第71話 ようやく見つけた二つの可能性
桜花とのデートを終えると、俺は足早に帰宅した。
無論、今回収集できた情報を一刻も早く美彩に共有したかったからだ。
榊の行動を言い当てた美彩なら、きっと桜花と我部の間にある俺に関わる〝なにか〟を言い当てることくらい造作もないはず。
そう思って、リビングに通じる引き戸を開けて、さっそく美彩に話を……と思ったところで、自然と足が止まった。
それもそうだ、この展開をこの家の住人である俺自身が想定していなかったから。
……美彩が、いない。
当たり前ではないことを当たり前のことだと、いつから錯覚していたのだろうか。
美彩は岬守家の人間であり、久山家の人間ではない。
言うまでもなく、毎日この家にいるわけではないのだ。
それなのに、俺は……。
「我ながら、滑稽だな……」
誰もいない家の中に、ポツリと言葉を落とす。
この無駄な静けさが、過剰に温まった頭の熱を徐々に冷ましていく。
そもそも、すぐに妹を頼ろうとする兄ってどうなん?
今回は美彩だったけど、他の人だとしてもそうだ。
すぐに頼る——————それはつまり、自分で考えることを放棄していることに他ならない。
その時に欲しいモノが、その時に手に入ると思うこと自体間違っているのだ。
今回の事件は俺の問題だ。
なら、無理やり他の人を巻き込むのは間違っている。
「とりあえず、情報をまとめるか。……まあ、まとめるほどの量はないんだけど」
だが、その行為が無駄だとは決して思わない。
振り返りとか復習とか、大事なことだからな。
それから俺は、紙とペンを取りに自室へと向かう。
そして自室へと入って……目に留まった。
なんか、見覚えのないクリアファイルが裏向きで机の上に置かれているんだが……。
しかもクリアファイルには大きめの付箋が貼ってあり、その付箋には文字が書かれていて——————
『親愛なるお兄ちゃんへ。今日は早く家に帰らなきゃいけないから、このまま帰るね(ぴえん)ウチがいないからって寂しがっちゃダメだぞ! 泣いちゃダメだぞ! でも、可愛い妹は大好きなお兄ちゃんに会えなくて寂しいよ~(ぴえん) ……あ、そうそう。必要そうな情報はまとめておいたから暇な時に確認してな~。ほな、さいなら! お兄ちゃんが大好きな可愛い妹ちゃんより♡』
「……なんだ、この怪奇文は」
思わず、口元が緩む。
なんかもう、色々とツッコみたいところなのだが、一々ツッコんでいたらキリがない。
そんなことよりも、俺は目の前の現実を受け止めなければならない。
美彩が俺のために情報を用意してくれた。
それに対して、安堵してしまった自分がいた。
……これら全てを、恥じなければならない。
だって今は、誰かに頼る最終手段を切るにも至らないのだから。
「美彩が用意してくれた情報。あくまで考えるための材料として活用しよう」
そして俺は、クリアファイルから資料を取り出す。
資料の総枚数は——————二枚だった。
内容の方はというと、その人物の紹介と身に起きた出来事しか書かれていなかった。
……なるほど。この後どう進めるかは自分で考えてみろとのことらしい。
流石は俺の妹。俺の考えそうなことぐらい全てお見通しというわけか。
ちなみに、書かれている二人の人物の名は——————
1. 我部 香凜
2. 榊 健斗
まさに気になっていた二人の情報だった。
それから順に資料に目を通していき…………俺は知ってしまった。
これまで自分の目で見てきた出来事や行動、その全てが簡単に裏付けできてしまったのである。
……そうだよな。当たり前だけど、やっぱりちゃんと考えながら情報を集めないとダメだよな。
情報収集にあたって、疑わしい人物を一人ずつ調べるのは鉄則だ。
美彩が用意してくれたこの資料が、場当たり的に情報を集めて回ろうとしていた俺への当てつけのように感じた。
……この失敗は、今後に活かそう。
とはいえ、これでようやく裏は取れた。
あとは頭の中心に残っている分からない部分をどう解決するかだが……。
「まぁ、それは本人から直接話を聞くしかない……って、ケロッと簡単に情報を吐き出すわけないよな……」
そう言いながら、ふとあの人の言葉が脳裏を過った。
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