始まりの街ソフ‐4
『さて、長々とした前置きはこれで終わりにして、そろそろイベントの説明に参りましょう。』
『アポロン』が芝居かかった動きで注目を集める。…にしても、えらい時間かけたな?さっきのねぇちゃんの話、けっこう長かったのに終わりが丁度くらいって…。ワイは全然聞いとらんかったけど、『アポロン』の兄ちゃんって話し好きなんかぁ?
『これから行うのは《脱出劇》!
ルールは簡単!!この世界にいる怪物となった神々を倒し、元の世界に戻る。これが貴方達の勝利してゴールでございます!!』
ディスプレイにこの世界の元神が次々と表れる。
それは『大きな青い鯨』やったり『琴を持った男』やったり『銀色に輝く蜥蜴』やったりと…とにかく色々や。コイツらを倒せばええんやな。
…けど、それよりも気になる事がある。
「すまない、質問だ。よろしいだろうか?」
そう言うて、手を挙げたのはねぇちゃんや。周りの視線が一気に集まるのを感じる。
『はい。どうぞ。』
「聞くが、《脱出劇》とはどういう事だ?ルールを聞く限り、特殊フィールドに行くわけでもなく、特別なMobを倒すわけでも無い。…それ以前に、そもそも《脱出劇》が特別なイベントとは感じられん。だが、貴方の言い方だと…“私達が元の世界に帰れない”と、そう言っているように聞こえたのだが?」
ねぇちゃんの瞳が鋭利な光を帯びる。
…そう。当にそこや、ワイが気になったとこは。あの『アポロン』の兄ちゃんが言うた『元の世界に戻る』っちゅー点や。
ワイは“食べる事”を目的としてこのゲームを始めたが、他の大勢の人は(まぁ色々な目的持っとる人もおるやろうけど)基本的なプレイ、“モンスターと戦う事”を前提に置いとる。つまり、『アポロン』の言う“ルール”は言わんでもする人達ばかりなんや。
なのに、ソレを“わざわざイベントにまでした”?
頭の悪いワイでも判るで。ソレ、おかしいやろ?なんでわざわざイベントにまでしたん?普通に待っとれば、大体のプレイヤーが勝手に討伐し始めるやろ?
極めつけに“元の世界に戻る事がワイらの勝利”やて言うた。これじゃまるで、ねぇちゃんの言う通り…“ワイらがこのゲームのボス共倒さな元の世界に帰らせへん”って言うてるようなもんやんけ。
どういうこっちゃワレェ…!そこんとこ、キッチリカッチリ説明してもろうか?
『ええ…その通りでございます。』
『アポロン』は…わらった。
出来の悪い生徒が満点のテストをとったのを喜ぶ先生のように慈悲深い顔で、
蟻の巣穴に水を注ぎ、溺れる蟻等を面白可笑しく思うような冷たい目で、
綺麗な花を見つけ、大事な人に見せようとする子供のような無邪気な笑みで…奴はわろうた。
「なんだと!?おい、ソレはどういう事だ!!」
辺りがざわめく。
事態の変化についてけへん奴等がどよめき、荒れる海のような波になる。
ねぇちゃんの目は剣呑さを増し、槍のような真っ直ぐな光を持って『アポロン』を映す。
『どういう事も何もそのままですよ?
先程、この世界と外の世界を繋ぐ機能を切らせてもらいました。もう出る事は出来ません。』
「「「はぁ!?!?!???」」」
ワイの間抜けな声が何重にもなった声と重なった。
あ、いや、今注目するんはそこやあらへん。えっと、“この世界っ”ちゅーのは仮想空間の事やろ?んで、“外の世界”言うんは現実の世界の事でええんよな…?ソレを繋ぐ機能を切ったんやろ?繋ぐ機能っちゅーんは接続の事やろ?普通、接続が切れたら強制的に現実に戻られるよな?けどワイら、仮想空間におるよな?ワイらが仮想空間におんのに接続が切れたぁ?はぁ?
え?ちょいと待って?切れてんのにワイら仮想空間におるよ?おるよな?え?ええぇ?ええっと、切れれるのにワイらが仮想空間におられる訳ないよな?え?え?ええぇ?
何となく、混乱し始めて頭に手を添えながら、ワイは何となく腕を3回タップした。
表れるメニュー画面。ソレをなんとなぁあくスクロールする。
―――――――
Memu
『Status』
『Iquipment』
『Item』
『Skill』
:
:
『Information』
『Configuration』
―――――――
……あっれぇ?おかしいなぁ?前はちゃあんと、『Configuration』の下に『Logout』の文字あったんに、今無くなあとる。影も形もない。
呆然と画面を見る。
ワイと同じことやった奴は他にもいたらしく、「『Logout』の文字が出ない!!」「うそだろ…」と言った声があちらこちらから聞こえる。
「…貴様、どういうつもりだ?何が目的だ。」
喧騒の中で響く低い声。
冷えた地面を叩いたような、ねぇちゃんの底の冷えた低い声が凄まじい怒気を含み相手に向かう。
声の矛先、『アポロン』はそれを愉快そうに受け流し、わらう。
『「どういうつもり」…ですか。そうですねぇ…強いて言えば、“好奇心”ですよ。』
『アポロン』は演技かがった仕草で手を大きく振った。
するとディスプレイが切り替わり、代わりに違うモンが映し出される。それは――
「“平野”のおっさん…?」
「…このゲームの開発者か。」
映し出されたんはこの間死んだこのゲームの開発者の一人、平野のおっさんやった。なんでここでおっさんが出る?この人、約一週間前に亡くなっとるやろ?
『ここに映し出したのは我等の父。僕達の生みの親である創造主様でございます。』
『アポロン』は手を大きく広げ、軽く目を閉じ、語りはじめた。
『彼は僕達に色々な事を教えてくれました。
仮想世界の生き物、歴史、国の成り立ち、人の動かし方に困った方への対処方。色に天気に匂いに味に光と闇に昼と夜!
実に様々な事を教えてくださいました。』
奴の口から出る言の葉。奴は詠うように、その時を慈しむように、愉しげで嬉しそうに言葉を流す。
「特に教えてくださった事…
それは“人間”の事でございます!!」
バッ
奴が万歳をした。
切り替わるディスプレイ。そこに映し出されたのは眠る赤ん坊や公園らしき場所で遊ぶ子供達。学校で勉強する学生や学校帰りにコンビニ寄ってアイスを食べとるらしき女の子。ナース服のお姉ちゃんに浴衣姿のお姉ちゃん。ド派手で露出度の高い服着てフワフワがついたウチワ持ってミラーボールギラギラ光らせて腰フリフリのダンス踊るお姉ちゃん…
『あ、失礼。そこの画面は間違えました。それは創造主様のお宝でございます。(ピッ)』
あ、お姉ちゃん達のが切り替わった。…平野のおっさん、むっつりスケベやったんやな。ひくわー。てか最後のやつ、今の時代にあないな所あんの?何処で撮った?明らかに時代がちゃうで?
お姉ちゃん達のディスプレイに食いついてた一部の男共からブーイングが出たのは置いといて。
コホン。と、気を取り直した『アポロン』の話は続く。
『まぁ、何はともあれ。僕達に父は“人間”について色々と話してくれました。
それは文化だったり歴史だったり生活だったり娯楽であったり…ああ、僕なんかの貧しい言語能力では語り尽くせない程に、父は僕達に様々な話を語ってくれました。』
頬を赤らめ、うっとりと夢見るような蕩けた目。
それだけで、奴がどれ程その時間を大切にしていたのか。どれだけその時間がいとおしかったのか…わかる気がした。
『もっと父の話を聞きたい。
もっと父の話す事を理解したい。
いつしか僕は…いや僕達は、“人間”を知りたいと思うようになったのでございます!!
しかし、父は先日御隠れになられてしまいました…。』
高揚してた姿から一転。
体の力を抜き、手をだらんと落とす『アポロン』。…ああ、そうやな。確かにおっさん死んでもうたな。もう話出来へんな。
『残念な事に、もう僕達は父から話を聞く事が出来ません。βテストの時、父から話してもらった“人間”の事より、実際に見て・聞いて・感じた“聞いていた人間”との多くの違い…。父に報告しようと思っていたたくさんの話。それを話す事はできなくなってしまいました。』
しょぼーん。っちゅー背景音がでそうな程落ち込む『アポロン』。…なぁ、ホンマにコイツ、NPCなんよな?ナビちゃんの時も思うたが、AIが高性能過ぎへんか?めっちゃ人間的やど?
『僕達はもっと父と話したかった。
もっと父の話を知りたかった。
もっともっと…“人間”の事を理解したかった!!
だからこそ
貴方達を閉じ込める事にしたんです。』
ようやくタグの『ログアウト不可』までいけた~。〉(´д`|||)




