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旅立ち





 俺のバフがかかったリゼのファンゴ刈りは、爽快そのものであった。

 リゼはファンゴを視認するなり一瞬で距離を縮め、一撃でファンゴを仕留める。そして、ファンゴの死体から血を抜き出して、他のファンゴの気配へと向かう。俺はそれらを回収しながらリゼについていくが、リゼの姿が見えたのは最初の数十秒のみ。後は足跡のように残されたファンゴの死体を辿りながら30分が経過した。


「あー、動いた動いた。風を切る感覚が気持ちよかったし、またやりたいわね」


 ちまちまファンゴを集めていると、リゼがそう言っているところを見つけた。


「お疲れ様。楽しかったなら、よかったよ。でも、今回のこれでかなり稼げるはずだし、当分の間はする必要がないぞ」


 俺がそう告げると、リゼはそれが意外だったかのように目を見開いた。


「あら、そうだったの?ストレス解消にもなるから定期的にしたかったのだけれど」


「さすがに、この量を定期的に狩ったらファンゴがいなくなってしまうぞ。やるとしても期間を開けてこれよりも数を少なくしないとな」


 この言葉に、リゼはわかりやすく肩を落とす。


「まあ、ファンゴがいなくなったら本末転倒だものね。そういえば、一体いくらのファンゴを倒したの?20を超えてから数えてないし、最初の方で20は超えたからわからないわ」


 数を知りたいのか?数えながら拾ってたから俺は把握しているが……この様子だと数字を聞いて驚くだろうな。


「俺がバフをかけてからリゼが倒したファンゴは……196体だ」


 俺の口から紡ぎ出された数字に、リゼは指を折って数え始めた。


「いちにぃさん……196?ちょっと待って、よくわからないわ!」

 

 リゼは数えることを放棄し、俺に教えを求めてきた。


「うーん、わかりやすく言うなら……さっきバフを掛ける前にお前がファンゴを狩ってきただろ?あの塊4つ分だ」


 そう説明をすると、リゼは自分のやったことの大きさをついに理解したらしく声を張り上げる。


「さっきのあれ4つ分!?無理よ、流石にその量をまとめて持っていくのはバフがあっても厳しいわ」


 流石に無理があったか。何度か往復して分けて持っていくしか無いかな。いや、一時的に荷馬車を借りて一気に運ぶか。それでも往復は必要だろうが、時間や労力を節約できるだろう。


 とりあえず、俺達は持てるだけの量を持って街へと戻った。




 ◇◆◇◆◇◆



 街で一度解体業者にファンゴを預け、俺は大きめの荷馬車を1台借りてまた森までやってきた。


「よし、どんどんこの中に積み込んでいくぞ。奥の方から順に積めていってくれ」


 運ぶ効率を上げるため、俺とリゼの両方にバフをかけながら、どんどんファンゴを荷馬車に乗せていく。


 1箇所に集めてはいたものの、荷馬車いっぱいにファンゴを詰め込むのに1時間以上かかってしまった。

 ファンゴの数はまだ半分近く残っている。次の往復ですべて乗せきるだろうが、これをもう一度するのは中々に骨が折れる。


 街でまたファンゴを預け、残っていたファンゴを回収し終わった頃には、いつのまにか日が沈みきっていた。


「おいおい、兄ちゃん達。とんでもない量を持ってきてくれたじゃないか。うちの従業員が全員で取り掛かっても明日の昼ごろまではかかるぞ?やりがいのある仕事を持ってきてくれるじゃねえか」


 死体を預かる担当の男に最後のファンゴを渡すと、男は疲弊しきった俺の方を後ろからバンバンと叩いてくる。文句を言われないだけ良かったが、この量を明日の昼までに捌き切れるのは正直驚きだ。


「ああ、頼んだよ。代金は明日素材を売却した後で良かったよな?」


 念のため確認すると、男は朗らかな笑顔で肯定する。


「おうよ。兄ちゃんたちも今日一日疲れただろ?今日は寝てしっかり休みな」


 男に見送られながら業者の建物を出て、俺は冒険者ギルドに向かう。数体ほど剥ぎ取ってしまったファンゴが居るので、それを売って今日の宿代にするのだ。


 冒険者ギルドに入ると、あいかわらず周囲からの視線が痛い。だが、気にするだけ無駄なので黙って素材買取用のカウンターへ向かう。


 どうせこの街にいるのも明日までなのだ。どう思われようが知ったこっちゃない。


「ファンゴを狩ってきたので、買取お願いします」


「ファンゴですね。3体、素材の状態はB程度なので鉄貨18枚です」


 俺が剥ぎ取ったものだからそんなに状態は良くなかったか。でもまあ、これで宿一泊分の金は調達できた。


 冷たい視線を浴びながらギルドを出た俺達は、昨日泊まった宿にやってきて一夜を明かした。



◇◆◇◆◇◆



 宿の一室でリゼと朝を迎えた俺は、剥ぎ取りが終わる予定の昼すぎまで街をプラプラと歩きながら時間を潰す。


 数枚の鉄貨で屋台の串焼きを買い、大通りの散策に飽きた俺達は裏路地に入る。

 裏路地はどこも似たようなものだと言うのに、周囲の景色に見覚えを感じていると一つの建物が目につく。


「ねえ、あそこ私がユーリに買われた奴隷商じゃない?見覚えがあると思っていたけどここだったのね」


「ほんとだ。あのときは奴隷商がどのあたりにあるのかなんて気にしてなかったから気づかなかったけど、無意識にここまで来たのかもな」


 感慨に浸りながら建物を眺めて、大通りに戻る。裏路地は人が少なくて静かだったが、賑やかな大通りもいいな。


 そんなこんなで、気が付いたらもう昼過ぎだ。剥ぎ取り業者のところまでやってくると、汗をかきながら目に隈をつくっている男が昨日と同じ場所に座っていた。


「ん?ああ、兄ちゃんたちか。剥ぎ取りは全部終わったぞ。俺の見積もり通り、全員でかかって徹夜しながら作業して正午に終わったよ。二人じゃあ、冒険者ギルドに運び込むのも一苦労だろう?俺達が持ってっといた。気にすんなって、サービスだよ」


 ギルドまで持っていってくれたのか。ほんと、ここの人たちには感謝しか無いな。たしかあまりにも数が多いときはギルドまで運んでもらうこともできたはずだが、別料金が必要だったような。サービス精神に感謝だ。


「何から何まで、ありがとうございます。じゃあギルドまで行ってきますね」



 冒険者ギルドに入ると、やはり視線を感じる。だが、どこか視線に込められているものが違うような。


 若干の違和感を感じながら、買取カウンターまでやってきた。


「ユーリさんですね?カインズ剥ぎ取り業者から素材は預かっております」


 俺が名乗るまでもなく、カウンターの受付嬢が俺の名前を確認してきた。

 困惑しながら肯定の意を込めて頷くと、他の冒険者たちから感心の声が漏れた。


 ああなるほど、業者が大量のファンゴを持ってきたところを見たのか。持ち込まれたファンゴの数にビビってたんだな。


「状態がAのファンゴが246体なので、金貨2枚、銀貨21枚、鉄貨4枚です」


 思ってたよりも多いな。予想通り全部状態Aだったからそれぞれ鉄貨9枚。246×9だから——2214枚か。鉄貨10枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だから……うん、間違いないな。業者に払う分が銀貨25枚だからあまりは金貨1枚に銀貨96枚と鉄貨4枚か。かなり余裕がでるぞこれ。


 金貨や銀貨が擦れてジャラジャラと音の鳴る巾着を受け取り、冒険者ギルドを出る。他の冒険者達からの羨望の眼差しが、少しくすぐったかった。


 城門付近の馬車乗り場に来て、他の街へ行く適当な馬車を捕まえる。乗合馬車だが、馬車に乗れるだけ十分だろう。


「ユーリ、今から行く街ってどんなところなの?」


 馬車に揺られていると、リゼが尋ねてきた。

 

「そうだな、あの街は——」


 ケインのパーティーを追放されて、その時はどうなるかと思ったが運よくリゼと出会えて、こうして新天地に出ることもできた。ケインに妨害されることもないし、この先、どんな物を見られるのだろうか。


 



 了

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