赤毛の杏
柄の悪そうな二人組の男が怒鳴り散らす。
「いいから言うこと聞け!こら!」
「ほら、こっち来い!」
嫌がる女性の腕を男の一人が無理やり引っ張る。
「やめてください!お願い!」
女性は泣きながら腕を離そうとする。
「い、いい加減にしろ!」
既に殴られ顔面が腫れ上がる彼氏と思われる男が立ち向かう。
「やかましいわっ!」
柄の悪い男が、更に彼氏を殴り倒し蹴りを何回も浴びせる。
「誰かっ!誰か助けてっ!」
女性は叫んだ。
そこそこ人が通る街並み、誰一人として女性の言葉に耳を貸さない、目も合わせない。
「ぐはは!諦めろー姉ちゃん!たっぷり可愛がってやるから安心しろって!」
泣き顔の女性の顎を掴み、舌を出す男。
「おいっ…」
こんな場面に声を掛ける者が居た。
「あん?」
柄の悪い二人組が振り向くと、小柄な子供が睨んでいた。
クリクリの赤毛のショートカット、動きやすそうな軽装、何故か拳にはバンテージの様な物を巻き、愛らしい顔立ちから女の子と分かる。
男達はキョトンと顔を合わせ、何事も無かった様にそのまま女性を引っ張って行こうとした。
「その女の人から汚ねぇ手を離せって言ってんだよ!!」
赤毛の女の子は、一人の男の背中に拳を繰り出す。
バスッ!
「痛え!何だこのガキは!?」
「おいおい!お前、ガキに攻撃されたぞ!ぶはは!」
「うるせえっ!おいっ!ガキ、お前の親連れてこい!」
逃げようとする女性の腕をキツく締めながら男は、怒鳴った。
「親だあ?ボクにそんなもの居ねえよ!いいから女の人から手を離せってんだっ!屑野郎!」
ポキポキと拳を鳴らす赤毛の女の子。
「ぶはは!おい!喧嘩売られちゃってるぞお前!」
相方の男は、大笑いしながら茶化した。
「ガキが…」
顔を真っ赤にして、男は女性を突き飛ばした。
突き飛ばされた女性は彼氏の元へ駆け寄り泣きながらうずくまる。
「お!子供相手に喧嘩かよ!負けんなよ!(笑)」
更に茶化す声に、男はキレて赤毛の女の子に襲いかかる。
「糞ガキがあ!」
赤毛の女の子は、ファイティングポーズを取り足をステップさせる。
男が殴り掛かるがそれを華麗に躱す。
シュッ!
バスッ!
男の背中に拳を繰り出す。
「ぐ…てめぇさっきと同じとこ殴りやがったな!」
顔をしかめる男に、赤毛の女の子はステップを踏んで拳を背中に繰り出す。
シュッ!
バスッ!
「ぐわぁ!」
男は苦痛の表情で背中を押さえる。
「おいおい!ガキにやられてんじゃねえか!ぶはは!」
相方の男は大笑いしていた。
「くそお!」
男はヨロヨロと倒れそうになる。
赤毛の女の子が再度拳を繰り出す。
シュッ!
ガシッ!
「!?」
男は赤毛の女の子の腕を掴んでいた。
「馬鹿が!殴るとこ分かってればこうなるんだよ!」
男は掴んだ腕を引っ張りながら赤毛の女の子の顔面を殴った。
ドカッ!
赤毛の女の子はグッタリとしたが男は腕を離さない。
「へへ!あと二発だな!死んじゃうかもなあ!」
男は目が血走り興奮状態だった。
彼氏の元でうずくまっていた女性が立ち上がり、赤毛の女の子を助けようと男の腕に掴まる。
「糞女邪魔すんなっ!」
男は女性を蹴りつける。
女性は倒れてグッタリとした。
「さて、ガキにはお仕置きしないとなぁ!!」
気を失っている赤毛の女の子の腕を引っ張り立ち上がらせる。
ドカッ!!!
「あれ??」
男の視界は真っ逆さまになっていた。
(地面が上にあって?空が下にあって?)
混乱する頭から次に男に襲いかかる凄まじい痛覚。
「ぎゃあああ!!」
ドカッ!!!
「うわあああ!!」
柄の悪い二人組は宙に舞っていた。
地面に落下した男が見たのは、ボロボロの学生服を着た男だった。
「生ゴミ共が!」
学生服の男は、赤毛の女の子をそっと寝かす。
「オルセンの兄貴!回復の薬とか持ってないんですかい?」
「あるわけねーだろ、だがここから近いとこに知り合いの医者が居る、そこに連れて行くぞ。そっちのカップルもな。」
「分かりやした!と、その前に…」
龍は倒れた男二人の襟首を掴みギロっと睨んだ。
「お前らこれで済んだと思うなよ、面あ覚えたからな、この百倍覚悟しておけ。」
二人組は龍の目を見て、ガクガクと震えて漏らしていた。
「けっ!」
龍はオルセンの元に駆け寄る。
「龍、行くぞ!」
「へいっ!」
◇◇◇◇
オルセンと龍は小さな病院の待合室にいた。
「オルセンの兄貴、こんな病院よく知ってますね。」
「まぁな、この街は庭みたいなもんだ…」
何となく格好よくオルセンは言ってみた。
「それじゃ、あのゴミ共に心当たりありますかい?」
「アイツらは多分、怒羅金の連中だ。」
「怒羅金?聞いた事ないですね。」
「だろな、本当最近目に付くようになってな、段々増長してってるな。」
「その怒羅金の頭は誰なんです?」
「分からねえ、なんつーか組織ってよりも宗教に近いな、悪事を糧とする教えみたいなのを吹き込まれてるヤツらが多い。だからそいつらに頭を聞いても分からねえ…」
「そうなんですね…頭潰せば早いと思ったんですけど難しそうですね。」
「おいっ!」
突然の声にオルセンと龍は振り向く。
そこには右頬に湿布のような物を貼り付けた赤毛の女の子が立っていた。
「おお!気が付いたみたいだな、大丈夫かお前?」
龍が声を掛ける。
「ボクを…じゃなくて…アイツらをやっつけてくれたんだろ?お前ら。」
赤毛の女の子はちょっと下を向きながら言った。
「お嬢ちゃん、やっつけたのはそいつだ、俺は何もしてないぜ。」
オルセンは龍に手を向けた。
「え!?いや…まぁ…確かに俺がやったけど…」
龍はブツブツと呟く。
赤毛の女の子は龍の前にスタスタと近寄る。
「あの…あ、ありがとう…」
そして顔を真っ赤にして頭を下げた。
「お、おう!いいよ礼なんて。」
龍は何となくアタフタした。
「な、名前教えてくれよ…」
赤毛の女の子は、モジモジしながら聞いてきた。
「名乗る程の者じゃねえ、礼は受け取った。筋は通った、それで終いだ。」
龍は赤毛の女の子の頭をポンポンした。
「そ、そうはいかねえ!お前に借りが出来ちまったから借りを返すまでボクは一緒にいる。」
そう言うと、赤毛の女の子は龍の学生服の袖をちょこんと掴んだ。
「龍…お前、犯罪者になっちまったなぁ…」
オルセンがため息をついた。
「ちょっ!いやいやいや犯罪者?オルセンの兄貴!何言ってるんですか? 」
必死の無罪アピールの龍に、赤毛の女の子は袖を引っ張る。
「な、お前なぁ、借りって何だよ?俺はムカつく奴をぶん殴っただけだ、貸し借りなんかねえからな?分かったか?」
「ボクの名前は、杏、お前もちゃんと名乗れよな、男だろ?」
袖を絶対離さない構えの杏。
「話を聞けよ!」
困りきっている龍にオルセンは笑顔だった。




