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なぜか近づいてきたコイツの本性を暴いてやる!  作者: うちよう
第二章 我部香凜の本性を暴いてやる!
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第76話 認められたかっただけの少女

  「——————とまあ、これが断片的な情報を纏めて俺なりに導き出した答えだ」

 

 それでも我部がべは、何も応えない。

 動揺の色もなければ、困惑の色もない。

 ただ黙って、ジッと床に視線を落としていた。

 彼女からの反応がなければ、情報の真偽を確認することもできない。

 ……少し、揺さぶりを入れてみるか。


 「別にお前を責めるつもりはないんだ。そもそも俺にはその権利もなければ意思もない。ただ、確かめておきたいだけなんだ」

 「…………じゃあ答えない。答えるつもりはない」


 ようやく口を開いたかと思えば、やはり拒絶の意思だった。

 ……まあ、いい。その点においては最初から分かっていたことだ。

 問題なのは、答える意思のない人間にどう話を進めていくかだが……。

 

 「てかさ、人の過去を調べて()()は何がしたいわけ?」


 声色、口調、呼び方からして分かる。


 ——————我部は少なからず怒っている。


 それはなぜか。


 ——————自分の過去を調べられた。あるいは知られたからに他ならない。


 では、なぜ調べられた、あるいは知られて怒るのか。

 

 ——————考えるまでもない。


 それは、俺が一番よく知っているはずだ。

 触れたくない、触れられたくない〝過去きず〟は誰にだってある。俺にだってあるのだから。


 でも、

 〝過去きず〟は消せない。

 〝過去きず〟はなかったことにならない。


 ……そう、

 〝過去きず〟からは逃げられないのだ。

 〝過去きず〟はいつだって、俺たちのことを影のように追いかけてくる。

 

 だから、逃げたところで何も変わらない。

 何かの()()()()で、向き合わなければならない時が必ず来る。

 我部にとって、その瞬間が()()だっただけのことだ。

 

 「……何がしたいのか、か。そうだな、俺は——————」

 

 そして、その言葉は俺の口から自然と溢れた。

 

 「—————— 俺の〝大切〟を守るため。だろうな」

 「…………ばっかじゃないの」


 我部が、嘲笑混じりに言葉を放つ。

 確かに、傍から見れば滑稽な事を口にしているのかもしれない。

 だからこそ、俺は他の誰かに知って欲しいとは決して思わない。

 ……知るはずもないのだ。

 あの人が、言っていた。

 俺も、お前も、カノジョも、どこまでも平行線なんだと。

 その意味が、ここへ来てようやく理解できた気がした。

 鼻を鳴らし、戯けるように彼女の後に言葉を綴る。


 「確かに、俺は馬鹿だな。大馬鹿だな。自分でも何でこんなことしてるのかよく分からん」

 「だったら——————」


 我部が何か言うよりも先に、口が動いていた。


 「——————でも、馬鹿にしかできないことも、あるだろ。大馬鹿だからできることも、あるだろ」

 

 俺の言葉に続けて、我部が怪訝そうな表情を浮かべる。


 「…………久山の場合は、大馬鹿クソ野郎だけど」

 「呼び方なんてものは、この際なんだっていいんだよ。別にそこはこだわってない」

 「ふぅん? なら、ウチも〝大切〟を守るためにこれ以上は何も言わない。それでいいでしょ?」

 「言い訳ないだろ。そしたら俺の〝大切〟が守られない」

 「じゃあどうすんの? このまま無駄な時間を一生続けるわけ?」


 強気に出る我部を前にして、思わずたじろいでしまう。

 確かに、このままでは埒が明かない。

 今手元にある情報だけでは、彼女の口を開かせることは……恐らくできない。


 …………いや、違う。

 

 前提として、俺はアプローチの仕方を間違えていたのだ。見誤っていたのだ。

 俺は自分の〝大切〟を守るため、手持ちの情報を元に我部から更なる情報を引き出そうとした。

 そうすることで、俺の〝大切〟が守られると信じていたから。

 だが、その結果がこの有様だ。

 全て、最初から分かり切っていたことなのだ。

 俺の無意味で曖昧な言葉なんてものは絶対に届かないと。

 俺の無価値で理解不能な考えなんてものは絶対に聞き入れられないと。

 その〝本性〟こそが、我部香凜という名の一人の少女なのだから。

 

 「これ以上言うことないなら、ウチは帰るから」

 

 そう言って踵を返す我部の背中に、俺は嘲笑混じりに言葉を掛ける。

 

 「あーあ、やめだやめだ。お前の言う通り、これ以上は時間の無駄でしかないわ」

 

 最初からこうすれば良かったのだ。

 俺の望みは、我部から情報を得ることか? 否、興味もない。

 であれば、我部を過去から救うことか? 否、それは俺の役目じゃない。

 ……俺の望みは、最初から一つだった。

 突然声を掛けられ反射的に振り返る我部に、俺は調子を保ったまま言葉を続けた。

 

 「単刀直入に言う。……お前、二度と俺とアイツらに関わるな」

 「…………は?」

 

 一拍置いて、我部が冷たく反応する。

 だけど、今度はたじろがなかった。

 

 「久山に指図される筋合いないと思うんだけど?」

 「いや、こっちは被害者なんだから、その権利はあるはずだ」

 「いやいや、久山だけの話ならともかく、二人を巻き込む意味が分からないんだけど。もしかして独占欲? マジでキモいんだけど」

 「お前から何を言われたって俺は別に構わない。だが、お前がアイツらに近づくのは見過ごせない。今のお前がアイツらに良い影響を与えるとは一ミリも思えないんだよ」

 「保護者面マジでキモ。だから一人も友達ができないんだよ」

 「攻撃しているつもりで言ってるなら、それは無意味だ。別に友達を求めてないからな。()()()()()()

 

 その一言で、これまで威勢の良かった我部が途端に黙り込む。

 それでも俺は、容赦なく我部に現実を突き付ける。

 

 「この際だから言ってやる。お前は二人より優位に立ちたいがためだけに、くだらない理由を見っともなく探してるだけなんだよ。自分が劣ってるって自覚があるからな」

 「…………違う」

 「だがな、今のお前があの二人に勝つのは絶対に無理だ。不可能だ。そもそも持ってる能力ものが違うし、何よりお前は自分の非を認めない。そこがお前の決定的な敗因だ」

 「……違う!」

 「まあ、敗因が分かったところで結局は無意味だけどな。過去は繰り返される。だって、お前のどうしようもない〝本性〟の正体は——————」

 「違うって言ってるでしょ!!!」

 

 我部が、近くにあった机を力の限り思い切り叩く。

 だけど、一度開いた俺の口は、塞がらなかった。


 「——————〝自己顕示欲〟の塊。なんだからな」

 「違う!」

 「どう違うんだ? 説明してみろよ」

 「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!」

 

 ……話にならないな。

 だけど、これでようやく見えてきたことが一つ。

 これまで見てきた我部香凜の動きに一貫性があった。


 都合が良い時は、自分の正義わがままを他人に押し付ける。

 都合が良い時は、自然に相手を陥れようとする。

 都合が良い時は、調子に乗る。

 逆に、

 都合が悪い時は、黙るか泣く。

 都合が悪い時は、モノに当たる。

 都合が悪い時は、頑なに否定する。


 ——————そう、精神的に幼いままなのだ。


 大人になるための失敗と向き合ってこなかったせいだろう。

 過ちを叱ってくれる人が周りにいなかったせいだろう。

 ——————唯一の誰かが、周りに一人もいなかったせいだろう。

 だから彼女は、ここまで歪んでしまったのだ。

 それが分かっていても尚、俺は我部に現実を突き付けるのを止めない。


 「違わねぇよ。お前は自分が可愛くて可愛くて仕方がないんだよ。周りからの注目や評価を集めたい、ただそれだけで生きてる幼人ガキだ」

 「うっさい! 黙れ!!!」

 「あんな過去があってもこの調子じゃ、周りには過ちを正してくれるような真面まともな奴がいなかったんだろうな」


 その言葉を放った直後だった。 

 目尻に涙を浮かべた我部が、俺の胸ぐらに掴みかかってきたのだ。


 「()()のことを悪く言うな!!!」


 俺のことを見据える彼女の瞳は、今までに見たことがないくらい真剣だった。

 だからこそ、尚更引っ掛かった。


 ……先生?


 引きこもっていた我部が立ち直ったのには、何かしらのきっかけがあったとは思っていたが、どうやら先生が絡んでいるらしい。

 でも、だとしたらよく分からない。

 先生が絡んでいたのなら、なぜ我部は失敗から成長できなかったのか。

 気にならないと言えば嘘になるが……まあ、それはこの際どうでも良い。

 今は、アイツらに掛かりそうな火の粉を払うだけだ。


 「先生、ね。その先生は、気に入らないことがあれば暴力に走っていいとか言ってたのか?」

 「先生がそんなこと言うはずないでしょ!!! 先生は言ってくれたんだ、あなたはあなたらしく生きればいいんだって! あなたの魅力は誰かに決められるものじゃないって! ウチは、私は、その言葉のおかげで救われたんだ!!! だから、先生のこと、悪く、言うなよぉ……」


 言いながら、我部は力なくその場に座り込み、ただひたすらに泣きじゃくった。

 掛ける言葉が見つからないほどだ。

 でも、普通ここまで泣くものだろうか。

 よほど、その先生に感謝しているのだろう。

 ……少しだけ、ほんの少しだけ、羨ましかった。

 なんせ中学時代の俺には、先生からの救いがなかったから。

 それからどのくらい時間が経過したか分からない。

 我部が落ち着きを取り戻した頃合いを見て、俺は再び言葉を口にした。

 

 「……その、悪かったな。侮辱するような言い方をして」

 「……うん」

 「だけど多分、我部はその先生の言葉の捉え方を間違えてると思う」

 「……違くないもん」

 「いや、違わないってことはないと思うんだが……」

 「……違くないもん」

 「えぇ……」


 違うとは言うけど、これまでの勢いは皆無だった。

 きっと、今の我部の状態なら真っ直ぐ話をしても大丈夫だろう。

 なぜか分からないけど、そう思った。


 「その先生が今まで見てきたのは〝一ノ瀬香凜〟だったんじゃないのか? だから〝我部香凜〟になった今、一ノ瀬家としての過去に囚われずに、あなたはあなたらしく生きればいい、って。あなたの魅力は誰かに決められるものじゃない、って。それをお前に伝えたかったんじゃないのか?」

 「………………違うもん」

 

 大分間があったが、そう口にした我部は涙を拭いながらゆっくりとその場に立ち上がった。

 

 「いや、別に今までのお前を非難してるわけじゃない。人の本性ってのはそう簡単に変えられるものじゃないからな。だから、もう少しやり方を考えて……」

 「具体的には?」

 

 俺が話をしている最中に、我部が口を挟んできた。

 その問いに対して、俺の答えは最初から決まっている。

 

 「それは自分で考えろ。他の誰でもないお前の人生だろ」

 「人のあれこれ好き勝手に言っておいて、最後はそうやって突き放すんだ。……ひどい」

 「いや、酷いって言われても実際事実だし」


 俺がそう言うと、我部は膨れっ面を浮かべる。

 いや、そんな顔されても反応に困るんだが……。

 でも、あれこれ好き勝手言ったのは事実だし、ここで突き放しては俺の言葉に説得力が生まれないだろう。

 ……なら、仕方ない、か。

 そう自分に言い聞かせて、俺は最後に一つだけ具体例を挙げた。


 「……まあ、その、なんだ。最初にも言った通り、お前の〝本性〟の全てを責めるつもりはないんだ。ただ、お前は不特定多数からの評価を求めすぎたんだよ。そのせいで本当に大事なものまで落としてしまった。だから今度は、唯一の誰かにだけ自分を見てもらえばいい。それだけでいいはずなんだ」

 

 我部香凜の〝本性〟は〝自己顕示欲〟だとばかり思っていた。そう決めつけていた。

 でも、実際は違うのかもしれない。

 本当の〝本性〟は——————承認欲求(認められたかっただけ)なのかもしれない。

 少なからず、俺の瞳にはそう映った。


 「唯一の誰かに、か…………。まあ、久山にだけは見られたくないかな」

 「言われなくても、こっちから願い下げだ。お前の顔はもう見飽きたわ」

 「うっっっわ、酷い男。全部はるっちたちに言いつけてやるー」


 そう言って我部は、俺の頬を執拗にツンツンしてくる。

 桜花おうかたちと関わる宣言を俺の前で堂々としたわけだが、俺の口からは別に何も出てこなかった。

 ……今の我部なら、大丈夫だと思ったからだ。

 それともう一つ、大きな確信を得たからに他ならない。


 噂とイジメ。

 盗撮写真。

 コイツは全くの無関係だ。

 なぜなら、コイツは——————




 ——————認められたかっただけの少女なのだから。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 これにて第二章完結となります!


 大変恐縮ですが、少しでも続きが気になった方は、作品フォロー&☆評価で応援いただけると大変励みになります!

 現状、たくさんの読者様に応援をいただいておりまして、本当に感謝しております!

 いつか書籍化できたらなぁ……と夢を見ながら、読者の皆様のご期待に応えられるよう、これからも精進してまいります!


 拙作ではございますが、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします!

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