いつだって真実はその先に①
「久しぶりにその話を聞きましたね。」
時雨が思い出したように顔をあげた。
「わしは、もう沢山じゃ」
シバはうつむいた。
「結局わしは時月に会いに行かなかった」
「それはそれで運命ですよ」
「なぜお主は一度も助けに来ぬのじゃ」
シバは時雨に怒りを向けた。
「私は時月ではないので、未来とかは見えません。だから結果を語りますね」
「うぬ?」
シバは何を言っているか不思議に思った。
「あの飢饉で誰一人死者は出ていません」
シバは顔をあげた。
「な、、、なんと」
人を殺したとシバは思っていた。
だって助け出すという感情すらなかったからだ。
泣き叫んでいる民がたくさんいたのに。
「そして、あなたが火事を起こしたことにより、畑が生き返り、あなたがまいた種で芽吹き、あなたの食糧で町民たちは命を繋いでいけました。」
「そ、、、、、そうか」
「私の民を守ってくれてありがとう」
「うっ、、、うぐっ」
シバは涙が溢れていた。たくさんの人を殺したと思っていた。
あの時はそれすら当たり前だと思ってしまっていた。
「あの灰が汚いわけないでしょう。とてつもなくきれいな灰ですよ」
シバはバッと時雨の方を向いた。
「見ておったのか?」
時雨はゆっくり笑みを浮かべた。
「はい。ずっと近くで見てましたよ。あなたは無意識に人を守る選択をしていた。本当にすごい方です」
「じゃが、時月は、、、」
腕の痛々しい傷。老いても消えることはなかった。
「本人から聞いたでしょ。時月は傷のことで一切悩んだことはありませんよ。時月は幸せ者それは間違いありません。」
そう言って時雨は寂しそうにした。
「父親を置いて先に行くなんて」
目元を手で押さえた。
「お主、、もうすでに死んでおろう」
「はっそうでした」
その顔にシバは少し笑ってしまった。
「そうだ。シバは祠が再建された時、見に来てなかったですよね。」
「そうじゃな」
初めて祠へ行った時果物と花がたくさん置かれていた。
てっきり、再建を祝っておかれたものだと思っていた。
「あれは再建を祝ってのものじゃないですよ」
「違うのか?」
「町民は全員で謝罪に来ていました。」
町のほぼすべての人が参列していた。
圧巻の風景だった。
そこでは祠の前で涙を流すものもいた。
「化け物呼ばわりしてすみませんでした。」
「大切な人傷つけてごめんなさい」
たくさんの謝罪の言葉が飛んでいた。
「果物をくれてありがとう」
「畑に種をまいてくれてありがとう。」
たくさんの感謝の言葉も飛んでいた。
「シバが今なんでそんなに小銭があると思う?」
シバは光に渡したお金の量を思い出した。
ずっしりとしていて、何百、何千枚の小銭があったと思う。
「そうか、こやつらのだったのか」
シバは笑みが零れた。
「誰一人あなたを恨んでいませんよ。時月も言ってたでしょう。」
火事を起こしてから余裕がなくなっていた。
何も見えずただ贖罪として、町民にご飯を分けていた。
「火事のことも誰も恨んでいませんよ」
幼い子供もいたのに。泣いて叫んでいた声がまだ耳に残っている。
「だって誰も死んでいない。そしてそのおかげで実りがあった」
思い出したことが少しだけあった。前の祠にいたときに比べて参拝に来る人が多くなった気がした。
そしてあの幼い子もまた、シバへ感謝を伝えに来ていた。
「あなたは愛されています」
たくさんの人のありがとうが聞こえてきた気がした。何百年耳を閉ざして聞かないようにしていた言葉が今やっと聞こえた気がした。何も見ようとしなかった。
(起こしたことを自分で恥じて悔いて、その先を見ようとしていなかった)
また、涙が溢れ出そうだったが、今回はこらえた。
「愚か者はわしじゃな」
その代わりに笑みが零れた。
「清吉はいいやつであったな」
思い出したようにシバはぼやいた。
「ええ。彼は本当に素敵な人です」
時雨も同意した。
「父上と結婚するって言ってたのに」
悔しそうにする時雨を見て少し笑ってしまった。
「わしが時月を任せた自慢の唯一の弟子じゃ。」
「恋敵なのに?」
時雨がニヤニヤしていった。
「なっなぜそれを!!??」
シバは一切話したことのないことを言われ動揺していた。
「知っているさ。私だって皆のそばで見守っていたのだから。」
時雨はそう言って笑っていた。
「じゃが。わしは清吉で良かったと思っておるぞ」
「私も同意です」
清吉は、時月が死ぬのをしっかりと見届けていた。そして、その後は数年して後を追っていた。
その間、子供たちの心に寄り添い。前を向けるようにしていた。
「清吉は時月が亡くなる前から、病気で後が短いって言われてたんですよ」
「封印の家系じゃから遅らせたのか」
「おそらくですけどね。霊力を使って一時的な延命をしたのでしょう。そして、子供たちを心配して同時に亡くなることもないように、数年耐えしのいだ」
病気は日に日に悪化していたのに。清吉は毎日祠に来て、楽しそうに今日の事を話していた。
「ちゃんと最後まで守り切りましたよ」
ある日、満足そうな笑みでそう言った清吉が、まだ脳裏に焼き付いて離れない。
(わしはこいつに勝てない)
そう何度も思い出させられている感じだ。
「そういえば時月はあやつの家系を知っておったのか?」
ふと疑問に思ったことを言ってみた。
「知ってますよ。あなたより前にとっくに」
「そりゃそうであるな」
時月は家系でどうこう言うタイプでもない。
大胆で、だが優しくて人のことを本気で思っている優しい子。
「いやーでも、私は結ばれるのシバじゃなくてよかったです。」
「なぬっ!?」
「そりゃそうでしょう。シバ付き合ったら私の姿でそばに居るでしょう。ちょっと変態親父、、というか」
「あっ」
そう言えば人の姿は、時雨と全く同じ姿をしていたのだった。
「確かにそれはまずいな」
シバはそう言って笑った。
恋の話をすることはそうそうなかったが少したのしかった。
「そういえば。時月の加護っていつの間にしておったんじゃ?」
思い出したようにシバが聞いたあの時の霊媒師と戦う時月の姿を思い出す。
「加護???」
時雨は不思議そうな顔をした。
「えっ?」
シバも不思議そうな顔をした。
「していませんよ?」
あの時確かに時月は憑いているといった。
「な、、なぜ」
「あと、時月は多分私よりも強いです。」
じゃあなぜ、あの時。
「だけど、時月は力に比べて体が弱すぎました。だから、術を使うとすぐに気絶したり、ダメージが蓄積される。私が憑りついたら、霊力を暴走させかねないしできませんでした。」
だからあの時すぐ気絶のか。
「あの子なりの優しさでしょう。私が時月に一切手を貸してないことに憤ると思ったのか。それか、、」
時雨は少しだけ考えて
「それか、あなたを助けたかったけど、それでも助けて守ってほしい願望もあったんじゃないですか?」
「それはどういう意味じゃ?」
「さぁ、父親が娘の感情を憶測でしゃべるなんてあってはなりませんから」
そう言って時雨は人差し指を口に当てた。
「あともう一つのシバの後悔は多分、私じゃなくて、他の人に話すほうをお勧めしますよ」
「もう一つの話か、、、」
森の中であった夫婦の話。まだこれも誰にも言っていない。
「少しは軽くなりましたか?」
「もちろんじゃ。ありがとう」
そういうと時雨は目を閉じた。
ふっと何かが抜けたように見えた。
「あっシバ」
光が帰ってきた。
「いやぁめっちゃ寝てた気分」
そう言って伸びをする光。
「なぁそう言えば一つ聞いてよいか?」
「ん?」
光が首をかしげる。
「なんでシバって名前にしたんだ。」
「柴犬だからシバ」
(本当に適当な理由で名前を付けてくれる。)
「そうか」
シバは満足そうに笑った。




