第3話
ここはリューンの家、最近海岸間近に移動して、魚釣りに便利な様にしている。ここの砂浜は満ち潮になれば海の中となり、現在は潮が引いているが、海水を含んでずぶずぶの状態である。そこに穴を掘ろうと、試みるリューン。いくら掘っても、すぐに元の木阿弥状態だ。そうなるとは分かっていたが、穴でも掘っていないとやり切れないとも言える。
そこへ呼ばれたレンがやって来た。
「リューン叔父貴、何しているのかな。砂遊びには今日の海岸は向かないがな。海水が含まれ過ぎだ」
「お前もそう思うか、家の近くだと食い物が直ぐ手に入って良いと思ったんだがな。山に掘るべきなんだろうな」
「えーと、リューン叔父さん。穴掘ってどうする気かな。俺が掘るべきだって言いたいんだろ。食い物がある家の近くが良いって?」
「うん、考えたんだが、磁気パワーは地面を通りやすいからな。儂は始終地下に潜って四方の国の結界に磁気パワーを送ろうと思うんだが」
「なるほど、随分良いアイデアと言えるな。そういう事なら、俺の役目は穴掘りって事で。棺桶ぐらいの穴で良いかな。しかし、座った状態の方が集中できそうだが」
「そうだな、掘ってくれるんだったらその方が良さそうだ。食い物の調達で出入りするつもりだからな」
リューンはこれから四つの国の結界の保持のために、磁気パワーを送り続けるつもりである。リューンにできる事は、力尽きて己に死が訪れるまで、各国の結界に磁気パワーを地中を通して送るだけである。
「今、各国の結界はどうなって居るのかな。分かっているのかリューン叔父貴」
レンはふと思った。
「ベルメリちゃんが、魔力で出入り口を塞いでいる。ヤモの仕様通りなら、一旦中に入れば、外に出ることは不可能の筈。だが、ヤモより強い奴なら、そもそも結界など早々と崩すはずだ」
一方、セーンの死を受け入れられないユーリーン婆を連れてキャシーの初瞬間移動を体験したベルメリ、平時であれば、初瞬間移動にお年寄りを連れて移動など有り得ない事なのだが、ユーリーン自身が早くセピアのセーン達の住んでいた家に行きたがる為でもあった。
キャシーの初移動、一瞬、ほんの10分の1秒ほどの間、ベルメリは総毛立つような恐怖の瞬間があった気がしたが、気のせいと思う事にした。
「ここよ」
ユーリーン婆は何度か訪れた事が有るそうで、セピアの繁華街から少し離れた所に建つ雑居ビル前にやって来た3人。ベルメリはここに結界は無理ではないかと思ったが、ユーリーン婆が最上階付近の空中を指さし、
「あそこにある」
と言う。ベルメリには違いが分からなかったので、『ニールの結界はユーリーンさんはどうして分からなかったのかしら』と疑問を感じていると、キャシーが、『ここ、中にセーンさんが居るじゃない』と言った。ベルメリは自分の考えの至らなさが身に染みたのだった。
それにしても、セーンさんは結界の中だとしても、ベルメリがいつも感じていたセーンさんのパワーと言うか気配が全く感じられない。ベルメリの能力、何処へ行ってしまったのかと少し焦るが、ユーリーンさんは、
「ヤモが結界を作れると分かって、セーンは自分の磁気パワーをほとんど全部ヤモに渡したわね。あの子の気配すらなくなっているわ。これじゃあ、生まれたてのヘキジョウさんっ子にだって負けたでしょうね。死を覚悟してまで世界を守るって?あの子らしくなくなっちゃったわね。そんなに律儀に、何を守ったつもりなのかしら」
ビルの前の歩道で泣き崩れるユーリーン婆さん。
しかし、大泣き後気が済んだのか立ち上がると、
「やれやれ、あたしもヤキが回ってくるところだった。あの結界を下すのはこのメンバーじゃ出来そうも無いし、ショッピングセンターで占いしているガーレンのママんちに行ってみようか、生きていればいいんだけど」
ベルメリはもしやと思い、
「と言う事は、セーンさんのご家族は亡くなっていますか」
「そうね、あの生みの親も、上の兄貴も当の昔にやられているね。セーンのママの妹が生き延びて居れば、あの結界を下ろしてもらえるけど」
キャシーが、
「じゃ、そこまで瞬間移動で」
「いえ、歩きましょ。あんたは少し休憩していてね。あの人ショッピングセンターで占いの店を開いているからね。毎日通っているから、今日も居るかも知しれないし」
ユーリーンに言われて、少し首を傾げるキャシー。3人でショッピングセンターへ行く途中、ガーレンと中年女性がベルメリ達の方向へ来るところに出会った。
「ああ、ユーリーン様、なんという事でしょう」
出会った途端に涙にくれる女性にガーレンは、
「ママが泣いても、しょうがないよ」
と言う。そうには違いないが、彼らしい言い様だ。
「あなた、あの結界を下ろす能力がおありではないですか」
ユーリーンが尋ねると、
「そうですね、出来無い事は無いでしょうけど、何処に降ろしますか。一般の人達に危険が及ぶんではないでしょうか。それより近くの階から通路を造る方が良いのでは」
「まぁ、お出来になるのでしたら、そうしてくださいな」
皆で近くの階、つまりセーンの育った部屋の階に行こうとしていると、後ろから声がかかった。
「ユーリーン婆、来てくれたんだね」
振り向くと、ベルメリにも誰だかわかる、セーンさんによく似た色黒の人が居た。きっと2番目のお兄さんだ。
「ソール、戻っていたのね」
「うん、ゲルが相談したい事があるって言いだしたから、でも手遅れだった。強烈な奴らだったから、逃げ出して、お婆ちゃんが来たから隠れ家から出て来たんだ」
「隠れ家って」
「うん、旅行先で知り合った奴が、結界作れる奴でね。そいつが言うには、とても敵わないから逃げるって言うから、そういうことになって、隠れていたんだ。連絡しなくてごめん」
ガーレンのママさんが、
「ああ、砂漠の魔法使いさんらしいわね、その方」
と言い出して、ユーリーン婆、
「一緒に来なかったの、その人」
と聞くので、
「連れて来た方が良かったの」
とソールも言いだし、途端にその人が表れた。エキゾチックな美人さんで、ユーリーン婆さんににっこりしたが、きっと外国の人だからまだお話は出来ないようだった。首に蛇皮の飾りをつけているとベルメリは思ったが、よく見ると生きていて、こっちを蛇さんが見ているのでキャシーと二人、少し遠くにずれておく。なかなかの蛇さんと見た。つまり強い使い魔さん的存在である。
こういう方が居たのなら、ベルメリ達は無用だった気もするが知らなかったし、と言う事で、皆揃って最上階へ赴いた。
ユーリーン婆は美人さんの前であるが、ソールに話しかける。
「ソール、ところでユンちゃんはどうしたの、世界一周に行くって言った時はユンちゃんと行くのかと思っていたけど」
「それ今聞く?気になるんだろうな婆さんは、言っておくよ。ユンとは別れた。出発前にね。俺がキャンプ用品売り場で買い物して居たら、旅行はホテルに泊まらないのかって聞くからね。世界一周だから、ホテルの建っていない所にも行くって言ったんだ。例えばどこかの国の秘境とかね。で、ついて行かないって言われたんだ」
「さもありなんってとこね。あたしらは知らなかったけど。執事さんも何も言わなかったけど」
「多分、ユンは家には戻っていないはず、直ぐ新しい彼氏が出来たからね」
横に居る美人さん、話の間もニコニコしている。ベルメリは、随分出来た人だと思ったが、結界に近づいたので集中する。
段々状況が分かりだしたベルメリ、チーセンラーセンも結界の中に入ってしまって、中の奴に殺されてしまった。思いたくないが思わず、『チーラー学習しないタイプ』と分かる。だけど、そんな酷い事、思いたくはなかったし、それに初対面の方がそんなベルメリを知ってどう感じるか考えたらぞっとして、慌てて打ち消すベルメリ。思っては打ち消し、思っては打消しで忙しくしていると、誰かに『ご苦労さん、こっちを気にするな』とコンタクトされた。誰に言われたかはおよそだがわかるベルメリだ。
部屋に着くと、セーンさん達の動向は分かってしまったベルメリだ。と言ってもユーリーンさん以外は分かっているかもしれないので、ユーリーンさんに聞かれない限り、黙っている事にするベルメリ。
実際、セーンさんがヤモさんに磁気パワーを渡していなければ、勝てていたかもしれないと思えたが、奴らは世界中で一斉に決起するつもりだったのだから、ニールではなくセピアが無事でも、セーンさんにとっては意味が無かったのかもしれない。そう思いながら俯くベルメリ。
「ベルメリちゃん、ここで何があったのか分かるかしら」
ユーリーンさんが声をかけて来た。こうなっては言うしかないだろう。
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セーンさんとヤモさん、ここに到着する前にいったん上空で留まり、様子を窺う。二人の良くやるパターンである。
セーンが相手を見極めているとヤモさん、『セーン、俺結界を作れる。チーラーがやられた時みたいなやつ。あいつら、それに入れようか』
『そうだな、その結界他の国の奴も入れよう。その中では魔力が使えなくなるんだろう、ヤモは他の国にその結界を張りに言ってくれないか。ここの奴は俺がやるから』『セーンはそうして欲しいんだな。良いよ。ヤモ、やる』
セーンはヤモの手を握り、自分の磁気パワーのほとんどと言って良い量を流し入れた。
『セーン、何する。だめだ、セーン』ヤモは悲鳴を上げるようにコンタクトする。
『結界作るのにはパワーが居るはずだ、瞬間移動もするし。俺はどうせ結界の中じゃ、パワーは出せないから、いらないだろ』
『違うよ、結界にお前が奴らをパワーで、入れるんだよ』ヤモはじれったげに唸る。
『誘い込むんだったろ』
『作った奴じゃないセーンは、出られなくなる』
『出る必要は無いだろう、結界の中で戦って片付いた頃、お前が迎えに来ればいいんだし』
『ううむ』ヤモさん唸る。セーンが奴らに殺される可能性は考えたくない。可能性は半々と思いたい。
『良いから、結界作ってサッサとニールに行け。あそこは最初に行けよ。ひょろ付いたのしか居ないぞ』
『わ、分かってら』
ベルメリはユーリーンさんに小声て状況を話すことにした。ユーリーンさんは目を瞑り静かに聞いている。そして一言、
「そいつらの正体、いったい何なの」
「おそらく、ヘキジョウさん一家の祖先が、枝分かれして進化して別物になった類でしょう」
「じゃあ、元は同じ祖先だったって事」
「そうなんです。どちらも古のドラゴンの子孫です」
ユーリーンは、ため息をつき、
「そんな事なら、セーンは自分が始末しておこうと思ったのかもしれないねぇ」
結界の中からは、何の気配もしないので、皆死んでいる感じがした。
外の皆はそう言う感覚がしていて、同意見だった為、ユーリーンは扉に手をかけ、開けようとした。
しかし、急に嫌な感じがして、ベルメリは、
「止めて」
と叫び。砂漠の魔法使いさんも大声で呪文のような声を出すしで、大騒ぎとなった。




