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TRUE†LIE  作者: ひつじ
5/11

✝謎✝

――…そんな野球部部室騒動から2日後の朝。


「ふぁーあ… 昨日も書類作業ばっか押しつけやがって…。

くそ櫻井め」

「もー 櫻井 ”さん” でしょ、柚杞くん!

それに、あたしたちは寮や生活費もお世話になってるんだからそれくらいしなくちゃダメだよ?」


 教室に続く廊下を歩きながら、ため息とともに大きなあくびが俺の口からこぼれ落ちる。


「だってよー…。」

「だってよも、何も言わないの!……おはよー!」


 なんだかんだで丸め込まれて俺はしぶしぶと教室の扉を開ける葉月の後ろに続いて教室へ入る。

その途端にわかる。教室の変わった空気。

(なんだ…この異様な空気は…?

まさかまた…?)

 ふと教室の奥に目を向けると、なにやら浮かない顔をした歩と捺の姿が目に入った。


「歩!捺!一体、どうしたんだ?」

「柚杞、葉月ちゃん…!」

「なにかあったの?なっちゃん」

「…うん。 実はね…、また現れたのよ、例の…」


心配そうに首をかしげる葉月に捺が苦々しげに話し始める。

(例の… )

 今回は、そのセリフだけで俺はすぐに直感する。


「噂のやつらか…!」

「……実は、5組の教室が荒らされたらしいの」


 遮って答える俺の問いに無言のまま捺がうなづいて、そう続ける。


「荒らされた?どんな風に?」

「うーん…特になんていうわけでもないんだけどね。

野球部の部室と同じように窓ガラスが割られたり、教室がめちゃめちゃにされてるらしいの」

「なんだ…そんなことか」

「そんなことってなんだよ柚杞。これでも結構一大事だぞ?」

 

ふとこぼれた心の声に、歩が口をとがらせる。

(ヤバ…。これじゃ、『荒らされたぐらいなんだよ』

って言ってるみたいに思われたな…)

そんな誤解を解くべく俺は、必死に説明をつけたす。


「悪い悪い いやいや…みんな空気が重いからてっきり誰かが何かあったとかそういう感じかと思っちゃったからさ」

「あぁ、そういうことか。確かにイタズラにしてはみんな空気が重すぎるもんな。でも 誰もひどい被害とかはなくてほんとよかったよな」

「だね。まっ、それだけだよ!あ 葉月、一緒にトイレいこー」

「うんっ。じゃあ柚ー…杞くん。行ってくるー」

「はいはい…いってらっしゃい」


 捜査員の時のいつもの調子で『ゆず』と呼びかけてあわてて言い直すと、笑顔で手をふる葉月。

それに対して俺は、ちょっと苦笑いしつつも手をヒラヒラと振って返して見せる。

 葉月と捺が教室を完全に出ていくのを見送った後、俺はまっすぐ前を向いたまま視線を変えずに隣で同じように壁にもたれかかる歩に問いかけてみる。



「……で、なんだよ それにしては浮かない顔じゃんか」

「あれ わかる?」

「分かるね 分かりやすすぎるね」

「まじ? 参ったな…」

「んで 何をそう気にしてるんだ?」

「いや 別に大したことじゃないんだけどな。

ただ今まであった荒らされてたのはほとんど部室だったのに

それなのになんで今回は教室が狙われたんだろって…」


 んー、と軽く背伸びをして今度は後ろの窓枠に腕をくんで乗せるとそのなかに顔をうずめながら外の景色をぼんやりと眺める歩。


「なんでってそりゃ

犯人が何か探してるとかじゃないのか?だから順番にー…」


 そういった自分自身の言葉に、疑問を抱いて思い返す。

(順番…?

順番っていえば規則性があるのが普通だよな…。

野球部の次は5組…?別に共通点なんかはー…)


「…ずき? おい だいじょぶか?」


 考えのまとまらない意識の中歩の声が聞こえて、

俺は現実に引き戻される。


「わ、悪い。ちょっとボーっとしてた」

「んなの 見りゃわかるって」

「だな そりゃそーだ」


そういって、互いに笑いあう。


「あ おーい 柚杞ー、歩ー!

一限目の現社、視聴覚室に移動だってさー!!」


 トイレを終え葉月を連れて戻ってきた捺が、俺たちを見つけて手を振りながらそう教えてくれる。

それに歩が軽く振りかえして、それぞれの授業の教科書やらノートやらを取り出しながら会話を続ける。

「ま あくまでも嫌な予感ってやつですからねー、勘の域だし。

とりあえず捺に余計な怖さとか感じてほしくないんだ。それに…」

「………?」

 

 突然言葉が途切れたことを不思議に思い、探っている引き出しから顔を上げて少し離れた左側を見てみると、歩が想いに耽るようにつぶやく。


「あいつにはなんつーか…笑っててほしいし…。」


 すごく、優しい表情。

(なんだ…。なんだかんだでこいつも捺のこと好きなんじゃん)

 ただ、どうやら本人は自分のその感情すらどういうものかわかっていないのだろう。

(はぁー…っ お二人さんとも、不器用なこった…。あ そーだ♪)

そう閃いて俺は、変にニマニマした顔を浮かべながらわざと歩に突っかかってみる。


 

「ふーん?それでそれでっ?」

「な、なんだよっっ!その顔っ!

柚杞お前ね、からかってんだろっっ!」

「いんや そんなことねーよ?」


 照れながら怒る歩。

しかし、それまた俺はサラリと交わして見せる。


「うそつけっっ!!」

「柚杞?歩ー?早くー!」

「あいよー」

「あ 待てこら柚杞!今の、ぜーーーったい秘密だかんなっ!」


 廊下から待ちくたびれた捺の声が聞こえて、俺は歩から逃げるためにわざとそれに対して答える。

歩より先に教室から出たため、歩が最後に教室から出てきて最後尾を葉月と捺、そして俺という列の最後尾を歩きながらちょっとふてくされたようになにやらひとりぶつぶつと呟く。


(さて 『ぜったい秘密』…、か  どうしようかな♪)

 俺はひとりそんなこと思いながら、次の捺たちの後ろを歩くのだった。




――…コンコン。



 学校から帰り、のんびりした俺たちの部屋にノックの音が鳴り響く。

(なんだ? 櫻井のやつ、また書類仕事押し付けに来たのか?)

読みかけの本を閉じ、玄関にパタパタと駆けていく葉月。


「柚杞、葉月。ちょっといいかな?」

「はーい  あ 藍田さん、お仕事お疲れ様です」

「あぁ、葉月たちもこの間の潜入捜査ご苦労だったね。

  お なんだ、柚杞もいるじゃないか」


 葉月に藍田さんと呼ばれて、出迎えられた男が葉月の隙間から覗いた部屋の奥にいた俺を見つけて、ひらひらと手を振る。

藍田さんーー…フルネーム、藍田あいだ 圭吾けいご

こうして陽気な性格だが、これでも一応西鈴警察署本部の総司令長官と呼ばれるトップに立つ人だ。


「ちわ。お忙しそうな藍田さんが俺たちのとこに来るなんて……

なに用ですか?」

「つ、冷たいなぁ。帰りに時間があったからおみやげをおすそわけがてら寄ってみただけだよ。ほら」


 ため息交じりに問いかける俺に苦笑いを浮かべながら藍田さんが腕に下げた紙袋から、四角い箱を取り出す。

上の面だけがクリアになっていて、中からおいしそうなチョコレートケーキが顔をのぞかせる。


「わぁっ ショコラケーキっ♪やったぁやったぁ!

ありがとーございますっ藍田さん」

「こら はしゃぎすぎだよ、葉月」

「また君はそんなに堅そうな顔して…。

もっと 楽しそうに笑ってごらんよ 君だってまだ子どもなんだ ね?」

「でもな…組織ってのはそんな甘いもんじゃ――…」


嬉しそうに箱を高々と突き上げて回す葉月に俺がそう注意すると、俺の後ろでくすくすと藍田さんが笑いながら俺に呼びかける。


「こーら」

「ん… 」


 それでも言いよどむ俺に、

藍田さんが小さい子をしかりつけるような言い方で頬を軽くつねる。


「さて そういや君たち、今もまた何かの潜入捜査中かい?」

「いや 今は特に任務も受けてないですしね。

とりあえず情報収集中、ってとこですよ」

「ははぁ なるほど。まぁ君たちにはそういうのが適任だからね」

「それって  バカにしてたりします?」


 ショコラケーキにすっかり気をとられて答えない葉月の代わりにふざけ半分でそんなことをいってみる。


「いやいや… でもほんと、助かってるよ。

若い世代のほうが、情報っていうものは回りやすいものだからね」

「そうですね…  

俺たちだからこそできることをさせてもらおうと思います。」



キンコンキンコン…。

一時間周期で時間を知らせるの鐘の音に、

ふと掛け時計を見上げると時計はもう夕方の6時半をさしていた。


「おや いけない、随分寄り道をしてしまったな。

こんなに立ち話をするつもりはなかったんだけどあんまり楽しくてつい…家族みたいに、ね。それじゃおやすみ」

「おやすみなさい。お疲れした」

「お、お疲れ様です。おやすみなさい」


 やっと藍田さんが来てたことを思い出した葉月が、俺の後にそう付け加えて二人藍田さんの背中を見送るとドアを閉じてその扉に背を預けるようにしてもたれかかる。

(家族…、か。)

訳あって家族と呼べる血縁が葉月しかいない俺にとって、

あまり実感のわかない藍田さんの言葉に少しだけ俺は、

笑みがこぼれたのだった。

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