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女子校の先生 第一話

●太平洋上空

「模擬戦、空対空モード」

 MCRメサイア・コントローラー・ルームから、MCメサイア・コントローラーの青木秋子少尉の報告が入ってくる。

「仮想敵、“白雷改”3号騎」


「あちゃぁ……宗像中尉かぁ」

 ポリポリ。

 有珠ありすはいつもの癖で頬を掻いた。

「高度1万で螺旋散開スパイラルブレイク。雲の中から出て、一番近い騎と交戦……」

 そして、STRシステムを掴んだ。

 システム全体にパワーが入った振動が心地よく骨に響く。

「宗像中尉らしい発想だよ……ホント」


「“白雷はくらい”3号騎をマーク。呼称“ホテル3”へ変更」


「了解―――武装はビームライフルじゃなくて」

 有珠ありすは首を横に振った。

「散弾砲。散布界は最大。足を止める」


「了解」

 “白雷改”は太股のウェポンホルダーから散弾砲を引き抜くと、ポンプを動かした。

 シャカッ!

 ポンプアクションで巨大なショットシェルが薬室に叩き込まれる音が聞こえた。

「くはぁ」

 有珠ありすは心底嬉しいと言わんばかりに顔一杯に笑みを浮かべた。

「この音♪最っ高♪」


「“ホテル3”機動開始。距離7600」


 黒い、ポツンとした点に近い存在だった宗像騎が信じがたい程の速度で接近してくる。


 瞬き一つで点どころじゃないサイズになった。

 まるで巨大化しているような錯覚さええ覚えてしまう。


「速っ!?」

 空中でトンボをきった所を宗像騎が突き抜けていった。

 騎体を空中回転させて宗像騎の背後を狙うが、その時にはすでに宗像騎は急上昇をかけ、距離を稼いでいた。

 しかも、急上昇をかける前に体勢を整え、こちらにシールドを向けている。


「さっすが!」

 驚嘆する有珠ありすの目の前を、ビームライフルの光がかすめた。

「あの体勢で撃てるの!?」


「空中で止まるな!」

 通信モニター上に宗像が映し出されたと思った途端、レシーバーに罵声が入った。

「死にたいのか!」


「―――くっ!」

 罵声の鋭さに思わず首をすくめた有珠ありすは、それでも騎体を突撃させた。

 上空の優位を確保した宗像騎が、下から攻める有珠ありすに容赦なくビームライフルの雨を振らせる。

 有珠ありすは、ホンモノなら一発で騎体が吹き飛ぶその光の雨をかいくぐりながら、反撃のチャンスを狙う。

「くそっ!」

 有珠ありすは武器の選択を間違えたことを呪った。

「こうも距離が開いちゃぁ」

 ズンッ!

 間近をかすったビームライフルのエネルギーに、騎体が揺れた。

「散弾砲なんて意味ないじゃんっ!」

 散布界は広いにしても、散弾でメサイアにどれ程のダメージが与えられるか?

 それに今更になって気付いた有珠ありすは、武器変更の言い訳を、距離に求めた。

 ウェポンホルダーに乱暴に散弾砲を突っ込むと、腰部にマウントしていたビームライフルを掴む。

 きっと、散弾砲を抜いたことを宗像中尉や他の騎士達はバカにしているだろう。

 そう思うと―――

「私……カッコ」

 ピーッ!

 背後への脅威接近警報が鳴る。

 有珠ありすはとっさに騎体をひねると、ビームライフルのトリガーを引いた。

「悪くなんてないっ!」




「ほう?」

 有珠ありすからの一撃を軽く騎体をひねって回避した宗像は、嬉しそうに顔を緩めた。

「そこそこの腕はしているな」


「回避を含む空戦能力は」

 宗像騎のMCメサイア・コントローラー、桜庭優が言った。

「“白雷改”の性能を差し引いても十分かと」


「……月城大尉の教育の賜かな?」

「多分」

「……なら」

 接近する鵜来騎から逃れるように、宗像は積乱雲の中に飛び込んだ。

「ヒヨコを味わわせてもらおうか?」


「雲の中なんて!」

 視界が悪いが、レーダーが敵騎の位置を―――

「へ?」

 レーダーに目をやった有珠ありすの目が点になった。

 レーダーがノイズにやられて役目を果たしていないのだ。

 雲の中にいるはずの宗像騎の位置が、まるで分からない。

「な、何これっ!?」


「敵騎からの妨害電波の影響です」

 青木少尉は心底感心したという声で言った。

「さすが桜庭さん……この技術はマネ出来ません」


「くっそ!」

 有珠ありすは一瞬、積乱雲の中に飛び込むか、それとも敵が積乱雲の中から飛び出してくるのを待つか、躊躇した。

「……あっ」

 巨大な雲の壁を前に、ハッ!となった有珠ありすは舌打ちした。

「私のバカっ!」

 有珠ありすはとっさに、索敵モードを熱源探知に切り替えた。

「電波探知はとにかく、熱源探知なんて騙せるシロモノじゃない!」

 有珠ありすがパネルに目をやったのは、本当に一瞬だった。

 その一瞬に―――

 グワァァァッッ!

 雲の中から飛び出してきたのは、宗像騎だった。

 雲から飛び出してきた宗像騎の構えるビームライフル。

 その銃口が、陽光に美しく反射した。

 一瞬でも、その光景がカッコイイと思った自分に腹が立つ。

「ちいっ!」


 空中で、武器を構えた敵に狙われている。


 普通、こういう時は距離を取る。


 それが常識のはずだ。


 それが、有珠ありすは全く逆のことをした。

 ブースターを開くと、宗像騎めがけて突撃したのだ。


「こいつ!」

 ブースターの咆哮と共に突撃する白い敵。

 宗像は顔をしかめながら怒鳴った。

「バカか!?それとも!」


 有珠ありす騎は、何の躊躇いもなくビームライフルを放棄。斬艦刀を引き抜いた。

「パワーがある分っ!」

 斬艦刀が唸りをあげて宗像騎に迫る。

 居合いに近い、有珠ありすの渾身一滴の一撃。

「これで―――どうだぁっ!」

 まともに喰らえば胴体真っ二つは避けられない。

 最早、演習とはとてもいえない。

 文字通りの実戦のレベルだ。

「えっ!?」

 有珠ありすがきょとん。としたのも無理はない。

 振り切った斬艦刀―――それを操作するSTRシステムに手応えが全くない。

 かわされたのだ。

 シールドで止められたとか、そんなんじゃない。

 ほんの少しだけ高度を変える。

 そんな最低限の動きで、宗像騎に、有珠ありす自満の一撃は、あっさりと回避された。

 それどころか、


 ガンッ!

 衝撃がコクピットをシェイクする。

 宗像騎が、有珠ありす騎の胸部パーツを派手に蹴り飛ばしたのだ。


「ぐうっ!?」

 騎体ダメージ警報が鳴り響く。

 慣性制御システムが殺しきれなかった急激なGに、意識が遠のく。

 有珠ありすに出来ることは、それを歯を食いしばって耐えるだけ。

「いっ!」

 止まった呼吸。

 無理矢理、肺に空気を送り込むと、

「痛ぁぁぁぁっっっ!」

 悲鳴は悲鳴だが、本当に痛いのか疑わしい奇妙な声をあげた。

「すっごく痛いけど……それでも」

 騎体の体勢を整えると、シールドを構え、宗像騎との距離を再び詰めた。

「面白いから、どうでもいいっ!」


 斬艦刀が空中で激突した。

 エネルギー同士の反発が、周囲を白く染め上げる。


「捕まえたぁっ!」

 有珠ありすはSTRシステムに力を込めた。

「どうせ、ハイパワー自慢の新型ぁっ!」

 パワーゲージがレッドゾーンに叩き込まれ、騎体がギシギシと悲鳴を上げる。

「こいつって、それしか売り物ないじゃん!?」


 このまま力で押して隙を確保する。

 その時がチャンスだ!!


 有珠ありすはそう思っていたが、


 スカッ


 本当に、そんな感じだった。

 フルパワーに近い力押しをかけていた有珠ありすに対して、半ば押される一方だった宗像は、体を捌くことであっさりと力押しから逃げた。


「わわわっ!?」


 力押しからすっぽ抜けた格好の有珠ありすは、前に思い切りバランスを崩した。

 斬艦刀を前に突き出す格好で、有珠ありす騎は空中をスピンしながら海めがけて落ちていく。

「私はコマじゃないんだ!コイツはジェットコースターでもないし―――このぉぉぉっっ!」

 ブースターの出力にモノを言わせて姿勢制御を確保。スピンから回復させる。

 三半規管には自信があったが、慣性制御システムが殺しきれなかったスピンの影響は残る。

「ううっ……目が回るけど」

 有珠ありすは数回、深呼吸した。

「どうあっても、あの人は!」

 ビームライフルの光が再び騎体をかすめる。

「もぉ一度ぉぉっ!」

 騎体を捌いてブースター全開。

 同時に急制動用ブースター臨界作動準備。

 慣性制御システムが殺せないほどのGが有珠ありすを襲う。

 今回はGに襲われてばかりだ。

 どうして対Gシステムも新型にしてくれなかったんだろうと、開発者に恨み言が言いたい。

「くぁぁぁっっっ!」

 ビームライフルの攻撃をかいくぐった有珠ありすは、宗像騎のリーチギリギリでブースターをカット。

 急制動用ブースターを臨界作動させた。

 それまで、数百トンの騎体を高速飛行させてくれたエネルギーが居場所を失い、騎体に襲いかかった。

 潰されたかと思う程のGが襲う。

 歯を食いしばってなければ、舌を噛むどころじゃ済まない。

 骨から全身の肉が引きはがされたかと思うほどのGに耐えた有珠ありすは、宗像騎の懐に飛び込んだ。


「どんぴしゃぁぁぁっっ!」


 歓声と共に、有珠ありすは斬艦刀を振り下ろしたが―――


「なぁっ!?」

 宗像はギリギリで攻撃を回避。距離をとろうと後退する。

 それが有珠ありすを―――キレさせた。

「獲物が逃げんなぁっ!」

 ここまで来るのにどれ程苦労したと思ってるんだ!

 アンタは私に喰われればいいんだ!

 あんたの存在価値は、それだけだ!

 本気でそう思いながら、有珠ありすは怒りと共に宗像騎を追う。

「動きをトレースして!間合いさえ奪えばこっちのものだ!そうじゃきゃ」

 とにかく間合いを詰める。

 そうしなければ―――

「私の努力がパァじゃん!」

 ……そういうことになる。


 押される事に嫌気がさしたのか。

 宗像騎が不意に左に急ターンをかけた。

「そこぉぉぉっ!」

 ブースター出力を高め、有珠ありすは再び宗像騎に斬り込んだ。

 モニターに収まりきらないほど間近に見える宗像騎。

 その装甲の些細な汚れまで綺麗に映し出される。


「もう逃がさないっ!」

 有珠ありすは斬艦刀を空中で軽く放り投げると、逆手に握り直し、一気に突き出した。

「これで―――終わりよぉぉっっ!」





●鈴谷ハンガーデッキ

「―――以上だ」

 坂城の前で正座させられた宗像と有珠ありすは、安堵のため息を一緒に吐き、前のめりに倒れた。

「ったく」

 坂城はその場を離れながら愚痴った。

「貴重なビームライフル海に捨てやがって。おうシゲ。予備のライフル組み上げておけ」

「了解っす」

「全く……ウチの騎士共ってのは揃いも揃ってバカばかりだ」

「それにしても」

 シゲは“白雷改”を誇らしげに見上げながら言った。

「メサイアで空中戦、しかも格闘戦が出来る時代が来るとは……いや、感慨深いですねぇ」

「フン……鵜来の突き技を、騎体を沈めることで回避した宗像さんが逆に突き殺す……今までの理屈が通じねぇ戦いの始まりだが」

 ハァッ。

 坂城はため息をついた。

「……その分、余計にぶっ壊してくるバカが増えるってわけさ。整備にとっちゃたまんないぜ」





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