第29話約束の褒美
その後意識の戻った女性たちと、縛り上げたマッドサイエンティスト、クルートを連れて俺たちは58階を突破した。
「ってぇー!めでたしめでたしじゃない!この僕、アルベルトの本来の目的は、アヤをクソ野郎から救うことだ!」
「急になんだよ。アヤは助かっただろ?」
「ちがぁあう!クソ野郎というのはイリス、貴様のこ……」
背後にて湧き上がるようなエレミアのプレッシャー。
「と、とにかく僕は地上に戻ったらアヤを連れ帰る。それでいいな?」
「あぁ。好きにしろよ」
「私はイヤよ。イリスの傍が気に入ってるの」
「なっ……あ、アヤぁ……」
「はっきり言わないと伝わらなさそうだから。貴方の気持ちは嬉しいわ。私が振り回してしまったこともあるし、申し訳なさもね。今回は助けてくれてありがとう」
アヤの真っ直ぐな瞳に対しアルベルトは戸惑いを隠せず赤くなる。
馬鹿だけど悪いやつじゃねぇんだよなアルベルト。馬鹿だけど。
「だけど好意には答えられないわ。私、イリスが好きだから」
「そう、か……アヤ。謝る必要はない。僕は君のことが好きだ。だから君には幸せになって欲しい。君がイリスに泣かされた時は、必ずや再び奪いに行かせてもらう」
「えぇ。ありがとうアルベルト」
アルベルトは微笑んで背を向ける。
なんだ、気持ちのいいやつじゃないか。
「イリス、女たちは僕が家まで送り届けよう。だから貴様はアヤの傍にいてやれ」
「……あぁ。助かる」
グズッグズッ
僅かに鼻をすする音。アルベルトの肩が震える。
「かんちがい、ひゅるなっ、アヤを幸せにできるのはぁっこの僕だっかならず奪ってやるぅ……」
「お、おぅ……」
気持ちのいいやつ……?
「さ、アルベルト様急ぎましょう。涙と鼻水をお拭きになってください」
「フローレン!!僕が泣いてるとバラすな!い、いいや、泣いてないがな!」
「私はアルベルト様のそういう馬鹿なところ、好きですけどね」
「フローレン……って馬鹿って言ったか主人に向かって?!」
◇◇◇
地上に戻り、女たちとクルートはアルベルトが後処理をしてくれるらしい。
その中でも飛び抜けて美人であり気品を纏っていた女、ジャクリーンだけは俺たちに同行した。
「ジャクリーンさん。配信リスナーが騒いでたんだけどもしかして君ユーゲル・ジャクリーン……王女?」
「えぇ。正式に名乗っていませんでしたわね。私はユーゲル・ジャクリーン。この国の第二王女です」
ジャクリーンがお礼をしたいと俺たちに案内したのは紛れもない王宮。
「おぉっ超おっきな建物!お金持ちさんだ!」
「お金持ちとかそういうレベルじゃないですよこれ……」
「あ、あぁ。まさか王女様を助けることになるなんて……つーかクルート、王女様攫うとか頭のネジ吹っ飛んでるな……」
第二王女が帰ってきた。王宮中が騒ぎになったのは言うまでもない。
「ありがとうございます……なんとお礼を申し上げて良いか……」
母である王妃様が涙ながらにジャクリーンを抱きしめる。王も感激している。
「アヤ、変なことに首突っ込むなとか言ってたけど、首突っ込んでよかったかもな」
「自惚れないでよね。酷い目にあったんだからコッチは」
「王としていくらでも褒美を取らせたい。言え、何か望みはあるか?」
「望み……は、自分で叶えるので、今は特に……俺たちはダンジョン攻略を目指しています」
「おぉ冒険者だっか。それならば王宮技師特性の武器や防具がいくらかある。きっと君たちの旅の助けになるだろう」
「王宮技師……助かります。そんな高価な物をいただけるなんて」
「娘の命に値段はつけられんよ。さ、ここから好きなものを選びなさい」
案内された部屋には片手剣、双剣、弓に至るまで様々な武器か並び、壮観だ。
「すげぇ、宝剣レベルの武器がゴロゴロと。あの、鞭とかありますか?」
「鞭……変わった武器なのだな?一つ二つくらいはあるだろう」
「アタシはこれがいい!振り心地がよさそうだ!」
シュリは漆黒に輝く大太刀片手に目を輝かせる。
「マグマ居合っ」
「バカ!こんなとこでやめなさい!褒美を貰った後に処刑されるなんてシャレにならないわよ!」
「痛いなお前!チョップしたな?!」
「……うるさくてすみません……」
「はは、愉快なパーティじゃないか。頼もしいな。君達ならいつかダンジョンも踏破できるだろう」
王に手渡された銀色の鞭。先に至るまでしなやかに輝き弾力も程よい。
すげぇ腕だ……これが俺の新しい鞭……
持ち手を握る。それだけで分かる。この武器は一流のものだと。
シュリが振り回したがるのも当然だな。これは"疼く"。
「ありがとうございます。俺はこれに決めました」
「うむ」
「イリス様」
「ん?エレミアはどれにするんだ?」
エレミアはもじもじと恥ずかしそうに身を捩り、長い髪を耳にかける。
ずぃっと目の前に出てきたのは黒に紫色の宝石が埋め込まれ、ラメがあしらわれた愛らしい――
「この首輪が……欲しいです」
「あ……そうだった。ご褒美の約束……」
これをエレミアの首に着けるのか……




