11話:レクス君流コボルトキング駆除~雅~
リンツ村――風車塔。
明朝。
風車塔の一番上の見張り台に立っていたレクスが、数キロ先から野菜畑を踏み荒らしながらこちらへと向かってくる集団を目視した。
「――ターゲット発見。コボルトキングおよび三組の群体を確認」
「やっぱり来たわね。夜の間に門を閉じといて良かったわ」
隣に立つアルトが分厚い防寒着を着込んだ状態で、眼下の村へと目を向けた。
ここならば良く見えるが、リンツ村は頑丈に組まれた木の柵によって囲まれており、普段は開け放たれている門も閉ざされていた。
ゴブリンやコボルト如きでは決して破れない柵に門ではあるが……レクスが見る限り、やって来ているコボルトキングはかなり大きい個体だ。体長は三メートルを超えているだろう。顔や身体の傷を見る限り、歴戦の個体である事が分かる。
手には巨大な骨を加工して作ったであろう、ハンマーが握られていた。あれを振るえば、木の門など簡単に破られてしまうだろう。
なによりその凶悪な顔は怒りで歪んでいる。おそらく夜の間に配下を数十体、フェンリルで間引いたせいだ。
「――駆除開始の許可を」
「え? もちろん良いけど。まだあんなに遠くにいるわよ? それに狩人達に弓を放つ準備をさせているけど」
「必要無し。既に――射程圏内だ」
そう言ってレクスが膝を付くと、右腕を前へと突き出した。
「え……なにそれ」
アルトがそう言うのも無理はなかった。
レクスは右腕から二脚銃架が生え、見張り台の床へと腕を固定。更に手のひらが変形し細長い銃口が飛び出す。エーテル吸収によって得た魔力を風と火の双属性に変換し、銃弾を生成し装填。
その様子をアルトは【魔力視】でジッと見つめていた。
「やっぱり……一瞬だけど、見た事もない魔力量が発生してる……」
アルトは、やはりレクスが魔力を使える事を確信したのだった。既存の魔術体系とはかなり違うやり方だが……。
いやそれより、腕が変形したり、腕から脚が生えたりするのも魔術なのだろうか……という新たな疑問を抱いたアルトだった。
「狙撃モードに移行――発射」
そんなアルトをよそに、タッーンという発射音と共に、銃口から銃弾が射出される。
銃身内の魔力によって加速発射された銃弾は込められた風の魔力によって風を纏いつつ回転。風の影響を受けない為、銃弾は狙い通りに直進しコボルトキングの額に命中。さらに火属性魔力が解放され――
コボルトキングの頭が爆ぜた。
「命中――殲滅せよフェンリル」
「ゲギャ!?」
「ゲギャゲギャ!?」
頭部が吹っ飛び、そのまま地面へと倒れたコボルトキングを見て、周囲のコボルト達が騒ぎ始めた。そんなコボルト達に、これまで近くにいて隠れ潜んでいた銀色の獣が襲いかかる。
「ゲギャギャ!!」
逃げ惑うコボルト達を、フェンリルは水属性の魔力で生成した爪と、口から高圧を掛けて放つ水流で切り裂いていく。周囲の畑や牧草地への被害を考慮しての属性選択であり、威力は十分だった。
レクスも援護とばかりにフェンリルから離れた位置にいたコボルトの頭を次々と撃ち抜いていく。
それはあまりにも一歩的な虐殺だった。
最後の一匹をフェンリルが噛み殺し――沈黙が辺りを支配する。
「――ターゲットオールダウン。殲滅完了。フェンリル、ダメージリポートを……ダメージゼロ。帰投せよ」
「……ありえない。こんなことって……」
「マスター。任務完了だ。村付き冒険者としての役目は果たせただろうか?」
俯いたアルトに、レクスが無表情でそう聞いた。
完璧な仕事だったはずだが、なぜかアルトはわなわなと肩を震わせている。
「……いわ」
「……?」
「凄いわレクス君!! 何今の魔術!? 見た事無い!! それにフェンリルちゃんも魔術が使えるの!?」
アルトが感極まってレクスに抱き付いた。その顔には満面の笑みがあった
「――【竜劫砲】の狙撃モードだが?」
「ファーヴニルって言う魔術なのね……聞いたことない!! ありがとうレクス君! 君凄いよ!! だってあんなに強そうなコボルトキングが!」
「否定。あの程度ならば脅威にもならない」
「……きっとレクス君って元Sランク冒険者なのよ!」
アルトが嬉しそうにそう言いながら、レクスを連れて風車塔を降りていく。下では様子を見ていた村人達が英雄の登場に沸いていた。
「凄いぞ!! 俺はあんな魔術見た事ねえ!!」
「わんこ強かった!!」
「あの兄ちゃん、魔術師なのか?」
「なんか頼りない奴だと思っていたが撤回するぜ! 俺はあいつをこの村付き冒険者と認める!!」
降りてきたレクスを賞賛の嵐が襲う。
「よっしゃあ! 死体を片付けたら、村を挙げて宴会をするぞ! レクスの歓迎会だ!!」
ロアが嬉しそうにそう言って、周囲を盛り上げていた。まるで自分の事のように喜んでいる姿を見て、アルトがふふっと笑った。
そしてアルトは村人達の笑顔を見て、アルトへと振り向いた。
「……村付き冒険者としての責務は立派に果たせているみたいだよレクス君。さ、今日は飲むよ! 片付けはみんなに任せたらいい!」
アルトはそう言ってレクスを酒場へと引っ張っていく。
「了解。フェンリルも良い仕事をしたな」
駆け寄ってくるフェンリルを見て、レクスはそう呟いた。
こうしてレクスは正式にリンツ村の村付き冒険者として、村人達から認められたのだった。
しかし息つく間もなく、また新たな問題が勃発する。
「荒らされた畑が穢れた!?」
「コボルトどもめ……あいつら汚染されていやがったとは…………どうするんだこれ」
「廃棄するしかないんじゃないか…」
レクスの農業が――始まろうとしていた。
狙撃も出来るよレクス君。反省を活かして、ピンポイント狙撃と水属性攻撃で周囲の環境にも配慮してます。
次話からは、レクスさんのアグリカルチュアルな一面を見られるとか。ミッション:汚染された土壌を救え! みたいな感じですかね




