龍が如く
「龍!ボクを置いていくなよ!」
街並みをスタスタ早歩きで進む龍に甲高い声が響く。
声を無視して進む龍に杏は更に声を上げる。
「龍!龍ってば!!無視するなよ!!」
大五楼の街は夕暮れ時の買い物客でそこそこに人が行き交う。女の子が必死で叫んでいる時点で龍に視線が刺さってくる。
「龍!!おいってば!」
「だあ!!俺を呼ぶんじゃねえよ!!何なんだ!!」
街の視線に耐えきれず龍が杏を睨みつける。
「さっきから呼んでるのに龍がボクのこと無視するからだろ!何怒ってるんだよー。」
龍はスタスタと杏の傍に近寄る。
杏はちょっとビクッとする。
「杏、おめぇ俺に何か用でもあるのか?俺はもうおめぇに用はねえ、家に帰りな。」
杏の頭をポンポンする龍。
「さっきも言っただろ!借りを返すまではボクは龍に付き纏う!」
「それは恩を仇で返すってやつだろ!」
ムスッと頬を膨らませる杏。
龍は頭をボリボリとかいた。
(オルセンの兄貴恨みますよ…俺の名前こっそり教えてオマケにどっかにいっちまうし…)
「杏が助けたカップルは何とか軽い怪我で無事だったし、礼も沢山言ってただろ?借りも何もねえ、杏おめぇはちゃんとやり遂げてんだよ。」
「ボクは、助けれなかった…龍が来なかったら…ボクは…」
「分かった!杏、お前にちゃんと向き合ってやる、まず家を教えろ。」
「ボクの家は…教えたくない…」
しょんぼりする杏。
「あ?何でだ?ヤバい家なのか?」
「ヤバいとかじゃ…ないけど…」
杏は更に暗くなり、声もどんどん小さくなる。
「…まぁこれ以上は聞かねえけどよ、もう日も暮れちまうから帰らねえとよ。」
「…龍、明日も街に居る?」
悲しそうな声を絞り出して杏は、龍を見つめる。
「あぁ、俺はこの街でまだやらなきゃいけない事があるんでな。」
龍は優しく杏の頭を撫でた。
「本当に?じゃあ、また明日会えるの?」
「おうよ。」
龍は自分の胸をドンと叩いた。
「じゃあ!約束だよ!龍!またね!」
杏は、幸せそうな顔で手を振りながら街並みを走って行く。龍は手を挙げて杏を見送った。
「さてと…」
一言呟くと龍も夕暮れの街に消えていった。
◇◇◇◇
杏に親は居ない、街の外れの使っていない壊れた倉庫に住んでいる。7歳まで親無しの子が集う街の施設で育てられていたが、ある日の夜、突然杏以外の施設の人間(子供も含む)全員が何者かに惨殺される。運良く逃れた杏は街の片隅で野良猫の様に必死に生き延びる。
ジャリ…ジャリ…
10人の怪しい黒い影が月明かりに照らされる。
「やっと来やがったか…」
「!?」
目の前に現れたのは龍だった。
「あ!兄貴!コイツです!!」
「ほぅ…」
顔中にピアスをした、痩せ型の男が龍の前に出てくる。
「お前がコイツらの頭か?」
龍がピアスの男を睨む。
「さぁねぇ…まぁ俺らに手を出すってことは、この街の者じゃねえな、兄ちゃん何者なにもんだ?」
「俺が誰だっていいじゃねえか、お前らこの先のボロい倉庫に何か用でもあんのか?まさかあんな小さな子供に仕返し?か?情けねえ…」
龍がヤレヤレと両手を挙げる。
「やかましぃ!!あのガキとっ捕まえて、てめぇをおびき出すつもりだったんだよ!!」
「お前を殺してあのガキもぶっ殺してやんよ!!」
昼間、龍にぶっ飛ばされた二人組が龍を怒鳴りつける。
「おい、お漏らしコンビ、百倍にびびらなかったのは褒めてやる、だが手は抜かねえからな…」
龍はニヤリと笑う。
「この野郎っ!!!」
お漏らしコンビが龍に飛びかかろうとした瞬間ピアスの男が一喝する。
「やめろ!!阿呆共!!」
シーンとする9人のチンピラ達。
「この兄ちゃんはよ、修羅場潜ってやがる。お前らが何人かかっても殺れねえ…」
ピアス男は、懐から小刀を出す。
「ピアス野郎にも殺れねえけどな!(笑)」
龍は制服を脱ぎ捨てる。
「吐いた唾飲まんとけよ!」
ピアス男は、小刀を構えて龍を睨む。
「兄貴!殺っちまえ!」
「殺されろ!糞ガキ!」
9人のチンピラは、龍をぐるりと囲んだ。
ジリジリと間合いを詰めるピアス男。
「おい、ピアス男ここを狙え。」
龍は、自分の左胸を親指でトントンと叩く。
ピアス男は、顔が真っ赤になっていく。
「このガキ…とことん舐め腐りやがって…」
「いいか心臓だ、ぜってー外すんじゃねえぞ!!」
龍がピアス男にニヤリと微笑む。
「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」
ピアス男は凄まじい勢いで龍に小刀を向け突っ込む。
龍は直立不動で動かない。
「外すんじゃねえぞおお!!」
ドカッ!!
ピアス男が龍の左胸に小刀を突き刺すが、小刀は根元から折れる。
「ばっ!?」
ピアス男は、顔面蒼白になりながら叫ぶ。
「おいっ!!長刀寄越せ!!」
「へ、へいっ!!」
チンピラの一人が長刀をピアス男に投げる。
ピアス男は長刀を受け取り、龍の首に鋭い斬撃の弧を描く。
「奥義 孤月斬!!!」
バキッ!!
長刀は龍の首に当たるとポッキリ折れた。
「な、ななな!!!」
尻もちをつくピアス男。
9人のチンピラ達は、口をポカーンと開けて固まっていた。
「終わりか?じゃあ俺のターンだな。」
龍がコキコキと拳を鳴らす。
「ま、待ってくれ!!待ってくれ!!」
ピアス男が両膝をつき右手を広げる。
龍は、ニヤっと笑いピアス男に言った。
「本当の恐怖ってやつを教えてやるよ。」
「助けてくれええ!!」
ピアス男の叫び声が響いた。




