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無双




 ファンゴ討伐の為に森へやってきた俺たちは、早速ファンゴと接敵した。


「こいつを倒せばいいのね?見てなさい。私の強さを見せつけてあげる」


 初めての獲物を見つけてリゼは興奮しているようだが、ファンゴは強い魔物ではない。どちらかと言うと雑魚の部類だ。なので力を発揮するまでもなく倒せると思うが、まあ見ていよう。


「ブヒィー!」


 リゼを脅威だと認識したファンゴは、鳴き声をあげてリゼに向かって突進する。

 ファンゴとリゼの距離が1メートルを切った瞬間——スパァン!

 乾いた音が鳴ったかと思うと、ファンゴの首が切断され、飛んでいた。残された体は自由を失って地面に倒れ、頭はそこから少し離れた場所にボトリと落ちた。


「どう?強いでしょ!」


 ファンゴを軽々と倒したリゼは、自慢げにその小さな胸を張る。


「おお、すごいな。まさか突進してくるファンゴを一撃で仕留めるとは思ってなかったよ」


「フフン!」


 俺に褒められたことが嬉しいのか、リゼは調子に乗ってさらに胸を張る。

 いやはや、予想以上の実力だったな。ファンゴは雑魚とはいえ、その突進の威力はそれなりのものだ。それをギリギリまで引きつけて倒すなんて、自分の実力と、それに伴う自信がないと無理な話だ。


「あら、向こうにファンゴが数体いるわ。倒して持ってくるわね」


 リゼが指差した方向に意識を向けると、確かにファンゴの気配を複数感じる。俺は言われてやっと気付いたが、リゼは索敵能力も高いんだな。これは結構ファンゴを狩れそうだ。


「応、行ってこい。回復する手段がないから、怪我はしないようにな」


 さっきの様子を見るに、油断さえしなければファンゴが複数相手でもリゼなら簡単に倒せるだろう。俺はリゼを送り出し、その間にファンゴの死体から売れる素材を剥ぎ取り始めた。




 ◇◆◇◆◇◆



 ファンゴからできる限りの素材を剥ぎ取り終わった頃、タイミングよくリゼが狩りを終えて俺のもとへ帰ってきた。


「お疲れ様。どのくらい狩ったんd⋯⋯いや、多すぎだろ!?」


 さっきまで剥ぎ取っていたファンゴから目を離し、リゼに目を向けると俺はその様子に驚いた。

 大量のファンゴを持ったリゼは、あまりのその数の多さに埋もれてしまっている。まるでファンゴの死体を積み重ねた冒涜的な生物かのように、隙間までびっしりとファンゴが詰まっていて内側にいるであろうリゼの姿が全く見えない。


「フゴフゴフゴフゴフゴフゴフゴフゴ!(どう?たくさん狩ってきたわよ。褒めなさい!)」


 いや、何言ってるのかわからねーよ。とりあえず、リゼを窒息させないため俺は彼女の顔に当たるであろう位置からファンゴを取った。


「っぷはぁ!ファンゴに包まれてるのも、暖かくて気持ちいいわね。ほら、早く私を褒めなさいよ。こんなにたくさんファンゴを狩ってきたのよ!」


 顔だけ人間、後はファンゴの死体の山という光景に若干引きながらも、俺はリゼの要望に答える。


「あ、ああ。リゼはすごいよ。正直、ここまで狩るとは思ってなかったな。せいぜい4,5体程度かと思ってたけど、リゼの実力を測りそこねていたみたいだ。ちなみに、それどうやってるんだ?何もしてなかったらファンゴの死体は崩れるだけだと思うけど」


 俺はリゼを褒めて、ファンゴをどかしながらファンゴを纏っていた方法について尋ねた。

 俺が尋ねると、リゼはなんてことないかのように、実演を交えながら軽く説明を始める。


「私のスキル、血液支配を使ったのよ。傷口から血をこんなふうに引き出して、他の死体から取り出した血とつなげるの。これを繰り返してさっきみたいにファンゴを纏ってたの」


 リゼが血液支配を使うと、ファンゴの傷口から赤黒い血が鎖のように出てくる。それが、いくつもの死体から出てきてつながった。そして、鎖を短くしていくと死体同士は近づいて最終的に隙間無くくっついた。


 「なるほどそういう仕組だったんだな。待てよ?そのスキルを使えば死体の血抜きも楽にできるんじゃないか?ちょっと試してみてくれ」


 血液を操作できるなら、死体からきれいに血を取り出すことができるはずだ。死体の血抜きは、死体の剥ぎ取りをするにあたって一番の問題だ。血抜きの出来具合によって肉の買取額が大きく異なるので、血抜きは綺麗にできて損はしない。


「いいわよ。血を抜くぐらい、奴隷になる前はよくやっていたもの」


 リゼは、俺の頼みを聞き入れると再度スキルを使い始めた。


 おびただしい量の死体から一斉に血液が抜かれ始め、それらは一つの塊となった。ちゃぶ台ほどの大きさになった血液の塊は、リゼの頭上でふよふよと浮遊する。

 

「おお、すごいな。素早く、きれいに抜き取られてる。これだけでも一財産築けそうなぐらいだぞ」


 適当な死体を持ち上げ、上下に振って血の残り具合を確認しようとしたが、一滴たりとも残っていない。全ての死体でこれができているのだとしたら、今日だけで目標の何倍も稼げるだろう。


「ただ、この量を剥ぎ取るのは骨が折れるぞ。業者にでも委託しようかな。肉の質もいいし、赤字になることはなさそうだ」


 獲物の数が多く、剥ぎ取りが困難な場合、剥ぎ取り業者に委託することができる。ファンゴの場合、10体ごとにたしか銀貨1枚だったか。少々高めだが、俺の見積もりではファンゴ1体ごとにおよそ鉄貨9枚はかたい。余裕で黒字、目標金額も越すだろう。


「だけど、リゼの素の実力でこれだから、俺のバフまで掛けたら、いったいどのくらいいけるんだ?」


 ただでさえ一二分な量を回収できていると言うのに、更に稼げそうな気配を感じた俺は、好奇心を抑えることができなかった。


「バフ?そういえば、さっきの冒険者ギルドでバッファーとかいわれてたわね。どんなものなの?」


 俺の独り言が聞こえていたようで、リゼはバフが何なのか訊いてきた。


「バフってのはな、スキルで味方のステータスを上げたりできるんだ。俺の場合、リゼの全能力値を1.5倍にできるぞ」

 

 リゼに分かるよう易しく説明すると、彼女は目を見開いた。


「つまり、私がもっと強く慣れるってコト!?最高じゃない!早く私にそのバフを掛けなさいよ。もっとたくさんのファンゴを狩ってきてあげるわ!」


 自分が強く慣れると聞いて、更にやる気を出すリゼ。早くファンゴを狩りたいのか、ぴょんぴょんとはね始めた。


「ま、まあ落ち着けって。そしたら、バフをかけるぞ」


 なんとかリゼを落ち着かせ、俺はバフを掛けた。とりあえず効果時間は30分に設定して、リゼの様子を確認する。


「わわっ!身体が急に軽くなったわ。それなのに、思うように身体を動かせる。今なら神だって殺せそうよ!」


 神殺しって、すごいことを言うな。素のステータスが高ければ高いほど、バフによって盛られる量も増える。レベルの割にステータスの高いリゼなら、かなりの上昇幅があるはずだ。


__ステータス__

 名前無し Lv40 種族 ヴァンパイア

 HP ∞/∞

 VIT 100(+50) STR 120(+60)

 DEX 130(+65) INT 110(+55)

 MND 90(+45) AGI 150(+75)

 スキル

 血液操作

 幻惑魔法

 暴走(使用後3分間STR,AGI1.3倍その後10分間HP以外の全ステータス2/3倍)

 ____

 

 鑑定してみたが、やっぱりかなり上がってるな。暴走を使えば、更にここからステータスが伸びるのか。確か、自分のステータスを上げる暴走のようなスキルは、バフによって盛られたステータスに対して乗算する。つまりはとんでもないほどのステータスになるということだ。


「そしたら、さっきと同じくらいの時間ファンゴを狩ってみてくれ。どのくらい効率が上がるのか確認したいからな」


 俺がそう言った次の瞬間、リゼは目を輝かせながら勢いよく飛び出していった。

 

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