そばに居たとしても①
「シバ」
夏の青空の下。太陽の光が祠を照らしていた。
祠の中では一匹の青色の柴犬がいた。この空のように真っ青なのに位部屋にいるせいか、少し濁って見えた。
「誰じゃ」
振り返らず鏡の前で座るシバが言う。鏡にはシバの姿は映っていない。
だが光の姿ははっきりと映っていた。
「ひどいなぁ光だよ」
「そんなわけがなかろう霊体ならわしの階級の霊を見ることができるのは同じレベルのものかそれ以上の者、、」
「あはは!覚えててくれたんだ」
そう言って豪快に笑う光の姿にシバは振り返った。
そしてシバは目を見開いた。
* * * * *
「光、いざとなった時に力を貸してあげますから、私に一日だけ体を貸してくれませんか?」
「なんで?自分の体を実体にすればよくない?」
「あはは!言ったでしょ?私は霊ですよ」
「シバだってそうじゃない?」
「私の祀られる神社も祠もありませんし、なんたって依り代もありません。」
「あっ」
祠の中の1つ鏡の前に置かれた2つの壺のことを思い出した。
「そっかお前は、、、」
「今のまま姿を現すことはできますが、シバに触れることもできませんしね」
「そりゃそうか」
どんな思いで何百年会わないようにして、シバを自由にさせていたのか。
そして今会うことを決めるのにどんだけ覚悟が言ったのか。光には想像しきれなかった。
「なんで今なんだ?」
「あなたのおかげですよ。やっとシバが人と共に暮らそうとしている」
時雨が昔を思い出すように遠くを見た。
「私は何百年彼を見てきました。彼は不器用で空回って、それで傷ついて人を引き離してを繰り返していました。」
「だから引き籠っていたのか」
「その通りです。そんな時に私が会いに行ったら彼は私についてきてしまう。だから、会わなかったんです。長かった、、、本当に長かったです」
時雨の姿に光は胸が締め付けられた。
「貸してくれますか?私もあなたに感化されました。」
「わかった。絶対にやり遂げろよ?俺の体は高いんだから」
そう言って光は笑った。
「私はあなたが子孫でよかった」
そう言うと、時雨は光に近づいて行き光の頭に手を置いた。
「ありがとう。しばし、おやすみ」
光は眠るようにそこからの記憶が途切れた。
* * * * *
「お主、悪霊か?」
シバが牙をむき出しにする。
「あっえっまじ?」
時雨は膝をガクッとついた。気づいてくれたと思っていた時雨は拍子抜けをした。
「でなければ、、、、」
「えっ」
顔をあげたシバは涙を流していた。
「でなければなぜ、、、」
嗚咽を漏らした。
「なぜ!わしに会いに来ぬのじゃ!!」
「ごめん」
それしか、言えなかった。
「わしは、お主が急にいなくなって、わしやお主の大事な家族が残されて!!!」
「うん」
「わしは弱くてお主の家族がいじめられるようになっても守れなくてあって」
「うん」
「感情的になってしまって」
溢れ出して止まらなくなっていた。悲しさと怒りと無力さが一気に押し寄せていた。
「わしもお主同じように罪を犯してしまったのじゃ。それだけじゃない」
「それは、、」
「わしはお主の望む土地神には相応しくなれないのじゃ。失望したじゃろ?」
時雨の話を遮ってシバが続けた。
「出て行ってくれぬか?」
時雨は何も言えなかった。なぜなら自分がシバを放置した結果でしかなかったからだ。
「出ていくのじゃ!二度と顔を見せぬでない!」
時雨は一歩引いた。
ー絶対やり遂げろよ
光の声が胸の中で響いた気がした。
眠りについてるのでそんなわけはないとわかっていけれど、それでも勇気をもらった気がした。
引いた一歩を前に出した。
「やだね」時雨が舌を出してシバを煽った。
そして、真剣な顔でシバをキッと見つめた。
「私の目に狂いがあるというのか!」
(決めただろあの日シバを助けるためにこの土地の神となることを、だったら強くあれ!!)
自分を必死に鼓舞した。
「そう言っておるのじゃ!!!」
シバは、時雨に反発をした。
「お主も知っておるじゃろ!お主が死んだ数年後この町の大火災を犯した原因はわしで!」
ー目の前に炎が舞い上がるのが見えたようだった。
「お主の娘の両手と顔に大やけどを負わせたのもわしで!」
ー赤く焼けたような腕を思い出す。
「道に迷っていた夫婦を助けようとして!」
「もう良い!」
時雨はシバの言葉を遮った。
「どれもこれも知っておるに決まっておろうが!お主が我が一族とこの地を見守っていたのと同じように我もお主のことを見守っていたに決まっておるだろう!」
時雨はシバに向かって歩いた。
シバは一歩後ろに下がった。
「なぜ!わしを救ったのじゃ!わしは!悪霊になる運命であっただろ!!」
「それを拒んで助けを求めに来たのはお前だろ!」
シバの前で時雨は跪いた。
「生霊になってでも、悪になるのを拒み、自分に害するものを救い。悲しみに打ちひしがれていた我をずっと見守っておったのを知っておる。」
シバの目線をまっすぐに見た時雨。
シバの目には光の姿のはずなのにその瞬間は時雨本人に見えた。
「すべて話を聞く。すべて向き合う。我にできること全てをする。だからしばし、我と話をせぬか?」
時雨は目をゆっくりと閉じた。
「我もお主に伝えたいことがたくさんあったのじゃ」
ずっとそばに居たのに認知されず、話をしなかった数百年の溝。
(埋められぬとしても、願わせてほしい、、、)
「遠い遠い昔の話からいつか来る未来の話まで」
時雨の祟りの続きの話。
時を超えて紡がれていた話の続きを綴り始めた。




