第72話 まずはヤツをどうにかしないとな……。
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迎えた翌朝、登校早々いつものように机に突っ伏した。
本来なら、未だ拭い切れない眠気にあっさり負けて眠りにつくだけなのだが、今日だけは違う。
無駄な生活音を遮断し、ただ一点、これからの動きについて深く考えるためだ。
——————花音を苛めた犯人と、今回発生した盗撮事件の関連性。それに伴うアイツらの疑惑の証明。
美彩から渡された情報を元に、俺は花音を苛めた犯人と盗撮犯は同一人物だと考えた。
理由の一つを挙げるなら、事が俺の思い描いていた筋書き通りに進んでいることだろう。
花音を苛めから守るため、俺は濡れ衣を着てわざと犯人の攻撃の矛先がこちらへ向くように仕向けた。
その結果として起きたのが今回の盗撮事件——————少なくとも俺はそう見ている。
だから今回、その有力候補であるアイツらの真偽調査に動いたというわけだ。
まあそれはそれとして、昨日のうちに大まかな流れは考えてきたが、やはり突発的問題が起こらないとは限らない。
念には念を、だ。
「マサくん! おはよ!」
「……」
「あれ、もしかして寝てる? ならこのままチューでもしちゃおっかなー」
ほら、こういう突発的問題ね。
とりあえず、チューされるのは敵わないので身体を起こして反応しておく。
「……なんだよ」
「あ、やっぱ起きてたんだ。というか、なんだよはこっちのセリフじゃない? 挨拶だって無視されてるわけだし」
「おはようさん。悪いけど、今忙しいから構うのは全部終わってからな」
「…………寝てるだけにしか見えないのだが?」
不思議なものを見ているかのように、花音が視線を向けてくる。
まあいいさ。コイツに何を言われようが俺にはノーダメージなのだから。
花音を無視して、俺は再び机に突っ伏す。
「ひーめのんっ! ひーさるんっ! おーはよっ!」
「春ちゃん! おはよ~」
「……あれ? ひさるんはまた寝てるの?」
「いや、ついさっきまで起きてたから、まだ起きてると思うよ? なんか忙しいらしい」
「……これが?」
「うん、これが」
「忙しいの?」
「うん、忙しいらしいよ?」
「忙しいって、どう見たっていつも通り寝てるだけじゃん~」
「んね! マサくんって時折……というか、大体おかしいよね~」
「ほんとにね~」
そう言って、花音と桜花は俺の席の近くでケタケタと笑う。
……うっせほっとけ。
てか、時折と大体って全然意味が違うから。
そもそも、おかしい人間におかしいとか言われたく……。
俺は途中で考えるのをやめた。
今は、そんなことを考えている場合ではないから。
でも、この二人の存在を自分のこれからの動きから完全に度外視にしていた。
昨日考えてきた大まかな流れは、あくまでも俺とアイツらの三人だけを前提にした計画だった。
……そうか、周囲の動きも計画のうちに入れておかなきゃいけないのか……。
そう考えると、二人の存在が計画の弊害になるのは間違いない。
この数分でさえ、このありさまだからな。
だとすると、考えてきた計画を一旦白紙にしてもう一度考え直した方が良さそうだ。
……まずは、花音と桜花の動きを手中に収めないといけないよな。
花音はともかく、桜花が無駄に勘が鋭い。
違和感のあるお願いをしようものなら、きっと何かを企んでいると勘付かれるだろう。
だからこそ、自然な形で彼女たちをコントロールできればいいのだが……。
……違和感のないお願いって、一体なんだ?
そればかりを考えていたら、気が付けばお昼休みになっていた。
無論、未だに答えは出ていない。
「ひめのん! ひさるん! 一緒にご飯食べよ!」
「うん! ほら、マサくんも!」
そう言って、花音が無邪気に俺の腕を引っ張る。
まぁ、早めに事を片付けたいけど、今日でなければいけない理由はどこにもない。
今日はゆっくり考えて、また明日に備えるのも一つの決断……か。
そして学校鞄から昼食を取り出そうとしたところで、機会は突然降ってきた。
「はるっちとかのっち。今日一緒にご飯食べない~?」
大層ご機嫌な様子で俺たちに近づいてきたのは、茶髪ロングの我部だった。
予想外の出来事に、花音と桜花は困惑している。
……今しかない。
機転を利かせるように、俺は自分の席から離れた。
「んじゃ、俺は席外すわ。女子だけで話をしたいってことだろ?」
「お、ひさっちよく分かってるじゃん~! 安心して、余計なことは言わないし終わったらちゃんとお返しするからね〜」
言いながら、我部が悪戯っぽく微笑む。
そうだ、コイツは俺と桜花が特別な関係だと勘違いしたままだった。
……この状況、使える。
しかし、問題があるとすれば、それは花音だ。
俺は、桜花の他にも花音ともデートをしている。
もし話の流れで、昨日の話題になったら花音は主張するだろう。
——————「え? 私もマサくんとデートしたんだけど?」って。
そうなれば、熟考した計画が全て台無しになる。
最悪の結末にさせないためにも、不安の芽は予め取り除かなければならない。
俺は花音に視線を向けて言葉を放つ。
「ちょっといいか?」
「ん? どうしたん?」
「お前にお願いがあってだな……」
「なになに!?」
食いつきがすげぇんだわ、これがまた。
多分、滅多にお願いしないから珍しくてつい興奮しちゃったんだろうな……。
それはともかく、俺は花音を連れて桜花と我部から距離を取った。
「んでんで、お願いっていうのは!?」
「少しは落ち着けって……。まぁ、大したことじゃないんだけど、もし俺と桜花の二人の話題になっても何も言わないで欲しいんだ」
「…………どゆこと?」
「実は——————」
俺は昨日あった出来事をありのまま花音に説明した。
すると花音は、頬を膨らませながらジトーッと冷たい視線を俺に浴びせてきた。
「……それ、私に何のメリットもなくない? だって、マサくんと春ちゃんが付き合ってるって勘違いさせたままにしておくってことでしょ?」
「その点に関しては問題ない。今日の放課後には誤解を解くつもりではいるから」
「それなら、別に私の口から言っても変わらなくない?」
「……確かに。ってそうじゃなくて! これには複雑な事情があるというか……」
「んー、どうしよっかなー」
くそっ、花音を侮った俺が馬鹿だった。
花音の言うことが正論すぎて、これ以上に濁して返す言葉が見つからない。
……仕方ない。最終奥義を切るしかない。
「分かった。それじゃあ、何でも一回言うこと聞くってことでさ。今回お願いしてもいいか?」
花音は黙って首を横に振る。
それから両手を仰向けにして上下に何度も振った。
……つまりは、そういうことらしい。
「分かった。それじゃあ、二回。それでどうだ?」
花音は黙って首を横に振る。
それから両手を仰向けにして上下に何度も振った。
……まだ駄目なのかよ。
「分かった分かった。じゃあ、三回。これなら満足だろ?」
花音は黙って首を横に振る。
それから両手を仰向けにして上下に何度も振った。
……あぁ、もう! めんどくせぇ!
「じゃあ、五回! 何でも五回言うこと聞くってことでどうだ?」
「……まあ、及第点ってところかな」
両腕を胸の前で組み、自分に妥協しろと言い聞かせるように頭を縦に振る。
「何が及第点だ。ふざけんな!」って声を大にして言いたいところだけど、状況が状況なので我慢我慢……。
「それじゃあ、何でも五回言うこと聞くってことで。本当に頼むな?」
「まぁ、納得はできないけどね。でも、五回言うこと聞いてくれるしな~。何お願いしよっかな~」
「納得してない割には、随分と嬉しそうだけどな」
「えぇ~? べっつに~?」
花音は否定しているけど、やはり嬉しそうにしているようにしか見えない。
「忘れたとかなしだからね~」とふにゃふにゃの笑顔を浮かべながら、花音は桜花たちの元へと戻って行った。
自分から提案しておいてアレだけど、なんか不安になってきた。
どんなお願いされるんだろうか……。
「いや、それは未来の自分が何とかしてくれるはずだ。今の自分は今すべきことを力の限り遂行するだけだ」
心に決意を固めてから、俺は一人の人物に視線を移した。
この計画を実行する上で、ヤツの本性がきっと邪魔になる。
——————まずはヤツをどうにかしないとな。
そして俺は、ヤツに近づいた。
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