第73話 榊健斗の本性を暴いてやる!
「——————それで、僕に一体何の用かな?」
昼下がりの校舎裏、目の前にいるイケメンこと榊健斗が不思議そうに問う。
まあ、俺から話しかけることなんてなかったし、榊の反応は誰が見たって正しい。
できることなら、今までのように関わらずにいたかったさ。
でも、好きな選択肢を選んでいるだけでは前に進むことは絶対にできない。
嫌なことと向き合わなければならない時が、いつか必ず来る。
だから俺は、今日、榊健斗と——————向き合うことにした。
互いに良好な一歩を踏み出す、そのためにも……。
「悪いな、急に呼び出して」
「別に構わないよ。……なんか、新鮮だな。久山が謝るなんて」
「失礼だな。俺だって自分に非があると思ったら、ちゃんと謝る」
「ほんとかよ。全然想像できないんだけど」
そう言いながら、榊は腹を抱えて笑う。
……現状、空気は和んでいる。
だが、今は空気に流されるわけにはいかない。
状況がどうであれ、俺のすべきことは初めから決まっているのだから。
そして俺は、表情を変えることなくジッと榊を見据えながら言葉を綴った。
「榊、単刀直入に言う。俺の問題に協力しろ」
「…………久山、冗談でももう少し言い方あるだろ」
「冗談なんて言うかよ。そもそも俺が冗談を言うタイプに見えるか?」
「見えないな」
そう言ってから、榊が大きく深呼吸をする。
その姿は、まるで感情を無理やり押し殺しているかのように見えた。
自分でも酷い言い方をしている自覚はある。
感情が揺れても、それは人として当たり前のことだと思う。
それでも、俺はこのスタンスを貫き通せばいい。
なぜなら、それをするだけの情報をすでに持っていたから。
「……おかしいな。僕の記憶が正しければ、手は借りない。信じられない。久山は僕にそう言ったはずだけど?」
「あぁ、言ったな。確かに俺は、偽りの仮面を被ったお前には協力を求めないし、求めるつもりは毛頭ない」
「……久山、何を言ってるんだ?」
俺は不敵に笑みを浮かべる。
多分、というかきっと、使い時はここだ。
あの人が教えてくれた、社会に出た時に役立つ会話術とやらは——————
「お前さ、いつまで無駄な正義のヒーローごっこ続ける気だよ」
「いや、何を言ってるのかさっぱり意味が……」
「意味が分かるように、俺の口からわざわざ言ってやろうか?」
「……じゃあ、言ってみろよ。どうせ適当なこと言ってるだけだろ」
榊の反応なら、事を運びやすい。
なぜなら、今の榊は少し前の俺に似ていたからだ。
だからこそ、ここで無駄な説明をしない核心を突いた一言を浴びせた。
「——————榊火乃叶。聞き覚え、もちろんあるよな?」
直後、榊の瞳が揺らいだ。
目に見えて分かるぐらい、かなり揺らいだ。
言葉も失っていることから、恐らく動揺している。
それもそのはずだ。
榊火乃叶という名の一人の少女の情報を手に入れるには、いくつかの条件を満たさないといけないのだから。
「……お、まえ。ど、どこで、そ、れを……」
「さぁ、どこでだろうな」
「と、とぼけるな! どこで火乃叶の、妹の情報を手に入れたんだ!」
取り乱しながら近づいてくる榊に、俺は胸ぐらを掴まれる。
まあ、俺を問い詰めたところで答えは出てこない。出てくるはずがない。
だって、情報を手に入れたのは美彩だからな。
しかし、そのことを榊が知る由もない。
「お前、こんなことして解決すると本気で思ってんのか?」
「解決させてやる! 洗いざらい吐き出させてやる!!!」
「そうかよ。別に構わないが、そしたら今日限りでお前の正義のヒーローごっこは終わりだな」
言葉を放った直後、榊の動きがピタリと止む。
それから間も無く、榊が静かな声色でゆっくりと口を開いた。
「お前は……何を言っている……」
「お前が洗いざらい吐き出せって言ったんだろうが。なら、お望み通り吐き出してやるよ。榊火乃叶に何があったのか。お前が今まで何をしてきたのか。そして、お前が隠してきた醜い〝本性〟もな。それらが暴かれた時、お前はまだ正義のヒーローごっこを続けられると本気で思ってるのか?」
「…………黙れ」
「お前はただ、助けられなかった妹への罪悪感を誰かに押し付けて、勝手に一人で気持ち良くなってるだけなんだよ」
「……黙れよ」
「そういうのをなんで言うのか、特別に教えてやるよ——————」
そして俺は、あえて容赦なく言い放った。
「—————— 〝偽善者〟って言うんだ」
瞬間、俺の胸ぐらを掴む榊の手に再び力が入る。
「黙れって言ってんだろ!」
「いいや黙らない。お前はその時々の弱者に寄り添っているだけの、ただの偽善者だ」
「僕は、偽善者なんかじゃない!」
「いいや偽善者だ。なら問おう、お前はその正義とやらで一体何人の人を助けてきた?」
「そ、それは……!」
俺の問いに対し、榊が口籠る。
……そう、答えられるはずがないのだ。
なぜなら、榊に助けようとする意思がそもそもないのだから。
「そう、それがお前の答えだ。寄り添っているだけ、口で言っているだけ、本質的な部分は何も解決しようとしない。だから俺は偽善者だと言っているんだ」
「……」
俺の言葉に反論する事なく、榊は黙って胸ぐらから手を離した。
全く、これでシャツ伸びたらどうしてくれんだよ。
そんな事を考えながらシャツを直していると、榊が今にも消え入りそうな声で呟いた。
「……僕は、何をしたらいい?」
「は? 何が?」
「久山に協力すれば、罪滅ぼしになるんだろ?」
「なるわけないだろ。アホか」
「それなら一体何のために……!」
「お前の力を借りたいからだ」
一言。
たったその一言が、榊の口を塞いだ。
意味が分からないと言いたげな様子の榊に向かって、俺は言葉を続ける。
「俺がお前に言い方悪く協力を申し出たのは、対等な協力関係を築きたかったからだ。お前が妹の件をずっと引きずっていることくらい、分かっていたからな。主従関係でなければ、負い目を感じることなく俺もお前の望みに協力できる」
「…………え? 今、なんて……」
「だから、お前の望みに協力してやるって言ったんだよ。だから、お前も俺の望みに協力しろ」
「…………笑えない冗談だね。……本当に、妹を一緒に助けてくれるのか?」
「俺が冗談を言うタイプに見えるか?」
「見えないね」
そう言って力なく笑うと、榊が俺に手を差し出してくる。
俺は、迷う事なくその手を取った。
……さて、これで準備は整った。
「それで、僕はこの後何をすればいいのかな?」
「あぁ、それはだな——————」
それから俺は、これまでの事の経緯と計画の全容を榊に伝えた。
話を聞いた榊はというと……呆れていた。
まあ、当然の反応と言えよう。
「まるで悪魔みたいな計画だな、おい……」
「まあな、だって俺は偽善者じゃないからな」
「それを引っ張ってくるのはやめてくれよ……。まだ心の整理がついてないんだからさ……」
「はいよ」
「とりあえず、僕の役目は計画の下準備ってことでいいんだよな?」
「あぁ、頼むわ」
「了解した」
話し合いが終わったと同時に、昼休みの終了を知らせるチャイムが校内中に鳴り響く。
そして俺と榊は、何事もなかったかのように教室へと戻って行った。
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