一方その頃
ユーリとリゼが大量のファンゴを狩っていた頃、ケイン達パーティーはキューレの迷宮へとやってきていた。
「ふう、いつも通りバフ無しで来れたな。カルラ、ここからはお前のバフを頼む」
迷宮の下層までやってきたケインは、カルラに指示を出した。
「ええ、分かったわ」
カルラはにこやかに指示を受け、スキルを発動しケイン達へバフを掛ける。彼女がスキルを発動すると、不気味な調が発生し、ケイン達へまとわりついた。
「なにこれー。感じ悪いんだけど」
文句をつけたのは、パーティの斥候、アイシャ。カルラのバフの異様さに、アイシャの口から本音が漏れた。
「おい、アイシャ。カルラさんがバフを掛けてくれたんだ。思ったとしても口に出すんじゃない」
アイシャの言葉に、戦士のガルドが説教をする。しかし、同じことを感じていたガルドはあまりキツく言うことができないでいた。
「まあ、そう感じてしまうのは仕方のないことですから。私は気にしませんよ」
カルラが気にしないと言うと、ガルドは口を閉じる。雰囲気が悪くなったことを感じ取ったケインは、話を切り替えて味方を鼓舞した。
「カルラも気にしないって言ってるんだから、そろそろ出発しようぜ。バッファーも前より良くなったんだ。いつもより奥に進めるはずさ」
ケインが先導し、彼らは迷宮の更に奥へと進んでいった。
◇◆◇◆◇◆
「クッソ!なんか思うように動けないぞ!」
「なんで!?動きは早くなってるのに、攻撃の一撃一撃が重い!」
ケイン達が迷宮の奥へと進んでいると、魔物の群れと遭遇した。彼らは意気揚々と魔物を倒そうと戦闘を始めたが……戦況は悲惨だった。
カルラのバフを信頼して魔物と戦う彼らだったが、そのデメリット効果が彼らを苦しめる。
ATKとINTが上昇したケインは、攻撃の火力は高いものの魔物からの攻撃を避けられず、VITが下がっていることも有り大きくダメージを食らってしまう。
ATKとAGIが上昇したアイシャは、一撃当てて下がるヒットアンドアウェイを繰り返すも、ただでさえ低いVITが下がっていることで一度攻撃が当たるだけで瀕死へ追い込まれてしまう。
ATKとVITが上昇したガルドは、彼らの代わりに攻撃を受け攻撃しようとするも、AGIが下がっていることで防御が間に合っていない。
攻撃を当てることができれば簡単に魔物を倒せるはずだが、それ以上に相手からの攻撃が重く戦況は不利が続く。
カルラも己の火炎魔法で後方から攻撃しようとするが、ステータスが補助に特化している以上、バフを掛けても彼女の魔法は戦況を変えるほどのものにはならなかった。
「お前で、最後だ!死ねぇぇえ!」
攻撃を受け、そのたびに回復しながらなんとかケイン達は群れの最後の一匹になるまで戦った。
こいつを倒せば、休憩できる。そう考えたケインは剣を振り構え、魔物へと斬りかかろうとした。
だがしかし、勝利の女神が彼らに微笑むことはなかった。ケインに斬りかかられた魔物は、その尻尾でもってケインを叩く。その威力と、ケインが空中にいたことで彼は壁に向かって吹き飛ばされた。
「うぐ、ぁあ」
壁に激突し、頭から出血したケインは、なんとか回復するためポーションを取ろうとするが、度重なる回復によりその在庫はすでに尽きていた。傷を治療できなかったケインは、そのまま気を失ってしまう。
「ケイン!」
アイシャは、ケインのその様子を見て動きを止めてしまった。その隙を縫うように、魔物の攻撃がアイシャに迫る。
「オラァ!アイシャ、動きを止めるな。お前までやられるぞ」
なんとか攻撃に間に合ったガルドが、アイシャを魔物の手から守った。依然として立ち尽くしているアイシャにガルドは声をかけるが、その言葉は届かない。
「で、でも。ケインが」
気絶しているケインを心配するようにアイシャは言葉を漏らすが、それを見かねたガルドはアイシャを担いで魔物に背を向けた。
「俺達だけでも逃げるぞ!カルラ、お前も走れ!」
無事な者だけでも逃げる、ガルドのその判断は英断だ。しかし、それはあまりにも遅すぎた。
ガルド達と魔物の距離はさほど離れていない。さらに、ガルドはカルラのスキルにより動きが制限されている。そんな彼らが、今更魔物から逃げようとしてもそれが叶うわけもなく、魔物は彼らの行く手を塞ぐかのように正面へ回り込んだ。
「クソッ、ただでは通してくれないか」
ガルドは逃げることを諦め、魔物へ盾を構えた。カルラはその後ろから火炎魔法を撃つが、魔物は機敏に魔法を躱し続ける。そんな彼らを眼の前にしながら、アイシャは一人でブツブツとうわ言を繰り返していた。
魔物からの攻撃を防ぎ続けるガルド。だが、その盾はすべての攻撃を受け続けることなど出来ない。激しい猛攻を受け続けた盾には傷が、亀裂が入っていく。そして、魔物の攻撃によってガルドの防御は決壊した。
盾が大きく割れる。破片でしかなくなってしまった盾だったものには、もう攻撃を防ぐという機能は備わっていなかった。
ついに盾が割れたことに、ガルドは大きく動揺する。長年の相棒が力尽き、その精神的支柱であった盾を失ったことでガルドは絶望した。もはや生き延びることは無理だ、と。
そこからは、魔物による一方的な蹂躙だった。攻撃を集めてくれる盾を失った彼らは一撃、また一撃と攻撃を食らう。ガルド、カルラと順に魔物によって殺され、最後に残ったのは正気を失ったアイシャだった。
「ア、アハ、アハハハハハハハッ。私って、ほんとバカ」
頼れる仲間をすべて失い、アイシャは絶望する。あまりの惨劇に、アイシャは現実逃避をするかのように狂気的な笑いを弾けさせる。
魔物はアイシャを殺すため爪を振り上げるが、アイシャは怯えるどころか抵抗する素振りすら見せない。
魔物の爪はアイシャを腹をえぐり、その臓物を顕にさせる。
その後、迷宮の深層では凄惨な咀嚼音のようなものが響き続けた。




