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戻らないよ②

飲酒運転の車に轢かれた。

薄れる意識の中で目の前に誌穂が来た。


「今まで、ありがとう」


そう伝えようと必死に口を動かした。

だけど、声は上手く出なかった。


僕のせいで泣かないで。僕のせいで傷つかないで。

貴方は優しい人間なんだから。


(最後まで一緒に居たかった)

目の前が真っ暗になった。


気が付いたら自分の葬式が目の前で起こっていた。

みんな涙を流して悔やんでいた。


(嬉しいな)


穂乃は誰にも見つけてもらえなくても、そのままみんなの人生を見ていこうと思った。

一か月もするとみんなに少しずつ笑顔が戻り始めて、少しづつ元の生活をしていた。


だが、兄は違った。

ずっと涙を流して悔やんで苦しんで家に引きこもっていた。

だけど、ある時兄は学校に向かった。女子の服を着て。

「その服なんだよ。きめぇ」

「似合ってるだろ?」

そう言って笑っていた。


だけど、やっぱり違うことは異質であり除外の対象であった。


そう、兄もいじめが始まった


そこから、どうしたのだろう。

優しい人が少し違うだけで、苦しめられて。許せなかった。

もっとうまく間違ったことをしない方法はないのか。

もっとうまく。だんだん穂乃の周りは黒い霧のようになっていた。

そうだ、国中を支配してしまえばいい。全員の動きを監視できるようになれば。

蔓のような糸が巻きついてきた。

そしてそれはどこかをさすように伸びていた。


そこにすがるように追いかけると誌穂がいた。


「穂、、、乃?」

誌穂は驚いたような顔をした。

「ユルサナイ」

穂乃が何に怒っているのか誌穂は理解したようにうなずいた。


「私の力を貸す。命でもかける。だから、手伝わせて」


二人でおそろいのキーホルダーを買ったことがあった。

それを見るたび二人で一つだねって笑いあっていた。


「私たちは二人で一つだから」

差し出された手を穂乃がとった。


* * * * *

「はっ」

翠は驚いたようにはっとっした。

「なるほどそうでしたか。」

怨霊だと言われている。確かにそうなのかもしれない。だが、悪意を感じられなかった。

「あなたはどうしたいのですか?」

優しく翠が問いかける。

契約した以上、離れられず思ったことを口にできないのだろう。


「イキテテ、ホシイ」


蔓のような糸、緑くて美しいその姿から、涙が溢れ出ていた。


「モシ、モドレルナラ」


高校生の姿の兄と穂乃の姿が見える。

そのまま結婚して、幸せな家庭を築く。そんな未来があったのなら。


「モドリ、、、」

「戻らないよ」

知佳が穂乃の前に来た。


「それは貴方が一番言っちゃいけないのよ」


知佳が穂乃の目の前で座った。

「おい!」

翠が知佳の肩を持ち引き離そうとした。

「貴方は!契約した人の今までの時間を寿命をなんだと思ってるの!」

その言葉に翠がとどまった。

愛漸に封印が施されているが、霊力が少ないため、解けるのも時間の問題であった。

「愛漸さんは私に任せてください」

翠は知佳の後ろで構えた。

「もう苦しいでしょ?だから、貴方は今ここで私が祓う」

「シホ、イキテラレル?」

「志穂?えっと誌乃って名乗る女のこと?」

穂乃は頷いた。


知佳は口をギュッと一度結んでから、意を決したように。

首を横に振った。

「契約っていうのはそんなに簡単に解けないの。生と死の者としての契約。死の者同士になるまで終われないの」

穂乃が固まった。

「上書きとかできないのか?」

翠が割って入った。

「異例として可能性があるのは、、、それこそ式神と人、つまり翠、貴方だけね」

「うにゃ、私から出れそうですか?」

「待って!」

知佳が翠を止める。

「契約は前の契約が優先される。意味わかるわよね?」

つまり、その後、穂乃が誰かの式神になったとしても穂乃が祓われた時点で誌穂は消滅を免れない。

だから、無駄に希望を見せるのはかえって苦しくさせるだけ。

(何とかできないでしょうか、、)

翠はやるせなさで胸がいっぱいだった。


「いってー!!!」

糸が鞭のように蓮矢に攻撃が続いている。

「いい加減倒れなさいよ!」

「俺は、なんだかんだ守られてばっかで気に入らねーんだよ!」

「知らないわよ!」

そう言って糸で蓮矢を縛り上げた。

「ぐっ、、ぐう」

蓮矢は苦しそうにする。

「おま、、えは、これを、のぞ、んでいる、、のか?」

「、、っ」

少し糸が弱まった。


(翠お前はほんとに天才だ簡単に何でもこなして、何でもできて)


「だから!俺だって負けられないんだ!」

蓮矢の手に紫のような鱗が出てきた。

それを、糸に当てて腕を振る。


糸が切れた。


「なんで、、、」

誌穂は動揺したように声を出した。

「なんでそんなに絶対的な正義を求めてんのに!そうやって傷つけようとしてんだ!」

誌穂の胸倉を掴んだ。

「私だって!可能なら手を汚さずにそんな世界にしたい。だけど、それは綺麗ごとじゃない!」


何をしたってどんだけ、徳を積んだって。世界はその人を幸せにするわけではない。

無作為に命を奪って。


「だから、私が決めた世界で一番正しい人に、祈りを託して何が悪いのよ!」


命なんて簡単に賭けてやる。大事な人を苦しめるこんな世界で生きていたいと思えないから。


かざした手は老人のようにしわしわになっていた。

(もうすぐ寿命か、、、)

これで終われるならそれでいいと思っていた。


「俺は!お前も正しい人間だと思う!」


糸が向かって行く、しかし、蓮矢の鱗で切られていく。


「それが何だってんのよ!」

「お前が今後老人のような姿であっても。俺は」

大きな糸が一本蓮矢に向かった。それを蓮矢は掴んだ。


「まてや!!!くそどもが!」

愛漸が翠と知佳へ向かっていた。

翠は愛漸のパンチを素手で流した。

その隙に知佳は愛漸の膝裏を蹴り転ばした。


愛漸は崩れ落ちた。


(か、、、勝てない、、、)


愛漸は起き上がらず頭を下げて手を前に置いた。


「お願いです。祓わないでください。その子は俺の大事な妹なんです。」


穂乃は自分の存在に気付いていたことに驚いた。

「オニイ、、、」


(そうだ二人とも優しくて、強くて)

なぜ、そう願わなかったのだろう。

穂乃が霊になっていた理由。ただただ二人が幸せに、、、


「生きててほしい」

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