第16話
魔女の館とかいうプレートが下がっている訳ではなかったが、この辺りに一般の方が通りがかることは無さそうだ。何だかおどろおどろしい感じがする。そう言った印象を感じたベルメリ。
「どうしてかしらん、魔女と聞いて居るからかどうか分からないけれど、何だかいかにもおどろおどろしいというか、魔女らしいというか、となりは、魔法使いが居そうな感じとか、するわねぇ。何故かしら、何故だか分かる、キャシーちゃーん」
「あんたも学習しないって言うか、忘れっぽいというか、この館の前で言う事かしらね。今から訪問しようっていうのに、ベルメリさんはどんな面して、皆さんに会うおつもりなのかしら」
「もう、この面しか持ち合わせは無いの」
セブンは二人の話が終わるのを待っている気も無いので、
「えー、皆さん準備は良いですか。もう相手は分っているはずですが、このチャイム一応鳴らしますからねー」
ピンポーン
「まぁ、随分と一般的なチャイムの音ね。すっかり現実的な雰囲気になったわね」
スカイは、
「さっきのおどろおどろしい感じ、言っておくけどベルメリさんの思い込みってだけだからね」
「若い方に教えを賜ったわねぇ。スカイさんって、生まれて来てまだわずかだっていうのに、随分と達観された事を言うのね」
セブンには、
「ベルメリさんが特異体質なんだろな」
と言われる。
程なく玄関ドアが開き、年齢不詳の女性が応対に出て来られた。
「いらっしゃいませ、どなたかを訪問されるのですか」
「はい、ショウカさんは御在宅ですか」
聞いておいて、直ぐにベルメリはここは、名前ではなく苗字で尋ねるべきなのが分かった。しかし、どうせショウカの苗字は失念している。と言うより、ショウカの苗字は、学生時代から聞いた事は無かったのでは?
「はい、在宅です。ご案内します。どうぞ、こちらへ」
先ほどからの失礼なベルメリの言い草を、気にするでもなさそうなその女性は、しずしずとガサツな四人を二階のとある一室に案内した。
「こちらです、ショウカさん。お客様ですわ」
そう言って微笑み立ち去るお方に、皆で「ありがとうございます」と言って置くと、ショウカの部屋へ、無遠慮に入るベルメリ。皆も後に続く。
「ショウカさん、お久しぶりですぅ。お元気そうで何よりですわ…、あら、さほどお元気そうでもない気がするけど。お元気よね、病気とか無いでしょ」
「ベルメリは相変わらず、言いたいことを言うわね。例のドラゴン兵士と少し戦ったら、疲労が取れなくてね。あいつ等魔力が相当あると思ったら、セブンがパワーを送っていたんですって?結構際どいヘマだったわねぇ。ヤーモさんがミスを苦にして意気消沈だってソールさんから聞いたけれど、ここだけの話、あのヴァンパイア親子とヤーモさん、何かあった訳」
「もうっ、顔を合わせた早々に、ショウカさんって女性週刊誌的会話なのね」
「聞きたいことはさっさと聞かないと、最近あたしも学習したのよ。人生いつ終わるか知れないのに、もったいぶっちゃ後悔するわ。知っているんでしょ、ベルメリは」
「何の関係も持ってないのよ。あのヴァンパイア親子の片思いよ。ヴァンパイアって恋多き心情の生き物だったのね。あ、生きてないんだった」
「その生きているのかいないのかの件、私達の間でも意見が分かれる所なのよ。心臓は確かに動いては居ないんだけれど、何か心臓とは違う臓器かなんかのパワーを使って、生き永らえているんじゃないかって説もあるのよ」
「へぇ、ところで今日来たのはヴァンパイアの件じゃないのよ」
「分かってるってば。ここには予知能力のある人はいるには居るんだけど、お年がお年で、能力は一番の筈なんだけど少し正確とは言えない方と、若くてパワーは多いんだけれど、その予知はいまいちって方、そしてもう一人、最近予知能力が発覚したんだけれど、本人の自覚があまりなくて重要な事予知していても、発表してくれない方が居るのよね。で、あんた達は誰に予知してもらいたいの」
ベルメリは、呆れて、
「誰にって言われても、そんな事分かるもんですか。会った事も無いし。ショウカさんのおすすめは無いの。というか、全員に会ったらいけないの」
「みんな違うこと言い出したらどうするの」
「言ったら、言ったで、その時の事じゃない。誰が当たりかあたしには判断できないよ。後、例の定例会のメンバーを集めて検討すれば良いんじゃない」
ショウカはコンタクトして来た。
『ところで、あの定例会って何か意味あるの。各国の主だった能力持ちの集まりでしょ。今回はほとんど何もしていないけど』
『知らないわよ。大体ショウカの所の公爵様が言い出しっぺよ。あんたが一番公爵様に訊けそうな立場じゃないの』
『違う、違う、あたし達が一番効きにくいんだってば。直属の部下なの』
『部下なのー、雇われているんじゃなかったんだー。それじゃ無理だわ』
納得のベルメリ。
『じゃ、全員に訊くってのは決まり?で、誰から聞くの?』
スカイが、おばさん達の会話にじれて先を促す。
にんまりショウカは笑い、
『何だかスカイ君って、あの国に攫われたにしては、全然変わってないわね。懲りて無いって追うか、前のまんまね。あの呪文で切ったからでしょうね。あいつらの魔力を。あの白いゼラニウムを頭にのっけて唱えた呪文、公爵から聞いて皆それぞれに検討したんだけれど。恐ろしくなるくらい完璧な呪文とでも言うのかしら。古代からの魔法使いの象形文字とでも言うのかしら。ヤーモさんが書き写して、ソールさんがそれをまた書き写してあたしらの国に持って来たんだけれど、その文字って、魔力を持った人が書き記したからかしら、また魔力が入り込んでいるのよね。つまり魔力持ちが書けば書くほど、書いた人の魔力が練りこまれている感じでね。あたしらが口に出した後、魔力が弱い子は失神したりして、大騒ぎだったのよ。書き写せば写した分魔力が強くなっちゃってるのよー。どういう事?』
『素人のあたしに訊いてもね。分かる訳無いでしょ。そういう事なら、スカイをそれで切った事、きっとあの国の人達には勘付かれているね。きっと』
『予知能力のある魔女さんによると、あの呪文の対抗呪文を造らない限り、攻めて来れないんじゃないかって言う人も居るのよ。そうかと思えば、反対にその書き記した呪文を盗みに来る筈って言う人も居るの。あれを見ないと対抗呪文は作れないだろうって言ってね。意見の違いはこの二つよ』
キャシーは感慨深げに、
『どっちの可能性もありそうで、何とも言えないわ、あたしらにはね。で、どの意見の人から聞くの』
スカイはあくび混じりに、
「順番って大事なんすかぁ、ふぁー」
「眠いの、スカイ」
気づかわしげに、スカイを見るセブン。
ショウカは、『え、スカイ頭攻撃されているの?入って来れないみたいだけど。これって、攻撃者近いよッ』
と言うが早いか、ショウカ叫び出すのが早いかっと言った感じ。
「グワワワー」
こんな良く分からない叫び声をあげながら、部屋の外に飛び出た。
スカイを守るようにセブンは自分の後ろにスカイを置きやると、辺りを見回す。キャシーは反対側から同じようにスカイを背にして、ショウカが出て行ったドアを睨む。
ベルメリはショウカの後を追った。近いというならこの魔女の館か、隣の魔法使いの方に居るはず。少し迷ったが、自分に見分けがつくのか付かないのか分からないが、一か八かで、ショウカとは別の、魔法使いの館に向かった。
ベルメリの本能的行動である。
ドアを蹴破る勢いで、ドアにぶつかりながら玄関ドアを開けたベルメリ。実際、少しドアは外れかかっている。
ベルメリは最上階へ走った。本能的な行動だ。居る所を感じる。あの国に行ったお陰で、彼らの気配が分かって来たのだった。そいつの居る部屋のドアをぶつかりながら開けると、その勢いのまま、部屋の中の奴をぐうで殴ったベルメリ。顔がつぶれた。セブンと同じ技である。
『マネしちゃった』
と思うベルメリ。顔がつぶれている。これは恐らく化けているため、顔が弱くなっていると思えた。顔がつぶれて、何だか頭の方もゆがんだ感じで倒れているそいつを眺めていると、魔法使いたちが慌てて部屋にやって来た。
「副魔法使い長のドールさん、向こうの奴にいつの間にか変わっていたなんて」
「何時からなんだ」
「信じられないが、こいつだけか?」
魔法使いの皆さんは、口々に騒ぎ出し、一人が、
「ベルメリさんですね、実は公爵が、もしも無くなったら大変だとおっしゃって、あの呪文を写して、金庫に入れて居たのですが、今朝それが無くなっていると、私に話されたので探しておりましたが、こいつが持っていますかね、ちょっと辺りを探してみましょう」
「何だってー、なくなっただとー」
ベルメリは叫んだ。最近では一番の憤りである。




