第十話 青春来同
中学3年生のクリスマスくらいの時期だったと思う。母さんの両親が……つまりは僕の祖父と祖母が交通事故に巻き込まれて亡くなったのは。母さんはあることを理由に両親から縁を切られていて、僕は2人と会ったことがなかった。けれど、母さんが2人の訃報を聞いたとき、一晩中泣いていたから2人を知らない筈の僕まで悲しくなってしまったのを覚えている。
亡くなった祖父母には、母さん以外の子供がおらず、親戚もいなかったから、実家を母さんが継ぐことになった。
これが、僕が、中学3年の3学期という微妙な時期に、鬼松市に来た理由――。
転校先の中学校では、微妙な時期に転校してきたことと、僕のこの風貌から友達は一人も出来なかった。尤も、東京の中学に通っていた頃も、友達は出来なかったけれど。そんな灰色の中学校生活を送った後、僕は学費のことや交通費のことを考えて家から一番近い私立純心高校に特待生で入ることを決め、見事特待生で合格した。
今度こそ、ここで友達を作ろう。入学当初はそう思っていた。けれど、僕の風貌を恐れて、クラスの人達は僕に話しかけてくれない、話しかけても避けられると、そんな具合で。そうこうしているうちに、いつの間にか変な噂が立ち始めて、早速浮き始めて……。
そんな現実の厳しさに打ちひしがれていた頃――調度、部活動の体験入部期間。得意なことも何もない、好きなことにも自信を持てない僕は、部活に入る気になれなくて、その日も、部活動見学なんてせずに、真っ直ぐ自宅に帰るつもりだった。けれど、
「そこの君」
――その日、僕は久しぶりに人に話しかけられた。というか、高校に入学してから初めて人に声をかけられた。驚いて僕は立ち止まり、声を掛けてきた人物を確認した。
女の子が腕組をして廊下の柱によりかかっていた。
小さな人だった。勿論、この僕から見てではなく、一般的にという意味で。恐らく、僕と同い年くらいの女の子の平均身長にも届いていない。そんな人だったけれど、僕は彼女に対して初見にして驚きを覚えた。まず、その人の顔の、鼻の上の辺りに、真一文字の大きなサンマ傷があったのだ。次に、両耳に3つずつ、唇に2つ、ピアスをつけていた。インテリ風な眼鏡、黒髪のポニーテール、服装も全て学校指定を守っている真面目な装いとは、真反対なかなり攻撃的な風貌がとても印象的だった。
そして、そんな強烈な印象に圧倒されて気が付くのが遅れたが、相当な美人だった。
「俺……ですか?」
僕の知り合いにはいない顔だったから――というか、知り合いと呼べるような人さえいないから、僕はそう聞き返した。
「そう、君だ。鉛色の大きな坊や」
どうやら、声を掛けられているのは本当に僕のようだったから、
「俺に、何か用ですか?」
と訊ねた。すると、その人は、
「部活の勧誘だよ」
と、答えた。
「祭り部、見学していかない?」
――僕と祭り部の出会いであった。
ただ声を掛けられた。たったそれだけで、でも僕にとってはそれが驚くべきことで、嬉しくて……。僕は気が付けば、その人――祭り部の部長の問いかけに「はい」と答えていて、彼女に連れられて、体験入部していた。
その体験入部で、祭り部の演奏を見た。その練習はそれで僕は入部を決めたのだ。
次の日から、僕も練習に参加した。人生初めての部活動で、とても緊張したし、疲れもしたけれど、生まれて初めての充足感というものを僕は感じたと思う。そして、その日僕よりも前から体験入部に参加していた翔太郎が僕に声を掛けてくれた。
――翔太郎に話しかけられる度、僕はいつも嬉しい気持ちになるのだけれど、その日は特に嬉しかったと思う。
悪意も、恐怖心も僕に対して抱くことなく、笑顔で普通に接してくれている翔太郎とはよくつるむようになって、友達になった。
他の部員の人達も、最初は僕のことを避けていたけれど、一緒に練習を頑張っていくうちにほんの少しづつだけれど、僕と接してくれるようになり――僕と翔太郎と矢沢と知花の初ステージを成功させ、漸く皆が僕のことを仲間の一人だと認めてくれた気がした。
僕が勝手にそう思い込んだだけかもしれないけれど――。
本当は僕だけが一方的に皆のことを好きなだけかもしれないけれど――。
でも、もしそうなら、皆とは本当の意味での仲間に、心から通じ合える仲間になりたいと思った。
矢沢や知花とは友達になりたいと願った。
翔太郎とはずっと友達でいたかった。
なのに……。
「あっ」
読んでいた漫画の頁に、涙が何滴も落ちているのに気が付いて、僕は現実に引き戻された。
漫画を読んでいたのだ、僕は。何もすることがなくて。部屋に篭って、隅にうずくまって。カーテンも開けずに。部屋から出る気になんてなれなかった。家から出ることは許されなかった。だから漫画を読んでいた。そうすれば、気持ちも少し上向くと思ったから、気も紛れると思ったから。ただ、それだけ。
そしてふと壁にかけた時計を見ると正午を差していて、休日は昼から部活開始だから皆今頃は部活をしているんだなと何気なく考えながら、また漫画を読み出した。読み出して、けど部活の人達のことを考えたら、今までのことが走馬灯のように蘇って……そして、泣いた。
「ヤバイ、ハチクロが……」
母さんが必死に働いたお金で買った漫画なのに。僕は慌てて、漫画の頁をスウェットの袖で拭く。
「あ、あれ? おかしいな……」
けれど、拭いても、拭いても後から涙が落ちてきてきりが無い。きりが、無い。きりが……。
「糞ッ!」
僕は、感情にまかせて持っていた本を、壁に投げつけ、膝に顔を埋める。
何をしているんだ、僕は。物に当たるなんて、最低じゃあないか。まして、母さんが買った漫画を。
「そんなだから、僕は、停学になんてなるんだ」
せめて、こういう時にも強くいられる自分であったならば。僕がこんな理不尽を被ったとしても冷静でいられる人ならば――いや、理不尽だとも思わない清廉潔白な人ならば、或いはこんな目にも遭わなかったかもしれないと、今の自分を見て、反省する。
僕がそういう人だったならば、きっとこんな噂なんて立たなかっただろう。僕がそういう人だったならば、噂が立ったとしても皆信じなかった筈だ。僕がそういう人だったならば……。
「こんなの無いもの強請りじゃないかよ!」
憤りのままに僕は床に拳を叩きつけた。
過ぎてしまったことなのに。後の祭りなのに。終わったことに対していつまでも女々しく、ifを求めてしまう。
求めたくなってしまう。
停学が開けたら、きっと僕は祭り部を退部することになるだろう。優しい皆は、きっと僕に残っていて良いと言うかもしれない。けれど、皆の気持ちに甘えてしまえば、迷惑をかけるに決まっている。クラスメイトや学校の人達とは、もう永遠に接することが出来ない。矢沢や知花とはもう友達にはなれない。翔太郎とは友達ではいられなくなる。
そう考えると、どうしても、『もしも』を求めてしまう。
「ははは……」
力なく笑うしかなかった。
「キヨ」
……遂に、幻聴まで聞こえてきた。僕のことを呼ぶ翔太郎の声がする。今は部活で、こんな所にいる筈もないのに。
「キヨ」
また聞こえてきた。翔太郎の声が。窓の外から。
ドンドンと窓を叩く音もする。
僕はもしかしてと思って立ち上がり、窓の方に行き、カーテンを開けた。すると――、
「よっ!」
嗚呼、眩しい――。たった一日ちょっと日の光を浴びていないだけなのに、真っ黒いレンズ越しにも、日差しが眼に突き刺さる。でも、それよりも――。
「ここ開けてくれよ」
そう頼みながらも絶えることない、翔太郎の笑顔。相変わらず、眩しい。
僕は翔太郎の訪問に少し驚きつつも、彼の要求通り窓を開けた。
「ところで、どうしてここに?」
「いや、お前の様子見に……」
「そうじゃなくて」
「何?」
「どうして、そんなところにいるの?」
僕の部屋は2階建ての一軒家の、1階にある。そして、ベランダはおろか、足場になりそうな場所すらない。では、翔太郎はどうして僕の前にいられるのか。その答えは、雨樋に掴まっているからだ。何故、そんなところにいる?
「呼び鈴、何回か押しても出なかったから。心配になって」
「心配?」
「その、自殺とかさ」
翔太郎がそう言ったのを聞いて、何だかとても申し訳のないことをしてしまった気がした。けれど、確かに僕も同じ立場だったら、何かあったのかと心配してしまうかもしれない。
「それは、大丈夫だよ。心配ない。絶対、自殺なんてありえないから」
僕がそう言うと、翔太郎は「そうか」とほっと胸を撫で下ろす。
「あ、てか、上がっても良い?」
「良いよ。玄関の鍵開けるから……」
「い、いや。そうじゃなくて……」
僕が玄関の鍵を開けに行こうとすると、翔太郎はバツの悪そうな顔で、
「このままそっち上がって良い? 上ったは良いけど、降りれなくなって……」
と、言って乾いた笑い声を上げた。子猫が高い棚に上って降りられなくなる。そんな光景が、今の翔太郎とダブって、僕は顔が綻ぶのを感じた。
「ちょっ!? 笑うなよ!」
「ごめん、ごめん」
僕は翔太郎に謝ると、
「良いよ。このまま上がって」
と、翔太郎に部屋に上がるように促す。
「サンキュ」
そう言って翔太郎はガラス戸の桟に足を掛けつつ、靴を脱ぎ、僕の部屋に入り、窓を閉めると、
「とりま靴、玄関に置いてくるから」
と告げて、1階に下りた。
「あ、お茶出さないと」
僕はそれに気付いて、1階へと下りる。
ティーセットを用意して部屋に戻ると、翔太郎は先に部屋にいて、床に座っていた。
「相変わらず、部屋綺麗にしてんのな」
僕が部屋に入るなり、翔太郎はそう言った。
「普通だよ」
と、僕は返したが、正直同年代の人の部屋は翔太郎の部屋しか見たことがないし、それにしたって結構片付いていたから、正直普通の基準は分からない。
僕は、翔太郎の隣に座り、2人分のお茶を淹れた。
「それ、何のお茶?」
「ペパーミントとネーブルだね」
コポコポと橙色とも茶色とも言い難い色の液体が注がれ、ミントと柑橘の良い香りが漂う。白い湯気が立ち、眼鏡が曇ったので、僕はそれを拭き、眼鏡をかけなおすと、
「どうぞ」
とハーブティーを差し出した。
翔太郎はティーカップを少し回しながら、まず香りを確かめる。
「良いねェ」
そして、翔太郎はお茶を飲むと、
「うん、美味い」
と、感想を述べた。僕もそれを飲む。
……少しばかり、ペパーミントの主張が煩い気がしたけれど、あまり眠れていない僕には、これで調度良かった。少しだけれど、眠気も覚める。
僕は少しだけ間を置いて、
「あの、翔太郎」
と、翔太郎に話しかける。
「ん? 何?」
「部活、どうしたの?」
「あぁ、そのことね」
翔太郎は一端、ハーブティーを飲み、ふぅと息を吐くと、それを置いた。
「部活行ったらピカさんが、今日休んでも良いから様子見に行けっつってよ」
「部長が?」
『ピカさん』というのは祭り部の部長の愛称の一つだ。
意外だった。練習第一の部長が、『休め』だなんて。
「まぁ、元々部活終わった後に様子見に行くつもりだったんだけどな」
「そうだったの?」
僕がそう聞くと、翔太郎は、はははと笑って、
「そんなこと、当たり前だろ」
と、はっきりと、そう言ってくれた。
「てか、昨日の夜も様子見に来た筈なんだが」
「え? 知らないんだけど……」
全く記憶にない。というか、僕は昨日もその前の日――停学を食らった当日の夜も部屋から一歩も出ていないし、誰とも顔をあわせていない。
「あれ? ちゃんと俺が来たって伝えてっつった筈なんだけど? キヨの母さんに」
「そうなの?」
というか、母さんに会ったのか、翔太郎は。よもや、初めての邂逅がこんな形になるなんて思いもしていなかった。
「あぁ、もしかしたら忘れちったのかも。なーんか、酒飲んでたっぽかったし」
「お酒、飲んでたの?」
翔太郎は頷いた。僕は目を見開く。母さんは仕事以外で滅多に飲むことはないのだ。というより、母さんの仕事は夕方から朝方にかけての仕事だ。昨日の夜僕の家を訪ねて母さんがいたということは、母さんは仕事を休んだということになる。
「息子が濡れ衣着せられて、誰にも信じて貰えず、挙句停学になるとか、そりゃあ記憶飛ぶくれぇ酒飲みたくもなるわな」
母さんにとってもショックは大きかったのだろう。学校から呼び出された母さんが僕を迎えに来て、最初にしたことは、謝るでも僕のことを叱るでもなく、生活指導の溝口先生と担任の先生に殴りかかるだった。
僕が止めなければ、母さんは今頃傷害罪で警察に捕まっていただろう。
でも、きっと母さんにとってもこれはそれだけ重たい出来事だったのだ。
「どうして、こんなことになったんだろ?」
「分っかんねぇ」
独り言のつもりで、吐いた僕の言葉に、翔太郎は申し訳なさそうにそう答えた。
「……でも、理不尽なのは、確かじゃん」
また、翔太郎は、まるで自分の身に起こったことのように、辛そうにそう言った。
「キヨ、お前泣いてたろ?」
「え? どうしてそれを?」
「目、真っ赤だった」
さっき、眼鏡を拭いた時だ。その時に翔太郎は、見てたのか。
「おまけに、ちゃんと眠れてないみたいだった」
翔太郎はそう言うと、遠くの空を見つめ、口を開けて黙っていた。何かを思いながら。
「たっくよぉ、そんだけ辛くなって……、家族まで辛い思いして……」
翔太郎は頭をバリバリと掻き毟ると、ハァと大きな溜息を吐いた。
「翔太郎?」
俯く翔太郎の顔を覗く。すると、彼は言った。
「なのに、どうして俺は何も出来ないんだよ!」
そう忌々しげに。自分自身のことを呪うかのように。
「なんでそんな――まるで自分のことみたいに……」
僕の言葉に翔太郎は、小さく笑って、
「そうすんのが当然だから、かな」
と答えた。いつもと変わらぬ、微笑みを僕に向けて。
「お前は、その、友達だから」
「うん」
今更言われるまでもなく、分かっていることだけれど、改まって言われると、こそばゆい。言っている翔太郎自身もそう感じているのだろう。右頬を人差し指で掻くと、
「こういう時に助けんの、当たり前じゃん」
そう言って、顔を伏せた。
「翔太郎……」
――僕の涙腺は異常なほど弱くなってしまったらしい。また泣きそうになった。当たり前の言葉だ。この世界の何人もが言って言われて、使い古された言葉だ。でも、僕にとってはとても新鮮な言葉だった。
初めて言われた。そして知った。こんな当たり前の言葉が、とても素敵な響きだったと。
「ありが……」
「言うな!」
「どうしてさ」
僕は言おうとしていた言葉を遮られたので、そう訊ねた。
間違いないなく、僕はこの場面で『ありがとう』と言わなければならないはずだ。というか、寧ろ言いたかったのだが。
「まだ、俺、お前に何も出来てない」
翔太郎はそう答えた。
「お前を助けられるようなこと、何一つ。何かしねぇとなのによ」
「僕は、『何かしないと』と思ってくれるだけで良いのだけれど」
「俺が良くねぇんだよ! それじゃあ!」
少しムキになっているのか、翔太郎は声を張り上げると、腕を組んでうーんと唸り始める。
どうやら僕の杞憂であったようだった。友達でいられなくなるなんてことは。僕は、本当に馬鹿みたいなことを考えていたと、翔太郎を見て思う。こうして僕のことで悩んでくれるのだから、信頼に値しないワケが無い。
そして、翔太郎は悩んだ末に、
「お前の停学、なるだけ早く解けるように掛け合ってみるよ」
と答えを出した。
「誰に?」
「涼子先生に」
翔太郎の口から出てきたのは、僕のクラスの副担任の名前だった。
「アイツとはよく話すから。それとなく言ってみるわ」
まるで、友達に頼んでみるみたいな軽い調子で翔太郎はそう言った。僕の知っている榎木津涼子という先生は、何より仕事が大事で、生徒とは勉強以外であまり関わりを持たないタイプの人だったから、流石に驚嘆した。翔太郎は誰とでも仲が良いし、先生からも人気があるのは前々から知っていたが、よもや学校中から『冷徹』とか『鉄仮面』だとかそんな呼ばれ方をしている人と、そんな接し方をしているとは、まさか思わない。
「……まぁ、これじゃあ、全然足りねェの分かってるから、祭り部の皆にも協力して貰う」
いや、むしろ十分過ぎるくらいだと思う。
「そんで、なんとしても停学早く解けるようにして――出来れば、取り消させる」
――十分過ぎるくらいなのに、さらに頼もしいことまで言ってくれる。
「でも、皆はそこまでしてくれるのだろうか?」
僕は翔太郎に訊ねる。翔太郎は僕の為にどうにかしようと思ってくれているらしいけれど、果たして皆がそう思っているか――不安で堪らない。
けれど、翔太郎はそんな僕の心を覆う不安を、
「安心しろって。みぃんな、お前のこたぁ大好きだから」
その言葉と共に、まるで曇天を裂く、日脚のような輝かしい笑顔で打ち消した。
「俺、言ったじゃんか。ピカさんに言われてここ来たって」
「うん、そう言ってた」
そしてそれを聞いて疑問に思った。どうして、部活を休ませてまで翔太郎を遣わせたのかと。
祭り部の部長の部活好きは凄まじいの一言に尽きるだろう。本来、日曜日に決められた休みの日以外に、部活を休むことは本来許されないし、勝手に休みでもすれば正当な理由――大怪我をしたり、親が死んだり、天皇陛下が崩御したり等――がなければ何10周単位の外周を容赦なく食らわせる、そういう人だ。普通そんなことを他人に強いれば人から嫌われるものだが、彼女はそれを他人に強要するのみでなく、自分自身にも課していてる故か、孤立することはない。39℃の高熱を出そうとも、兄の結婚式があろうとも部活に出席するほど、部活に対しての気持ちは強く、そんな部長だからこそ、僕も翔太郎も、他の皆も祭り部の活動に対して楽しみながらも、真剣に取り組んでいる。
本来、ありえないことなのである。天変地異がひっくり返ろうとも、部長が部活を休ませるなんて。
「心配してるんだよ、キヨのこと」
翔太郎は部長が天変を返した理由を話した。
「ピカさんだけじゃない。矢沢も、知花もみんな心配してるし、お前のこと大好きだから」
僕が何度も何度も、そうであって欲しいと思ったことを、翔太郎は肯定してくれた。思い込みが激しくて、自惚れが強い僕のことだから、きっとまたそうなんだろうと諦めていた言葉だった。
「本当に?」
「モチのロンな」
僕が問うと、翔太郎は笑顔を向けてくれた。屈託なく、爽やかに。
……嗚呼、僕の涙腺は遂に馬鹿になってしまったみたいだ。でも、それでも良いや。僕は、頬が温かくなっているのを感じてそんなことを考えた。




