闇の祠
彼女が見上げたのは、ほぼ垂直に等しい岩壁だった。
(…頂上が雲で見えない…)
岩壁の山?と言うべきか…登るという発想さえ常人ならば出てこない岩壁。
「頂上に居るのね…シャナ エッペン様…」
いちかはボソッと呟き、頬を軽く叩いた。
弱冠19歳にして軍の大将まで上り詰めた沢渡いちかの運動能力は、他の兵とは比べ物にならないくらいに抜きん出ていたが、目の前の岩壁をロッククライミングする気は流石に起きなかった。
(私の魔力が尽きるまでが勝負!)
いちかは呪文の詠唱を始める。
するといちかの靴の裏に黒い霧が現れる。
いちかの足は地面を離れた。
ぐんぐんと上昇するいちか、彼女は浮遊しているのだ。
いちかは真っ直ぐ上を見つめていた。
上昇しながら雲の中に突入する。
視界は一気に悪くなり辛うじて岩壁が見える。
(段々と見えてきた…)
いちかは、雲を突破し頂上を確認した。
頂上は、岩壁が細くなり古びた祠が見える、まるで仙人でも住んでいる様な景色。
頂上まで辿り着き祠の前に立ついちか。
「…本当に来たのか…」
突然語りかける声にいちかは辺りを見回す。
「あ!シャナ エッペン様!」
祠の奥に座り込むシャナ エッペンがいちかをジロリと見ていた。
「…でかい声を出すな…全く…」
いちかはシャナの前に跪ひざまずき頭を下げた。
「…娘、名前を聞こうか…」
「沢渡 いちかと申します。」
いちかは、シャナの目を真っ直ぐ見て敬意を込めて答えた。
「…ドルイドとは何処で会った?…」
「…分かりません、物心ついた時から一緒だったので。」
「…お前捨て子か?…」
「はい、そうです。」
目を閉じるいちかに、シャナは「ふむ…」と何かを納得した。
「…ドルイドは、私の元部下だ…魔王軍四天王の一人 " 影のドルイド " と呼ばれていた女だ…」
「!?」
いちかはシャナの言葉に驚愕の顔を見せた。
「元部下?…魔王軍?…」
「…お前が知るはずも無い…私は元魔王、世界を征服しようとしていた…」
「魔王…」
「…くくく…そうだ…逃げ出したくなったか?…」
シャナは肩を震わせて、小さく笑った。
「いえ…私がシャナ エッペン様に会いに来たのは、闇魔法を教わる為です。逃げ出す為に来たのではありません。」
いちかはキッパリと言った。
いちかの決意を聞いてシャナはムッとする。
「…私の闇魔法を教えてほしいと言ったな…何故だ?…言ってみろ…娘…」
「…なりたいんです。」
「…?」
ボソボソと呟くいちかに、シャナは顔をしかめた。
「強く…強くなりたいんです!」
シャナを強く見つめるいちかの目には熱意が込められていた。
「…何故強くなりたい?…言ってみろ娘…」
「母の…仇を取りたいんです。」
「…ドルイドは死んだのか?…」
「はい…」
「!?」
シャナの表情が険しくなり殺気を放つ。
「…ドルイドを殺したのは誰だ…言え…」
「…餓者軍中将 死なないワニ。」
「…餓者軍中将か…」
シャナの殺気は祠全体を包み込んでいた。
「…それはいつの話だ?」
「9年前、私が10歳の時です。」
「…そうか…」
シャナはそう言うと立ち上がり、祠の奥に歩き出す。
「あ、あのシャナ エッペン様…」
置いていかれそうな雰囲気にいちかが思わずシャナを呼び止める。
「…早く着いてこい…いちか…」
振り向かずにシャナが答えた。
「は、はい!!シャナ様!」
「…でかい声を出すな…全く…」
シャナの面倒くさそうな文句が祠に響いた。




