗菜殿下ぶっ飛ばしたヤツよ?あの歩く非常識だからこそ、あそこまで使いこなせたようなもんなんだから。アタシから“死乃天使”もらいたければ、最低でも、ほむ程度の使い手連れてきて」


「いるのかい?」


「いない」

 紅葉はきっぱりと言い切った。

「ほむは眠っていたとはいえ、私から見てもトップグレード。

 天皇護衛隊が横やりださなかったら、私が秘書兼奴隷としてコキ使うつもりだったハイスペックよ?性格はアレだけど」


「千鶴ちゃんはマトモだよ……和泉と比べたら可哀想だ」


「同感。そこがちょっと面白みに欠けるんだけどね」

 紅葉の顔に陰が浮かんだ。

「……で、どうなの?」


「何が」


「娘を失った気分って」


「よくはないさ」

 後藤は胸ポケットからタバコを出した。


「いい?」


「特別よ?お弔いの線香も立ててあげられないから」


「……ありがとよ」

 タバコから立ち上る紫煙をぼんやりと眺め、紅葉は言った。


「せめて、宗像がいてくれたらね」


「あいつは寝返ったよ」


「二宮さんが出会ったそうね。月城さんも」


「ああ。完璧に敵だ」


「……そういえば、姫さんは?」


「ちゃんとした所にいるよ」


「お腹すかせてなければいいけど」


「ははっ……小清水ほどじゃないよ」


「……」


「……」


「あの子の件は、和泉大尉に責任とってもらわないとね」


「……どういうことだ?」


「どうしても、死体が見つからないのよ。っていうか、死んだと思えない」


「ん?」


「“死乃天使”の残骸を調べたの。みんな頑張ってくれたけど、どこ探しても出てこない」


「何だ」


「胸部パーツ、正しく言えば、コクピットブロックよ」


「潰されたんじゃないのか?」


「跡形も無く?」


 紅葉は鼻で笑った。


「ふん。もし敵が和泉大尉超えの変態フリークスでも、私達、技師の目はごまかせない。―――マティア・マザクは知ってる?」


「誰?それ」


「民間の事故調査屋。メサイア系に強くてね。原因不明の事故調査なんてお手の物の人。この人にも協力を依頼したの」


「おいおい。“死乃天使”は機密騎だぜ?」


「口は固いから大丈夫。責任っていうか、あの管理権限は私のもの。どうしようと、陛下にだって文句は言わせないわ」


「怖いねぇ」


「でしょ?で、その人も言ってるのよ。コクピットブロックは潰されたんじゃなくて、えぐり取られたんだろうって」


「えぐり取った?」


「そう。コクピットブロックごと、騎士を奪い去った。マザクはそう言っているし、私もそう思う。何しろ」


 紅葉が顎で示したのは、片隅に置かれた、奇妙にへし曲がった機械部品の塊だった。


「あれ、コクピットブロックの生命維持装置。発信装置もついている」


「……」


「12キロ離れた地点で回収された。“死乃天使”のよ」


「……12キロ」


「海軍の航空隊の偵察機が敵地へ侵入した時に救難信号を受信したの。いろいろ苦労したけど、まさかと思って回収に向かわせたら、地面に転がっていたのはそれだけ。多分だけど、信号を発信しているのに感づいた敵が、コクピットブロックからそぎ落としたのね」


「和泉に」

 後藤は灰が落ちるのも気にせず、真顔で訊ねた。

「何の価値がある」


「敵が何を考えたかはわからない。でも、これだけは言える」


 紅葉はフォークで後藤を指した。


「和泉大尉は、敵に生け捕りにされた可能性が高いってこと」


「生きている……と?」


「データ収集が目的なら、そろそろ殺されているでしょうね。後藤さんならどうする?魔族軍が捕虜をとったって、聞いたことある?」


「……」

 後藤はすっかり短くなったタバコをもみ消した。


「人を捕まえろだの、行方不明者を捜せだの」

 後藤はもう一本、タバコを取りだした。

「警察時代に戻った気分だぜ。本当に」




●東京都某所 天原骨董品店

「戻りました」


「おお。帰ったか」

 素人が見たら、がらくたにしか見えないが、その多くが扱いが厄介な呪具という商品を扱う店内は足の踏み場もない程、様々なモノが積み上げられている。

 素人なら迷うかもしれないし、もし本当に迷い込んだら家族の元へ生還出来る保証は誰にも出来ない。その店内の奥にあるレジに腰を下ろしてお茶を飲んでいたのはかのんだ。

「しばらくお店、開けていたからごめんなさいね?かのん」


「なんの。客など―――」

 ちょっと考えてから、かのんは言った。

「ほんの数人じゃ」


「売上は?」


「ない」


「……」


「お茶、いれようか?」


「お願いします」

 かのんの横にあった椅子―――かつて死刑囚が告解のために座らされたという曰く付きの椅子に腰を下ろしたのは、あの芹沢瀬菜だった。


「どうじゃ?銀行の方は」


「順調です。神音様にご報告に上がりました」


「ああ、御主人様なら執務室におられるぞ?」


「通っていいかしら?」


「うむ―――せっかくじゃ、茶を飲んでからでもよかろう」


 どん。と出されたのは抹茶の入った青磁の茶碗。


 青磁松本という銘がつけられている、かのんのお気に入りだ。

 茶碗だけでも相当な価値があるものが、平気で使われていた。


「ありがとうございます」

 瀬菜はそれを受け取るとさも美味そうに中身を飲み干した。

「相変わらず、いれかたが上手ですね」


「妾はそのためにおるようなものじゃからな」

 かのんはそう笑って立ち上がった。


「行くか?」


「はい」





 神音の執務室へは“無限回廊”と呼ばれる亜空間を通る必要がある。

 この回廊を生きて通れるのは、神音本人か、それともかのんに案内された者に限られる。

 二人の案内無くして回廊に入り込んだ愚か者は無限に続く回廊の中を永遠に彷徨い続けることになる。

 かのんに案内された瀬菜は、豪奢な装飾が施された赤いカーペットの続く廊下を右に折れ左に曲がりして、やがて一つのドアの前にたどり着いた。

 そこが、神音の執務室だ。



「見込み通りかしらね」

 瀬菜の報告を受けた神音は、そう答えた。

「銀行や貴金属店で泥棒じみたことさせて悪いわね」


「―――いえ」

 瀬菜は笑って首を振った。


「神音様のお役に立つことが出来れば―――」


「御主人様」

 瀬菜の言葉を遮るように、ドアの近くに立っていたかのんが言った。

「由忠じゃ」





「お話をおうかがいしたくて」


「なら、手土産くらい持ってきなさい」


 神音の前に座ったのは、神音の息子、由忠だ。

 近衛左翼大隊少将の地位にいて、そしてあの悠理の父親だ。

 かのんが紅茶を出す合間に、神音は脚を組み直した。

 まるで父親の前で精一杯ふんぞり返ってみせようとする娘のようにしか見えない光景だが、立場はまるで逆だ。


「それで?」


「いろいろと伺いたいことが多すぎて」


「ビジネスのことかしら?」


「魔族軍の占領地で銀行泥棒を働いている不届き者がいるとか」


「それが?」


「ご存知ないかと」


「ないと言ったら?」


「信じません」

 由忠は答えた。

「接触した者の報告では、芹沢瀬菜と名乗る娘とその一味とのことです」


「で?」


「で……って」


「私に何の用?」


「情報が欲しいんです。潜伏場所とか」


「そうねぇ……」

 神音は、ちらりと瀬菜が隠れている窓際のカーテンを見た後、

「タダで?」


「……いくらですか」


「お心次第で、スタート金額は10億の上」


「ちょ……っ!」


「ちなみに通貨単位はドルね」


「母さんっ!」


「ビジネスは非情だと、常に教えているでしょう?甘えないの。由忠」


「非常識っていうんですよ!あんまりに堂々とやってるおかげで、水瀬家が雇ってるんじゃないかって、疑われているんです!家名に傷がついているんですよ!」


「どこのバカよ。それ」

 神音は憮然として答えた。

「水瀬家がそんなチマチマしたことするもんですか。銀行のお金が必要なら堂々と金庫からかっぱらうわよ。被災地に残された人様のお金に手を出すなんて甘っちょろいマネ、家としてするもんですか。由忠、もしそんなこと言われたら、水瀬家はそんな姑息なマネはしないと堂々と言い切りなさい。ついでぶった切っていいわ。いい見せしめになるでしょうから」


「……それが親の言葉ですか」


「何か変なこと言ったかしら?」


「とにかく、母さんは関係ないと?」


「さぁ?」

 神音は肩をすくめた。

「その先を知りたかったら、お金を払いなさい」


「そういう態度が、疑いを招くんじゃないかって、考えたことないですか?」


「ちっとも」


「……」


「で?その芹沢瀬菜ってのは、銀行でお金盗んでいるの?」


「……」


「親の質問に答えなさい」


「……理不尽だ」


「由忠」


「……そうです」


「いくら」


「被害額は、わかっているだけで百億円。看過できる状況ではありません」


「それを横取りしたいと?」


「誰がですか。とにかく、近衛はこの芹沢瀬菜の捕縛を決定していますし、捕縛専門の部隊も動かしています。彼女が捕縛された後、その口から黒幕として母さんの名前があがることだけは避けてください。水瀬家の家名をこれ以上―――」


「もしそうなったら、上手く誤魔化しなさい」


「母さんっ!」


「親を犯罪者にしてどうするの」


「親なら親らしく、犯罪とは無関係だときっぱり言ってみて下さいっ!」


「無関係」


「……」


「言ったわよ?」





 怒りながら帰って行った息子を送り出した神音は、少し考えてから言った。

「瀬菜?」


「はい」

 カーテンの陰から瀬菜が顔を出した。

「ご迷惑を」


「バカを言いなさい。私が命じた事よ……ったく、由忠もお訊ね者がこんな近くにいて、気配で気づけないものかしら」


「……あの」


「恐れる必要はないわ」

 神音は笑って言った。

「近衛も警察も、軍にだって網を張ってある。バカ息子は私の掌で踊っているようなもの。あの子もまだまだ……」


 その眼はとても優しく微笑んでいた。

「子供なのよねぇ」


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