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第11話 ぶらり5人旅(後編)

 ゲーム売り場でひとしきり騒いだ後、適当に店内を回り始めた一行。

 しかし中古家電製品売り場に入ったところで、一つの製品が鏡華の目に留まった。

 

「家電製品も売ってるのかここ……ん、あれは……!」


 鏡華はすぐさま脇目も振らず駆け寄ると、目的の商品を両手に持ってまじまじと見つめる。

 蓋がついた筒状の透明なプラスチックに箱型の機械がくっ付いたそれは、果物等を混ぜてペースト状ないし液状にする為の器具。

 要するにミキサーだった。


「ふむ……状態も存外悪くないな……」

「……家電製品に目を輝かせる女子ってのも大概変わってるんじゃないかしら、いやまぁ可愛いから良いんだけど」

「はっ……!」


 背後から目を細め、相変わらずどこかアレなツッコミを入れるこのみの声で鏡華が我に返り咄嗟に振り向くと、同じく背後に集まってきた他の面々から微妙に生暖かい目線が集中していた。

 それを一点に受けて自分の行動を漸く自覚した鏡華の顔が徐々に赤く染まっていく。


「あっ……い、いや、これはだな……別に何がアレという訳でも無いというか……」


 わたわたと両手を振りながら慌てて弁解しようとするも、恥ずかしさで頭が真っ白になり、ついしどろもどろになってしまう鏡華。

 そんな彼女の様子に、皆の目線は一層生暖かくなった。


「所謂クール系かと思っていたが意外と可愛いところあるんだな、だがそのあざとさや良し!」

「可愛い言うな!それにあざといって何だ!」

「ふふっ、ナニがアレだなんて意外とやらしいところあるのね」

「だから可愛いとか――えっ、やらしい!?何で!?」

「お前って好きな物に対しては素直だよなぁ」

「うるさい馬鹿!死ね馬鹿!くたばれ馬鹿!」

「何か俺だけ酷くない!?」


 それぞれ思い思いに言葉を投げかけてくるこのみ、守、鶴来に対して律儀にも全員にツッコミを返した鏡華だったが最後にニコニコと柔らかい微笑みを湛えたまま何も言わない沙由を見て思わず一歩後ずさってしまう。


「あれ、何か警戒されてる?」

「いや、つい条件反射で……」

「私別にそんな警戒される様な怖い人じゃないから、ね?」

「そう謙遜するなって、な?巻波高の裏番長」

「表は美少女高校生、裏は無く子も黙り鬼も傅く女帝だものね」

「え……?」


 まさか清廉潔白を地で行く様な見た目の沙由がそんな恐ろしい人物だとは到底思えないが、しかし人は見た目に寄らないと言うのは良くある話。

 電車の時もそうだったが彼女には何処か底知れない雰囲気があるしもしかしたらもしかするかも知れない。


「いや無いからねそういうの」

「こ、心を読まれた……!?」

「竜胆さんが分かりやすいだけだからね!?」


 そんな馬鹿な。

 昔から硬派かつクールで通してきた自分の表情が読みやすいはずは無いのだが、それを軽々と可能にする沙由はやはり恐ろしい人物なのかも知れない。

 そんな事を鏡華は思いそして沙由への警戒を強めるが、しかし実のところを言うと鏡華の保護者であるきらら曰く『鏡ちゃんはクールぶってるけど根っこは結構単純で分かりやすいのよ』という事なので、この場合恐らくは沙由が正しいのだろう。

 それはさておき、そんな分かりやすい鏡華の表情を見てため息をついた後、沙由は地里兄妹に向かって眉を逆八の字に曲げて注意を促した。


「全くもう……二人とも、あまり変な冗談言ってると怒るよ?」

「「イエス、マム!」」

「だからそういうのいいから!」

「やはり……!」

「やはりって何!?ほんとに違うからね!」


 沙由は、息を合わせ足を揃えて映画の軍人の如く大声で敬礼する地里兄妹を誡め、二人の様子を見て息を飲む鏡華の考えを慌てて否定する。

 そして再度ため息をつくと、気を取り直して微笑みなおし鏡華に話しかけた。


「こほん、えっと……こういうの好きなの?」

「……け、敬礼とかした方がいいのか?」

「しなくて良いから」

「そ、そうか……まぁ家電製品自体に興味があるわけじゃないんだが、趣味で使うんだ。こういうのは」


 若干警戒の色を滲ませながらも話し始めた鏡華。


「趣味って言うと……料理?」

「……あー、広義的には間違ってはいないし一応そういうのもそれなりに出来るつもりだが、これはもう少し、その、狭い範囲でというか……」


 鏡華の声が尻すぼみに小さくなっていく。

 話し始めて気づいたのだが一男性の趣味が菓子作りと言うのはいかがなものだろう。

 いや別に女々しいだのなんだのそんな時代錯誤な事を言うつもりは無いのだが、しかしそれはそれとして自分のイメージというものには合わないのでは無いのか。

 鏡華はああ見えて中身は割と見栄っ張りなので、何気にこういう事を気にすることも多々あるのだ。

 そんな心境を知ってか知らずか、沙由は何か閃いた様な表情をして言った。


「あ、分かった。お菓子作りとか?」

「……やはり心を」

「読んでないから」

「その……変だろう……?」

「何で?女の子らしくて良いと思うけど」

「あー……は、はは……」


 そういえば今の自分は女だった。

 ならば調理器具から菓子作りを連想されても不思議では無いし確かに似合うと言われればその通りなのだが、しかしそれはそれで結構凹む。

 『女の子らしい』という言葉を肯定するのは心境的に出来ないが、だからといって否定するのも怪しく見えそうだった為、鏡華は顔を引きつらせた苦笑いをしてお茶を濁した。

 そんな沙由とのやり取りに気を取られていた鏡華は故に気づかなかった、目を光らせて少しずつ横からにじり寄る『捕食者』の存在に。


「ん?あっ、おいこのみ――」


 鶴来が様子のおかしいその捕食者に漸く気づくも、もう遅い。


「も……もう辛抱ならーん!」

「え?……ぅわああ!?」


 叫びながら飛びかかる捕食者このみに本気で驚き叫ぶ鏡華。

 抱きつかれて体勢を崩した彼女の両手からミキサーが放物線を描いて飛んでいく。


「おっと危ない」


 果たして床に叩きつけられるかと思われたミキサーは、しかし持ち前の身体能力を発揮した鶴来によって受け止められた。

 一方、鏡華は興奮して体を弄ってくるこのみに対して必死の抵抗を試みていたものの、むしろ抵抗すればする程激しくきわどくなっていくそれに悪戦苦闘していた。


「おいおい嬢ちゃん可愛い顔して喋り方が妙に男っぽい癖に趣味は菓子作りとかどんだけギャップ狙ってるのよしかも反応が初々しいとかねぇちょっとそこのホテルで一緒に面白い事しない?」

「何言ってるんだ何で抱きついて来るんだ!ってひぃぃ何か変な場所に手がぁ!」


 傍から見ても段々過激になっていく二人の縺れ合いを見て、守は心底羨ましそうに言う。


「女子は良いよなぁ……女子の胸触っても同性だから無罪だし……お、もう少しで見えそう。いけっそこだ!」


 握りこぶしを振りかざし欲望全開でこのみを応援する守の隣で、鶴来は顔を横に向けた上でミキサーを鏡華達と自分の顔の間に翳して視界を隔てていた。


「くっ……止めなきゃいけないけど見るのも駄目な気がする……一体俺はどうすれば……!」

「どっ、どいつもこいつもー!ひゃぁっ、あ、やだ……!」


 涙目で男達を非難する鏡華は既に、公共の場所で繰り広げるには大分際どい衣服のはだけ方を見せてしまっていた。

 しかしそんな彼女へとついに救いの手が差し伸べられる。


「はいそこまでー」


 その救いの手は、具体的に言うならばこのみの顔を物理的に鷲掴みした沙由の右手だった。

 

「あの、違うんです、今のは若干リビドーが抑えきれなかっただけで悪気は決してん゛あ゛あ゛あ゛あ゛すみません悪気は無いけどやる気はありました!」


 掴まれた頭がみしみしと軋む度に、花の女子高生としてはどうかと思われる奇声を上げながらこのみの体から力が抜けていく。


「はぁ、はぁ、助かった……ありがとう、戸崎――ひぃ!?」


 このみの拘束から外れた鏡華は息を荒げながらその場にへたり込むも、衣服を軽く整えると背後の沙由に礼を言おうと立ち上がって振り向き、そして片手でこのみの頭を締め上げながら宙に持ち上げている沙由の姿を見て再びへたり込んでしまった。


「あ、竜胆さん大丈夫?ちょっとちょっかい出すレベルならまぁ見逃しても良いと思ってたんだけど、あれはさすがにやりすぎだよね」

「えっあっ、ああやりすぎってそっち!?うんまぁそっちやりすぎだったけど!」


 少なくとも今の状況に比べればまだ色んな意味でマシな気がしてくる。


「も?」


 沙由は鏡華の言葉に疑問を持ったのかきょとんと可愛らしく首を傾げる。ただし片手で人一人を持ち上げながら、だが。

 目の前で繰り広げられている惨状に驚愕を隠せない鏡華へと、鶴来がミキサーを棚に戻しながら説明を始めた。


「沙由の家は合気道の道場を開いてて、沙由もそこで合気道を習ってたんだよ」

「ああ成る程合気道……ってアレ合気道関係あるか!?」


 少なくとも鏡華の目には合気道というにはあまりにも無骨かつ単純なアイアンクローにしか見えない。


「ああうんそうそう、合気道合気道。これ合気道のちょっとした応用だから」

「いやどう見てもただの力技……あひぃ、らめぇ!」


 しかし当の本人が何故か目を泳がせながらもそう言っているのだから、きっとそうなのだろう。そう無理やり納得させると、鏡華はそれ以上考えるのを止めた。

 それとこのみが何か言いかけた気がするが、ここで気にすると次にあの手に掴まれるのは自分になりかねないので、そちらについても気にしない事にする。

 それにしても、最初はただの冗談にしか聞こえなかった裏番長という話が段々信憑性を帯びてきているのだがもしかしたらもしかするのだろうか。

 鏡華の中でそんな誤解が生まれ始めている事も知らず、沙由はこのみを掴んだままふと思い出したかの様に軽い調子で言った。

 

「あ、そういえばなんかお腹空いたねー。そろそろお昼食べに行こっか」

「えっ今このタイミングで!?」

「?だってもうお昼だよ?」

「いや確かにそうだけど、そうなんだけど!」


 下手にツッコミを入れると何されるか分からないので言いあぐねた鏡華だが、おそらく沙由と長い付き合いであろう鶴来達はというと、特に動じる事もなく昼食の相談を始める。


「言われてみると腹減ってきたなぁ」

「それじゃあナック行くかナック」

「えー、ファーストフードって気分じゃ無いし、それにココズの方が近いっしょー」

「何で本人までそんな動じてないんだ!」


 先程と変わらずミシミシと頭蓋から音を立てながらも慣れてきたのか話に加わり始めたこのみに、鏡華が驚きの声を上げた。

 そんな彼女に鶴来が事も無げに言った。


「まぁいつもの事だしなぁ」

「お前たちいつもこんなことやっているのか……」


 もしかして最近の高校生はこれが標準なんだろうか。

 全国の高校生が全力で否定しそうなあらぬ誤解までし始めた鏡華の耳に、沙由の声が届く。


「それじゃ行こっか、ココズ」

「意義なーし、でもあそこって何あったっけか」

「あーほら、何だっけあの有名な……あ、おーい行くぞ鏡華ー」

「……え。あ、ああ……」


 話が決まるやいなや、揃ってその場を離れ始める一行。

 一方、話についていけずぽかんとへたれこんでいた鏡華だったが、鶴来の呼び声ではっとすると身を起こして彼らの元へと早足で歩いていくのだった。


「……あれ?もしかしてココズよりも天国の方が近いかも……」

「あ、そういえば持ったままだった」

「いい加減下ろしてやれー!」

 




 オールオフから徒歩5分のファミリーレストラン『ココズ』。

 その1席で、鏡華達は昼飯をつつきながら雑談に興じていた。

 鏡華が自分のオムライスにスプーンを刺しながら、対面のこのみに向かい眉を顰めて言う。


「大体な……地里は、ああ妹の方だが」

「もう、そんなつれない言い方じゃなくて名前で呼んで?私達くんずほぐれつしあった中でしょ?」

「誤解を招く様な言い方をするな!……まぁ、ややこしいのは確かだから別に良いと言うなら名前で呼ばせてもらうが」

「よし!」

「これで連鎖的に俺も名前呼びになるわけか、よくやったぞこのみ。アイス一本奢ってやろう」

「いやまぁ別に良いんだが……二人とも、何でそんな嬉しそうなんだ?」


 ガッツポーズを決めるこのみと明らかに上機嫌な守。

 その理由が分からない鏡華は首を傾げるがその直後、右隣に座っていた沙由からも声をかけられた。


「あ、それじゃあ私も名前で呼んでほしいな。せっかくだし」

「え!?……はい、分かりました……沙由さん……」


 目を逸らしながら恐る恐るといった感じで了承する鏡華。


「あれ、なんかむしろ距離遠のいてる!?」

「なぁなぁだったら俺も――」

「は?」


 ショックを受ける沙由の左隣に座っている鶴来も身を乗り出しながら何か言い出そうとしたが、鏡華は目を細めて一言で切り捨てた。


「だから俺にだけ冷たくない!?」

「で、まぁ話を戻すが……このみはな、さすがにやりすぎだ。幾ら冗談でもやって良い事と悪い事がだな……」


 鏡華の文句に、しかしこのみはいつもと変わらぬ調子でしれっと言った。


「大丈夫大丈夫、あれ半分ぐらいは本気だから」

「え?……え?」


 ぽかんとする鏡華に向かって、何故かこのみもきょとんとした顔を見せる。


「あれ?言わなかったっけ……自己紹介のとき彼女募集中って」

「……あれ聞き間違いじゃなかったのか!?」

「まぁそりゃそう思うよなぁ普通」


 鶴来が若干呆れた声色で頷くが、そんな事にお構いなくこのみはキリッとした顔を鏡華に向ける。


「というわけで今夜……どう?なんならこの後すぐでも」

「断る。大体私達は――」


 女同士だ。と続けようとしたがその瞬間。


(――って俺は男だろ!)


 自分の性別を思い出し、頭をテーブルに打ち付けた。

 テーブルからガンッと堅いものがぶつかる音が響いて周りが驚くが、鏡華はそれを気にも留めず、一つ咳払いをすると気を取り直して話を続ける。


「と、兎に角だな。そういうのはみだりにやるべきでも言うべきでも無いんだから自重しろ自重」

「えーそういうのって何かなー、具体的にその可愛い口から言ってもらわないと分からない――なんて事も無いかしらね!」


 このみのからかうような口調が、調子を確かめる様に手を握っては開いてを繰り返し始めた笑顔の沙由を見て慌てた様な物に変わった。


「まったく……」


 このみの様子を見て鏡華はため息をつく。


(……しかし、よくよく考えてみれば女子にああいう事されるのは年頃の男子にとっては悪くない事のはずで、あれ?じゃあ嫌がっていた俺は……いやいやでも場所が場所だし発言もあれだし行動も過激すぎるし会ったばかりだし嫌がっても仕方ないだろう……というか何かこの体に慣れてきてしまってる気がするが、大丈夫か俺!)


 突然頭を抱えてうんうんと唸り始めた鏡華に、事情を知らない周りの人間は揃って首を傾げた。


「おい鶴来、鏡華って結構変だよな。まぁ可愛いから良いけど」

「喋り方も何だか男っぽいしたまに挙動おかしくなるしね、まぁ可愛いから良いけど」

「でも二人よりかは十分まともだと思うよ……ところで、もしかして私って鏡華ちゃんにちょっと距離とられてる?」

「お前らってつくづく現金な奴らだよな……でも、確かにちょっと変わってるっていうかよく分からないところはたまにあるんだよな」

「あれ、もしかして私無視されてる?」

「例えば初めて会った時なんかはだ……あ、いやなんでも無い」

「えっ何その気になる引き!そこまで言ったんなら全部吐きなさいよ!」

「何だ、肌着、肌色、もしかして裸か!?」

「なっななななんでも無いって!いやホントマジで!」

「ね、ねぇ皆……」

「この反応、間違いなく有罪だわ!話は署でじっくりあああこの女話聞かれないからって腕力に訴えはじめはいすいません合気道でしたねもうしわけありませんでしただから頭を離しんひぃぃぃぃ!」

(お、俺だって別にそういうのが嫌いなわけでは……ただ時と場合を配慮してほしいというだけで……正常!俺は正常だから!)


 悲痛な叫びと頭蓋骨の軋む音といういい感じに殺伐としたBGMが流れる中、鏡華は一人、己と言う物について深く悩み続けるのだった。

 尚言うまでも無いかもしれないが、この後彼らのあまりの騒ぎっぷりに店員の注意が飛ぶまでなんと5分もかからなかったとか。

【今日の戯言コーナー】

 まるで半端なところで終わった様に見えますが、別に中編とかじゃなくて一応れっきとした後編なんです。

 勿論次回更新で(真・後編)とかそんな事もアルワケナイジャナイデスカー。

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