桐生家とエナメル家
瞬とゆきは、洞窟の一本道を歩いていた。
「多分だけど…火の鳥の力が弱まったのかもしれない。」
瞬が呟いた。
「え!?弱まったの?」
「うん、火の鳥の力の効果が薄れて、本来の道になってるんだと思う。」
「だから、偽物の道が消えたの?」
「うん、理由は分からないけどね。」
ゆきは、瞬の話を聞いて妙に納得した。
「でも、もしそうなら、火の鳥は弱ってるのかな?病気とか…」
「分からない、でも進むなら今しかないよ。」
「うん。」
◇◇◇◇
ノワン国
エナメル邸 ━━━━━━━━━━━━━━
「お父様!本当ですの!?」
ガリーナは、思わず叫んだ。
「あぁ、セブンピア国からの正式通達だ。おめでとう!ガリーナ。」
葉巻を吸いながら、ガリーナの父は笑顔で答えた。
「これで私も卒業…嬉しいですわ。セブンピア国の何ていう軍ですの?」
「ベルサイユ軍だ、元帥はオスカル アマチュエ。最近名が知れてきた若い元帥で、各国から精鋭を集めてる。我がノワン国からはガリーナ、お前が選ばれたのだ。」
「私だけが…」
ガリーナは、感動していた。
「収穫祭ではない時に、軍からのスカウトがあるのは、ノワン国では初めてだそうだ、よくやったぞ!ガリーナ!しかも名門セブンピア国の軍、エナメル家もこれで安泰だ!」
(これで、桐生春香より活躍して私の名前を世界に知らしめてあげますわ、見てなさい。)
ガリーナは燃えていた。
◇◇◇◇
桐生邸 ━━━━━━━━━━━━━━━
「ねえ、知ってる?最近ノワン国の北部で、餓者軍が出たって。」
「本当?怖いわー、軍はちゃんと守ってくれてるのかしら。」
桐生家に仕えるメイド、マキとユリアが廊下を掃除しながら雑談をしていた。
「餓者軍って滅んでないのね…」
ユリア(太め体型)が、モップをクルクルさせた。
「私も見たことはないけど、餓者軍って骸骨が剣を持って襲ってくるんだって!旦那から聞いたことあるの。」
マキ(更に太め体型)も、掃除の手を止めた。
「骸骨なんて怖いわよ!マキの旦那さん、軍に食料届けてるんだっけ?そこで聞いたのかしら。」
「うん、旦那が仲良くなってる兵から聞いたみたい。」
「じゃあ、本当なのね…他の国とかも餓者軍に襲われてるのかしらね。」
「怖いわ、息子のアップルリッツに何もなきゃいいけど…」
「そーいえば!アップルリッツで思い出したわ!エナメル家の娘さん、特例でスカウトされたんですってね!」
「凄い情報早いわね、昨日息子から聞いたばっかりよ。」
「君達、お喋りはその辺にして業務に戻ろうか。」
マキとユリアの後ろに突然ヴィネットが現れる。
「!?」
「は、はい!すみませんヴィネット様!」
「すみません!」
マキとユリアはモップやら掃除道具を持ってそそくさと退散する。
ヴィネットは、軽くため息をついて、奥の部屋のドアをノックした。
「入りなさい。」
ヴィネットが部屋に入ると、春香の父、桐生全蔵が窓越しに立っていた。
「旦那様、御用で?」
「う、うむ、実はな…」
全蔵は、言葉を止めた。
「何かあったのですか?」
ヴィネットは、全蔵の目をじっと見た。
「いや、最近餓者軍がこの国にも頻繁に来ているのは知っておるな。」
「存じてます。」
「私は、娘が…春香が心配でな。」
全蔵は弱々しい声を出した。
「春香様は、現在ムーンブルク軍に入隊してます。少なくとも一番安全な場所です。」
ヴィネットは、キッパリと言った。
「ヴィネットよ、お前は元々ムーンブルク軍、春香の元に行ってはくれぬか?」
全蔵は、ヴィネットを見た。
しかし、ヴィネットは首を横に振った。
「やはり…駄目なのか…」
「旦那様、私はもう兵を引退した身。私の使命は旦那様を守ることです、お許しください。」
ヴィネットは片膝をついて、頭を下げた。
「ヴィネットよ、何故そこまで私にこだわるのだ。」
ヴィネットは、沈黙した。
「確かに私は、昔お前を助けた。しかし、倒れている人間を放っておく事など誰も出来ぬ。」
「…旦那様は、行き倒れていた私を人間として扱いました。鬼族と分かっていながらです。…私は、貴方に残りの時間全てを捧げたいのです、ご迷惑でしたらおっしゃって下さい。」
「分かった!もうよい。」
「失礼致します。」
ヴィネットは一礼して、部屋を出た。
そして、スーツの胸ポケットから古びたペンダントを取り出した。
ペンダントを開くと、笑顔の少年と可愛らしい幼い少女の写真が入っていた。
(…ミュソラニール…生きろよ…)
ヴィネットは、ペンダントを閉じて屋敷の階段を降りていった。




