奴隷
裏路地で奴隷商を見つけた俺は、奴隷を買おうと思い立ち奴隷商の中へと入った。
「おお、意外と清潔感があるな」
これまで奴隷の必要がなかったため奴隷商へは来たことがなかったが、想像以上にきれいだ。部屋の中を見渡すと、床には埃がひとつもなく、店内の装飾もどこか貴族の屋敷の一室を思わせる。
「それはありがとうございます。うちは他の奴隷商とは違って清潔感を大事にしておりますの。奴隷もですが、清潔感がないと購買意欲を削がれるでしょう?」
俺の独り言に、部屋の奥にいたオーナーと思わしき女性が反応した。どうやら、ここは他と違ってきれいらしいな。他の奴隷商なら、俺が想像していた様子と大差なかったのかもしれない。
「こんにちは、オーナーさんですね?奴隷を買いに来ました。紹介してもらってもいいですか?」
オーナーの女性はやんわりとした雰囲気を持っているが、それと同時に舐めてかかってはいけないと思わせるようななにかがあり、俺は自然と敬語で声をかけてしまった。
「ええ、勿論です。予算はどのくらいで?うちの奴隷はピンからキリまで。高いものは金貨7枚ほどですが、低いものなら金貨3枚までありますよ」
ほう、それならいい具合に手切れ金を消費できそうだ。
「予算は金貨7枚です。誤差は、銀貨2枚程度なら」
ケインから受け取った手切れ金の他に、俺が個人で持っていた金が銀貨2枚と銅貨が十数枚ある。そう伝えると、オーナーはやんわりと微笑みテーブルの上に置かれていた鍵の束を取り、部屋の奥にあった重々しい扉へと向かった。
「では、こちらへどうぞ。奴隷はたくさんいますので、お好きなものをお選びください」
そう言ってオーナーは扉を開くと、その奥には牢屋が並んでいた。
扉の奥を進むと、様々な奴隷がいる。モデルは猫だろうか、獣人やエルフ、人間など様々な人種がいて、奴隷であることを示す首輪がついている。皆やせ細っていたりはせず、身体も汚れていない。奴隷の清潔感にも力を入れているというのは嘘ではなさそうだ。彼らの前を通ると、皆、自分が買われることを期待しているのかキラキラした目でこちらを見つめてくるが、声を出したり強くアピールすることはない。
オーナーは、奴隷を一人ひとり紹介しながら少しずつ奥へ進んでいく。俺はそれを聞いてるふりをしながら奴隷たちに鑑定をかけていく。めぼしい奴隷が中々見つからないことに落胆しながら進んでいくと、オーナーが立ち止まった。
「こちらで最後です。彼女の種族は、あまり分かっていませんがおそらく人間、洞窟の中でひとり暮らしていたところを捕まえたそうです。金額は、この店では最高金額の金貨7枚と銀貨2枚、いかがです?」
その牢屋の中には、銀髪美少女が座り込んでいた。彼女は他の奴隷と違い、俺が目の前にやってきても興味を示さない。どころか睨まれているような気がする。その様子に疑問を抱きながら鑑定をかけると、俺は驚愕した。
__ステータス__
名前無し Lv40 種族 ヴァンパイア
HP ∞/∞
VIT 100 STR 120
DEX 130 INT 110
MND 90 AGI 150
スキル
血液操作
幻惑魔法
暴走(使用後3分間STR,AGI1.3倍その後10分間HP以外の全ステータス2/3倍)
____
ヴァンパイア、だと?本当に実在したのか。伝説によればその存在は人の血を吸い、不老不死。唯一の弱点は銀の武器による攻撃だと言う。伝説の存在ということでそんなものいないと思っていたが、まさかそのヴァンパイアが目の前に、奴隷としているとは。
これは即刻買いだな。こんな珍しいもの、今を逃したら二度と会えないだろう。値段は金貨7枚に銀貨2枚。ギリギリだが、買えないことはない。それに、ステータスもレベルにしては高いので、生活費も簡単に稼げるだろう。
「この奴隷を買います」
「そうですか、ありがとうございます」
オーナーにそう伝えると、オーナーは嬉しそうな顔をして最初の部屋へ戻っていく。それについて俺も戻ると、オーナーは紙を一枚取り出して俺に手渡した。
「それでは、こちらに必要事項を記入してください。その後、代金を払えばあの奴隷は無事、貴方のものです」
俺は、渡された紙を確認した。そこには、奴隷の所有権を俺に譲ること、奴隷の扱いについて、奴隷の行ったことは全て所有者の責任であることが書かれていた。
内容を一通り確認した後、それぞれに承諾してサインを書く。すると、オーナーは無言で両手をこちらに差し出してきた。
さすがは商人、金にはがめついなと思いながら、金貨と銀貨を数えながら巾着へ入れ、その手においた。
「どうもありがとうございます。それでは、お好きになさってください」
オーナーは、金を受け取るとそう言ってヴァンパイアの奴隷を俺に引き渡す。俺は、彼女を連れて奴隷商から出た。
◆◇◆◇◆◇
残った銅貨十数枚を使い、俺と奴隷の宿を1泊分取った。これで、持ち金は完全にゼロ。無計画に使いすぎたことを後悔しながら、俺は奴隷に話しかけた。
「あー、俺の名前はユーリだ。これで俺はお前の主人になったわけだが⋯⋯」
すると、彼女はつっけんどんに言う。
「どうせ、私の身体目当てなんでしょう。好きにしなさい。この貧相な身体で貴方の相手ができるかはわからないけど」
その態度に、俺は面食らった。確かに奴隷にはそういうことを命令することもできるが、今はそういうつもりなどない。いずれはそういう関係になるかもだが、とりあえずは買った目的を話さなければ。
「ちょっとまってくれ、お前は誤解している。俺がお前を買ったのは、お前の戦闘能力を見込んでだ。理由あってパーティーを追放されてな、俺の役割はバッファーなんだ。一人では戦うことが出来ない、だから代わりに戦ってもらうためにお前を買ったんだ」
その言葉が意外だったのか、彼女はきょとんと可愛らしく首を傾げた。
「あら、そうだったの?てっきり貴方のことを変態だと勘違いしていたわ。ごめんなさいね。牢屋の中で貴方から感じた視線が変なものだったから」
勘が鋭いな。おそらく、彼女が感じた変な視線というのは鑑定を使ったときのものだろう。変に隠さないで説明したほうが吉か。
「その視線なんだがな、俺は鑑定スキルを持っているんだ。それでお前のステータスを確認したときの視線が、引っかかったんだと思う」
そう伝えると、彼女は突然敵意を剥き出しにした。
「ステータスを、確認!? ということは、あなた、私の正体を知ったのね。だめよ、そんなこと。殺さないと」
そう言って俺の首に手を伸ばそうとした。俺は少し驚いたが、避けたりそれを防ぐようなことはしない。俺の首に手が届く一歩手前で、異変は起きた。




