第62話 修羅場ってこんな急に始まるものなの!?
昼休み、マサくんは用事があると言ってどこかへ行ってしまった。
「あのマサくんが用事? 相手は一体誰なんだろう」って思ったけど、考えるのはやめた。
だって、考えたところで何も分からないからね。
確かなのは、友達ではないってことだ。
マサくん、私と春ちゃん以外友達いないからね!
だとしたら、先生からの呼び出しかな?
……うん。なんかそんな気がしてきたわ!
マサくんは、誰が見てもぼっち問題児だからね〜。
まあ、もし相手が女とかだったら普通に殺しますけどね⭐︎
冗談抜きで!
「ひめのん! ご飯食べよ〜……あれ、ひさるんは?」
「なんか用事があるって言って、どこか行っちゃった⭐︎」
「そうなんだ! ……なんか怒ってる?」
「いや? 別に怒ってないよ⭐︎」
「そう? じゃあ、戻ってくるまでここ使わせてもらおー」
そう言って、春ちゃんは向かい合って座るように私の前の席———マサくんの席に着く。
正直、この子も油断できないんだよな〜。
会話の流れでしれっとマサくんとデートの約束してるし……。
私がいなかったら一体どうしてたわけ?
マサくんも誘われて満更でもなさそうだったし、正妻の私を差し置いて他の女と浮気するつもりだったのかな、そうですか。
…………ふ〜ん?
ストロー付きの紙パックのお茶をズズズッと音を立てながら飲む。
…………ふ〜〜〜ん?
更に力強く、激しい音を立てながら飲む。
…………ふ〜〜〜〜〜〜ん?
「あの……ひめのん? 大丈夫……?」
「え? なにが?」
「いや、もうお茶入ってなさそうだけど……」
気がつけば、手元の紙パックはぺしゃんこになっていた。
いつの間に飲み切ってたんだ!? 全然気が付かなかったよ〜。
てへっ! 花音ちゃんうっかり⭐︎
ストローを取り外し、ぺしゃんこになった紙パックを丁寧に畳んでいく。
とりあえず、私は今週マサくんとデートをする。
そして、春ちゃんは来週マサくんとデートをする。
ということは、これは絶好のアピールチャンスでもあるんだ。
春ちゃんよりも、私の方が魅力的なレディだってことをさ!
それで私にメロメロになったマサくんは、来週に控えるデートをキャンセルせざるを得ない……ふふっ、抜け目がない完璧な作戦。
あとは、どうやってマサくんの注意を引くかだけど、やっぱり初速は大事だよね。
マサくんの好きそうな服装って何だろう……。
顔的言えば、ナース服とか警官服とか短めスカートとか好きそうだけど、そういう色気で誘惑するか……。
……なんかアプローチの仕方おかしくなってね? まあいっか。
「……ねぇ、ちょっといい?」
そう言って話しかけてきたのは、同じクラスの我部香凜さん。
陽キャっぽいから、私は正直苦手だ。
というわけで、私はここで桜花春を召喚!
あとの対応は頼んだぞ!!!
肩身を縮めながら静かに春ちゃんの反応を待っていると、我部さんが突然机を叩き出した!
ビクッと思わず肩を振るわせる。
「二人に話しかけてるんだけど! ねぇ、聞こえてる?」
え? なんでこの人こんなにキレてるの?
今の今まで戦争の「せ」の文字もないくらい平和だったのに……。
修羅場ってこんな急に始まるものなの!?
春ちゃん、何かしら言わなきゃマズいよ。
今は男女平等に暴言を吐ける唯一の対抗兵器のマサくんがいない。
……あれ、もしかしていない隙を狙ってきた?
いや、そうだよね! 絶対にそうだよね!?
この状況は、最初から仕組まれていたんだ……。
私たちはここで、為す術もなく殺られてしまうのか?
嫌だ! 殺られたくない!
春ちゃん! 私たち二人の命運は君に掛かっている!
だから、負けないで!
……って、何一人佳境を迎えてんだよ。
少しは落ち着けよ、私。
そんな私を他所に、春ちゃんが立ち上がる。
「アタシとひめのんの意志は示したはずだよ。ひさるんから離れるつもり、ないよ」
「それじゃあ、はるっちはかのっちがこのままでも良いって言いたいわけ? あの日のかのっち、ウチから見て普通には見えなかったけど?」
「……アタシたちは、このままで良いと思ってる」
「はるっちじゃ話にならない。かのっちはさ、どう思ってるわけ? 素直に答えてよ」
「ちょっと! そんな圧をかけるような言い方したら本当のこと言えないでしょ!」
「はるっちは黙って! 今はかのっちと話をしてるから!」
目の前で私を話題に二人が口論してるけど、これだけは言わせて欲しい。
……これ、何の話?
マジで分からないんだけど。
当事者が完全に置いてけぼりで、いきなり話を振られても正直困る。
話の流れからして私とマサくん絡みの話で間違いないだろうけど、具体的な内容までは分からない。
と、とりあえず何かしら応えよう。
早く、この圧から逃れたいから……。
そして私は、我部さんに向かってゆっくりと口を開いた。
「は、春ちゃんの言った通り……かな?」
返答として間違えていないはずだ。
なのに、我部さんから発せられた言葉はとても凍りついていた。
「……なにそれ」
「え? だからね、春ちゃんの言った——————」
遮るように、我部さんが先ほどよりも増して机を力強く叩いた。
反射的にビクッと肩を振るわせる。
「もういい! アンタなんて知らない!」
それだけ言って、我部さんは教室の外へと出ていく。
…………いや、こっっっわ!
あまりの迫力に、思わずちびりそうになったわ。
てか、最後の最後までよく分からなかったんだけど……。
私、返答を見誤ったのかな。
そしたら、春ちゃんも見誤ったことになるけど……。
「ひめのん。大丈夫……?」
「ん? なにが?」
いつもの調子で応えると、春ちゃんは目を真ん丸にしながらポカンとしていた。
あれ、もしかして今回も返答ミスった?
そして春ちゃんは、同姓をも魅了するような可愛い笑顔で言葉を綴った。
「んーん、何でもない! それより、クラスの子たちにフォロー入れてくるね!」
「あぁ、うん……。いってらっしゃい……」
春ちゃんの背中を見送りながら、思った。
マズいな……。
女性慣れしてないマサくんが、あの破壊力抜群の笑顔に耐えられるとは到底思えない。
これは、早急に対策を講じる必要があるな……。
色とりどりに盛り付けられたお弁当をジッと見つめながら、一人静かに考えるのだった……。
てか、マサくん戻ってくるの遅すぎじゃない?
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