第19話
敵方ドラゴン達を散々に妖剣でやっつけたヤーモは、又獣人国のレンの所へ戻って行った。ベルメリ達はニールの館へ戻るし、スカイとセブンはカーピン公爵の別荘にショウカと共にお邪魔して、過ごすことにした。時々はユンお婆ちゃんとお爺ちゃんの様子も気になるからと言うスカイの希望からだ。それに騎士さんの訓練にも二人して加わる気でいる。
「何だか皆、収まる所に収まったようね。えーと、ソールさんが居ないけれどどうされているのかしら」
ベルメリがふと気付いて、キャシーに尋ねると、
「今頃気付いたの。呆れた」
「そんなに前から居なかった?」
「ヤーモさんがノスさん所有の蔵書が興味深いって話していて、ヤーモさんが戻った時、付いて行ったのよ」
「あ、そんな話していたのは知ってた。と言う事は、近頃はこの館もずいぶん風通しが良くなっているよね。何だかすかすかしていない?」
「あたしはベルメリが居れば、十分セキュリティはちゃんとしているように思えるね」
「あたしが強いと言いたい訳?」
「副の魔法使いの長に化けていたドラゴン、一人でやっつけておいて、弱そうなふりは無理ですよ」
「あれはきっと強くなければ殺せない種類よね。子供の頃のベルメリちゃんは、か弱くって、可愛かったのよう、信じて」
「あたしも可愛くって、弱そうだったの」
「そうだった?弱くは無いと思っていたけど」
「じゃ、2人だけになったって、暮らしていけるよね」
「キャシーの不吉な微笑みが出た。何かやって来るわけ?」
「やって来ないわよ。行ってしまうのが多いって事。ヤーモさん、妖剣もって砂漠を歩いている夢見ちゃったよ」
「夢でしょ」
「こういう夢はあたしの場合、正夢の事が多いのよ。そこでだけれど、どうして砂漠を歩いていたかなんだけどね。どうやら、ヤーモさん、瞬間移動が出来なくなった様なのよ」
「どうしてそういう正夢を見る訳」
「きっと、疲労していて、瞬間移動が出来ないのよ。きっと近いうちに妖剣を持って、あの国に行ってしまうと思う」
「キャシーって、予知能力有ったっけ」
「一応無いけど、何か?」
「紛らわしい話はしないでね。ヘキジョウさんっ子達が心配しているわ」
「正式にはその能力は無いって事になっているけれどね、あたしはきっと正夢となって、予知が出来ているはずよ」
ベルメリの館でキャシーと言い合っている頃、ヤーモはキャシーの正夢的予知の通り妖剣を背中にしょって瞬間移動路を始めようとしていた。自分のベッドの上に『探さないでください』と手紙を置いて来たが、掃除担当の女性は捨てずに読んでくれるだろうか。突然いなくなって、レンはヤーモの行方を気にしてくれるだろうか。近頃は眠ってばかりなので、何を思っている事やら。ヤモの事を思い出しているのは分かっているつもりなのだが。ヤーモだって気にかけてくれなければ、使い魔になった意味がない。
きっとまだ眠っている事だろうが、『さよならレン』そう呼び掛けて、瞬間移動で、あの時、王と呼ばれていた病人の元へ向かったヤーモ。
ヤーモの思いどおりに、到着したのはあの病人の部屋だった。気がかりだった、小さな子の存在はなかった。あの時は見舞いに来ていたのだろう。移動場所は間違いなかったが、当の本人、病気の王は居なかった。壁に張り付いて建屋の隙間に入り込み、様子を窺う。しばらくして、かなり長時間たってと言うべきだったか、やっと王と呼ばれていた病人が部屋に戻って来た。付き人と思える男、これもあまり元気のない様子だが、のろのろと王の世話をして、立ち去った。いよいよである、
ヤーモは人型になりながら、
「これでも喰らえ」と剣を背中から取り出し、王の首に狙いをつけ妖剣を振り切った。
普通ならば妖剣の刃にかかる筈なのだが、病人と思えないような動きで、刃先を避けた王である。
「おのれ、その嘘っぱちの人生、このヤーモ様が終わらせてやろう」
ヤーモは先ほどよりも、丁寧に動いて首を目掛けて振り下ろしていた。
血しぶきが散って、病人王はこと切れた。首自体は切り落されはしなかった。
その時、ヤーモは数日前に見た病人と同一人物かどうか、記憶があやふやな気分だった。急な不安を打消し、瞬間移動で獣人国に戻ったヤーモ。
案の定、ベッドの上に置いていた手紙は出かける前と同じ位置にあった。
急な倦怠感にベッドに横たわったヤーモ。いつもとは違う体調になり、魔法をかけられたと判断して、ベッド下に置いていたはずの例の呪文を書いた紙。探すが、見当たらない。『こっちの紙は捨てたのかー』ヤーモは違和感を覚え、『ここにもあいつらの手下が入り込んでいたのだろうか。そうだとしたら、俺達の先は無いかも知れぬな。フン、守りたい奴はみんな先に行ってしまったし、ま、良いか』と目を瞑ったヤーモ。
ヤーモの異変を察したベルメリと、『ほらね』と言いたげなキャシーはヤーモの眠るベッドを囲み、浮かない顔だ。
どうやら、呪文を掛けられたと言う例の話の通りに白いゼラニウムをヤーモの頭に乗せ、とつとつと呪文を唱えるが、スカイの時のようにはいかないのだ。
「どういう事、何が悪いの」
キャシーが首を傾げる。ベルメリは、もう我慢できず、堰を切ったように泣き出す。
「んもう、なによなによ、一人で行っちゃって。あたしやキャシーをどうして連れて行かない訳。あ、キャシーはヤーモの後をついで長になるのよね。だったらあたしだけでも良いじゃない。自分だけ敵討ちしに行こうなんて見下げた根性よ。だから呪文に効き目がないのかも」
「と言うより、反撃の呪文作ったんじゃないの例の呪文盗まれたし」
「そうね。そう言えば、あの魔法使いが、何代か前の公爵が黄泉の国から妖剣を持ち帰ったって件、あたし思ったのよね。そんな話、パパの蔵書に載っていたかしらと思ったりしたのよ、あの時。でも忙しくしていて忘れて居たっけ。公爵が謁見で魔法使いは全滅かって言っていたのは、全員ドラゴン側になっていたって事だったらどうよ」
「どうって?」
「あの妖剣がドラゴンの王の争いの恨みでドラゴンの王を殺したがっているって事、ヤーモをおびき出す為のウソだったらッて事」
「妖剣も操っていたって言いたいのね」
「だって思い出してみてよ、最初にスカイを見つけて大勢でスカイの所まで行った時、妖剣は、病で横になっていた王に何の反応もしなかったじゃないの」
「確かに、そうだった」
「やられたね、皆迂闊だった。頭の程度は、向こうの方が良い感じね」
「ヤーモに本物の呪文を言わないと」
「あんた今なんて言ったの。これ、偽物なの。あたしらのとこの奴」
「本っ子ちゃんにまた書き写してもらって来る」
「それが正解ね」




