第23話届かぬ悲鳴。囚われのアヤ
「まずな……二人とも姿が見えないし連絡も取れない。何かあったかな……」
「先程の冒険者同士への攻撃といい、人がいなくなる森といい……58階はそんなフィールドじゃなかったはずです。あまり印象にも残っていないので、ノーマルフィールドだったと思います」
「あぁ。冒険者が襲ってくるなんて聞いたことないし、そんなことしたらダンジョン管理局に捕まっちゃうからね」
「ええぃ人探しとかめんどくさい!ここ辺り一帯をマグマで蹴散らして焼け野原にすればカンタンだ!」
太刀を振り上げるシュリを慌てて止める。
「アヤとジャクリーンまで死んじゃうから!」
LIVEカメラは俺たちの方を追ってた……クソ、あの時逃がしたのは失敗だったか
「あの、イリス様。先程の女達と今アヤさん達の姿が見えないことに関係があるのでは?」
「確かに……俺たちの方は陽動で、本当の目的はあの二人だった?バラバラにさせて一人一人狩ろうとかそういう感じ?」
589:アヤちゃん居た
ポツと流れてきたコメントを見逃さない。
「ど、どこに?!」
590:マッドサイエンティストだ
591:ヤバいアヤちゃんが餌食になっちゃう
592:閲覧注意
「どういう事だ?!アヤはどこにいるんだ?!」
胸騒ぎがする。脳裏に偉そうに笑うアヤの姿が過ぎる。
593:(URL)マジで覚悟して見て。R18。グロいの苦手な人は見るな
送られてきた一つのURLはLIVE配信サイト。震える指先でタップする。そこに映っていたのは――
◇◇◇
「う……ん……ここは?」
目を覚ましたアヤ。周囲は薄暗い。起き上がろうと腕を動かしたその時だ。
ガチャンッ
「えっ」
鈍い金属音と共に両腕が拘束されていることに気がつく。
「ちょっと……何これ?」
腕だけではない。両足も寝そべっている台に拘束され身動きが取れないのだ。押し寄せる恐怖と共に、気を失う前の記憶を辿る。
(変な女達が襲ってきて、私とジャクリーンだけ逃げて……その後首に痛みが……)
「やぁアヤ。目が覚めたかい?」
アヤの頬を撫でるかさついた指先。引きつった叫び声と共に顔だけ向ければ、そこにはやせ細った長身の男。見開いた瞳と薄ら微笑む口元はアヤの体を震わせるのに充分だ。
「だ、誰?」
「私の名はクルート……お人形職人のクルートだよ」
「クルートって……あの、ダンジョン下層プレイヤーの……」
「おや、私のことを知ってるのかい?」
「え、えぇ……」
(女を拉致して精神を壊し人形にする……マッドサイエンティストって噂よね。まさか、その、うわさ、が……)
アヤの背中に冷たい汗が流れる。
「わ、私をどうする気?」
「グリーン……グリーン、緑緑緑!!!」
「ひっ……」
突如として狂い出すクルート。怯えるアヤの目元に触れ、無理やり瞳を開かせる。アヤの黄緑色の瞳が涙で揺れた。
「なんっっって美しいんだぁ!宝石のようだ!あああぁ舐めたいなぁ舐めてもいいかぃ?あぁでも、失明したら勿体ないぃいいっこの瞳を永久保存出来たらいいのにっくり抜いたらさぁああ……」
クルートは頭を掻きむしり、棚から瓶をひったくる。瓶の中身は大量の、目玉。どれもこれも黄緑色、緑色の瞳をしている。
「こんっなにも魅力が損なわれる!!生きている時こそ、その輝きは放たれるんだなぁ〜……実に神秘的だぁ」
涎を垂らし、目玉の瓶詰めに頬擦りをするクルート。
(い、イカれてるわコイツ……どうにかして逃げないと。それにあのジャクリーンって女もいない。やっぱりグルだったのよ!イリスのバカ!イリス……会いたい……逃げなきゃ、はやく)
「目をくり抜いたら、魅力が、無くなるのよね?だったら私、貴方の傍にいてあげるわよ。四六時中。そしたらずーっと、貴方を見つめてあげられる……」
「本当かい?!それは嬉しいなぁ幸せだなぁ。君にずぅうううっと見つめられたら夢見心地だろうなぁ〜」
「そうでしょ?だからこの拘束を――」
バンッ
アヤの顔の横に叩きつけられる出刃包丁とクルートの手。
「ひぃっ!」
血管が浮き出るほどひんむいた瞳がアヤの顔を近距離で見つめる。
「違う!違う!違う!!」
「い、いやぁああっ!!!」
「嘘つきの目だぁ〜生意気な、反抗的な目をしているなぁ〜」
アヤの顎をつかみ、出刃包丁がひやりと頬を叩く。ボロボロとアヤの目から涙が零れ落ちた。
「笑ったり怒ったり悲しんだり怯えたりぃいっせっかくの緑が汚れるだろぉ?!」
「はぁ……はぁ、はっ……いり、す……イリス!助けてイリス!!」
恐怖にアヤの精神は崩れ、パニック状態で拘束を揺らす。
「イリスゥ?あの男は間違ってるよォ……綺麗な瞳に感情を与えて悦に歪ませるなんて、可哀想になぁ……でも大丈夫だよ。私のお人形さんになったら汚く歪むことなんて無くなるからね」
クルートは怪しげな黒い液体が入った注射器を手にする。アヤの瞳が絶望と恐怖に染まった。
「イリス!!イリス助けてぇ!!!」
◇◇◇
「あ、アヤ……」
端末を片手に立ち尽くす。湧き上がってくるのは絶望か怒りか。
恐怖の森のマッドサイエンティスト。アヤを取り戻すための戦いが始まった。




