第24話アヤへの想い。貴公子再び
朧気な記憶。
「イリス待って〜」
草むらを駆け回る幼子達。
「アヤ早く!こっちに大きな花畑を見つけたんだ!」
アヤと呼ばれた少女は必死にイリスを追いかけるが背丈の高い草むらに足を取られてしまう。
「きゃっ」
バサッと草むらに倒れ込むアヤ。草むらのせいでイリスの姿が見えない。
「あ……イリス!待ってよイリス!置いていかないで!」
大きな緑色の瞳が不安に歪み涙が溢れそうになる。子どもにとってはただの草むらも大きな森に見えるものだ。
「うぇえ〜ん、イリス〜……」
「おぃ、泣くなよアヤ!」
草むらをかき分け、出てきた少年イリス。アヤの手を引き、草むらから助け出す。
小さな手が小さな手を力強く握りしめた。
「俺はおまえのこと絶対置いて行かない。だからもう泣くな、アヤ」
「……うん」
イリスがアヤの手を引く。二人は広大な草むらの中、二人花畑という宝へと向かって走り出した。
◇◇◇
「……」
目を覚ますと天幕の下。
懐かしい夢……一体どこに行っちまったんだよ……アヤ
左右を見ればエレミアの綺麗な寝顔と、シュリの気持ちよさそうな寝顔。二人とも寝相が終わっており、俺に抱きつき、足を乗っけて寝ている。
「…………重い」
俺たちは昨日からアヤを探し回っている。
しかし、マッドサイエンティスト、クルートの足取りを掴めずにいた。
静まり返る朝の食卓。
「……し、辛気臭いぞ!!イリス!お前の彼女なら大丈夫だ!あれだけアタシに生意気な口を叩けるんだし、どっかしらでタフに生きてるはずだぞ!」
「ありがとうシュリ。でもなるべく早く見つけてやった方がいい。アイツは、一人を怖がるから」
高飛車でわがままで生意気なアヤ。優しく強く、美しいというのが周囲からの評価だが、アヤが"そう"なのは安心している時だけだ。
心根は弱く脆く、怖がりの寂しがり屋だ。
「その、イリス様……なぜアヤさんをそこまで気にかけるんですか?」
エレミアは器を膝元に下げ、目を伏せる。
「あぁ……確かにな。酷いフラれ方してるし、未だにムカつくし全然好きとか、そういうのはねぇんだけど……言うなれば腐れ縁みたいなもんかなぁ」
「幼馴染だから、ですか?」
「そうだね、アヤは幼馴染だ。俺が仕返しして泣いてるんだったら別にいいんだけどあんなの見て放っておけるほど冷徹じゃないからなぁ……あ、でも危険な相手だと思うしエレミアを付き合わせるのは違うから、嫌だったら無理強いは……」
「いえ……それが貴方ですよね」
「え?」
「困っている人を放っておけない。優しくてドS。そんな貴方だからこそ、アヤさんも私も好きになったんですから」
「エレミア……」
嫌われぬように。怖がらせないようにと隠してきた本性。引き寄せたのはドMだけではない。真実の愛だったのかもしれない。
「それにっアヤさんのことは正々堂々真正面から勝ちます!イリス様は私のもの!それ以外女達は蹴散らしますっ」
「はは……素直で大変よろしい。あの、くれぐれも物理的には蹴散らさないでね」
「アタシは愛だの恋だの、そーゆーのは分からん!女神だからな!だがイリス。お前といると胸が熱くなるしワクワクするぞ!」
それを人は恋と呼ぶ。ってのはめんどくさい事になりそうなのでだまっておく。
「よし、マッドサイエンティストをぶっ飛ばして、アヤを助けに行くぞ!」
「「おー!」」
いざ、恐怖の森へ。足を踏み出した直後のことだ。地面にぶっ倒れている人影が二つ。パッツン金髪の男と、獣人族の女。
デジャブである。
「アルベルトとナターシャ……なんでこんな所に……」
見たら放っておけないじゃないか。俺はカバンからポーションを取り出すと二人の頭へとぶっかけた。
「っはぁあ!!」
ガバッ
起き上がるアルベルト。俺の姿を見るや否や、レイピアを引き抜く。
「貴様!アヤを危険に晒すなんてどういう了見だ?!否、一緒にいたぶっているのだろう?やっと本性を出したな。僕だけは貴様の薄汚い目論見を見逃さな」
ギィンッ
鈍い音とともにレイピアが空を舞う。エレミアの魔剣が下から弾き飛ばしたのだ。
「一度ならず二度までもイリス様に刃を向け、あらぬ疑いをかけた……」
「え、エレミア、落ち着いて……」
「以前はイリス様の鞭さばきが見たくて我慢していましたが、今日はそうも行きません……私の魔剣でその首、切り落として差し上げます」
「ご……ごめんなさい」
冷たく高圧的な蒼い瞳にアルベルトの戦意は喪失したのだった。
「んで、アルベルト。なんでこんな所にいるんだよ?」
「それは――」




