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そばに居たとしても②

* * * * * 

コンッコンッ


「お主ら、時雨とやらはおらぬか?」

シバは時雨が居なくなって少ししてシバは犬の姿に化けて人前に出た。

「まぁしゃべるワンちゃんだわ!ぜひ上がって言ってちょうだい」

そう言って時雨の妻の陽子はシバを上がらせた。

時雨は妻にシバの存在を教えていた。


ー訪ねてきたら匿ってあげてほしい、我は旅に出たとでも言っておいてくれ


「時雨は居らぬのか?」

「あー、旦那は今旅に出てってね。また帰ってくるわよ。」

「我を置いていったのか?」

「危険な旅だからワンちゃんには危険なんだって。」

「そうか、、、」

そう言って耳を下げた。


「あー青い犬さんだ!」

そう言って天真爛漫そうな女の子が駆けてきた。

時雨の娘の時月(トキ)だ。

「青い犬に見えるのか?」

「うん!すごくきれいな尻尾ね!」

そう言って無邪気に笑った。

「そうなの?私には普通のわんちゃんに見えるわ」

そう言って陽子は残念そうな顔で手を頬にあてた。

「さすが時雨の娘なだけあるのぉ」

「でしょ!父上は本当にすごいんだよ!なんたって、k」

「こらこら、調子乗らない」

そう言って時月の発言を遮った。


「そうだ時雨の妻よ」

シバが思い出したように陽子の方を向いた。

「なんでしょう?」

「祠に置いていった壺はなんじゃ?」

「旦那からの贈り物だそうよ。人の姿になれる魔法をかけたって」

「中を見ても良いものなのか?」

シバは首を傾げた。陽子は焦って。

「絶対に見てはいけませんよ!旦那の魔法が解けてしまいます!」

そう焦ったように言った。

「それはいかんな!絶対に除くことがないようにする」

シバは素直に言葉を受け入れ約束をした。


「ねー青い犬さん」

「なんじゃ?」

「名前は何?」

シバは少し考えた。生まれたときから悪霊になるべく生まれたシバにとって、名前など呼ばれたこともなかった。戻ってきて数日だけ時雨から呼ばれた名前。


ーお前は犬ころだからコロだ!

本当に適当な名前だとシバは思った。だけど、悪くないとも思った。


それを言おうとした。その時、

「お名前ないから、コロはどう?犬ころのコロ!」

「そんな適当な理由で言い訳ないでしょ。わんちゃんに失礼だわ」

そう言って陽子は時月に言う。


シバは耳を疑った。

そして、ふっと笑顔になった。

「我はそれでいい」


「私も青い犬の姿みたいのだけど、、」

時月だけ見れて羨ましいのか陽子はお願いしてきた。

「うぬ!任せろ!」

ぽんっと音を立ててシバは青い犬の姿を見せた。

十何年も練習して最近ようやく変化と具現化を自由に操ることができた。

「まぁ高貴なお姿だこと!」

陽子は感嘆の声をあげた。

「でしょ!ほんとにすごいの!」

時月もそういった。


しばらくして、シバは陽子だけでなく、町の人と関わるようになっていった。

青い犬の姿のままで。

そばにはずっと時月がいてくれたから不安もなかった。

その優しさと天真爛漫さから”男を引き寄せる町一番の美女”と時月は言われていた。

「コロ!森へいこ!」

毎日が冒険のようで毎日当たり前のように差し出されていた手にシバは惹かれていった。


だが数年後から、農作物が不作になっていき町は廃れていった。

だがシバは農作物を復活させる力はない。

そう思い山から果物を取ってきたりして分け与えていた。

しかし、それでどうこうできるような話ではなく。やがて、町民は飢餓状態へ陥っていった。


「なんか最近黒いもやがよく見えるよね」

不意に、時月がそう言った。

シバはその言葉に耳を疑った。

「お主見えておるのか」

「すごくね。悲しいよね。あんなに温かかった町の人が急に」

前より細くなった体、それ加え精神的ダメージもあったのだろう、時月の顔はやつれていた。

シバは心配そうな目で時月を見た。

「今まで散々私をもてはやしてきた男たちも今や私に目もくれない」

「お主は人気者であるからな」

「その通りだよこんな美人ほっとくなんてさ」

そういって笑った。

(いついかなる時も本当に優しい人間じゃな)

それにつられてシバも笑みを零した。


ドンッドンッ


玄関のドアがたたかれる音が聞こえる。

「、、、コロ逃げな?」

シバにそう言った。時月の目は少しだけ愁いを帯びていた。

「なぜじゃ?」

「君は悪霊ってことにされて町の人が攻めてきたって感じかな」

「ならば我が行けばよかろう。でなければ」

「私たちがコロを匿っているってことがバレたら私たちの立場も危ういの。わかってね?」

時月の周りに少しだけ黒いもやが見えた。冷ややかな目でシバを見つめた。


「、、、わかった」

シバは耳を下げた。


「時月、あなたも逃げなさい」

陽子はそう言って時月の前に現れた。

「母上それはだめだよ」

じっと時月の目は少しだけ黄色く光っていた。

頑固な娘なことを理解していた陽子は

「わかったわよ。私の後ろに隠れてなさい」

「はーい」

そう言って時月は奥の部屋へ行った。

「コロ、元気でね」

そう言葉を残して。


シバは言われた通り霊体の姿になり、外へと出ていった。

振り返らないように必死に。

(霊能力者が居たらわしの姿が見えてしまうかもしれないからな)

できるだけ遠くを目指した。


それから数時間の間、シバは心配になりそわそわしていた。

森の中で息を殺すようにじっとしていた。町の者たちが町へ帰っていくのが見えた。


我慢の限界になりシバは霊体のまま隠れて時月の家へ向かった。

自分のお世話になってきた思い出の家へ。


だが、そこにはただ燃え盛る炎しかなかった。

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