第63話 俺に何のメリットがある?
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「——————久山、来てくれたんだな。僕は嬉しいよ」
俺の存在に気が付いた榊健斗が、爽やかな笑顔を浮かべながら話しかけてくる。
昼下がりの校舎裏、榊が俺に伝えたいことがあるとのことで、こうして足を運んできたわけだが……。
「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ。こんなところに呼び出して、愛の告白でもする気かよ」
「……それも悪くないかもな」
「冗談でもやめてくれ。吐き気がする」
「久山から話を振っておいて酷くないか……」
「客観的事実を言ったまでだ」
なんだか不服そうだけど、まあいい。
俺は話を続けた。
「それで、伝えたいことって一体何だよ」
「あぁ、それなんだけど……」
そう言ってから、榊が徐に手を差し出してくる。
俺には、それが理解できなかった。
「何これ」
「いや、どう見たって握手だろ」
「いや、なんでお前と握手しなきゃいけないんだよ」
「仲直り、しないか?」
…………は?
まず初めに思い浮かべた言葉がそれだった。
当然でしょ。
だってこの展開、誰がどう見たって不自然すぎる。
俺は苦笑を浮かべながら榊に応えた。
「お前、今朝自分で何を言ってたのか忘れたのかよ」
「あぁ、忘れた。だから仲直りしないか?」
「そんなバレバレな嘘で通せると本気で思ってるのか? 俺も随分と舐められたものだな」
今までの俺なら、きっとここで「くだらないことで呼び出してんじゃねぇよ」とか言って早急に立ち去っていただろう。
でも、今の俺は違う。
ここへ来た目的。その答えを貰うまではここを離れるわけにはいかなかった。
「……なぜだ?」
「え?」
「仮に俺とお前が仲直りをしたとして、それで俺に何のメリットがある? 第一、お前自身にもメリットがなければ仲直りする理由もないだろ。双方のメリットを提示しろ。話はそれからだ」
「なんだ、そんなことか」
そして榊は、ニコッと微笑みながら言葉を綴った。
「久山の力になりたい。僕自身がそれを望んでいるんだ。ただそれだけの話だよ」
「いや、胡散臭すぎるだろ。俺じゃなくても、多分警戒されるぞ?」
「まあ、確かにそうかもしれないな。でも、僕の言葉は事実だ。久山が抱えている問題を、僕も一緒に解決させたいんだ。だから——————この手を取ってくれないか?」
榊が差し出してきた手が、取って欲しいと露骨に主張する。
口ぶりからして、やはり榊もSNSの件は知っているらしい。
協力したいというコイツの意志は、確かに情報収集の点からすればありがたい申し出である事に間違いないだろう。
しかし、あくまでも情報集収の点に限りだ。
問題はそれ以前にあった。
「お前は俺に怒っていた。だから、仲直りして俺の抱えている問題を一緒に解決したい。……そういうことでいいんだな?」
「あぁ、そうだ」
「……そうか。なら答えは一つだ。俺はお前の申し出を断る」
「なっ! どうして!」
「どうしてって、お前馬鹿かよ。どう考えたって整合性が取れてないだろうが」
「……どういうことだよ」
コイツ、本当に分かってないのか?
それとも分かっている上で、わざと尋ねてきているのか。
どちらにせよ、今の榊にはそんな不自然さを感じた。
「簡単な話だ。根本的な話、なんで俺に対して怒っていたお前が、今更手のひら返して俺のことを気にかけてるんだ? 普通、そんなことしないだろ。自分で言ってて、おかしいと思わなかったのかよ」
「それは……」
それだけ言って、榊は黙り込んでしまう。
……コイツの行動理念は、一体何なんだ?
行動と言動に矛盾が生じているということは、その間に〝なにか〟があることに他ならない。
でも、その〝なにか〟に関する情報が手元にない。
今みたいな面倒事に一々付き合ってられないし、コイツの情報を集めておくのも悪くないかもしれないな。
後々、使える時が来るかもしれないだろうし、それに情報は持っていて損はないだろう。
あとは、どうやって情報を聞き出すかだが……。
単刀直入に聞いて教えてくれたら、どれほど楽か。
でも、現実はそんな甘くない事ぐらい俺でも知っている。
経験の無さ——————それが今の俺に欠けている一番の要素だった。
「……確かに、久山の言う通りだ。反論の余地もない。でも、信じてくれ。僕は、久山の力になりたいんだ」
「メリット以前の問題だ。根拠もないのに、お前の言葉をどうやって信じろっていうんだよ。話は終いだ、先に教室戻るぞ」
踵を返して、俺は来た道に沿って教室へと向かう。
やはり、俺には圧倒的に情報が足りない。
情報収集のやり方を、外道先生に詳しく聞いておく必要がある。
今日の放課後にでも、河川敷と路地裏、児童養護施設に寄って探してみるとしよう。
しかし、放課後にいくら探しても外道先生はどこにもいなかった。
職員の男性にお願いして連絡を取ってもらっても音信不通。
よくあることらしいけど…………まあいいや。
言いたい事は山ほどあるけど、言ったところで現実は何も変わらない。
それから外道先生に会えない日が続き、気がつけば花音とのデートの日を迎えていた。
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