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第10話 ぶらり5人旅(前編)

 ガタンゴトンと規則正しい音をたてて揺れる電車の中。

 人がまばらにしかいない空いた車内で、鏡華達5人は左端の鏡華から沙由、守、鶴来、このみの順で壁際にある1つの長い座席に座っていた。

 鶴来と地里兄弟がやいのやいのと騒ぐ声をBGMに、鏡華は反対側の窓に映る景色をぼおっと眺めながら自らの思考に没頭していく。


(それにしても、面倒くさい事に巻き込まれてしまったな……)


 流れでここまで連れてこられてしまったが、本音を言うと今すぐ帰りたい。

 ともすれば眠気を誘う様な揺れに身を任せながら、鏡華はそんな事を考えていた。

 鶴来に巻き込まれたからと言うのもあるが、今まで同年代の誰かと遊んだ事が無ければ遊びたいと思った事も無いので、今の状況はただただ面倒なだけ。

 では何故鏡華が大人しくここまでついて来てしまったのかと言われると、それは空気を読んだ結果という事に他ならない。

 鏡華は鶴来にこそある意味で遠慮無く接しているし、そうでなくとも無愛想でそっけない口調(両方とも女になってからは若干怪しい節もあるが)な為、誤解されやすいが、彼女の根は善人であり礼儀も配慮も空気だってそれなりに弁えてはいる。

 故に彼女は鶴来の友人達の出す歓迎ムードに逆らえず、果たして現在の状況へと至ったのだった。

 

(というか大体あいつはなんでこんな事を……)


 思考が深まると共に眉間に皺が寄っていく鏡華の右から、不意に声がかかった。


「あの、竜胆……さん?」

「うぇっ?」


 思考の外から聞こえたその声に、思わず間抜けな返事をしてしまいながらも声の聞こえた方向である自分の右を向くと、沙由が少し困った様な顔で鏡華の事を見つめていた。

 まるで鏡華を心配しているかの様にも見える、眉尻を下げた表情のまま彼女は言葉を続ける。


「えっと……なんていうか、ごめんね?騒がしい人ばかりで」

「え?……ああいや別にそれは気にしてないが……なんと言ったらいいか……」


 どうやら先程から一言も喋らない事や眉を顰めていた事で余計な心配をさせていたらしい。

 別に騒がしいとかそういうのは今はどうでも良くただ単純にこの集まりそのものが面倒なのだが、さすがにそれを正直に伝えるのは心配してもらった身としては憚られる。

 だから鏡華は少し考えてから、沙由に訳を話した。


「……ああ、そうだ。そういえばお……じゃなくて、私は殆ど誰かと遊ぶといった事をした事が無かったんだ。だからこういうのに慣れて無くてな」


 鏡華の言い訳は本音こそ隠しているものの、嘘をついてはいなかった。

 義務教育はRWGの通信教育で済ませているので学校には行った事が無く、趣味も一人で出来るものだ。

 仕事だって積極的に人と関わる事は無く、故に普段接点のある人間と言えば養母のきららとRWG巻波支部の職員ぐらいであり、つまるところ鏡華は人の縁と言うものにあまり恵まれていなかった。

 更に本人自身も人付き合いに興味の無い性格をしていたので交流関係を自発的に広げに行くことも無く、悲しがな現在に至るまで友人の一人も出来ていないのだ。

 二人以上で遊んだ経験だって、せいぜいがきららに誘われて一緒にゲームをしたり、同じく彼女にショッピングに連れ出されたりとかその程度である。

 それは兎も角として、鏡華の言い訳を聞いた沙由は何を察したのかふふっ、と含み笑いの様な表情を浮かべて言った。


「成る程、それで……かどうかは分からないけど、多分鶴来くんに無理やり連れ出されたのかな?」


 鶴来に連れて来られた事を当てられた鏡華が驚いて目を見開くのを尻目に、沙由は言葉を続ける。


「それで今はめんどくさいとか、思ってるんじゃない?」

「それは……」


 まさか内心まで悟られるとは思いも寄らなかった鏡華は、単純な動揺と面倒だと思っていた事に対する少しの罪悪感から言葉に詰まってしまった。

 しかしそんな彼女を見て沙由は不快になるどころか、今度は含む所の無さげな柔らかい微笑みを見せる。


「でも、だったら丁度良いんじゃないかな。ちょっと騒がしいし変わってるけど皆良い人だから、多分楽しいと思うよ?少なくとも私はそう思っているからここに居るんだし」

「楽しい、か……そういうものかな」

「それは後々わかるんじゃないかな?」

 

 そう言いながら相変わらず可愛らしい笑みを浮かべる沙由。

 鏡華は自分の内心を言い当ててみせた彼女に妙な気恥ずかしさを覚えてしまい、彼女から目を逸らしてしまった。

 しかしその沙由が恐らく自分を気遣ってくれているであろう事は何と無く理解できた為、鏡華の中に不快感は無い。

 だから鏡華は頬を掻き照れる素振りを見せながらも、呟きともとれる小さな声で一言口にした。


「その、何と言うか……ありがとう」

「ん?特にお礼を言われる様な事はしてないけど?」

「むぅ……」

 

 分かってて言っているのか、沙由はわざとらしく首を傾げる素振りを見せる。

 そんな彼女に改めて礼を言うのは何やら恥ずかしいしそれになんとなく癪だ。

 だから少しだけ口を尖らせつつ、代わりにもう一言だけ追加した。


「……戸崎は、思ったよりも意地が悪いんだな」

「ふふっ、それほどでもないよ」


『次は――』


 と、鏡華達の会話に停車を告げるアナウンスが割り込んだ。

 程無くして電車が停止すると、鶴来達が立ち上がる。

 どうやら目的地についたらしい。鏡華と沙由はどちらからともなく顔を見合わせると、軽く笑いあって席を立つのだった。

 




「……こんなところがあったのか」


 駅から徒歩1分。Gオンが見えた時は『もしやまたお前か』と一瞬思ったものの、どうやら鶴来達の行き先はそこでは無い様で思いの他あっさりとGオンを通り過ぎ、更に5分程歩きつづけた。

 すると、青色の背景に黄色の文字が書かれた看板を掲げる大きな建物が見えてきた。

 鶴来達が目の前で立ち止まった、どうやら目的地らしいその店の名は『オールオフ』。巻波市やそれら周辺の地域で展開されている少々マイナーなリサイクルショップである。

 今まで甘味所と生活に必要な店以外に興味を示すことの無かった鏡華は、Gオンの近くにこんな店があったのかと軽く驚きを見せた。


「鏡華ちゃん地元民じゃないからねー、知らなくても当然か」


 そんな鏡華の様子を見てこのみはそう言いながら笑うが、実は根っからの地元民である鏡華は曖昧な苦笑いで返さざるを得ず、つい誤魔化す様に話題を変えて話を逸らしたのだった。


「でもこんなところで何を?」

「ん?そりゃあ普通に買い物だろ、それにこういうところは見てるだけでも結構面白いし」

「はぁ……」


 鶴来の言葉に鏡華は、きららに時々付き合わされるウィンドウショッピングを思い出してしまい思わず微妙に顔を歪めてしまう。

 基本的にきららが服や装飾品等を見てるのを更に遠くから見てるか荷物持ちに付き合わされるかなので、あまり良い思い出が無いのだ。


「ん?」

「……ああ、多分想像してるのとは違うんじゃないかなぁ。こういうとこって縁が無いとあまり行く機会無いから驚くかもね」


 苦い顔をする鏡華に対して鶴来はクエスチョンマークを浮かべるが、一方沙由は電車での時の様な察しの良さを再び見せて一言フォローを入れる。

 しかし確かにこういうところは初めて来るが店は店。そんな驚く様な物があるのだろうか。

 鏡華が内心首を傾げた時、このみの弾むような声が響いた。


「まぁまぁとりあえずここで立ち話もなんだしさっそく中に入りましょー!」





 結論から言うと、結構驚いた。


「なんというか……混沌としてるというか手作り感溢れているというか……」

「だよねー、何処と無く高校の学園祭とか思い出す感じ?」

「あー……」


 鏡華は若干呆れ混じりの声で沙由の発言に同意する。学校に行った事が無いためあくまでイメージ上のそれしか判断材料が無いのだが。

 それはともかく、店内を見渡してみるとあちらこちらに多すぎる程に張られたPOPや看板が手書きだったりそこに書かれているキャラクターがどう見ても有名作品のキャラクターだったり。

 店内の商品の配置も、意図的なのか分からないがひしめき合う様に置かれている為通路が狭く物が多く、より一層混沌とした感じを助長させている。

 しかしそんな、どことなくチープさすら感じられる店内だが、先頭を行く地里兄妹はむしろそれらに大はしゃぎしていた。


「でも慣れるとこのカオスっぷりが癖になるわよね!」

「このいかにも個人経営っぽい感じのPOPとかな!ほら見ろアレ多分無許可だけど堂々と版権キャラ使ってるぞ!」

「そんな堂々と指差して大声出すなって。……でもこういうのって訴えられたらやばいんだろうなぁ」

「確かにあそこの奴とかどう見ても○ッキーにしか見えないんだが大丈夫なのか……?」

「まぁまぁばれなきゃ世は事もなしってな。……っと、こんなことしている場合じゃあ無いな」

「そうよねここに来たらまずやるべきことがあったわよね」

「あー、忘れてた。そういえばこいつらそういう奴らだった……」


 額に手を当て、眉を寄せるなどという、彼にしては珍しい動作をした鶴来を見て、なんとなくだが不安を感じた鏡華は鶴来にその真意を尋ねる。


「どういう事だ?」

「いや何ていうかなぁ……」

「ようしそれじゃあレッツゴー!」


 こちらの会話の途中だと言うのに、勝手知ったる我が家の如く店内を先へ先へと進みだした地里兄弟を追いかけると、その先は中古のゲームソフトとハードが売られているコーナーだった。

 何かゲームでも買いに来たのか?と鏡華は思うが、二人は入り組んだ陳列棚の間を進み道中にある何やら通路を区切る為に設置されたらしきカーテンを潜って、意気揚々とその奥へと入っていく。

 カーテンは二人が潜った事で翻り形を変えるが当然すぐに元の形に戻った。

 そこに書いてあったのは赤色とその中の『18』という数字。そしてその『18』の上を赤色の斜線が一本走っている、そんな記号。

 要するに18禁を示すマークだった。


「えっちょっ、あれ……!」

「言っとくけどあいつら俺らと同じ16だかんな」

「……いいのか?」

「いや本当は駄目なんだろうし中のものも買えないだろうけど、あいつら店員と顔馴染みみたいだしなぁ。俺達は実際に入った事無いから分からないけど」

「はぁ……」


 鶴来は分かりやすく呆れた感じの声色で言うが、一方鏡華はどう反応していいか分からず曖昧な返事しか返せなかった。

 そんなこんなでしばらく待っていると、以外にも早くカーテンの奥から二人が戻ってきた。そしてこのみの手には一つの黒い袋が。


「いやぁやっぱここは掘り出し物が多くていいわね、ほら見てよこれ!」


 このみが喜色を浮かべながら袋から取り出したるは女性が触手でちょめちょめされているアレなイラストが書かれた一つの箱。

 目の前のカーテンの奥で買ってきたものとしては別段不自然でも無い代物ではあるが、それでもいきなり見せられると普通驚く。そして引く。


「うわぁそんなものをここで取り出すな!というか大体なんて物を買っているんだ!まだ16だろ!」


 顔を真っ赤にして、このみが突きつける箱から目を逸らす鏡華。

 その様子に当のこのみは悲しむどころかむしろ若干頬を上気させて、まるで興奮してる様に見えた。

 ちなみに鶴来はこのみの行動が予想出来ていたのか予め顔を思い切り真横に向けており、逆に沙由はまったく動じずにこにこと微笑ましそうに3人を見ていた。


「うわぁ何このうぶい反応、超可愛いんだけど。やる?」

「誰がやるか!」

「まぁクソゲーだからなこれ。確かにやらない方が幸せではある」

「間違い無いわね」

「じゃあ何で買ったんだ……!」

「そりゃ勿論クソゲーだから」

「…………え?」


 クソゲー。簡単に言うとゲームシステムやバランス調整に不備があったりバグが多かったりするせいでゲームとしてつまらないもしくは成り立ってすらいない類のものにつけられる仇名であり、まともな感性の人間ならばそれをそうと知っているのに買う様な愚行は犯さない。何故なら金の無駄だから。

 鏡華も現在の肉体は兎も角心は基本的に真人間であり、勿論クソゲーを進んで買う様な人間でもなかった。というかそもそも彼女はゲームそのものをあまりしないのだがそれは置いといて。

 しかし世の中傍目から見て奇特な趣味と呼ばれるそれを持つ人間というのは一定数存在するものであり、地里兄妹もその一部であった。

 具体的には――。


「その理解出来ない様な物を見る目、むしろ優越感すら感じるわね!」

「知りたいのならば教えてやろう、聞きたいと言うのならば聞かせてやろう」

「いや正直あんま知りたくないというか知ってはいけない様な気が……」

「俺達はな、クソゲーを集めてプレイするのが大好きなんだよ!」

「……何が楽しいんだそれ?」


 当然の疑問である。


「その疑問は分からないでも無いがな。しかしクソゲーをクソゲーと知って遊ぶのは、真っ当なゲームで遊ぶのとまた違った面白さというものがあるんだよ。まぁ所詮クソゲーだから、1日堪能したら二度とやりたくなくなって押入れの肥やしになる事もままあるんだがな」

「……じゃあなんでやって……いや、人の趣味にとやかくいう気は無いからいいんだが、じゃあ何でその、なんだ……わざわざそういうのを買ったんだ」

「そんなオブラートに包まずその可愛らしいお口で声に出して言っていいのよ!そうエロゲー!触手ゲー!陵辱ゲー!さん、はい!」

「絶対に言わないからな!」

「そんなところも可愛いわねぇ。で、まぁわざわざエロゲー買った理由なんだけど一般向けよりもエロゲの方が規制の緩さや製作現場の事情とかのせいでぶっ飛んでるのが多いのよね、それにエロゲだけあって絵だけならまともに可愛いの多いしうぇへへへへ」

(なんとなくだが、危ない気がする……!)


 よだれを垂らさんが程の勢いで不気味に笑うこのみの背後から、邪悪かつ既視感のあるピンク色のオーラが立ち上るのを鏡華は幻視して後ずさった。


「おい引かれてるぞこのみ。別にお前が幾ら引かれようとも構わないが身内の俺まで十把一絡げにされかねないから少し自重しろ自重」

「むしろこの私と同等の評価を受ける事に喜びを覚えなさいよ。そんな事よりさっそく家に帰ってこれやるわよ!」

「いや帰るの早すぎだろ!」

「おっとそうだった、せっかく鏡華ちゃんとの初デートだってのに勿体無いおばけが出るわね」


 鶴来の突っ込みに対してこのみは『デート』だなんて冗談を言いながらも案外素直に納得してみせた。

 それは良いのだが何故だろうか、出会った時からそうなのだが彼女の言葉の節々から若干危うげな気配が漂ってくる気がするのは。

 いや発言自体も一見、結構エキセントリックな物ではあるのだがこう、もうちょっと何と言うか根本的な所で……。

 と、そんな事をつらつらと考えていた鏡華だったが守の声にその思考は中断される。


「そんじゃま、俺達の用も済んだしぼちぼちと見て回るか。適当にな」


 そう言いながら歩き出す守に、鶴来と沙由もついていく。


(まぁ……気のせいか、沙由も一応『良い人』だと言っていたし)


 そう結論付けると鏡華も彼らの後ろについて歩き出した。そう、このみよりも先に。

 故に鏡華は知らなかった。

 彼女の後ろでこのみが『キュピーン』と言う効果音でも立てんと言わんばかりの勢いで目を光らせた事を……。

【今日の戯言コーナー】

 思ったよりも長くなってしまったので2分割。こういう話って意外と尺取るもので。

 『オールオフ』、名前だけは某古本屋が元ネタですがその他内装等は地元のリサイクルショップを参考にしています。

 しかしはたしてあの混沌としたふいんき(変換出来ない)は伝わるのだろうか。

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