10話:戦術支援用魔導兵器フェンリル
「えっと……つまり……?」
「俺のオプション兵器……じゃなくてペットだ」
「ペット? この銀狼が?」
「うむ……おそらく俺の後を追ってきたのだろう」
レクスとアルトがそう会話しているうちに、フェンリルは村人達に頭や身体を撫でられて、満足そうな顔をしていた。
「ずっと村の門のところにお座りしててね。大人しい良い子だったよ?」
村の子供がそう言って、ふわふわの毛皮を撫でている。
「ふう……コボルトキングじゃなくて良かった……」
「すまん……俺もまさか来ているとは思わなくて」
レクスは心の中で溜息をついた。サブメモリ内にある記憶では確か、フェンリルは見た目こそ普通だが、一皮剥けば自分と同様に、あの帝国軍の変態共の技術の結晶が詰まっているはずだ。
正式名称は戦術支援用魔導兵器【フェンリル500ZZ】。レクスの素体である男の相棒で、希少な魔物である【月狼】をベースにしており、あれこれ魔改造されている。また隠密行動や斥候などを行う為に、一見すると兵器に見えないように、魔物の中でも最硬度の毛皮を持つダイヤウルフの毛皮を使って狼のような姿に偽装している。
搭載されている人工知性も、普段は犬そのもののように振る舞うように出来ているので、まず偽装は見抜けない。
なんて考えているうちにサブメモリは再びスリープモードへと移行した。あまり長時間起きているとメインシステム側にバレると判断したからだ。
「可愛いわね。もしこの子がお喋りできたら、レクス君の記憶も何か分かるかもしれないのに」
アルトが良い子ね~と言いながら屈んでフェンリルの頭を撫でた。フェンリルもアルトがレクスのマスターであるという情報をすでにレクス内メインシステムとリンクしているおかげで把握していた。
「肯定。フェンリルは言語把握能力は付属されているものの発声能力はない」
「でしょうねえ。ふー。その子も連れて行くんでしょ」
「肯定。取れる戦術の幅が80%上昇する。マスター、コボルトキングの現在地および戦力把握の為にフェンリルの使用許可を」
「使用許可? 良く分からないけどフェンリルちゃんがレクス君のペットなら、好きにさせても良いけど……危なくない?」
アルトが心配そうにフェンリルを見つめるが、フェンリルは舌を出してハッハッ息を吐いて、尻尾をブンブン振るだけだ。やはり大きな犬にしか見えず、アルトは心配だった。
「否定。単体火力は劣るものの、機動性、隠密性は俺より上だ。支援用とはいえ、魔物程度に遅れを取る事はない」
「そうなんだ……強いんだねフェンリルちゃん」
「わう!!」
ペロペロとアルトの頬を舐めるフェンリル。
「――行動を開始せよ」
レクスの無機質な声が響いた途端、フェンリルが瞳を赤く光らせ、そのまま村の外へと走り去った。
「行っちゃった……」
「今夜中に、コボルトキングの位置も把握できるだろう。明日明朝より駆除を開始した方が良い」
「あー……でもレクス一人じゃ、流石に……」
「否定。フェンリルも来た以上、機動力と火力が120%向上している。村に被害なく駆除は可能」
「……とりあえず考えておくから、勝手に行動しちゃダメよ?」
「了解。万が一村への攻撃行動が見られた場合のみ迎撃する」
「うん、無理はさせちゃだめよ。さ、酒場に戻りましょ。きっとロアがてんてこ舞いになっているわ」
そうして、集まっていた村人も解散し、二人は酒場へと戻ったのだった。
☆☆☆
月光の下、銀狼――フェンリルが走る。アダマンチウム重層合金製の四肢の爪が地面を蹴り、驚異のスピードを出していた。
その眼は高性能カメラになっており、熱感知も可能だ。更に頭部の耳には魔力波を放ち、その反射によって相手の位置を把握する、マジックエコーロケーション装置も搭載されており、360度全てをカバーしていた。
そんなフェンリルが、十匹ほどのコボルトを群体を発見した。フェンリルは動きを止めると体表に張り巡らせている魔光学迷彩を起動し、偽装モードを停止。呼吸などの心肺機能、体熱放射が無くなり、動かない限りはレクスですら探知はほぼ不可能なほどに隠蔽率が上昇する。
コボルト達は当然、自分達の側に危険な獣が潜んでいるとは知らず、何やら意思疎通をしながら村の方へと向かっていた。
彼らは苛立っている様子であり、棍棒を振り回し、よだれを垂れ流していた。
「げぎゃげぎゃ!」
「げぎゃ!」
フェンリルがそのデータを酒場で後片付けをしているレクスへと魔力波通信リンクを使って送信する。一秒も経たず、指令が返ってくる。
『――村を襲う危険性大。殲滅せよ』
フェンリル内の人工知性が、口内に搭載されている小型魔導砲の使用を検討するも、それによって他のコボルト達を呼び寄せる可能性を考慮し却下する。
フェンリルはゆっくりと、音を立てずにコボルト達に忍び寄る。残念ながら動くと魔光学迷彩の隠蔽率は大幅に下がるのだが、月光が出ているとはいえ夜の闇の中では、よほど近付かないとその姿は目視出来ない。
一番後方にいたコボルトの首を前脚と顎によって音もなく折ると、フェンリルはそのまま群体の中央へと飛び込んだ。
「ゲギャ!! ゲギ――」
フェンリルは大気中のエーテルを吸収し、闇属性の魔力へと変えると口腔内の砲口から長さを固定させながら放つ。それは闇に溶け込む黒い光剣となり、フェンリルが首を振るうと同時に暗い残閃を残しつつ、コボルト達を切断。
一振りで五匹のコボルトが死に、次の一閃で更に三匹が真っ二つになる。真っ先に逃げようとした最後の一匹にフェンリルは飛び掛かり、断末魔を上げさせる暇もなく首を切り裂いた。
その間、十秒にも満たない。そのあまりに静かで完璧な手際をしかし、目撃したものはいない。
結果として――その夜、村を襲うとした数組の群体はフェンリルによって全て、静かに葬り去られたのであった。
そしてそれを知ったコボルトキングが激怒し、日が昇ると共に、残りの配下を引き連れてリンツ村へと向かったのだった。――だがコボルトキングは気付いていなかった。飛竜なんかよりもよほど強い存在が村にいる事を。
こうしてレクスの村付き冒険者として、最初の仕事が始まろうとしていた。
しかしそれは――あまりに一方的な戦いとなる。
フェンリルちゃん無双。次話でコボルトキング戦決着。
その次から、農業と採掘が始まる感じですね~




