現実‐2
『―――それが平野氏が新技術開発に踏みきった瞬間だった。』
「ほへー。」
ねぇちゃんと森を潜る事暫し。レベルがそこそこ、アイテムも程々に集まった所で夜になり、ワイらは街に戻って宿をとりログアウトした。夜になるとモンスターのレベルが上がるから危ないらしいし、《感知系スキル》あらな周りが暗うて敵が認識出来んらしいからな。無理してレベル上げる必要は無い。元々ワイらは2人でほのぼのプレイする予定やからな。早々に切り上げた。ま、早々に切り上げた言うても、矢の補充や弓の点検とかしてからやけどな。お陰で《木工》のレベルが3に成ったで!!ねぇちゃんの武器【初心者用の棒】も《木工》の範囲やから、ちこーっと手入れしたらレベル上がてくれてうっはうはや!!オマケに、戦っとる途中でねぇちゃんに教わって《蹴り》覚えられたり、蜂の巣見つけて蜂達に追いかけ回されながら蜂蜜取ったら《毒耐性》《採取》の計3つも新しいスキル取れたし…ねぇちゃんにめっちゃ怒られたけど。ねぇちゃんも新しいスキル取れたんやから勘弁してや。後で蜂蜜でなんか作ったるから…ホンマ勘弁して…。ねぇちゃんのコブラツイスト、メッチャ決まるんよ…。
で、宿をとった理由はちゃんとした所でログアウトせな次にログインした時にHPやMPといったモンが減っとるらしいからや。
ちゅーわけで、一旦休みで早め(新神話の開始時間午前10時。今は午前11時半くらいや)の昼飯食うてるんやけど…点けたテレビを観たらあの平野っちゅーおっさんの特集やった。
どうやらあのおっさん、3人の子供がおったんやって。その子達の為にあの新技術開発したんやと。子供の名前は上から“太陽”“星彦”“月菜”ちゃん言うらしい。今、その中の一人がおっさんと同じ道行っとるらしく、新神話が無事に予定日オープン出来たのもその兄ちゃんのお陰らしい。(おっさんと同じ道行ったのは真ん中の星彦いう兄ちゃんや)
…すごいなぁ。“親”って、“子”の為にここまで出来るんかぁ…。
ピッ
「ねぇちゃん…。」
「陸、そろそろ行こうか?」
ねぇちゃんがテレビを切る。
時計を見れば…そろそろイベントの時間やった。
「うん。…ねぇちゃん、ありがと。」
「べつに気にするな。ただ、私が早く行きたいだけだからな。」
そう言って、ねぇちゃんがワイの手をとり部屋に向かう。ねぇちゃんの手…温かいなぁ。
~Login~
ガヤガヤガヤガヤ
「ほへ~。人がゴミの様におるなぁ。」
「それは、お前の部屋がゴミ邸ならぬゴミ部屋と化している…と言う意味か?」
広場に着くと、そこはもう人の海やった。
思わず出たワイの一言に、ねぇちゃんがに~っこり笑いながらこっちを見た。ちょっ!?ねぇちゃん!!ワイ、ゴミなんて溜めてへんで!!誤解や誤解!!モノの喩えや!!ネタやネタ!!
「ほう…ならば、イベント後ログアウトしてお前の部屋に行っても大丈夫だな。ん。」
「ねぇちゃん理不尽!!」
断言した!ねぇちゃん行く事を断言しよった!!冗談やなく、本気で断言しよりおった!!目ぇ笑うてへんもん!!
ねぇちゃーん!年頃の女が、男子高校生の部屋行くのは駄目や思いますー!!
「ハッハッハ!なぁあに、冗談だ。」
豪快に笑い飛ばすねぇちゃん。…くそっ。遊ばれた。にしても、ほんまねぇちゃんは何しても様になるな。なす事する事全てに演技がかっとるけど、ほんまカッコエエ。…おんなじ顔なのに…理不尽やなぁ。やっぱアレか?天性のモンか?オーラとかなんやそっち系の違いか?
「ほら、ポケッとしていないで向こうを見ろ。そろそろ時間だ。」
お、アカンアカン。つい、ねぇちゃんのええ女オーラに当てられてもうてたわ。
ワイは背を伸ばし、広場の中心を見る。…にしても、イベントって何なんやろ?
*****
『皆様、お集まりして下さりありがとうございます。』
急に天から声が聴こえた。
驚いて上を見れば、空に巨大なディスプレイが幾つも浮かんどる。
ディスプレイにはワイらの後ろの方に有るセント・アポロン教会の塔らしき場所が映っとった。その塔が徐々にクローズアップされていき、やがて誰かの靴が映される。そのまま螺旋のように上がっていき、やがて赤髪のキリリとした目の兄ちゃんが映された。ごっつう美人さんや。ねぇちゃんとタメ張れるレベルのイケメンがおる。
『僕の名は『アポロン』。この教会の神であり、“創世教”の片割れにして『New Myth Online』の管理者兼監視者の一人でございます。以後お見知りおきを。』
そう言って、兄ちゃんが映画で見るような気取った礼をした。…“創世教”?“片割れ”?なんのこっちゃ?
「(ボソッ)ねぇちゃんねぇちゃん、“創世教”ってなに?」
「(ボソボソ)なんだお前…知らない、と言うか見てないのか?公式のHPに書いてあったぞ?“創世教”とはこの世界の宗教で、あそこにいる『アポロン』はそこの最高神の片割れだ。」
「(ボソッ)へぇ~。…なぁ、ねぇちゃん。“最高神の片割れ”っちゅーことは、他にも神様おるん?」
「(ボソボソ)…弟よ。お前本当に見ていないのだな。…世界設定から話そうか?」
「(ボソッ)うん。お願いするわねぇちゃん。」
と、言うわけで今更ながらこの世界の設定や。
▽▽▽▽▽▽
ここは神々の力に満ちた豊穣の地。数多いる神々を奉ることにより、人々は安寧と安息を約束されていた。
神々は人を愛し、人々も神を愛していた。
しかし…徐々に、本当に緩やかに、人々はそれを“当たり前だ”と思い始めるようになった。
やがて…人は“感謝”を忘れるようになった。
そして傲慢で身勝手な欲を出し始めた。
『人よりも優れたい』『大きな力が欲しい』『支配するための権力が欲しい』
神々は人に忠告する。
『今を大切にしなさい』『大きな力は身を滅ぼす』『支配なんていけない!何よりも醜い行為だ!』と
人々は、神の言うことを誰も聞かなかった。人は神を忘れ始めていた。
やがて…戦争が始まった。
血で血が塗り替えられ、屍と汚泥が混ざりあう。悲しみと憎しみ、怒りが産まれた。
神々は嘆いた。人々の蛮行に、強欲に、そして…それを止められない自分達に。
神々は人に失望した。けれど、その愚かしい人々が愛おしかった。
そして、万の悲しみと怒り、数えきれない嘆きが神々に纏わりつき…
産まれた。
それは闇だった。哀しみであり怒りであり病みであり…憎悪だった。
神だったモノは人を襲い始めた。
人を襲い、喰らい、奪った。
魔物を呼び出し、勢力を広めた。
病を産み、瘴気で大地を犯した。
人々は叫んだ。
『なぜこのような事をする!?』
ソレは答えた。
『オマエタチガオロカダカラ。
ユウエツノタメニタヲオトシイレ、
チカラヲモトメテカナシミヲフヤシ、
ケンリョクノタメニナゲキヲウンダ。
ダカラ…ホロボスコトニシタ。
サスレバダレモキズツカナイ。
サスレバダレモカナシマナイ。
サスレバナニモ…クルシクナラナイ。』
と。そこで漸く、人々は何をしていたかに気がついた。自らの愚行に気がついたのだ。
人々は争う事を辞めた。再び神に…いや、神々を癒すため、新たに祈る。
『どうかお怒りをお沈め下さい』『暴れるのをお辞め下さい』『どうか…これ以上御身を傷つけるのをお辞め下さい』と。
しかし、神だったソレは止まらなかった。止められなかった。
すでにソレに自我は無く、唯暴れるだけの怪物となっていたからだ。
それでも…人々は祈るのを辞めなかった。
そして、奇跡を生んだ。
祈りにより神々の意識が、人々を愛していた心が甦ったのだ。
だが、既に心と身体は別れており、弱々しい力しか持たない心は身体を止められない。
だから…託すことにした。
神々は残った力を全て使い、自分達を殺す力を持つ者達を喚ぶことにした。
それこそ…貴方。
さぁ、神を殺す者達よ。歩き始めよ!!
その目で邪を見つめ、その足で駆け出し、その手に持つ武器で元神を討ち滅ぼせ!!
ここは神話の世界。
旧き神々を殺し、貴方が新たなる神となる物語…。
▽▽▽▽▽▽
「と、まぁこんな感じで敵になった元神様達を倒すのが目的のゲームだな。あそこの『アポロン』は敵化を逃れた神で、今は色んな神がいなくなった“創世教”から消去法で最高神をしているらしいな。我々『神託者』を守護するという設定も持っている。ちなみに双子。“片割れ”とはそう言う意味で、もう一人は『アルテミス』と言う。恐らく、モチーフはギリシャ神話なのだろうな。」
「ねぇちゃん…分かりやすいけど、ものすんごくザックリ纏めたな!?」
今までの長々とした説明なんだったん!?最後に纏められた説明に、ワイは突っ込まざるをえんかった。なんで最後、そんなザックリとした!
「別にいいだろ?こういうのは長々ダラダラした説明より、要点を纏めたインパクトの在る短文の方が判りやすくていいだろう。」
「え、えぇ~?」
た、たしかに判りやすいけど…。それでええの?ええんか?
『~さて、長々とお話をしていまいました。人も集まっているようですし、これより特別イベントの内容を発表させてもらいたいと思います。』
「お、そろそろイベントが始まるみたいだぞ。」
「え?ホンマ!?」
どうやら『アポロン』の話が終わった所やったらしい。ディスプレイが『アポロン』のドアップに切り替わっていた。…ええい!さっきの設定話は置いとこ!!今はイベントやイベント!!どないなイベントやるんやろ?何は兎も角…暴れまくるで!!
『神託者』=プレイヤーの総称。NPCからは大体こう呼ばれる。“神の願いを受けし者”という意味で、決して神職という意味では無い。




